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臨床医学各論ノート00「臨床医学各論ノート」

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臨床医学各論ノート全文

第2章 口腔疾患
1.口内炎
・口腔粘膜の炎症をいう。
※炎症の五大所見
・発赤、発熱、疼痛、腫脹、機能傷害がある。
種類
①カタル性口内炎
・口腔粘膜の充血、浮腫、分泌異常を伴う炎症をいう。
②ウィルス性口内炎
・ヘルペスウィルスによるものが多い。
☆ヘルペスによって障害される組織:神経組織(三叉神経などが多い)
③アフタ性口内炎
アフタ:直径1~3ミリの円形有痛性の、びらんまたは潰瘍を伴う組織変成
ウィルス、食品アレルギー、ベーチェット病などにより発生することが多い
☆ベーチェット病:膠原病の一つ
④潰瘍性口内炎
潰瘍:粘膜層、角膜上皮層、皮膚表皮層に見られる、深部にまで及んだ、組織表面に一定の広さをもつ物質欠損
膿汁分泌、局所性リンパ節腫などを伴う
⑤カンジダ性口内炎(偽膜性口内炎)
カンジダという真菌の汗腺により発症
抗生物質や副腎皮質ステロイドホルモン、抗がん剤の投与中に発生する
栄養不良、糖尿病、白血病などの際に発生
☆ステロイドで炎症をおさえる=リンパ球の活動を抑えることで免疫が落ちる
⑥薬剤等による口内炎
重金属(鉛、水銀)や、バルビタール(睡眠薬)、ヨード、ペニシリン
⑦ビタミン欠乏による口内炎
主にビタミンB群の欠乏によって起こる

3)疾患と口内炎について
・ベーチェット病:アフタ性口内炎、陰部潰瘍、ブドウ膜炎
・梅毒:第2期に粘膜斑が出現
・妊娠:妊娠初期に歯肉充血とともに口内炎が出現することがある
・血液疾患(紫斑病、白血病):口内炎を伴う
☆紫斑病:血小板の不足や血管壁が弱いことで起こる

2.舌炎
・ビタミンB12の欠乏:ハンター舌炎(剥脱性舌炎)
・ビタミンB2欠乏またはペラグラ、肝硬変:舌乳頭萎縮と舌が赤みを帯びる
・猩紅熱(溶連菌感染による):苺舌
・ベーチェット病、疱疹ウィルス:アフタ性舌炎
★疱疹ウィルス=ヘルペスの一つ
・慢性炎症、癌病巣など:白板症(舌の角化と白斑)

3.齲歯(虫歯)
細菌の感染により引き起こされる歯質の崩壊をきたす疾患
1)原因
化学細菌説が最も有力
☆ミュータンス菌が代表的
2)誘引
口腔内清掃の不足
歯列の異常
母体の健康度、遺伝
3)齲歯の齲食による分類
・C0:齲歯のないもの
・C1:エナメル質に限局しているもの
・C2:象牙質に達しているもの
・C3:歯髄にまで達しているもの
・C4:歯冠部が崩壊し歯根のみとなり歯髄に感染しているもの

4.顎関節症
1)概念
顎関節部、咀嚼筋部の疼痛や開閉口時の雑音、開口制限などの顎運動障害を主症状とする顎口腔系の機能障害症候群の総称
2)原因
咬合位の異常
プラキシズムなどの悪習
☆プラキシズム:歯ぎしり
精神的ストレス
3)病態による分類
①Ⅰ型
咀嚼筋障害
②Ⅱ型
関節包、靭帯障害
③Ⅲ型
関節円板障害(最も多い)
④Ⅳ型
変形性関節症
3)症状
・神経痛様疼痛
耳の周囲から、側頭部、前頭部、喉頭部に波及していく
・関節周囲菌の圧痛
4)治療
関節部や菌を生理的に安定した状態に保つ
咬合調整、補助具の使用

5.流行性耳下腺炎(ムンプス、お多福風邪)
1)概念
ムンプスウィルスの感染による耳下腺の腫脹
飛沫感染(空気感染)する
2)疫学等
10歳以下の幼児に好発する
秋から冬にかけて流行
終生免疫を獲得する

3)症状
発熱
耳下腺腫
疼痛
4)合併症
睾丸炎、卵巣炎
膵炎
糖尿病との関連性も注目されている

===================
第3章 消化器疾患
===================
1.食道疾患
■1)食道癌
(1)概念
食道粘膜に発生する癌
★癌は早期癌と進行癌に大別される
早期癌:癌の浸潤が粘膜下層までにとどまるもの(表在癌)
進行癌:癌の浸潤が粘膜下層以上にまで及んだもの
(2)組織学
食道癌では、組織学的には扁平上皮癌が最も多い(約9割)
ついで腺癌(約4%)、未分化癌
(3)疫学
・発生部位
食道中部に発生することが最も多い(5~6割り)
ついで下部食道
・性差
比較的男性の方に多く発生する
・発症年齢
最も多いのは60歳代、ついで50歳代、70歳代
・発症の誘引
熱い食事の接種
喫煙、飲酒
食道アカラジア(食道下部の弛緩不全によって通過障害が起こる)
バレット食道(食道下部の上皮が円柱上皮に置き換わってくる)
腐蝕性食道炎(強い刺激物によって食道粘膜がただれたような状態)
(4)症状
・早期症状
食道の通過障害
食物がしみる感じがする
胸骨後部の違和感
・進行症状
嚥下困難
胸部や背部の疼痛
体重減少
全身衰弱
気管支瘻(穴があいて気管支と食道がつながってしまう)
反回神経麻痺による嗄声(させい、嗄れ声)
吐血を見る場合も
(5)診断
・食道癌が疑われる症状
中年以後に出現する、徐々に進行する嚥下困難
・確定診断
X腺検査
内視鏡検査など
(6)経過と予後と
確定診断を受けるまでに時間を要する(自覚症状が出てもなかなか病院に行かないヒトが多い)
一年以内の死亡率が高い
☆5年生存率10%

■2)食道炎(あまり重要でない)
(1)概念
食道粘膜の炎症
(2)原因
感染性のもの
化学的刺激(酸やアルカリ)
機械的刺激
外傷性のもの
★最も多い原因は消化性食道炎(逆流性食道炎)
(3)症状
胸焼け(呑酸)
嚥下障害
胸骨後下部の疼痛
(4)治療
食事量を減らし、胃 の伸展を抑える
コーヒー、アルコール、サルチル酸製剤の接種、喫煙をさける
就寝前2時間は食事をさける
肥満の人は体重を減少させる
薬物療法

■3)食道静脈瘤
(1)概念
食道粘膜に発生した、静脈の異常な怒張
側副血行路の形成により発生する
☆肝臓の循環障害によって、門脈を通るはずの血液芽食道静脈などのその他の血管を通って心臓に戻ることになり、静脈にこぶができる
(2)原因
肝硬変
バンチ病
日本住血吸虫症
(3)症状
問題となるのは、静脈瘤の破綻による大量出血
→吐血、下血の出現
☆処置
腹臥位または側臥位にする(誤飲によって血が気管に入らないようにする)
(4)予後
一度吐血すると、再出血の起こる確率80%

2.胃疾患
■1)消化性潰瘍
胃十二指腸潰瘍のこと
(1)概念
胃液と摂食する消化管に生じた粘膜筋板を破る程度以上の組織損傷
(2)疫学
①胃潰瘍
全人口の7~8%程度に発症(内視鏡検査によると)
男性に多い
好発年齢:40歳代が最も多い(30~60歳に好発)
防御因子の低下が発症につながることが多い(胃酸濃度は上昇していない)
②十二指腸潰瘍
発症頻度は胃潰瘍とほぼ同じ
都会型の労働者に発症することが多い
男性に多い(胃潰瘍に比べても男性の率が高い)
好発年齢:20~30歳代
攻撃因子の増加によって発症することが多い(胃3濃度の上昇など)
(3)成因
・外来刺激説
・胃液焼痂説
・血管障害説
・内分泌障害説
・ストレス説
・ヘリコバクターピロリ菌の関与が大きい
①ヘリコバクターピロリ菌
ペニシリン、テトラサイクリン、エリスロマイシンなどの抗生物質に感受性がある(効く)
☆胃癌にも関与すると言われている
☆感染者のほとんどが胃炎を発症する
ア.ピロリ菌が粘膜障害を起こす陰市
・ウレアーゼ活性とフリーラジカルの産生(重要)
☆ウレアーゼ
尿素をアンモニアに変える物質。アミラーゼの一種
☆フリーラジカル
活性酸素や一酸化窒素のこと
・空胞化サイトトキシン:ピロリ菌の出す害毒素
・プロアーゼやリパーゼの活性
・アルコール脱水素酵素の活性
②攻撃因子
・塩酸
・ペプシン
・ストレス(胃酸の分泌が増加)
・胃壁血管の収縮
・ピロリ菌
・薬物
・喫煙
・NSAID:胃壁の血流量を減らす薬(非ステロイド系抗炎症剤)
③防御因子
・粘液の分泌(粘膜の保護)
・粘膜血流が盛んなこと
・粘膜の抵抗(粘液粘膜間門)
H+が粘膜より外に広がらないようになっている
アスピリン、アルコール、胆汁酸はこの機構を破壊する
・その他
セクレチン、CCK(コレシストキニン)、
…ガストリンの分泌を抑える
PG(プロスタグランジン)
…胃粘膜血流量増加

(4)好発部位
・胃潰瘍
胃角部小彎
・十二指腸潰瘍
球部(上行部)

(5)症状
①疼痛
潰瘍の大きさと痛みは比例しない
☆すべての人に疼痛が現れるというわけではない
・疼痛の部位
心窩部痛
・食事との関係
十二指腸潰瘍:空腹時痛が多い
胃潰瘍:食後1、2時間
②酸症状
胸焼け、げっぷのこと
③その他
腹部膨満感
重圧感
食欲不振
悪心、嘔吐

(6)合併症
・吐血、下血
吐血の場合、コーヒー残渣様の吐しゃ物
下血の際の便はコールタール様
・穿孔
腹膜炎やイレウス(腸閉塞)を発症することがある
☆隣の臓器にまで穴があいてトンネルができることを穿通という
・狭窄
幽門部や十二指腸球部に発生しやすい
☆嘔吐を引き起こしやすい

(7)診断
・理学的所見:特徴的なものはない
小野寺殿部圧診点、ボアス圧診点に圧痛がでる化膿性は高い
・X線検査
胃潰瘍:ニッシェを見出すことができる
嚢状胃(小彎短縮が著しい場合)になる
☆潰瘍のある部分に造影剤が入り込み、通常の輪郭より突出した部分が見える、これをニッシャという
十二指腸潰瘍:タッシェ(衣嚢)形成を見る
☆十二指腸の潰瘍部がクローバー状に見える、これをタッシェという
・内視鏡検査
活動期、治癒過程期、瘢痕期等に区別できる
・その他
胃液検査:攻撃因子を間置できる
便:コールタール様の便を見る(胃十二指腸からの出血を疑う)

(8)経過と予後
治癒しやすいが、再発しやすい
☆5年以内に3分の1が再発
(9)治療
・薬剤
抗コリン薬、制酸薬を主に用いる
抗コリン薬の代表例
…ヒスタミンH2受容体拮抗薬
・食事
接種制限はなし
炭酸、炭酸を含むアルコール、コーヒーなどの刺激物、喫煙などは控える
☆牛乳などがよい

■2)胃下垂および胃アトニー
・胃下垂とは
胃が垂れ下がり胃角が蠕動のいずれの時点においても、腸骨稜よりも下にある場合
・胃アトニ―
胃壁の緊張低下状態
(1)症状
心窩部膨満感、悪心、食欲不振
易疲労感(疲れやすい)
(2)診断
X線検査
(3)治療
一回の食事量を減らす
食後30分から60分は右側臥位が良い
適切な運動、十分な睡眠
腹筋の強化
・薬物
精神安定剤
☆興奮を抑えて食欲を抑える
胃の運動促進剤
消化薬

■3)胃神経症とNUD
(1)胃神経症
器質的病変がなく、機能的ないしは神経症的反応で、上腹部症状を訴えるもの
・上腹部症状
食欲不振、腹部膨満感、上腹部痛、悪心嘔吐、胸焼け、げっぷ
(2)NUD
☆ノンアルサーディスペプシア
症状は胃神経症と類似するが、精神的なものの影響が少ないもの
①分類
・胃食道逆流型
胃液が食道に逆流したような症状が出る、逆流性食道炎と似た症状が出る
☆食道の炎症は起こっていない
・運動不全型
過敏性腸症候群と症状が重なる
腹部膨満感、食欲不振、もたれ感
・潰瘍症状型
夜間痛、上腹部痛
食物の摂取や制酸薬の接種で痛みが止まる
・非特異型
上記以外のタイプ
☆診断には心理テストが用いられる

■4)胃腫瘍
・胃腫瘍の種類
胃癌、胃肉腫、胃ポリープ、胃腺腫、胃粘膜下腫瘍
(1)胃癌
胃粘膜上皮に発生する癌
①疫学
日本人の発症率が高い(世界一)
癌全体の80%
注):男子においては肺癌の方が多い
・多発年齢:50~60代がピーク
・男女比:男>女 2:1
②分類
・早期癌:癌の浸潤が粘膜下層にとどまるもの
・進行癌:癌の浸潤が粘膜下層以上に及ぶもの
★リンパ節への転移の有無は問わない
ア.ボールマンの分類
Ⅰ型(限局隆起型)
限局性の隆起を作るものでその表面に大きい潰瘍,びらんの形成がない(ポリープ状)
Ⅱ型(限局潰瘍型)
限局性の潰瘍を作るが周辺には浸潤しないもの
Ⅲ型(潰瘍浸潤型)
潰瘍を形成し、さらに周辺に癌の浸潤が及ぶもの
Ⅳ型(びまん浸潤型)
瀰漫(びまん)性の浸潤をきたすもので,潰瘍はあっても浅く小さい
スキルス(硬性癌)が大多数
女性は30代~40代が多い
☆びまん=蔓延する
③好発部位
幽門側2/3の小弯側
組織的には腺癌が多い
④転移
リンパ行性転移することが多い
ア.リンパ行性転移
・左鎖骨上窩リンパ節転移が最も多い
=ウィルヒョウ腺腫大(ウィルヒョウ転移)
☆胃だけでなく、上部内臓の癌の転移に多い
・門脈や後腹膜のリンパ節に転移することもある
イ.血行性転移
肝臓、肺、骨、腎臓などに転移することが多い
★肝臓が最も多い
ウ.播種性転移
癌細胞が組織液の中を落ちていって転移する
ダグラス窩(直腸子宮窩)や卵巣に転移することが多い
・ダグラス窩への播種性転移:シュニッツラー転移
⑤原因(参考)
刺激性の強い食べ物、ニトロン化合物によって誘発されるとされる
⑥症状
胃癌の特徴症状はない
種々の上腹部の不定症状が出現
無症状の場合もある
★切除不能のものに症状が出ることが多い
盛り上がる型のものより、引っ込んでいる型の方が症状が出やすい
・一般的症状
腹部の膨満感
疼痛(潰瘍を形成しているものに多い)
癌の進行により、嗜好の変化が見られることがある
☆肉、魚を好まなくなったり
末期ではリンパ節転移、体重減少、貧血、浮腫などが出現
・噴門部の癌の症状
嚥下困難、嚥下痛
・幽門部癌の症状
上腹部の膨満感、嘔吐
⑦検査所見
ア.理学的所見
・早期癌では異常をみとめない
・進行癌
上腹部の腫瘤、腹水
リンパ節転移により、リンパ節がはれてくる
イ.X線検査
・ボールマンⅠ型
陰影欠損として描写される
☆癌の部分が黒い影のように写る
・ボール万Ⅱ、Ⅲ型
不整形のニッシェとその辺縁の隆起として描写
・ボールマンⅣ型
辺縁が硬化、不整に写る
粘膜の肥厚、硬化を呈し、ドカン状に写る
ウ.内視鏡検査
ボールマンの分類と一致した所見が見られる
エ.生検
☆組織診のこと
癌の確定診断に不可欠
ボールマンのⅣ型は偽陰性になることもある
オ.臨床検査所見
便潜血反応の持続的陽性
貧血
血清鉄の低下
☆鉄の吸収には胃酸の働きが必要なので
血清タンパクの低下
血沈促進
☆消化吸収が妨げられるので
⑧経過と予後
早期癌:5年生存率92%
進行癌:手術後の5年生存率30~45%
⑨治療
・切除
早期癌:切除化膿なものは積極的に切除
進行癌:基本的には切除を行う
・化学療法
抗がん剤などの薬物投与
・内視鏡的治療
開腹するまでもない小さな癌に対して
・放射線療法

■5)胃炎
(1)急性胃炎
①概念
化学的、機械的、物理的刺激により惹起された(引き起こされた)、胃粘膜の急性炎症傷害で、急性の腹部症状をともない、
数日、ないし数週で治癒するものをいう
②成因による分類
ア.急性外因性胃炎
・急性単純性胃炎
暴飲暴食、薬物(NSAIDや抗生物質など)によって引き起こされる
アルコール、コーヒー、喫煙なども
・急性腐食性胃炎
腐蝕剤(酸、アルカリ、重金属塩など)の誤飲による
イ.急性内因性胃炎
・急性感染性胃炎
細菌やウィルスの感染によって起こる
インフルエンザウィルス、肺炎球菌、腸チフス菌など
・急性化膿性胃炎
連鎖状球菌、ぶどう球菌など
③症状
・通常、原因があってから短時間のうちに食欲不振、上腹部症状が出現
☆上腹部症状:悪心、嘔吐、上腹部痛
これらの症状が数時間から数日間続く
原因が除去されれば自然に消退
④治療
原因の除去
食事を1,2回抜き、胃の安静をはかる
水分の補給
薬物療法

(2)慢性胃炎
①概念
胃粘膜の表層胃炎から始まって、萎縮性胃炎の過程を経て、胃萎縮にいたるまでをいう
萎縮性胃炎が中心
・表層性胃炎の特徴
表層性胃炎では胃腺の萎縮は見られない
粘膜固有層に形質細胞とリンパ球の浸潤が見られる
・肥厚性胃炎
胃腺の萎縮はあるが、炎症所見がない
②萎縮性胃炎とは
胃腺の減少、消失を本体とするびまん性の胃の病変である
固有胃腺の減少が特に多い
☆粘膜、胃腺の減少が症状の中心
☆加齢により多くの人は胃腺が減少する
胃の間質にはリンパ球やプラズマ細胞の浸潤が見られる
☆プラズマ細胞=形質細胞
③原因
原因は明らかでない
ピロリ菌の関与、加齢など
④症状
特有症状はない
・萎縮性胃炎の一般的症状
疼痛(鈍痛が多い、痛みが出ない場合も)
膨満感
胃の存在感の自覚
食欲不振、胸焼け、げっぷ
低酸無酸症状をきたすことが多い
⑤合併症
胃癌との関連性が無視できない
悪性貧血を見ることが多い
⑥治療(参考)
萎縮を改善し、胃腺を再生することはできない
・薬物治療
制酸剤、粘膜保護剤、消化酵素薬、精神安定剤など
☆病理を細かく説明してあげるのが体節

■6)胃切除後症候群
胃切除に伴う、残胃の狭小化および、胃より小腸への食物の通過促進などに基づく、主として機能的な障害を意味する
☆実際は器質的病変も含む
(1)ダンピング症候群
①概念
食後20分ぐらいに起こる上腹部症状とともに、血管運動性の全身症状(全身不快感、発汗、心悸亢進など)を示すもので、一般的にはこれらの症状が術後数ヶ月以上存在し、かつ数ヶ月以上続くもの
★胃癌よりも胃潰瘍での切除による発生頻度の方が高い
☆炭水化物が空腸にそのまま流れ込むことにより、浸透圧によって組織から腸内に水分が流れ出し、体内の水分が減少する
②症状
・早期症状
食後20分ぐらいで現れる
上腹部症状、血管運動性の全身症状が含まれる
・後期症状
食後低血糖症候群ともいわれる
食後、2~3時間後に出現
冷や汗、脱力感、めまい、眠気
☆高張な食物が腸内に流れ込み、一過性の高血糖に続くインスリン過剰によって低血糖が起こる
③合併症
栄養摂取不足が起こる
→貧血
④経過と予後
自然に軽快することが多い
一般的に予後は良好
☆一年ぐらいで治るのでは
⑤治療
過食、炭水化物の多い食事で症状が誘発される
食事は少量ずつ頻回行う
たんぱく質の多い食事をとる
運動は症状を増悪させる
精神的緊張をさける
・薬品
抗ヒスタミン剤
胃粘膜の局麻薬など

(2)輸入脚症候群
①概念
ビルロートⅡ法の残胃で輸入脚になんらかの通過障害があると輸入脚内に内容の鬱滞を起こし、大量の十二指腸液が貯溜し、それに基づく症状をきたす
嘔吐によって内容が排除されれば症状が消失する
このような症状を繰り返すもの
☆ビルロートⅡ法:胃の途中と十二指腸の途中をつなげる方法。十二指腸の前半は残してある状 態
ビルロートⅠ法:胃の切断部と十二指腸の先頭をつなげる方法
☆輸入脚
十二指腸のあまりの部分
☆手術ミスなどで起こる
②症状
食後10~20分に悪心、腹部不快感、疼痛が起こる
この症状が数分から数時間持続した後に、胆汁の混ざった内容物の嘔吐が起こる
嘔吐後は種々の症状が消失
③経過
解剖学的要因が除去されない限り症状が繰り返される

(3)その他
・吻合部潰瘍
手術で吻合させたところに潰瘍尾が発生するもの
ビルロートⅠ法では十二指腸にビルロートⅡ法では空腸に潰瘍ができやすい
・貧血
悪性貧血、鉄欠乏性貧血
・消化吸収障害、下痢
・逆流性食道炎
全摘出の際に起こりやすい
・残胃炎
・骨障害
栄養の吸収傷害による

3.腸疾患
■1)腸炎(急性腸炎)
①概念
腸炎(急性腸炎)とは、一般に臨床症状からつけられる診断名で、
腹痛、下痢を主な特徴とし、急性に経過するものをいう
②症状
・腹痛
小腸の炎症では臍周辺
大腸の炎症では結腸の走行にそって発する
・下痢
回数は多いが量は少ない
テネスムス(裏急後重、しぶり腹)
(1)感染性腸炎
①急性細菌性腸炎
・急性細菌性腸炎の原因菌
黄色ブドウ球菌
腸炎ビブリオ
サルモネラ菌
ボツリヌス菌
毒素原性大腸菌
カンピロバクター
腸チフス
コレラなど
②慢性細菌性腸炎
・慢性細菌性腸炎の例
腸結核
③ウィルス性腸炎
エンテロウィルス
アデノウィルス
コクサッキーウィルス
肝炎ウィルス
など
④その他
原虫(アメーバ赤痢)
真菌(カンジダ、放線菌)
エイズ

(2)薬剤性腸炎(抗生物質起因性腸炎)
①偽膜性腸炎
・原因薬剤
クリンダマイシン、リンコマイシン
・投与後3週間前後で発症
・欧米に多い
・中高年層に好発
☆偽膜:リンパ球その他の組織が集まって、膜状をていすもの
・症状
発症は緩徐
腹痛、下痢等が1~数週間継続
病変部はS状結腸や直腸が多い。コレラの部では偽膜が見られる
②出血性腸炎
主に合成ペニシリン(特にアンピシリン)で発症する
わが国に多い
投与数日後に発症
青年、壮年に多く、女性に多い
病変部:下行結腸より口側
治療:対症療法

(3)アレルギー性腸炎
小児のミルクに対するアレルギー
①症状
・急性型
胃腸炎症状
全身の浮腫、腹水、脱水
・慢性型
貧血、喘息、湿疹、じんま疹
間欠的な下痢や腹痛
②治療
食事からのミルクの除去
ステロイド剤の投与

(4)放射線照射性腸炎
腹部臓器の悪性腫瘍に対する多量の放射線照射によって発生する、腸の慢性炎症
☆放射線腸炎は数ヶ月から数十年後に発病することもある
・症状
悪心嘔吐、下痢、腹痛
出血、穿孔、腸管狭窄など

■2)過敏性腸症候群(過敏性大腸)
(1)概念
腸管の機能異常であって、器質的変化はなく、便通異常を主とする、各種不定の腹部症状を伴うもので
これらの症状が長く続き、また症状の発現に心身医学的な側面が強いもの
(2)疫学
成人に発症することが多い
女性に多い
知的労働者に多い
・患者の性格的特長
攻撃的、環境にうまく適応できない
絶えず緊張している状態
(3)病理
腸管自体の神経(腸管神経叢など)や筋の異常はあまり見られない
・分類
下痢型
便秘型
下痢、便秘交替型
粘液分泌型
ガス優位型
(4)症状
便通異常(下痢、便秘)
腹痛(下腹部痛が多い、心窩部痛もあり)
★排便前に痛みが起こる。排便後は痛みが消える
自律神経症状
★めまい
精神症状
★不安など
(5)経過と予後
持続する
完全な治癒は困難
予後は良好
(6)治療
心身医学的アプローチが必要
その他一般養生法
・薬剤
トランキライザー(緊張を抑える)
抗コリン薬(鎮痛)
止痢薬は無効であることが多い

■3)潰瘍性大腸炎
(1)概念
主として粘膜を侵し、しばしば糜爛や潰瘍を形成する原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症。
☆非特異性:その症状を見て病名が特定できないということ
慢性に経過し増悪と寛解を繰り返す特徴がある
初発部位は直腸またはS状結腸が多い(周囲に病巣が広がっていく)
(2)疫学
白人、ユダヤ人に多い
☆黒人、日本人には少ない
20代が最も多く、30代、40代と続く
(3)原因
原因は不明
☆諸説ある
細菌感染説
粘液分解酵素の傷害作用説
粘膜再生機能の変化
アレルギー反応
(4)分類
①病変の広がりによる分類
・全大腸炎
すべての大腸に炎症
・左側大腸炎
横行結腸の途中ぐらい
・直腸炎
直腸に限局
②病期による分類
・活動期
・寛解期
③重傷度による分類
・軽症
全身症状がないか、あってもきわめて軽微
・中等症
軽症と重症の中間
・重症
発熱、頻脈等の全身症状を伴う
④臨床経過による病型分類
・再燃寛解型
最も多いタイプ
・慢性持続型
症状が6ヶ月以上持続するもの
・急性電撃型
きわめて激烈な症状で発症するもの
中毒性大腸拡張症(巨大結腸)、穿孔、敗血症などの合併症を伴う
予後不良である
★中毒性大腸拡張症(巨大結腸)
炎症によって結腸が拡張する
・初回発作型
発作が一回きりのもの
しかし、再燃寛解型に移行しやすい

(5)病理
病変の主体は粘膜下層までに限られる
粘膜表面の発赤、易出血性びらん、潰瘍を形成
病変は連続的であって、罹患部では全周にわたって病変が見られる
腸管相互の癒着はない

(6)症状
主要症状は下痢、血便
・軽症
下痢も血便も少なく、全身症状もほとんどでない
・重症
下痢と血便の回数が増える
発熱、頻脈、食欲不振、体重減少など全身症状
・急性電撃型
大量の出血、著名な下痢で発症
合併症の出現

(7)検査所見
・理学的所見
中等症以上では大腸の走行にそって圧痛が見られる
中毒性大腸拡張では著名な膨隆がみられる
・内視鏡検査
臨床上きわめて重要な検査
・一般検査
中等症以上では、白血球増多
赤沈の亢進
低色素性貧血
A/G比の低下
CRP陽性
★CRP:リウマチ熱、RA(間接リウマチ)、耳下腺炎などでもCRP陽性になる
★CRP=C反応性蛋白試験
炎症、感染症などによって増殖するある種の蛋白の増加を試験する
・X線検査
罹患範囲の決定、炎症の程度を知るために利用される

(8)合併症
①腸管に関連する合併症
・大出血
・中毒性大腸拡張症(巨大結腸)
・穿孔
・腹膜炎
・癌化
②腸管外病変
・結節性紅斑(皮膚)
・関節縁(大間接が多い)
・脂肪肝
・ぶどう膜・角膜・虹彩炎
・貧血
など

(9)経過と予後
・急性電撃型
予後不良
(死の転帰をとることも)
・その他の型
増悪と寛解を繰り返しながら慢性に経過
生命の予後は良好
・癌化する確率は1~2%

(10)治療
安静
精神面のケア
食事では、線維の多い食物は避ける
アルコール、コーヒー、牛乳をさける
・薬物(参考)
サラゾフルファビリジン
5-アミノサリチル酸
☆抗コリン剤は巨大けっちょを引き起こすので用いない
・外科手術による患部の摘出

■4)クローン病
(1)概念
腸に好発する非特異性肉芽腫炎である
原因は不明だが、自己免疫機序がもっとも有力
(2)疫学
・好発年齢
若年者(特に20代)が多い
・好発部位
回盲部に好発
(3)症状
発熱、腹痛、下痢
低たんぱく血症
貧血、体重減少
(4)合併症
患部の閉塞
瘻孔
狭窄

■5)虫垂炎
(1)概念
虫垂の急性炎症
・発生機序
虫垂の閉塞
→虫垂に分泌物の貯溜
→虫垂の拡張
→虫垂の血行不全(免疫低下)
→感染の発症
・閉塞の原因(参考)
糜粥、スイカの種
(2)症状
・疼痛
心窩部痛から始まり、回盲部に移動(持続的で牽引性の痛み)
☆高齢になると疼痛を感じにくかったりもする
・圧痛
・悪心、嘔吐
・発熱(37~38度程度)
・排ガス、排便停止が見られることも
(3)検査所見
①疼痛の現れる場所
・マックバーネ点
臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外3分の1の点
・ランツ点
左右の上前腸骨棘を結ぶ線を3等分した右外方3分の1の点
・グラドー点
左右の上前腸骨棘を結ぶ線が、右腹直筋外延と交わる点
・モンロー点
右上前腸骨棘と臍を結ぶ線で、右腹直筋外縁
②徴候(重要)
・ブルンベルグ徴候
回盲部を手で圧迫し、急に手を離すと疼痛が増加する現象
・ローゼンシュタイン徴候
左側臥位で圧痛点を圧迫すると、仰臥位での圧迫より疼痛が増加する現象
・ロブジング徴候
下行結腸を逆蠕動性に圧迫すると回盲部に痛みを感じる現象
・腸腰筋症状
左側臥位で右股関節を過伸展させると、回盲部に痛みが出現する現象
(腸腰筋の炎症)
・直腸指診
直腸前壁右側に圧痛があれば小骨盤腔内に炎症が波及しているとみられる
③筋性防禦(デファンス)
壁側腹膜の刺激症状
(腹膜に炎症が起きることによって腹直筋が硬く収縮する)
④その他の所見
白血球数の増加(病変に比例して)
白血球の核の左方転移

(4)合併症
腹膜炎(限局性のものから全体に及ぶものまで)
直腸周囲膿瘍

(5)経過と予後
・初期は化学療法で対応可能
・穿孔を起こす前に適切な処置をすることが大切
・小児は経過が早い
・老人は経過が遅いために、予後不良になることがある

(6)治療
・白血球数が1万を超えれば手術

■5)大腸癌
(1)概念
大腸の上皮性悪性腫瘍
(2)疫学
・好発部位
直腸、S状結腸
直腸の方が多い
・性差
少し男性に多い
・好発年齢
60歳代(50歳代と続く)
・日本人の大腸癌
増加傾向
(3)原因
原因は不明
・誘因
高脂肪食と低食物繊維食
①多段階発ガン説
発生機序についての節
正常上皮→中間病変→癌と変化する
遺伝子が関与するとされる
・遺伝子の関与の仕方
癌抑制遺伝子(APC)の欠失、変異により腺腫が発生
→癌遺伝子(K-ras)の突然変異、活性により、腺腫の高度異型化
→癌抑制遺伝子(P-53)の欠失や変異があると腺腫の癌化が起こる

(4)大腸癌の発生機序による分類
①通常癌
多段階発ガン説が受け入れられているもの
大腸癌の95%を占める
②遺伝性癌
家系的に大腸癌が多発するもの
③炎症癌
潰瘍性大腸炎などの炎症に伴って発生するもの

(5)症状
出血、便通異常、疼痛が3主症状
・右側結腸癌
便通異常は比較的起こりにくい。軟便になりやすい
比較的強い症状が出にくい
・左側結腸癌
狭窄症状が出現し、便秘が起こりやすい
腹痛の頻度が高い
出血もしばしば見られる
・直腸癌
排便時の不快感、残存感、テネスムス、粘血便、下痢、便柱不整(細くなることが多い)
腹痛は比較的少ない

(6)検査所見
①理学的所見
・上行結腸癌
腫瘤を触知することが多い
・直腸癌
直腸指診で80%が指診可能
②便潜血反応
陽性となる
③X線検査
アップルコアサイン
…肛門側の腸管に口側の腸管が入り込む
④内視鏡検査も行う
⑤CEA(胎児性癌抗原)
陽性となる

(7)経過と予後
胃癌よりは良好
肝臓に転移しやすい

(8)治療
早期発見による切除が基本

■6)イレウス(腸閉塞)
(1)概念
腸管内容の通顆が傷害された状態
(2)分類
①閉塞性イレウス(単純性イレウス)
異物、糞塊に基づく、腸管の屈曲や、腫瘤による圧迫によって発生
メタリックサウンド(金属製雑音)が見られる
②絞扼性イレウス
腸重積、S状結腸捻転症、脱腸などが含まれる
腸間膜血管の血行停止を引き起こす(重要)
①と②を合わせて機械的イレウスという
③麻痺性イレウス
腹膜炎、開腹手術後に発生することが多い
腸管の蠕動がなくなる
④痙攣性イレウス
鉛中毒などで発症
③と④を合わせて帰納的イレウスという

(3)病理
腸管の拡張
体液phの異常
上部閉塞による嘔吐
…胃液喪失によるアルカローシス
下部閉塞による嘔吐
…HCO3-喪失による代謝性アシドーシス
腸内細菌増殖、およびそれに伴うエンドトキシン増加によるショック、敗血症
呼吸障害、循環障害(横隔膜が押し上げられることによる)

(4)症状
・主要症状
疼痛、悪心、嘔吐(ひどいときは吐糞)
排便・排ガス停止
鼓腸、蠕動不穏
・絞扼性イレウスが最も症状が強い

(5)治療
保存的療法と外科的療法
①保存的療法
絶食、輸液による電解質補給
消化管内容物の吸引
薬物療法
②外科的療法
主として絞扼性イレウスに適用

4.肝臓疾患
■1)肝炎(急性ウィルス性肝炎)
(1)概念
肝炎ウィルスによって起こる伝染性疾患である
(2)肝炎ウィルス
①A型肝炎ウィルス(HAV)
流行性肝炎、伝染性肝炎を起こす
経口感染が中心(飲料水を介して流行することも多い)
慢性化することはほとんどない
②B型肝炎ウィルス(HBV)
母子感染(垂直感染)、輸血、性交による感染が多い
キャリアのままのことも多い
慢性化することもある(3割程度)
劇症肝炎になる比率が高い
・抗原・抗体について
HBs抗原:HBVの表面抗原
HBe抗原:HBVの芯抗原、感染力が強い状態で検出される
HBc抗原:HBVの芯抗原
HBs抗体:B型肝炎の治癒時に検出される
②C型肝炎ウィルス(HCV)
慢性肝炎になりやすい
輸血による感染が多い
肝硬変や肝がんに移行しやすい
④D型肝炎
非経口感染
B型肝炎との重複感染が多い
⑤E型肝炎
経口感染する
妊婦が感染すると重篤化しやすい
⑥G型肝炎ウィルス(HGV)
輸血により感染

(3)症状
①潜伏期
感染し発症するまでの期間
・A型:15~50日
・B型:50~180日
・C型:15~180日
②前駆期
1~2週間継続
軽い全身倦怠、食欲不振
悪心嘔吐、腹痛、発熱
頭痛、関節痛、肝腫大(圧痛が現れる)
★A型肝炎では比較的発熱が高く、38℃を超えることがある
☆風邪のような症状
③黄疸期(1~2ヶ月)
皮膚のかゆみ、褐色尿、淡色便、黄疸
・黄疸期の極期(黄疸期の1~2週間後)
自覚症状は改善傾向
自覚症状が増悪してきた際は、激症肝炎の可能性が出てくる
④回復器
食欲の回復、全身倦怠感の消失
肝の腫大はあっても、圧痛は消失

(4)検査所見
・血清ビリルビン
20ミリグラム/デシリットル以上になることは少ない
直接型ビリルビン値が優位に上昇
・血清タンパク
A型はB型に比べ、IgM、チモール混濁試験が異常値を示すことが多い
☆IgM:γグロブリン
・血清酵素
血清トランスアミラーゼのGOT、GPTが他の酵素に先んじて高値をとる
上昇率はGOT<GPTになることが多い
回復とともに他の化学的検査に先んじて改善傾向が見られる
ALP γーGTP、血清鉄なども上昇
・尿、糞便
尿中ビリルビン値の上昇(黄疸に先んじて見られる)
一時淡色便になる
・肝炎ウィルスマーカー
A型肝炎の診断は血中IgM型HA抗体の検出により診断
B型肝炎の診断は血中HBs抗原やIgM型HBC抗体の検出により診断
C型肝炎の診断はamtiーC100-3、第2世代HCV抗体、第3世代HCV抗体の検出により診断
D型肝炎の診断はHDV抗体、Igm型HDV抗体の検出、HDV-RNAの検出により診断可能

(5)経過と予後
急性ウィルス性肝炎の予後は良好
通常、一ヶ月以内に黄疸や自覚症状が消退する
3ヶ月以内に化学的検査は正常化する

(6)治療
原則は安静にし、少なくとも一ヶ月は臥床休養が必要である
☆寝ることで肝臓への血流量を増やす
バランスのとれた食事(カロリー量、蛋白量に配慮)
最低6ヶ月は経過観察が必要
B、C型肝炎に対し、インターフェロンの投与が有効とである場合もある

■2)慢性肝炎
(1)概念
慢性肝炎とは6ヶ月以上、肝に炎症が持続、あるいは持続していると思われる病態である
・進行過程
慢性持続性肝炎から慢性活動性肝炎をていし、肝がんまたは肝硬変に移行することが多い
(3)成因
・ほとんどが肝炎ウィルス
B型:30%、C型:50~70%
・アルコール性の肝炎、薬剤、自己免疫因子によって起こることも
・発症は30~50歳代が多い

(4)病態生理
抗原抗体反応が強くないために、持続的炎症が起こる
門脈域を中心とした持続性の炎症が起こり、円形細胞の浸潤と線維の増生により、門脈域の拡大が見られる

(5)症状
・自覚症状
全身倦怠、食欲不振、体重減少が持続
特定症状はなし
褐色尿や黄疸、皮膚創痒感、腹部膨満感なども出てくる
・他覚症状
肝腫大、脾臓腫大、クモ状血管腫、手掌紅斑

(6)検査所見
①生化学検査
ZTT、TTT(チモール混濁試験)などの膠質反応が上昇(蛋白が増える)
BSP、ICGなどの色素排泄試験の遅延
GOT、GPTの上昇(急性肝炎ほどには上昇しない)、GOT<GPTの経口が強い
血清アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロールなどは低下することがある(特に病状が進行すると)
②ウィルスマーカー
B型:HBVDNAポリメラーゼなどの持続的陽性は、滑動性病変を示す
C型:HCV抗体陽性でHCVRNAの陽性は持続性感染を示す
③肝生検
本疾患の確定
活動性、非活動性の判別
④その他
腹腔鏡検査
CTスキャン、超音波検査、核医学検査(MRIなど)

(7)治療
・障害因子の除去
肉体的精神的疲労の除去、アルコールや薬物を摂取停止
・安静
・食事療法(急性肝炎と同じ)
①薬物療法
・B型
ステロイド離脱療法
…ステロイドを投与後、投与を停止する療法
インターフェロン
ステロイドとインターフェロンの合併療法
・C型
インターフェロン療法
インターフェロンとリバビリンとの併用療法

(8)経過と予後
慢性肝炎から肝硬変への移行率は8~20%
活動型の慢性肝炎は肝硬変に移行しやすい

■3)自己免疫性肝炎
(1)概念
肝臓における自己免疫反応の持続が、進行性の肝細胞の破壊の原因となっている、びまん性炎症性肝疾患
(2)疫学
女性に多い
☆ウィルスの関与が否定できて、γグロブリンが2.5グラム/デシリットル以上になったものをいう
(3)症状
潜行性に発症し、緩徐に進行する
倦怠感、黄疸、食欲不振、発熱、関節痛、発疹など
膠原病の合併もある
(4)治療
ステロイド剤、免疫抑制剤
(5)予後
早期発見、早期治療では予後良好
治療が遅れれば肝硬変に移行することも

■4)劇症肝炎
(1)概念
肝細胞の広汎ないし、亜広汎壊死、または急激な肝機能不全に基づいて急性感不全症候群をていする疾患
☆肝炎症状が現れてから8週間以内に上記のような状態になる
意識レベルが2度以上になる
プロトロンビン時間の延長など
(2)疫学
原因の90%はウィルス性肝炎(特にB型が多い)
その他としては薬剤による(吸入麻酔薬など)

(3)症状
・自覚症状(意識障害出現までの症状)
不定の消化器症状、全身倦怠、発熱、不眠
黄疸出現以後もこれらの症状が持続する
・他覚症状
肝性脳症(意識障害など)の出現
黄疸(急激に進行し、強く出現)

(4)検査所見
・肝機能検査
血清ビリルビン、アンモニア値の上昇
GOT、GPT、アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ値の低下
・血液凝固試験
プロトロンビン時間の40%延長
・血清遊離アミノ酸の増加
・脳波の異常
徐波の出現、三相波(意識障害が現れるため)
・腹部超音波、腹部CT
肝臓の縮小や壊死が現れる
・頭部CT
脳浮腫の出現

(5)予後
きわめて不良
☆生存率:20~35%
生命をとりとめたとしても、壊死後肝硬変へ移行することが多い

(6)治療
できるだけ早急に硬度の集中治療管理体制のもとで治療する

■5)肝硬変
(1)概念
慢性ウィルス性肝炎を主とする慢性肝疾患の終末期であり、肝全体に及ぶ線維化と壊死後の結節(再生結節)形成を特徴とする
(2)病因
・肝炎ウィルスによるもの
最も多いのはC型、続いてB型
慢性肝炎の肝硬変への移行率は20~40%
・アルコール性肝炎
・代謝異常
ヘモクロマトーシス、ウィルソン病
・胆汁うっ滞
・心不全
☆血流が悪くなるため
・肝毒性の強い薬剤や毒物
☆例:アサリ中毒、黄変米など、ピーナッツ油
・栄養障害
☆アルコールとの組み合わせで起こることが多い
・寄生虫
…日本住血吸虫など
・自己免疫異常
(3)病態生理
肉眼的結節形成
門脈域間、中心静脈間の核壁形成
肝小葉構造の改築
☆肝細胞壊死→炎症→線維の増生→再生結節の形成→循環悪化→さらに多くの肝細胞壊死
(4)検査
・血液生化学検査
GOT、GPTの中等度上昇
アルブミン減少
γグロブリン上昇→AG比の低下
TTの上昇
血小板、コリンエステラーゼ、プロトロンビンなどの減少
血中アンモニアの上昇(肝性口臭のもと)
…。アミン臭
ICG(インドシアニングリーンという色素)の血中停滞率上昇

(5)症状
・自覚症状
初期は無症状
食欲不振、体重減少
不定の消化器症状、腹部の膨満感
性欲低下、月経異常
・他覚症状
クモ状血管腫(顔面、前胸部、肩、上肢などに発声)
手掌紅斑(母指球、小指球などに)
色素沈着、赤鼻
顔面血管の拡張
女性化乳房
つめの変化(割れやすくなるなど)
太鼓ばち指
黄疸
肝の硬度増加と変形
発熱、出血傾向
・門脈圧亢進症状
側副血行路の発達
→メズーサの頭、食道静脈瘤の形成、痔
腹水
脾腫
・末期症状
吐血、下血、昏睡など
肝腎症候群を併発
・代償期の症状
クモ状血管腫、手掌紅斑
女性化乳房、太鼓ばち指
脾腫、肝腫
★代償期
肝細胞が死滅していきつつあるが、残存肝細胞によって肝機能が保持されている時期
・非代償期の症状
発熱、黄疸
出血傾向、消化管出血
門脈圧亢進症
口臭、昏睡
羽ばたき振戦

(6)合併症
原発性肝癌
耐糖能異常(糖尿病を引き起こす)
胃腸管の障害(消化管潰瘍など)
胆石症

(7)経過と予後
・肝がんを合併していないものの5年生存率は50%を超える
・ただし、B型ウィルスによる肝硬変の予後は比較的悪い
・飲酒群と非飲酒群では生存率に有意な差がでる

(8)治療
安静と適切な食事療法
アルコールや刺激物は避ける
☆高蛋白の食事は、アルコール性肝硬変にはいいが、ウィルス性肝硬変にはよくない

■6)肝がん
A.原発性の上皮性腫瘍の肝細胞がんを扱う
(1)原因
・肝臓毒
黄変米
クロロホルム)
四塩化炭素
塩化ビニル
合成ホルモン薬(ピルなど)
・肝炎ウィルス(特にB型)
・栄養性因子(低栄養地域での発症が多い)

(2)疫学
アフリカや東南アジアに多い
発生頻度は胃癌、肺癌につぐ
男性に多い
50~70代に多い
肝硬変との合併は約70%

(3)症状
・肝硬変と合併することが多いので、肝硬変の症状が現れる
・がんの進行によって、肝の急速な腫大、肝の表面に腫瘤を触知
・肝細胞癌随伴症状
低血糖、赤血球増多症
高コレステロール血症、高カルシウム血症
・病変が腹膜に及ぶと
激しい右悸肋下部痛
・肝がんの末期症状
黄疸、血清腹水

(4)検査所見
αフェトプロテイン(AFP)の上昇(腫様マーカー 重要)
☆AFP:通常は胎児の肝細胞で作られる蛋白。原発性肝がんで出やすい
CEAも異常をていする
☆大腸癌でより出やすい
異常プロトロンビンが出現する患者の確率は50%
☆異常プロトロンビン=PIVKAー2
LDHの上昇
GOT/GPT比が3以上になる
アルカリフォスファターゼ、γGTPの上昇
☆アルカリフォスファターゼ:変換酵素の一種

(5)経過と予後
・還願の予後
不良
・肝がんの主要な死因
消化管出血
・初発症状から1年、診断から7、8ヶ月で死亡することが多い

(6)治療
教科書参照

B.転移性肝がん
(1)転移の機序
・原発性肝癌と転移性肝癌の発症比率=1:2
・血行性、リンパ行性によるものが35~50%
・原発巣:胃がんが最も多い。ついで肺がん、乳がん、膵臓がんと続く
(2)症状
・基本的に原発性肝がんと同様
・肝腫大が原発性肝癌よりも著しく現れる
・原発性肝癌と異なる点
アルカリフォスファターゼは異常値を示す(70%以上のケースで)
☆肝臓への転移を疑う指標となる
AFPの上昇率は低いが、CEAの上昇率は高い
腹腔鏡検査では癌臍が見られる
☆癌臍:癌細胞の中で帯白黄色の部分
(3)予後
原発性肝がんよりも悪い

■7)脂肪肝
(1)概念
通常、肝重量の約34%が脂肪であるが、これが10~12%以上増加したものを脂肪肝という
☆脂肪量が肝重量の半分を超えたら完全に脂肪肝
(2)原因
肥満、アルコール摂取
肥満型の糖尿病
栄養障害(菜食主義)
中毒性肝障害(薬物、毒物など)
循環障害
(3)検査所見
・肝生検で肝細胞と脂肪の比率をみる(最終的には)
・血清トランスアミラーゼ値やコリンエステラーゼ値の上昇

■7)胆石症
(1)概念
胆道系にできた結石を胆石といい、それによる疾患を胆石症という

(2)疫学
・発生頻度
日本人の胆石保有率:7~8%(欧米の方が高い)
・胆石の成分
ビリルビン系結石、コレステロール系結石が中心
☆栄養状態不良の人はビリルビン系、肥満の人はコレステロール系が多い
・胆石の所在
胆嚢内:90%
胆管内:10%程度
・性差
男:女=1:2

(3)成因
①コレステロール系結石
胆嚢などの炎症性変化による
(胆汁酸やレシチン(アミノ酸)の吸収が盛んに)
→コレステロール濃度上昇
→コレステロールが核になり結石形成
・危険因子
飽和脂肪酸の多い食事
②ビリルビン系結石
胆汁の鬱滞と細菌感染(大腸菌が中心)により発声

(4)症状
・胆石症の3主症状
疝痛発作(右悸肋部、心下部)
発熱、黄疸
①疝痛発作
脂肪性の食事のとりすぎ、暴飲暴食によって誘発
→数時間を経て突然発症
・発作時間
数十分から1時間前後
・悪寒、戦慄、発熱、黄疸などの症状は、疝痛発作に伴って現れる
②間欠期
所見に乏しい
(5)検査
・超音波検査が有効
・胆道造影法
・CTスキャン
・胆汁検査
・血液生化学検査
血清トランスアミナーゼの活性化
ALP、γーGTP、アミラーゼの上昇
☆膵液が上手く分泌できず、鬱滞した膵液が血液に入り込んでしまうので、血液中にアミラーゼが検出される
(6)合併症
・胆嚢炎
・胆管炎
・胆嚢水腫
・胆嚢穿孔、それによる腹膜炎
・胆石イレウス

(7)経過と予後
・大きさがあまり変化しないもの
40%
・大きさが拡大していくもの
38%
・趾前障失礼
コレステロール系欠席に多い
6~8%

(8)治療
①急性期
・疼痛
鎮痙薬
麻酔薬(中枢性)…ものすごく痛いので
・炎症
抗生物質
②間欠期
・食事療法
過度の脂肪食、過食
アルコール。刺激物を避ける
規則正しい食生活
・薬物
排胆薬(胆石排出を促す)、催胆薬(胆汁分泌促進)
☆二つあわせて利胆薬
胆石溶解薬
・その他の療法
体外衝撃波胆石破砕療法

5.膵疾患
■1)急性膵炎
(1)概念
自己の産生・分泌する消化酵素によって、膵組織が消化される病態
(2)原因
・肝臓、胆道疾患が多い
☆胆石症と合併したりもする
・アルコール
アルコールの直接障害、血流低下など
・術後膵炎
☆術後数日で発症、神経や血管を傷つけたことによる
・その他
出産(原因不明)、
高脂血症
甲状腺機能亢進症
高カリウム血症
糖尿病
耳下腺炎(ムンプス)

(3)疫学
・30~50歳代に好発
・アルコール性の膵炎は男性に多い
・胆道疾患による垂炎は女性に多い

(4)病態生理
・急性間質性膵炎(急性浮腫性膵炎)
膵炎の多くを占め、比較的軽症
・急性壊死性膵炎(急性出血性膵炎)
症状が強い
☆劇症膵炎とも言われる、死に至る場合も
・急性化膿性膵炎
症状が強い
☆死に至る場合も

(5)症状
・腹痛
激烈で、症状が多様
心窩部から左悸肋部にかけて現れる
・デファンスの出現
・背部への痛みの放散
・姿勢
背臥位では痛みが増強
前屈位では痛みは軽減
患者はニーチェスとポジションをとる
・嘔吐、発熱、黄疸、腹水、腹部膨満、便通異常
・腹水が血清腹水となることがある(腹水自体現れない場合もあるが)
臍周囲の皮膚が青色になる=カレン徴候
側腹部の皮膚が青くなる=グレイターナ徴候
予後不良の徴候

(6)検査所見
①血液検査(重要)
・アミラーゼ、リパーゼが上昇
(数日すると尿中にもアミラーゼが出てくる)
☆重症膵炎ではアミラーゼの分泌自体がなくなるので、血液にアミラーゼが現れない場合もある
・耐糖能低下
・白血球増加
・血清カルシウムの著名な低下

(7)予後
壊死型は予後不良
☆壊死型では3割死亡

(8)治療
・食事
発病後数日間は絶食
十分な補液と電解質補給
回復に従いたんぱく質の摂取量を増やす
脂肪は極力避ける

■2)慢性膵炎
(1)概念
膵炎としての臨床所見が6ヶ月以上持続、または継続していると思われる状態
(2)病態生理
外分泌腺の分泌低下
脂肪の吸収障害
内分泌腺の分泌低下
☆膵管の狭窄、結石をみることも

(3)原因
・アルコールの過剰摂取
☆5割り以上
・胆石症
・急性膵炎からの移行
・高脂血症、糖尿病、甲状腺機能亢進症

(4)症状
・腹痛
夜間、食後(脂肪や甘いもの、アルコールを多くとったとき)
・腹部の腫瘤
左上腹部に横走する
・その他
便秘、体重減少、微熱、黄疸
☆増悪期で見られる

(5)検査所見
・PS試験の陽性
☆パンクレオザイミン・セクレチン試験
パンクレオザイミン=コレシストキニン
☆陽性:セクレチン、コレシストキニンの分泌が低い
・血清および尿中アミラーゼ増加
☆急性膵炎ほどではない
・血糖値の上昇および動揺
☆動揺=糖負荷試験の異常
・尿中PABAの出現
☆PABA:パラアミノ安息香酸

(6)合併症
・糖尿病
・胆道狭窄
…腫脹した膵臓の圧迫による
・十二指腸狭窄
…腫脹した膵臓の圧迫による
・膵潰瘍
…自己消化による
・膵癌
・肝障害
…胆汁うっ滞などによる
・精神症状

(7)治療
・食事療法
過食をさけ、低脂肪食にする
嗜好品をさける(煙草、酒、コーヒー)

■3)膵癌
(1)疫学
・男性に多い
・50~60歳代に好発
・悪性腫瘍の約2%を占める
・がんによる死亡の第4位
☆発見しにくい
・発生部位
頭部が3分の2
体部、尾部と続く
・組織学的には約8割が膵管癌(膵管上皮細胞のがん)
約1割が腺房細胞癌
膵島細胞がんもある

(2)症状
①初期
不定愁訴、または無症状のことが多い
②中期(初期を過ぎた後)
・腹痛
…食後や夜間に心窩部から左悸肋部に出現
持続的な痛み(ニーチェスとポジションをとることが多い)
・黄疸
…膵頭部がんでは高率に出現
閉塞性黄疸のため、肝腫大や胆嚢腫大が出現(=クールボアジェ徴候)
・その他
皮膚のかゆみ、灰白色便

(3)診断
・腫瘍マーカー
CAー19―9
CEA
POAなど
いずれも有意性は高くない

(4)治療
・早期発見が困難
・5年生存率
切除例:約10%
姑息手術:約1%
・対症療法が中心

===================
第4章 神経系疾患
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1.脳血管障害
・脳血管障害を一般に脳卒中という
(1)概念
脳の循環障害によって何らかの神経精神症状をていする病態
☆外傷によるものは含まない
(2)分類
(分類A)脳実質に変化あり
①脳梗塞
・脳血栓症
・脳塞栓症
②頭蓋内出血
・脳出血
・クモ膜下出血
③臨床的に脳出血や脳梗塞との鑑別が困難なもの
(分類B)脳実質に変化なし
①脳梗塞を伴わない一過性脳虚血
・反復性局所性脳虚血発作
・低血圧に伴う一過性脳虚血
②高血圧性脳症
③原因不明の発作

(3)疫学
①日本人の死因
・1951年以前
第1位:結核
・1951~1981年
第1位:脳卒中
・1982年以降
第1位:悪性腫瘍
☆降圧剤の開発によって、脳卒中の大半を占めていた脳出血が減少したことで脳卒中全体の数が減った。逆に脳梗塞は増えている

(4)危険因子
・高血圧
粥状硬化を起こし、脳梗塞や脳出血の原因となる
・糖尿病、高脂血症
脳梗塞を起こしやすい
・心臓弁膜症、心房細動
脳塞栓を起こしやすい
・ヘマトクリット値上昇、血液疾患
脳梗塞を起こしやすい

■1)脳梗塞
(1)概念
脳を潅流する血液が、減少ないし途絶し、その結果その潅流域の脳が代謝を維持しえず、壊死におちいった状態

1)脳血栓症
(1)概念
脳梗塞のうち、他部位より脳潅流血管に流入した異物によるもの以外の原因によるもの
(脳内にできた血栓による脳梗塞)
(2)病態生理
主たる原因としては、動脈硬化(粥状硬化=アテローム硬化が主)
その他としては動脈炎(SLE、大動脈炎症候群、梅毒など)、血液疾患(血小板減少性紫斑病、赤血球増多症、DIC)、経口避妊薬
☆DIC:播種性血管内血液凝固症候群
☆血小板減少性紫斑病:その他の血球の障害も出てくるので

(3)症状
潅流領域に一致した症状が出る
①血管枝の種類
・皮質枝:大脳表面
・穿通枝:大脳深部
②一般的特徴
・前駆症状
一過性脳虚血発作を認める
・安静時に発症しやすい
・局所神経症状の進展は緩徐
多くは数日程度で完成
・意識障害は発作時にはないこともあり、あっても比較的経度である
③潅流領域ごとの症状
ア.内頚動脈系血栓
一過性脳虚血発作により、片麻痺、一側の視力低下、失語症、失認症
a.中大脳動脈系血栓
・皮質枝
優位半球障害
…失語症、失算、失書など
劣位半球障害
…相貌失認、着衣失行、半側空間失認、半側身体失認、疾病否認など
・穿通枝
意識障害を伴わない片麻痺
・起始部の閉塞
昏睡を伴う片麻痺
…救命しえても、前記の皮質症状の出現、痴呆化
b.内頚動脈の閉塞
中大脳動脈計血栓の症状と似る
c.前大脳動脈の血栓
比較的少ない
・皮質枝
下肢の運動麻痺と知覚障害(片麻痺が多い)
・穿通枝
顔面下半部、上肢近位部の麻痺
・起始部
皮質枝、穿通枝の症状に加えて、前頭葉症状が現れる
★前頭葉症状:自発性低下など
d.後大脳動脈
・皮質枝
同名半盲、同名4分の1半盲
純粋失読、視覚失認
☆純粋失読:形そのものが離開できないような状態
・視床膝状体動脈(あまり重要でない)
半身感覚鈍麻、視床痛
不全片麻痺
運動失調、不随意運動出現
・視床穿通枝(あまり重要でない)
動眼神経麻痺、小脳失調、不随意運動
半身深部感覚障害
☆小脳失調:酔客歩行、企図振戦など

イ.脳底動脈系閉塞の症状
a.主幹部
回転性めまい
悪心嘔吐、昏睡
四肢麻痺、球麻痺、除脳固縮
★球麻痺:延髄から起始する神経の領域が麻痺する
縮瞳、瞳孔不同、斜偏視、共同偏視、発熱
b.分枝
交代性片麻痺
MLF症候群(一眼半水平注視麻痺症候群)
小脳失調、感覚障害、回転性めまい
ウェーバー症候群(動眼神経麻痺と反対側の片麻痺)
ミャールギュブレル症候群(顔面神経麻痺と反対側の片麻痺)
フォビーユ症候群(病巣側の注視麻痺と反対側の片麻痺)

ウ.椎骨動脈の閉塞
ワレンベルグ症候群(外側延髄症候群)
…回転性めまい、悪心嘔吐、嚥下困難、嗄声、病巣側の小脳失調症状、病巣側の顔面温度覚障害、軟口蓋麻痺、ホルネル徴候、味覚障害
頚部以下の半身の温度覚障害
★ホルネル徴候:頚部交感神経の傷害による眼瞼裂狭小、縮瞳、眼球後退

④ラクナ梗塞
・ラクナとは
直径0.5~15mmの小梗塞であり、基底枝を中心とした穿通枝領域に多発する
ア.ラクナ発作
・純粋運動性麻痺
片麻痺のみが出現
病巣:内包、橋底部
・純粋感覚性発作
半身の感覚障害
病巣:視床、大脳皮質感覚野
・失調性不全片麻痺
同側の小脳性運動失調と軽度の麻痺(不全麻痺)
病巣:内包、橋底部
・ダイサースリア・クラムシー・ハンド・シンドローム(重要でない)
dysarthria clumsy hand シンドローム
構音障害と反対側の手が不器用となる
病巣:橋底部

2)脳塞栓
(1)概念
脳潅流血管内に流入した異物により、血流が著しく減少ないし途絶した結果による脳梗塞
(2)原因
心臓由来の血栓が栓子となることが多い
頚部の動脈、大動脈弓の壁在血栓の剥離したものが栓子となることもある
ア.原因疾患
僧帽弁狭窄症、心房細動
心筋梗塞、心内膜炎
弁置換術後など

(3)症状
・出現する症状は、基本的に脳血栓症と同じ
★血栓との違い
・皮質領域に起こりやすい
・出血性梗塞を起こしやすい
☆つまった血管が破裂したり膨張したりして出血あるいは血液が染み出す
・急性に発症(数分以内に完成)

■2)頭蓋内出血
1)脳出血
(1)概念
脳実質での出血をいう
(2)原因
・高血圧性脳出血が最も多い
・脳内の動脈瘤
・血管腫
・動静脈奇形
☆もやもや病など
・出血性素因
白血病
・アミロイドアンジオパチー(非外傷性頭蓋内出血)
☆原因不明のもの
(3)好発部位
・被殻付近が最も多い
☆約70%
被殻付近での出血を外側型という
レンズ核線条体動脈の出血が多い
☆脳出血動脈とも呼ばれる、中大脳動脈の穿通枝
・視床での出血が次いで多い
視床での出血を内側型という
・小脳、橋と続く

(4)症状
①外側型出血
・主な症状
片麻痺、半身知覚障害、失語、半盲など
・眼症状
共同偏視(病巣をにらむ)
☆生命の予後は比較的良い。脳室出血を起こす3割は、予後不良
②内側型出血
・主な症状
片麻痺、半身の知覚障害
外側型より顕著な意識障害
・眼症状
下方または下内方偏位
上方注視麻痺(上を向けない)
瞳孔不同症
対光反射の消失
☆外側型よりも予後不良
③小脳出血
・主な症状
麻痺はないが、起立あるいは歩行不能となる
めまい、激しい後頭部痛、嘔吐、高血圧、ときに顔面神経麻痺
・眼症状
共同偏視(健側をにらむ)
病側への注視麻痺
ホルネル徴候
☆予後は比較的悪い
④橋出血
・主な症状
四肢麻痺
病的反射の出現
筋トーヌス低下
初期から意識障害が顕著
高体温、循環障害
呼吸障害
・眼症状
顕著な縮瞳
眼球は正中位
☆予後は非常に和売り

2)クモ膜下出血
(1)概念
広義にはくも膜下腔に出血するもの全般をいう
狭義には外傷性などは含めない
(2)原因
・嚢状動脈瘤の破綻が最も多い(半数以上)
★嚢状動脈瘤の好発部位
前交通動脈
中大脳動脈の第一分岐部
内頚動脈と後交通動脈の分岐部
・動脈硬化性動脈瘤の破綻
☆高血圧の人など
・動静脈の奇形など

(3)症状
・典型例
突然に起こる激しい頭痛
意識障害
・その他の症状
急死することもある
髄膜刺激症状(項部強直、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候)
☆ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候とは
大腿後側に痛みが出ることで、股関節や膝関節を屈曲してしまうもの
ケルニッヒは下腿を持ち上げることで、ブルジンスキーは頚部を屈曲させることで現れる
脳神経障害(動静脈奇形の場合に出ることがある)
片麻痺(嚢状動脈瘤の場合に出ることもある)

■3)脳血管障害の鑑別
頭蓋内出血 脳梗塞
脳出血 クモ膜 脳血栓症 脳塞栓
発作の始まり 急激 急激 緩徐 急激
発症し易い時期 昼間、運動時 特になし 夜間、睡眠時 特になし
前駆症状 高血圧 特になし TIA 心疾患
意識障害 深く長い 出現(大小あり) 緩徐 深いが短い
頭痛 激しい 激烈 なし なし
嘔吐 有り 有り なし なし
病巣症状 片麻痺 巣症状なし 潅流域に一致 片麻痺出現
その進行 数分~数時間で完成 片麻痺徐々に増 完成数秒~数分
完成に数時間~数日
項部強直 置く出現 著しい 少ない 少ない
好発年齢 50~60歳 30~40歳 60歳以後 特になし(若年)
高血圧と 著名な高血圧 特に関係なし 関係あり 特になし
その他の疾患 脳出血より少 心臓疾患と関係
★TIA:一過性脳虚血発作

(1)重傷度の判定
・意識障害
強いほど予後不良
・麻痺
片麻痺より四肢麻痺の方が予後不良
・眼球頭囲反射
消失していると予後不良
☆姿勢反射の中枢は中脳、よって脳幹が損傷を受けていることの証となる
・呼吸不全
呼吸不全出現は予後不良
☆脳幹の障害によるので
・体温
異常体温は予後不良
・嘔吐
頻回の嘔吐は予後不良
・血圧
血圧低下は予後不良

■4)一過性脳虚血発作(TIA)
(1)概念
脳の虚血によって一過性に神経症状を呈するもの
☆繰り返し起こすことが多い
☆低血圧によるものは含まれない
(2)原因
・内頚動脈系のTIA
大多数は微小梗塞による
☆微小梗塞の原因はアテローム硬化
脳梗塞への移行率は3、4年以内で30%
・椎骨動脈系のTIA
頚椎による椎骨動脈の圧迫が多い
(3)症状
・発作は多くは数分から1時間以内でおさまる
・発作は24時間以内であることを基準とする
・発作回数は、一日数回から数年に一度のこともある
①内頚動脈系の症状
・症状は身体の半側に出現
運動麻痺:不全麻痺または片麻痺
感覚障害:両下肢、1眼の視力障害
失語
・発作回数は少ない
発作ごとの症状は概ね同じ
・脳梗塞を起こしやすい
①椎骨動脈系のTIA
・症状出現部位は多様
☆半側、両側いずれでも出現しうる
・出現する症状
運動障害
感覚障害
同名半盲
平衡障害
嚥下困難
構音障害など
・発作後とに症状は変動し、発作回数が多い
・脳梗塞を起こすことは比較的少ない

■5)高血圧性脳症
(1)概念
著しい高血圧に伴って見られる急性の脳症で、血圧を下げることにより症状が消失するもの
・血圧の基準
最高血圧:200mlHg以上
最低血圧:120mlHg以上
…これを悪性高血圧という
(2)症状
頭痛、悪心嘔吐、視力障害、意識障害など
血圧を下げることで消失

■6)脳血管障害のまとめ
(1)検査
①髄液検査
・クモ膜下出血
血性
・脳出血
約8割が血性ないしキサントクロミーを認める
★キサントクロミー:髄液が黄色を呈すること(古い出血を意味する、かつて破壊された赤血球のビリルビン)
②X線、CT
・出血や梗塞の鑑別診断、部位診断などに有効
③MRI
④脳血管造影、MRアンジオグラフィー
☆MRアンジオグラフィー:磁気共鳴血管造影法
閉塞動脈の部位、血腫、血管偏位、動脈瘤、動静脈奇形の部位や大きさの診断に有効
⑤その他
単純頭蓋X線
脳波、超音波エコー
SPECT(血流状態を見る検査)

(2)脳血管障害の経過と予後
・脳出血
発作後1週間以内の死亡率が約50%
脳幹出血、脳室内出血、脳ヘルニアのあるものほど予後不良
・クモ膜下出血
再発することが多い
初回発作での死亡率は10~15%
再発時での死亡率は40~50%
再発発作は2週間以内で起こることが多い
☆動脈瘤による出血の人は再発することが多い
・脳梗塞
発作後一週間以内の死亡率は約15%
昏睡患者の死亡率は約90%
☆半昏睡の場合も死亡率は高い
★脳血管障害の後遺症回復の特徴
2週間以内の症状改善が顕著で、3ヶ月以内なら改善は見られる
☆上肢では4ヶ月以降、下肢では6ヶ月移行の改善はほとんどない

(3)脳血管障害の治療
発作直後における治療よりも、危険因子の除去に力を注ぐべき
・発作後の治療として、急性期の一般的看護と処置
・薬物療法と外科療法などの特異的療法(それぞれの症状にあわせた治療)
①疾患ごとの治療
・脳出血の治療
脳浮腫治療
高血圧コントロール
止血治療
脳代謝の賦活
・クモ膜下出血の治療
外科手術
・脳梗塞
脳浮腫治療
血栓溶解薬
・TIAの治療
抗血小板薬
抗凝固薬
・高血圧性脳症の治療
降圧剤
②リハビリテーション
発作初期より開始する
下肢は独立歩行を目指す

2.感染症
■1)髄膜炎
(1)概念
一般に脳・脊髄の軟膜炎やくも膜炎などをいう

①分類
・感染性髄膜炎
細菌性髄膜炎
化膿性髄膜炎
結核性髄膜炎
真菌性髄膜炎
スピロヘータ性髄膜炎
リケッチア性髄膜炎
ウィルス性髄膜炎
☆コクサッキーウィルス、エコーウィルス、ムンプスウィルス、ヘルペスウィルスなど
・非感染性髄膜炎
無菌性髄膜反応
機械的、化学的刺激による髄膜炎
癌性髄膜炎
ベーチェット病性髄膜炎
サルコイドーシス性髄膜炎

(2)疫学
・細菌性のもの
髄膜炎菌
肺炎双球菌
インフルエンザ杆菌
ブドウ球菌、連鎖状球菌
・ウィルス性のもの
エンテロウィルス(コクサッキーウィルスやエコーウィルス)
ムンプスウィルス
ヘルペスウィルス
麻疹ウィルス
髄膜炎ウィルス
・真菌性のもの
クリプトコッカス
カンジダ
アスペルギルス
(3)感染経路
・血行性
…結核などでみられる
・近接部からの波及
…中耳炎、副鼻腔炎、頭蓋骨の骨髄炎などでみられる
・顔面の血栓性静脈炎などからの逆向性の波及
☆静脈がうっ帯することで髄膜炎になる。比較的少ない
・腰椎穿刺などによる髄液性の感染

(4)病態生理
軟膜の血管拡張、充血、脳浮腫
回復につれて、癒着性くも膜炎を起こし、脳内水腫をていすることもある

(5)症状
①急性化膿性髄膜炎
☆ブドウ球菌など
発熱、頭痛、髄膜刺激症状
意識障害…脳実質面への炎症の波及が疑われる
脳神経の障害
痙攣 ☆髄膜静脈血栓に伴う
片麻痺
失語症
②結核性髄膜炎
慢性髄膜炎の代表的なもの
☆亜急性髄膜炎ということもある
症状は比較的緩徐に出現
・初期症状
微熱、食欲低下
嘔吐、頭痛
周囲への無関心、譫妄なども
数週間ほど続く
・その後の症状
髄膜刺激症状
瞳孔の異常(不同、反射異常など)
脳神経の障害(動眼、外転神経の障害が多い)
☆脳底部に炎症が及んだ場合に起こる
痙攣、片麻痺

③真菌性髄膜炎
慢性に経過
結核性髄膜炎とほぼ同じ
④癌性髄膜炎
肺癌、乳巌、胃がんからの転移が多い
頑固な頭痛、嘔吐
脳神経の麻痺、髄膜刺激症状

(6)検査所見
髄液圧の上昇、脳脊髄液中の蛋白質増加
白血球数の増加(細胞増加ともいう)
…概ねリンパ球が増加
急性化膿性髄膜炎では多核白血球が著名に増加

(7)合併症
・髄膜炎菌による髄膜炎の場合
ウォーターハウス・フリードリクセン症候群
…髄膜炎菌による敗血症を起こし
副腎出血、紫斑、昏睡
ショック死することもある

(8)経過と予後
抗生物質の発達により、死亡率が著しく低下した

(9)治療
一般的療法としては
安静、呼吸管理、水分や栄養の補給、悪物など
☆呼吸管理:酸素マスクをつけるなど
☆薬物には抗生物質、脳浮腫などへの対照薬など

■2)日本脳炎
(1)概念
日本脳炎ウィルスによって起こる急性脳炎
コガタアカイエ蚊によりウィルスが媒介される
(2)症状
・潜伏期(7日程度)
・前駆期
頭痛、倦怠、食欲低下、悪心など
・中期
急激な発熱、頭痛、悪心嘔吐
昏睡におちいる
・極期
髄膜刺激症状
さらに進むと筋固縮、振顫、錐体外路症状
・転帰
死に至るまたは回復しても後遺症が残る

(3)後遺症
性格変化、知能低下、錐体外路症状

(4)恵果と予後
・発熱度と予後には関連性がある
40度以上は予後不良
41度以上では死亡することが多い
・致死率
30~50%

■3)ポリオ
・ポリオの
急性灰白髄炎、脊髄性小児麻痺とも呼ばれる
(1)概念
・ポリオウィルスによる急性感染症
・主にどこを侵すか
脊髄前角細胞
脳幹の運動神経細胞
・その支配筋の弛緩性麻痺を起こすこともある
主な感染経路
経口感染

(2)症状
不全型、非麻痺型、麻痺型
・不全型
感染しても発熱、頭痛、咽頭痛だけで終わる
☆9割りがこのタイプ
・非麻痺型
筋肉痛、髄膜炎、症状
・麻痺型
発熱、筋肉痛、髄膜炎症状
下肢の弛緩性麻痺が多く、非対称性

(3)検査所見
・髄液検査
初期は白血球と蛋白が増加
その後一時的に減少
再び増加

(4)経過と予後
・麻痺型の致死率10%程度
・麻痺型の回復は、2~3ヶ月までは良好(よく回復する)
二年以上たつと症状は固定(後遺症となる)

(5)治療
・発症後は一般対症療法のみ
・生ワクチンによる予防が重要

3.脳、脊髄腫瘍
■1)脳腫瘍
(1)概要
脳膜または脳組織、下垂体、松果体などに由来し、頭蓋内にできる原発性の良性ないし悪性新生物及び、頭蓋内に転移した悪性新生物
(2)疫学
①小児期に多い腫瘍
小脳髄芽腫
…グリア組織由来
小脳星細胞腫
グラニオファリンジオーム(下垂体管腫)
…先天性腫瘍
松果体腫
②成人に多い腫瘍
大脳半球の髄膜腫
下垂体腫瘍
神経膠芽腫
聴神経腫(多形膠芽腫)
転移性腫瘍
(3)分類
①脳ならびに関連組織の腫瘍
・神経膠腫(グリオーマ)…最も多い
星状細胞腫
乏突起膠腫
神経膠芽腫
・髄膜由来のもの
・下垂体由来の腫瘍…1割程度
☆その他として、神経細胞由来、神経上皮由来のもの、脳血管由来、松果体由来などもある
②その他の頭蓋内腫瘍
・転移性腫瘍
・先天性腫瘍
・肉芽腫
・脊索腫など

(4)症状
①全般症状
・脳腫瘍(脳圧亢進)の3大徴候
嘔吐、頭痛、うっ血乳頭
・頭痛
頭蓋内圧上昇によって起こる
早朝に起こりやすい
非拍動性
頭位変換などにより増強
・嘔吐
小児の後頭蓋窩の腫瘍で特によく見られる
☆後頭蓋窩腫瘍=小脳の腫瘍
早朝に多くみられる
悪心を伴わない
・うっ血乳頭
後頭蓋窩の正中部の腫瘍で起こりやすい
大脳半球や下垂体部の腫瘍では起こりにくい
・その他の脳圧亢進症状
めまい、痙攣、精神症状
★脳圧亢進の機序
腫瘍が大きくなると内圧が高くなる
腫瘍周囲に生じる脳浮腫
腫瘍発生に伴う髄液循環障害
②局所症状
★片麻痺や四肢麻痺、失語症、失認などはどこの腫瘍でも起こりうる
ア.下垂体腫瘍の症状
ホルモン過剰症候群の出現
・成長ホルモン産生腺腫(好酸性腺腫)
…巨人症、末端肥大症
・ACTH産生腺腫(好塩基性腺腫)
…クッシング病など
・プロラクチン産生腺腫(嫌色素性腺腫)
☆男性化が多少遅れる程度
イ.松果体腫瘍の症状
☆松果体の役割:体内時計、ゴナドトロピン放出を遅らせる
・パリノー徴候の出現
上方注視麻痺
☆四丘体、中脳水道の圧迫などでも出現する
ウ.神経鞘腫
シュワン細胞から発生する良性の腫瘍
小児には少ない
・代表的なものは聴神経腫、
そのほかに小脳橋角部の腫瘍、三叉神経主もある
エ.先天性腫瘍の症状
最も多いのはグラニオファリンジオーム(頭蓋咽頭腫)
☆下垂体は咽頭粘膜より発生
☆トルコ鞍上部に好発

・グラニオファリンジオームの症状
下垂体や視床下部の圧迫により、内分泌不全
視交差部の圧迫による視野狭窄や視力障害
第3脳室の圧迫による脳圧亢進症状
オ.血管性腫瘍の症状
・血管腫
毛細血管から発生することが多い
大脳半球にある血管から起こることが多い
・血管芽腫
管芽細胞の増殖により発声
小脳や網膜に多く発生
ヒッペルリンダウ氏病などがある
…網膜血管腫に小脳の血管芽腫を伴ったもの
カ.転移性脳腫瘍の症状
原発巣は肺がん、乳がん、胃腸がん、子宮がん、癌が多い
病巣が多発性であることが多い
☆脳のあちこちに腫瘍ができる

(5)検査所見
単純頭蓋X線検査
脳血管造影
X線CT、脳波など

(6)診断
脳血管障害よりも経過がが緩徐
退行性疾患(アルツハイマ、地方など)よりも早い経過をとる
中年以後に初発するてんかん、比較的急性に進行する痴呆は、脳腫瘍の疑いがある

■2)脊髄腫瘍
(1)概念
脊髄自体のほか、脊髄髄膜、血管、脊椎に由来する悪性ないし良性の新生物、
ならびに多臓器の悪性新生物の脊髄転移
発生頻度は低い(脳腫瘍の5分の1程度)

(2)分類
①硬膜内腫瘍
脊髄実質、に由来するもの
予後不良
・髄内腫瘍、髄外腫瘍に分けられる
②硬膜外腫瘍

(3)症状
①髄外腫瘍
脊髄圧迫症状に先行して神経根の刺激症状が現れる
・神経根圧迫症状:分節に一致した痛み、感覚障害、運動障害
・神経圧迫症状:下肢より上行することが多い
痙攣症状、感覚障害、膀胱直腸障害
②髄内腫瘍
・頚髄に病変がある場合
上肢、ついで下肢に運動障害が現れる
・胸髄の病変がある場合
一側の下肢、ついで対側の下肢の痙性麻痺が現れる
・知覚障害はしばしば解離性を呈する
☆温度覚痛覚が消失して触圧覚が残っている状態
・その他
ブラウン・セカール症候群、膀胱直腸障害の出現をみることもある

(4)検査
①髄液検査
・クェッケンシュテット症候の陽性
…正常では腰椎穿刺の際、両側頚部を平手でで圧迫すると、髄液が50mm/秒以上上昇する。脊髄管区が閉塞しているときは、髄液の変動が病巣以下に及ばず、液圧の上昇が起こらない。この状態をクェッケンシュテット症候陽性とする
・キサントクロミー
・髄液膠様凝固
・蛋白細胞解離
②その他
X線検査、MRIなど

■3)パーキンソン症候群(パーキンソニズム)
(1)概念
パーキンソン病に類似した症状を呈する疾患をいう
①パーキンソン症候群を引き起こす疾患
・パーキンソン病(振戦麻痺)
・脳炎後パーキンソニズム
・中毒性パーキンソニズム
・脳血管障害性パーキンソニズム
・連合性パーキンソニズム

1)パーキンソン病
(1)概念
筋固縮、運動低下症(寡動)、姿勢反応障害などを主徴とする退行性疾患である
(2)疫学
1万人に5人程度程度発症
やや男性に多い
50~65歳に発症することが多い

(3)病理
主病変は黒質のメラニン含有細胞の減少
★メラニン含有細胞はドパミン代謝に関与

(4)症状
・筋固縮(歯車様固縮、鉛管現象)
★他動的に運動させると常に負荷がかかる
上下肢や頚部の筋を中心に出現
・振せん
静止振せん
上肢に著名に出現
精神緊張で増悪、睡眠中は消失
丸薬丸め運動
・運動低下症(寡動)
動作が緩慢で運動の始動が困難となる
すくみ足:歩行の際、最初の踏み出しが困難となる
歩行は前方突進歩行と呼ばれる
☆前傾姿勢なので加速がついてしまう
すくみ手(小字症):字を書いているうちにだんだん小さな文字になっていくこと
すくみ言語:声が低くなり、話し方に抑揚が少なくなる
・仮面様顔貌
表情が乏しくなり、瞬きが少なくなる
マイアーソン徴候が出現
…眉間を叩くと正常人以上にすばやい瞬きを繰り返す徴候
・姿勢反応異常
前傾前屈した姿勢をとる
・自律神経症状
便秘、あぶら顔
起立性低血圧、発汗過多
唾液分泌亢進
☆唾液は粘度が高そう

(5)検査所見
・特有な検査はない
☆主に症状によって診断する。血液検査などでは分かりにくい

(6)経過と予後
・慢性に進行する
・5年以内に約4分の1が強い傷害を起こす
・10年以内に約3分の2が強い傷害を起こす
・寝たきりになった後の感染症などで死の転帰をとることもある

(7)治療
①薬物治療
・L-ドーパ
…ドーパミンの前駆物質
☆普通のドパミンでは血液脳関門を通過しない
・塩酸アマンタジン
☆パーキンソン病用の薬。ドパミン分泌を促進する
・抗コリン薬
・L-ドプス
☆ノルアドレナリンの前駆物質

2)パーキンソニズム
(1)脳炎後パーキンソニズム
エコノモ脳炎後が最も多い
☆日本脳炎なども含まれる
(2)中毒性パーキンソニズム
マンガン、鉄、塩素、一酸化炭素による中毒
薬物としてはレセルピン(降圧剤)など
(3)脳血管障害性パーキンソニズム
大脳基底核のラクナの多発

4.痴呆性疾患
・痴呆とは
発育家庭で獲得した知能、記憶、判断力、理解力、抽象能力、言語などの種々の精神機能が脳の器質的障害によって損なわれ、そのことによって独立した日常生活や社会生活、円滑な人間関係を営めなくなった状態
・原因疾患
老年期にみられる脳血管性痴呆
アルツハイマー病
ピック病、
ハンチントン舞踏病
パーキンソン病
癲癇,頭部外傷
脳腫瘍
アルコール中毒
正常圧水頭症など。

■1)アルツハイマー病
(1)概念
主に老年期に発生し、高度の痴呆と人格の崩壊を主徴とする疾患である。
(2)発生時期による分類
40歳未満で発症した場合、若年性アルツハイマー病という。
40~64歳で発症した場合、アルツハイマー病という。
65歳以上で発症した場合、アルツハイマー型老年性痴呆という。
(3)疫学
・65歳以上の5%の人は痴呆を呈しており、その3分の1はアルツハイマー病と考えられている。
(4)病理
・脳萎縮、アルツハイマー神経束線維変化、老人斑が著名に出現する。
①脳萎縮
・前頭葉、側頭葉、頭頂葉に萎縮が起こる。
・海馬の萎縮が顕著
②アルツハイマー神経束線維変化
・脳内に太い線維構造物が出現する。
③老人斑の出現
・大脳皮質にアミロイド蛋白が沈着し、さらにニューロン変性物などが集まり、
球塊となった構造物が出現する。
④その他
・脳室の拡大、マイネルト核の脱落(アセチルコリン系の障害)など。
※家族性アルツハイマー病(FAD)
・第19番染色体に存在するアポリポ蛋白Eのε4アリルが
 危険因子といわれている。

(5)症状
①第Ⅰ期
発症後1~3年程度
記銘力の低下(物忘れ)
日時や場所の見当識障害
②第Ⅱ期
発症から2~10年程度
空間的失見当の出現
日常生活(食事。掃除など)に支障が出てくる
無意味な常同的行為が出てくる
意味のない収集行為
徘徊
計算障害、失行、失認、失語
③第Ⅲ期
感情の鈍麻
人格の崩壊
臥床生活に入る
麻痺で多いのは下肢の屈曲対麻痺
尿失禁、原始反射の出現
合併症(肺炎等)により死の転帰をとることが多い

(6)検査所見
特徴的な検査所見はない
脳波は全般的に徐波をていする
X線CTでは、大脳皮質全般の萎縮、脳室の拡大がみられる

(7)治療
特になし

■2)ピック病
(1)概念
初老期に発症する慢性進行性の痴呆で、大脳皮質の限局性(葉性)萎縮を特徴とする疾患
☆アルツハイマーに比べてまれ。100分の1程度
(2)病理
前頭葉や側頭葉の萎縮が多い
神経細胞の脱落
ピック細胞(細胞が浮腫状に膨らんだもの)
ピック球(嗜銀性封入体)
☆銀に反応するもので、細胞内に現れる小体
(3)症状
アルツハイマー病に似る
自発性の欠如、無関心がアルツハイマー病よりも顕著
自制心の欠如、恥知らずな行動の出現
☆記憶障害は軽度、アルツハイマーに見られる老人斑、神経元線維変化などは見られない

■3)脳血管性痴呆
(1)概念
1)多発梗塞性痴呆
脳に小梗塞が多発するために起こる痴呆
(2)症状
記銘力の低下、判断力は比較的保たれる
まだら痴呆
症状が動揺する(良くなったり悪くなったり)
仮性球麻痺
小刻み歩行
深部反射の亢進
不全片麻痺
強迫泣、強迫笑
などの出現

2)ビンスワンガー病
脳動脈硬化症による大脳白質の広汎な障害によって起こる慢性進行性の痴呆
(1)症状
片麻痺、失語症
構音障害、歩行障害
☆内包で出血ではなく動脈硬化による栄養障害が起こる

3)正常圧水頭症
(1)概念
痴呆、歩行障害、尿失禁を3主症状とし、髄液圧が正常で大脳皮質の萎縮はないが脳室が拡大している
・シャント短絡手術により改善することが多い

■4)その他の痴呆
・痴呆をていする疾患
クロイツフェルトヤコブ病
エイズ
甲状腺機能低下症(クレチン病)
慢性硬膜下血腫
アジソン病(副腎皮質ホルモン分泌低下)
ペラグラ
ビタミンB12不足
進行性麻痺(神経梅毒)
アルコール中毒

5.運動ニューロン疾患
上位および下位運動ニューロンのいずれか、あるいは両者に変性がありしかもこの部位以外には変性が見られない退行性疾患である
■1)筋萎縮性側索硬化症
(1)概念
略称ALS
上位及び下位運動ニューロンを侵し、20~60歳の間に徐々に発症し、四肢の遠位性の筋萎縮と筋力低下を起こし、ついには球麻痺のため多くは12~13年の経過で死の転帰をとる
(2)病理
錐体路、前角細胞、脳幹下部の運動神経細胞に変性がみられる
大脳皮質のベッツ細胞の変性も
☆中心前回に多い
残存運動ニューロンに好酸性封入体出現
(3)症状
・上肢の障害
一側上肢に初発することが多い
小手筋群の萎縮や筋力低下が目立つ
猿手や鷲手が出現
・下肢の障害
上位ニューロンの異常では痙性麻痺出現
下位ニューロンの異常では弛緩性麻痺が出現
・感覚障害が見られることもある
・深部反射の亢進、病的反射出現
・球麻痺の出現(7割程度)
☆球麻痺:延髄から出る運動神経核の障害
暝想、舌咽、舌下神経の核・核下性の麻痺
嚥下、咀嚼、構語障害

■2)脊髄性進行性筋萎縮症(あまり重要でない)
(1)概念
略称APMA
下位運動ニューロンのみに変性が見られる疾患で、ALSの一亜型として考えられる
(2)症状
ALSに似る
小手筋群の萎縮から始まり、下肢に及ぶ
(弛緩性麻痺、深部反射減弱)
(3)予後
中には予後良好のものもある

■3)球脊髄性筋萎縮症
・概念
SPMAの下位ニューロン変性が、下部脳幹の運動神経のみに限局したもの
・症状
球麻痺
女性化乳房、性腺機能不全、睾丸萎縮の出現も見ることも

6.脊髄小脳変性症
(1)概念
小脳皮質、小脳脚、脊髄後索、脊髄小脳路などの変性によって運動失調を主症状とする神経症状をていする変性疾患
・上小脳脚:小脳から中脳
・中小脳脚:大脳皮質の情報を橋を経て小脳へ
・下小脳脚:脊髄、延髄から小脳に

■1)孤発性オリーブ橋小脳萎縮症(最も代表的)
(1)概念
小脳、橋、オリーブ核に変性をきたす疾患
その他黒質、線条体、錐体路などにも変性をきたすことがある
(2)症状
失調歩行、四肢の協調運動障害、断綴言語
(←つまり小脳症状)
筋固縮、寡黙
(←錐体外路症状)
排尿障害、起立性低血圧
(←自律神経症状)
時には深部反射の亢進
(←錐体路症状)
(3)合併症
オリーブ小脳橋萎縮症と シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質萎縮症を併せ持つようなものを、多系統萎縮症と呼ぶ

■2)孤発製小脳皮質萎縮症(孤発製皮質性小脳萎縮症)
(1)概念
小脳皮質とオリーブ核の変性を主症状とする
(2)症状
小脳症状に限定することが多い

■3)マカド・ジョセフ病
常染色体性優性遺伝病
小脳症状、錐体外路症状、錐体路症状、脳神経症状、筋萎縮などが見られる
コリエー徴候の出現
…びっくり眼(開眼時に眼瞼が後退して眼球が突出した位置をとる)

■4)フリードライヒ失調症
(1)概念
常染色体劣勢遺伝性失調症
脊髄後索、脊髄小脳路の変性を主病変とし、臨床的には運動失調症、腱反射低下、深部知覚障害を主症状とする
発症年齢は平均で13歳
(2)症状
失調歩行が初発症状となることが多い
数年後に上肢や体幹の運動失調が出現
フリードライヒ足の出現
…内側縦足弓の増加(凹足)
脊中の後弯、側弯
心異常、自律神経症状、視神経萎縮
・20年程度で死の転帰をとることが多い

■5)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮(重要でない)
☆ルイ体(ルイス体):大脳基底核の一つ
常染色体性優性遺伝病
小脳失調症、性格変化、ミオクローヌス(不随意運動の一種)、てんかんなど
■6)遺伝性痙性対麻痺(重要でない)
遺伝性疾患(さまざまなパターンがある)
大脳皮質、脳幹、脊髄が傷害される
α系あるいはγ系の異常亢進
深部反射の亢進、病的反射(バビンスキー)の出現、膀胱直腸障害、筋トーヌス亢進など

7.筋疾患
■1)進行性筋ジストロフィー症
(1)概念
筋線維の変性、壊死を主病変とし、進行性の筋力低下をきたす遺伝性の筋疾患である

1)ヂュセンヌ型(ドゥシャンヌ型)筋ジストロフィー
(1)概念
・伴性劣性遺伝
・2~6際で発症
・筋力低下と筋萎縮が腰帯筋、ついで上肢帯筋に出現
(1)症状
登はん性起立(ガワーズ徴候またはゴワーズ徴候)
…腹臥位から規律するときに手で自分の体をよじのぼるようにして立ち上がること
鵞鳥歩行(動揺性歩行)
…両下肢を開き上半身が左右にゆれ腹を突き出して歩く
弛緩肩
…大胸筋や肩甲部の筋の萎縮により出現
腰椎の前腕、ついで側弯
仮性肥大
…ほぼ必ず出現
好発部位は下腿三頭筋。三角筋にも出ることがる
内反尖足
…アキレス腱の短縮による
関節の拘縮
・発病後10年程度で歩行不能となり、20歳前後で呼吸不全などにより死の転帰をとる
(2)検査
CK(クレアチンキナーゼ)、アルドナーゼ、GOT、GPTの著名な増加
心電図異常も高率に出現
ジストロフィン遺伝子検査の異常
(3)治療
対症療法のみ
副腎皮質ステロイドホルモン投与の効果報告もある

2)ベッカー型筋ジストロフィー
・5から25歳程度で発症
・ヂュセンヌ型より進行が遅く、心筋障害、関節拘縮の出現はないことが多い
・寿命もほぼ正常である

3)エメリードレフェス型筋ジストロフィー
比較的緩徐に進行する筋力低下、早期から出現する関節拘縮
☆肘関節や足関節に出現しやすい
心筋の伝導障害
☆思春期から20歳にかけてペースメーカーが必要となることが多い

4)肢体型筋キンジストロフィー
☆常染色体劣性遺伝
男女ともに出現
発症は10代から20代
下腿の偽性肥大、動揺性歩行、関節拘縮
発症後20年程度で高度の機能傷害をていする

5)顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
男女ともに出現
発症は5~20歳程度が多い
ミオパチー願望(仮面様顔貌)、翼状肩甲の出現
☆筋萎縮により健康骨内縁が後方に突出する

6)眼咽頭型筋ジストロフィー
外眼筋麻痺、咽頭筋の麻痺、咽頭筋麻痺による嚥下障害

7)福山型先天性筋ジストロフィー
発症はほとんど日本人
出生時から発症している
独立歩行不能、著名な精神発達遅滞
顔面の萎縮が著名
10歳程度で死の転帰をとることが多い

8)筋緊張性ジストロフィー症(スタイナート病)
筋緊張症状(ミオトニア)と共に、進行性の筋萎縮、白内障、額の禿げ上がり、睾丸萎縮、無月経などの内分泌障害を伴う、常染色体性優生、劣勢遺伝病
発症年齢は10~20歳
動作緩慢、白鳥の首、
親から子に遺伝するにつれ症状が十度化していく
グリップミオトニア(手を握ると急には開けない)、パーカッションミオトニア(母指球を叩打すると母指が内転してなかなかもとに戻らない)
西洋おの顔貌

■2)重症筋無力症
(1)概念
・神経筋接合部におけるアセチルコリンの伝達障害による筋の易疲労性を特徴とする疾患
・男女の発症頻度の比率1:2
・終板のアセチルコリン受容体の減少と血液中にアセチルコリン受容体に対する抗体が存在する
☆終板:骨格筋側の受容器官
自己免疫疾患である
胸線の異常がみられる
(2)症状
①筋の易疲労
眼瞼挙筋、外眼筋、咽頭筋、四肢の近位筋
→眼瞼下垂、複視、構音障害、嚥下障害、上肢の挙上困難、歩行困難
上記症状は朝方よりも夕方に著名となる
・症状の進行により呼吸筋の障害が出現し、呼吸困難となる
②クリーゼ
症状が休息に増悪して呼吸困難におちいるもの
(死因の第一位)
(3)病型の分類
・Ⅰ型(眼筋型)
外眼筋のみがおかされるもの
・Ⅱ型(全身型)
全身の筋がおかされるもの
予後は比較的良い
・Ⅲ型(急性劇症型)
全身性に急激に発症し、呼吸困難により死亡する
・Ⅳ型(慢性重症型)
Ⅰ型、Ⅱ型で発症し、二年以上系かしてから増悪するもの
予後不良
・Ⅴ型(筋萎縮型)
Ⅱ型で発症し、6ヶ月以内に著名な筋萎縮を示すもの
(4)検査所見
・筋電図
減衰現象の出現
☆使うにつれて波型が小さくなる
・CKは正常値
☆筋ジスでは低下するけども
(5)治療
対症療法

■3)周期性四肢麻痺
(1)概念
四肢筋に弛緩性麻痺発作が起こり、数時間、長くても数日以内に自然寛解するもの
(2)原因
・家族性(重要でない)
・甲状腺機能亢進症
・アルドステロン症
・尿細管アシドーシス
・パーター症候群
…血清レニン活性上昇
アンギオテンシンに対する昇圧反応低下
アルドステロン分泌過常
正常血圧で浮腫もでない
などを示す原因不明の疾患
(2)症状
夜間から早朝にかけて起こりやすい
低カリウム血症をていする

8.末梢神経障害
■1)ギランバレー症候群(急性炎症性脱髄性多発性根ニューロパチー)
(1)原因
原因としては自己免疫機序が考えられる
☆自らの髄鞘を抗原として攻撃する
カンピロバクタージェジュニの感染も関与
(2)症状
・三主症状
弛緩性運動麻痺
嚥下障害
両側の顔面神経麻痺
・急性に発症
・運動麻痺
下肢の末梢から始まり、上肢、顔面、呼吸筋へと移る
・髄液の蛋白細胞解離
☆血漿蛋白の髄液腔への漏出によって、蛋白量だけが増加し、血球数は増加しない状態

(3)経過
経過は良好で原則として治癒する

■2)神経痛
(1)概念
脳神経、脊髄神経、(末梢神経)が刺激されてその神経の支配領域に痛みが生じることをいう
原因としては、血管、腫瘍、椎間板などによる機械的圧迫、 腫瘍による直接的浸潤、炎症、外傷などがある。
(2)症候的特長
・痛みの様相は灼熱様、穿刺様、電撃様
・疼痛部位は神経の経路上に出現
・痛みの出現は発作性で、間歇性である
・ワレー(氏)圧痛点の出現
・痛みは押圧により軽減

1)三叉神経痛
(1)概要
三叉神経痛では、微小血管が三叉神経を脳幹からの出口で圧迫し、一側の顔面に針で刺すような電撃痛が生じる。
激痛のため、顔をしかめるところから疼痛性チックといわれる。 
(2)疫学
40歳以降に発症し、男女比は1:1.5~2とやや女性に多い。
10万人に4~5人といわれる。
(3)成因と病態生理
 従来特発性と考えられていた症例のうち約70%は屈曲した走行異常血管、動脈硬化性病変を持つ血管が三叉神経根を圧迫して起こるとされる。
(4)症状
・三叉神経痛では、咀嚼、洗顔、髭剃りなどの動作の際に一側の顔面に針で刺すような電撃痛が生じる。
・痛みの持続時間は数秒間の短いものであるが、程度が激烈であるため、患者はこれらの動作を避けるようになる。
☆痛みのきっかけとなることをトリガーポイントという
・眼神経痛で痛みが現れる点
上眼窩点、内眼角、外眼角
・上顎神経で痛みが現れる点
眼窩下点(四白)、胸骨点(検量)、上唇点(人中)
上歯槽点
・下顎神経で痛みが現れる点
オトガイ点、側頭点
(5)診断
小脳橋角部腫瘍によることもあるために、まずMRI検査により腫瘍がないことが確認できれば、症状から診断は容易である。
(6)治療
・腫瘍の場合には外科的摘出術からガンマナイフ療法がすすめられる。
☆放射線による手術
・腫瘍が除外された場合の治療法
①薬物療法  
テグレートルを主体とする薬物療法
ふらつき眠気などの副作用の強い薬であるために、初回量は100㎎程度から始め、漸増する。
また、肝機能障害・白血球減少などをきたす薬剤であるために、定期的に血液検査を行う。
②三叉神経節ブロック
薬物療法の無効例、手術を受けられない高齢者を対象に行われる。
アルコール注入する方法や電気凝固する方法がある。
③微小血管減圧術(いわゆるジャネッタ手術)
ジャネッタ手術は除痛効果が長期にわたり期待できる手術であるが、ときに重篤な合併症を生じる事があるために、この手術に熟練した脳神経外科医により治療される必要があることを説明する。
(7)経過・予後】
治療をしなければ、症状は持続するため、日常生活にも影響が出る。
治療により症状をコントロールできれば、予後は良好である。

2)肋間神経痛
(1)概要
肋間神経がその走行の途中で、何らかの原因により刺激されて、その神経の走行に沿った帯状の痛みを生じる。
(2)疫学
 30~40代以降に多い。
(3)成因と病態生理
 肋間神経が帯状疱疹、腫瘍、胸椎椎間板ヘルニア、黄色靭帯骨化症に刺激されて起こる
(4)症状】
・肋間神経痛の圧痛点
脊柱点(後点):肋間神経が椎間孔を出るところ
側胸点(側点):側胸部の中央で外側皮枝の出る部分
胸骨点(前点):胸骨縁の近く、または腹直筋の外延
①原発性肋間神経痛
 一側性の持続的な痛みが半環状に胸郭を取り巻くように放散する。その痛みが強い時には呼吸によって増悪し、また、咳、あくび、怒責などで増強する。
 肋間神経を肋骨の下で圧迫する時その圧迫部位で、また、脊椎の外縁胸骨傍部などに圧痛を認める。
②症候性肋間神経痛
 帯状疱疹、腫瘍、胸椎椎間板ヘルニア、黄色靭帯骨化症などの場合に刺激されてそれに相応した肋間領域に痛みを生じる。
(5)治療
・腫瘍では外科治療が選択される。
・椎間板ヘルニア、靱帯骨化症では神経痛以外の脊髄圧迫症状の有無が問題となる。
脊髄症状が著明な場合には外科治療を早期に計画する。
・神経痛のみの場合には。薬物療法・コルセット装着・理学療法がまず試みられる。
帯状疱疹に特徴的な皮疹が肋間神経の走行に一致して認められる場合には、抗ウイルス薬の使用が選択される。
(6)経過・予後
 それぞれの原因により異なる。

3)坐骨神経痛
(1)概要
 坐骨神経に沿って、下肢から腰背部にかけて疼痛をきたすもので、80%は腰椎椎間板ヘルニアが原因といわれている。
(2)疫学
 30~40代の発症が最も多い。
(3)成因と病態生理
 原因として腰椎椎間板ヘルニアによることが最も多い。
 椎間板は中心にあるゲル状の髄核と周囲の線維輪とからなり、隣接する上下の椎体間に働く力を吸収するショックアブソーバーである。
椎間板ヘルニアは変性した線維輪の一部が破れ、髄核や線維輪が脱出して起こる。
後方に脱出すると馬尾や神経根を刺激して激しい症状を起こす。
時間の経過とともにヘルニアは縮小し、症状緩解するが再発もある。
罹患椎間はL4/L5ついでL5/S1の2つが大部分を占める。ついでL3/L4
 その他の原因
 50~60代以降では、腰部脊柱管狭窄症が原因となることも多い。
ときには脊柱管近傍への転移性腫瘍によることもあり、この場合には激しい持続性の腰痛・下肢痛が特徴的である。
(4)症状
・症状の始まりはさまざまで、たとえば、床にある重いものを持ち上げようとして突然腰部に強い痛みを覚え、これが大腿、下腿に放散し、痛みのために動けなくなることがある
痛みは大腿後面にあり、膝窩部を下がって踝から足に放散する。腰痛、下肢痛が単独にまたは合併して起こる。
1回の外傷で突然発生することは少なく、多くは日常生活やスポーツで腰痛の既往を繰り返すうち急に悪化する。
疼痛は坐骨神経に沿って放散し、咳、くしゃみ、息みで増強し、臥位をとると軽快する。
・脊柱管近傍への転移性腫瘍による場合には激しい持続性の腰痛・下肢痛が特徴的である
(5)診断
 MRI検査などにより、腫瘍の有無、椎間板ヘルニアの存在などをチェックする。
(6)治療
・腫瘍以外の坐骨神経では、
 まずは保存的療法(安静、薬物、理学的療法、ブロック療法など)が試みられる。
これらが無効の場合に外科的治療法が採用される。
(7)経過・予後
 保存的療法により80~90%の患者で症状が改善する。
(8)圧痛点
坐骨結節と大転子の間(承扶)
大腿後側中央(殷門)
膝窩中央(委中)
腓腹筋中央(承筋)
腓骨頭の直下(陽陵泉)
下腿前面上部(足三里)
外果の後部(崑崙)
内果の後部(太谿)

4)後頭神経痛
(1)疫学
40代以降に多く、三叉神経痛と合併することが多い。
(2)成因と病態生理
大後頭神経(第2経神経の後枝)、小後頭神経、大耳介神経(共に頚神経叢の枝)の分布領域の神経痛である。
(3)症状
大後頭神経の領域に相当して、表在性の痛みを生じる。
 後頭神経痛には2つの型がある。
①発作性神経痛
 痛みが間欠的、発作的で痛みは強く一側性に始まり、後頭部半側に放散する。
 三叉神経痛とよく似ており、痛みは時として灼熱痛を伴う。  
②持続的神経痛
 一側または両側の後頭部を占め、大後頭神経の走行上を圧迫すると、時として強い痛みを惹起する。
 このような持続的な痛みは二次的な痛みが多く、上部頚髄の腫瘍・脊髄空洞症・頸椎疾患のような器質的疾患に伴う。
(4)診断
CT検査、MRI検査により器質的な疾患を診断する。
(5)治療
治療薬としてテグレトールが有効なこともある。後頭神経の神経ブロックも行われる。
(6)経過・予後
保存的療法により改善することが多い。器質的疾患に伴う場合は、原疾患の治療を必要とする。

■3)圧迫性および絞扼性ニューロパシー
1)橈骨神経麻痺
(1)概要
橈骨神経がその走行中に骨折や圧迫などにより障害を受けると生じる。
顆上骨折、注射、睡眠麻痺(腕枕)
(2)成因と病態生理
 解剖学的に橈骨神経は上腕骨中央1/3部で後外側の橈骨神経溝を上腕骨に接して走るので骨折や圧迫により麻痺を生じる。
 後骨間神経は肘関節部で橈骨神経より分岐し、橈骨頭の前方を通り、回外筋内を通過する。回外筋入口部は剖検例の約30%で硬い線維性の索状物になっており、移動性がなく神経障害を生じやすい。
(3)症状
 橈骨神経の本幹が上腕の中央で障害されると手背から前腕の橈側の知覚障害と手関節背屈、母指の伸展、指節間(IP)・関節・中手指節(MP)関節の伸展ができず下垂手を生じる。
☆手背でも、母指と示指ぐらいが麻痺
(4)診断
 徒手筋力テスト、知覚検査、上肢の腱反射、筋萎縮の有無をチェックする。
 補助診断法としては、単純X線撮影(骨折・脱臼、変形の有無など)、電気生理学的検査、超音波検査やMRI検査(ガングリオンなど)を行う。
(5)治療
 ・骨折や脱臼などの外傷によるもの、腫瘤の存在するものでは、早期に手術療法を行う
 ・原因の明らかでないものや鈍的外力で受傷し回復の可能性のあるものでは、保存療法を行いながら1ヶ月ごとに筋電図検査を行う。
 ・神経炎と思われる例は、数ヶ月で回復するものが多い。
(6)経過・予後
・閉鎖性有連続損傷や絞扼性神経障害の軽症例は予後が良い。
・神経移植、端端縫合術では機能の回復は期待できない。

2)正中神経麻痺
(1)概
 正中神経麻痺は、外傷のほかに絞扼性神経障害や神経炎で発生する。
 正中神経の傷害は、鋭敏な知覚と巧緻性の要求される手にとって致命的なダメージを与える。
(2)成因と病態生理
 正中神経は肘関節近傍で上腕二頭筋腱膜の背側、円回内筋の二頭間および浅指屈筋アーチの深層を通過するが、この3カ所で絞扼性麻痺を生ずる可能性がある。
手根管症候群により正中神経が圧迫され、麻痺をきたす。
末端肥大症などでも発生する
(3)症状
 上腕部での本幹麻痺では、母指から環指(薬指)橈側1/2の掌側の知覚障害と母示指の屈曲と母指の対立が不可能となり手関節屈曲と環小指屈曲もうまくできない。母指対立が不能になり、猿手となる。
(4)診断、治療、経過・予
 橈骨神経麻痺と同様である。
チネル徴候陽性

3)尺骨神経麻痺
(1)概要
腕神経叢内束の最大の枝が尺骨神経である。
本神経障害の原因の多くは絞扼性神経障害で、肘部管症候群尺骨神経管症候群がある。
その走行途上どこでも切刺側など外傷を受ける可能性はある。
(2)成因と病態生理
原因の多くは絞扼性神経障害で肘部管症候群、尺骨神経管症候群がある。
絞扼の原因は、
局所の解剖学的異常による。小児期の上腕骨外果骨折後の外反肘、果上骨折後の内反肘など後天的なものや、先天的解剖異常である滑車上肘筋の存在がある。
最近では、むしろ変形性肘関節症の骨棘で肘部管が狭小化することに起因するものが多い
・昔はハンセン病で起こることもあった
(3)症状
本神経の麻痺では鷲手を呈する。尺側手根屈筋、中・環・小指の深指屈筋、小指外転筋、小指対立筋、母指内転筋、骨間筋群の麻痺のため手の巧緻運動の障害把持動作の障害が著明となる。
(4)診断、治療、経過・予後
橈骨神経麻痺と同様である。
・フローマン徴候陽性
☆母指と示指に紙などをはさめなくなる(母指内転筋が麻痺しているので)
代償動作として母指が屈曲する

4)総腓骨神経麻痺
(1)概
腓骨神経麻痺は下肢の神経麻痺の中では最も頻度がい。
これは腓骨頭に接して走行するため、腓骨神経が圧迫を受ける機会が多いからである。とくに術中麻酔下での圧迫、ギプスや牽引架台による圧迫など医原性に発生しやすい。
(2)成因と病態生理
 総腓骨神経は膝関節の後ろで坐骨神経から分枝し、腓骨頭の外側を取り巻くように走行するので、この部分での外部からの圧迫による麻痺が多い。
(3)症状
下腿外側から足背の知覚障害を示す。また、足関節および足指(趾)の背屈不可能となり、下垂足を呈する。
外反鉤足、鷲足の出現
☆鷲足:MP背屈、IP屈曲
(4)診断、治療、経過・予後
 橈骨神経麻痺と同様である。

5)脛骨神経麻痺
(1)概要
脛骨神経は坐骨神経の大腿下1/3で内側に分枝した神経で、おもに足の足底筋と下腿後面・足底の知覚に関与する。
(2)成因と病態生理
足根管症候群として内果下部分で圧迫を受けることが多い。
(3)症状
足の底屈・内転が不可能となる。
(4)診断、治療、経過・予後
橈骨神経麻痺と同様である。

6)末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)
(1)概要
末梢性顔面神経麻痺は種々の原因で起こるが、50~70%の例で特発性・急性に発現するいわゆるベル麻痺である。 
ベル麻痺は通常一側性の顔面神経麻痺を呈する。
(3)疫学
発生頻度は人口10万人当たり30人前後で、男女差はない。30~40代に多い。
(4)成因と病態生理
顔面神経は骨性の硬い狭いトンネルのような顔面神経管を通るが、ウイルス感染や他の原因で腫脹すると管の中で圧迫され麻痺をきたす。
 最近では単純ヘルペスウイルス関係説が強い。
(5)症状
・通常一側性の末梢性麻痺を呈する。
・額のしわ寄せ、閉眼が困難となり、涙がこぼれ、兎眼となる。
・鼻唇溝が浅く、頬を膨らませることができなくなる。口角が下垂し、水が漏れ、口笛が吹けない。
・病変が膝神経節に強いと舌前2/3の味覚障害、涙分泌障害、唾液分泌障害、聴覚過敏、耳痛などを伴う。
☆アブミ骨筋を支配しているので
(6)診断
・臨床経過、症状から診断できる。
・脳幹の精査もかねてMRI画像をとるのが望ましく、ベル麻痺ではMRIガドリニウム造影像で顔面神経管内の顔面神経に高信号が認められることが多い。
・ヘルペスウイルスなどのウイルス抗体も検査する。
(7)治療
・発症直後は顔面筋の安静に努め、外出は避ける。数日経って麻痺の進行が停止してのち、局所のマッサージや低周波治療などを軽い程度から始める。
・麻痺がはっきり存在する場合は、抗浮腫、抗炎症作用をねらって副腎皮質ステロイドをできるだけ早期(3日以内)より始める。
(8)経過・予後
1~3ヶ月で回復することが多い。

7)ラムゼー・ハント症候群
(1)疫学
顔面神経麻痺の80%がベル麻痺であり、残りがラムゼー・ハント症候群といわれている
(2)成因と病態生理
水痘・帯状ヘルペス(帯状疱疹)ウイルスが顔面神経に感染して起こる。
(3)症状
外耳道、耳介に疼痛を伴う疱疹あるいは発赤がみられ、
同側の末梢性顔面神経麻痺を生じる。
水痘・帯状ヘルペスウイルスにより髄膜炎を併発することがある。
(4)診断
外耳の発疹が同側の顔面神経麻痺に伴っていれば診断できる。
 水痘・帯状ヘルペスウイルスなどのウイルス抗体も検査する。
(5)治療
抗ウイルス薬の投与が必要である。
(6)経過・予後
麻痺の回復はベル麻痺に比べ遅く、不全麻痺を残すことが多い。

9.膠原病および膠原病類似疾患
1)概念
全身臓器の結合組織が免疫反応や炎症性過程の場となり、その結果結合組織にフィブリノイド変性、炎症組織の浸潤、肉芽腫などが生じる疾患群の総称
2)種類
・主な疾患
関節リウマチ
全身性エリテマトーデス(SLE)
皮膚筋炎、多発性筋炎(PM)
進行性全身性硬化症(全身性強皮症)
結節性動脈周囲炎(PN)
・類似疾患
シェーグレン症候群
ウェジナー肉芽腫症候群(参考)
ベーチェット病
脈なし病
重症筋無力症
グッドパスチャー症候群

3)一般的症状
・初発症状として
発熱、関節痛、レイノー現象
・続く全身症状
全身倦怠感、
易疲労感、体重減少

■1)関節リウマチ(RA、慢性関節リウマチ)
1)概念
しばしば種々の関節外症状を伴って、慢性に経過する非化膿性多発性関節縁
主たる病変は滑膜炎
2)疫学
膠原病の中でもっとも多い疾患
発症年齢:20~40歳代
男女比は男:女=1:4
発祥しやすい家系がある
3)病因
自己免疫疾患
遺伝的素因
内分泌的素因
HTLVー1の感染説もわる
4)病態生理
・RAで現れる病態
滑膜炎、パンヌス
☆パンヌス:滑膜組織に絨毛様の肥厚が起こること
軟骨組織の破壊、骨(関節)強直
リウマトイド因子(RA因子)の産生
5)症状
①関節症状
朝のこわばりから始まることが多い
左右対称性に症状(関節縁など)が現れる
手のPIP、MP、足のMPから症状が現れることが多い
疼痛:運動時痛が多い
腫脹:紡錘形になる
発赤、熱感の出現
・関節の変形
手の指の尺側偏位
…2~5指に現れる)
スワン頚変形
…PIPの過伸展とDIPの屈曲)
ボタン穴変形
…PIPの関節部に隙間が開き、ボタンの穴のようにくぼみができる
外反母趾
ハンマー指(くも指)
・その他
手根管症候群
環軸関節の亜脱臼
②関節外症状
・皮下結節リウマチ結節
肘頭部、前弯後面に好発
硬いが、痛みは生じない
・肺病変
胸膜炎、肺実質におけるリウマチ結節の発生
→肺線維症になる
・心病変
心外膜炎、刺激伝導障害
・眼症状
ぶどう膜炎
・骨症状
骨粗しょう症
・末梢神経症状
多発性単神経炎
・血管炎
全身性壊死性血管炎をていすることもある(ひどい場合は)
6)検査所見
・炎症反応の出現
CRP陽性
血清グロブリンの増加
血清補体の増加
白血球の増加
・免疫学的検査
RAテスト陽性(リウマトイド因子陽性)(80%)
抗核抗体検査陽性となることもある(25%程度)
・骨X線検査
初期は軟部組織の腫脹
徐々に骨萎縮、関節裂隙の狭小化
関節の変形、関節強直の出現
☆診断基準
朝のこわばりが1時間以上続く
関節の腫脹が3箇所以上
左右対称の関節腫脹、皮化結節など
7)症状
初期症状は自然に寛解することが多い
その後再発し、慢性的に増悪していくことが多い
☆30歳以下で発症した人悪化することが多い
8)治療
・食事
栄養価の高いものを摂取する
・温熱療法
ホットパック、パラフィン浴など
・運動療法
ROMと同じ程度の範囲でお子なる
・薬物療法
非ステロイド系抗炎症薬
抗リウマチ役
…金製剤、Dーペニシラミン
ステロイド剤

■2)全身性エリテマトーデス
(1)易学
20~30歳代に好発
男:女=1:9
(2)原因
自己免疫疾患
・誘引
なんらかの感染症
妊娠、分娩、外相など
(3)症状
・関節症状
移動性の多発性関節縁
関節の変形はほとんど見られない
・皮膚症状
蝶形紅斑、ディスコイド皮疹
☆ディスコイド皮疹:顔、頚、耳などに皮疹が現れる
光線過敏
・腎症状
ネフローゼ
ループス腎炎
腎不全
・神経症状
てんかん発作
脳卒中
不随意運動
精神障害
ニューロパチー
・漿膜炎
胸膜炎、心膜炎、髄膜炎など
・その他
脱毛、筋痛、口腔内潰瘍
肺出欠、肺高血圧
レイノー現象(割合は高くない)
(4)検査
抗核抗体検査の陽性
LE細胞陽性(異常白血球)
CRP検査の陽性、血沈上焦、ガンマグロブリン上焦
白血球、赤血球数の減少
☆5年生存率95%

■3)全身性進行性硬化症(全身性強皮症、PSI)
皮膚の硬化は手指の先端から始まり、全身の皮膚に広がる
内臓の間質性炎症もていする
レイノー現象、多発性関節炎、仮面様顔貌の出現
抗核抗体検査の陽性
中年女性に多い

■4)皮膚筋炎(多発筋炎)
横紋筋が広範に侵される疾患
肩、骨盤周囲の筋を障害することが多い
・その他の症状
舌の肥厚、短縮
嚥下障害
逆流性職洞炎
ヘリオトロープ疹(赤い発疹)
レイノー現象、関節炎、心伝導障害、心不全をていすることも
・中年女性に多い

※類似疾患
■5)ベーチェット病
・ベーチェット病の3大症状
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
ぶどう膜炎
外陰部潰瘍
・その他
HLAーB51(腫瘍組織抗体)を持つ人に発症しやすい
20~30代の発症が多い
皮膚の鍼反応が出現しやすい
関節縁や副睾丸炎、血管症状
☆やや男性に多く、男性は3大兆候をていすることが多く、失明率も高い

■6)結節性多発性動脈炎
・高熱、腎症、関節痛、筋肉痛、高血圧、抹消性神経炎、消化器症状、皮下結節、紫斑などの出現
・中等大の筋性血管の分岐部に生じる血管炎

※類似疾患
■7)リウマチ熱
・発症は児童期に多い
・溶連菌感染、発症後に自己免疫反応として発症することが多い
・症状
一過性のことが多い
多発性関節炎(大きい関節に発症しやすい)
心筋炎、小舞踏病
輪状紅斑、皮下結節、発熱など
弁膜障害を残すことがある(脳塞栓の原因になることも)
・検査所見
CRP検査陽性
ASO値、血沈、白血球数の上昇

※類似疾患
■8)シェーグレン症候群
・主として涙液、唾液の分泌障害をきたす乾燥性疾患
・RAを伴うことが多い
・閉経期の女性に多い
・症状
ドライアイ、眼の違和感
口腔内乾燥、耳下腺の腫脹

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第5章 運動器疾患
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1.関節疾患
■1)化膿性関節炎(あまり重要でない)
・関節の細菌性炎症を起こす疾患。
・細菌の由来:血行性(扁桃等)、近隣の骨髄炎、外傷等
・起因菌:連鎖状球菌・ブドウ球菌が主となる。小児では股・肘関節に好発。
*・関節面の癒着強直防止のため救急治療を要する(重要)
抗生物質の投与、ドレナージ(排膿)、早期からの運動療法が必要。

■2)結核性関節炎(参考)
・結核性関節炎は二次性であって、主として肺病巣からの菌の血行性転移によって生じる
 滑膜型=滑膜に直接感染を惹起するもの。
 骨型=骨端あるいは骨幹端に初発した結核性骨髄が関節内へ波及するもの.こちらの方が多い。
・好発部位は ー 股、膝、足、仙腸、肩、手関節の順である。
90%は単関節炎型である。
・臨床的分類
水腫型=病状の初期で漿液性関節炎である。
肉芽型=滑膜が肥厚し、肉芽が関節軟骨を侵したもの。
膿瘍型=乾酪化、軟化が起こったもの。
・症状
主なものは関節の痛み、腫脹、可動制限、早期に筋萎縮をきたす。
関節破壊に応じて形態の変化をみるが、骨膜反応は軽微である。
・治療
保存療法 ー SM、PAS、INAHなどの三者併用療法
手術療法 ー 関節穿刺、排膿、洗浄、病巣郭清術、時には関節固定術も行われる。

■3)痛風
(1)概念(重要)
 急性あるいは慢性関節炎の形で関節障害を来す疾患で、コラーゲン・ムコ多糖類を多く含む組織に尿酸ナトリウムが沈着し発症する。
その原因は高尿酸血症である。
★血中尿酸値の正常値、男性=7mmg/dl、女性=6mmg/dl(覚える)
(2)誘因(重要)
高プリン食(肉汁・豆類・ほうれん草等)、アルコール、重症感染症、輸血、血液の破壊、放射線療法、薬剤(利尿薬・サリチル酸・インスリン)
中年以降の男性に多い。小児や閉経期前の女性には発症しない。
(3)症状
 第1期:無症状期、高尿酸血症の時期
 第2期:急性発作(痛風結節)の出現、発作は非常に強い痛みを多くの場合第1趾MP関節に、次に足関節に来たし発赤・腫脹を伴う。
まず、感冒様の発熱で始まり、白血球増加、核の左方移動、グロブリン増加を呈する。
CRP陽性、血沈亢進、食欲不振、多尿を来す。
発作は2~3日で緩解する。
痛風結節は、耳介軟骨・手指・肘頭部・アキレス腱部にも好発する。
第3期:痛風発作を繰り返し、その間隔は次第に短くなり、自然寛解に時間がかかる。
第4期:関節の変形・機能障害を呈する。
(4)合併症
腎障害、結石、高血圧、動脈硬化、糖尿病、心筋梗塞、時に尿毒症等
(5)治療
食事療法 ー 低プリン体食(臓物・肉エキス・いわし・数の子等は控える)
薬物療法 ー 副腎皮質ステロイド
 注)ピロリン酸カルシウムによる結晶性滑膜炎を偽痛風という。
老人の膝半月板・硝子軟骨・滑膜・腱・靱帯等にも沈着する。

2.骨系統疾患
■1)骨粗鬆症
(1)概念
正常の組成のまま、骨の絶対量が減少した状態。骨量と骨強度の減少した状態。
非外傷性の骨折を起こしたり、起こす危険性のある程度まで骨量が減少したものを骨粗鬆症と理解されている。
(2)病理
 皮質骨では皮質幅が薄くなり、海綿骨では骨梁の数と大きさが減少する。
骨梁の減少は、骨の形成と吸収が負の平衡のために起こる。
骨質の占める面積が正常の16%以下になると骨粗鬆症と言える。

(3)原因による分類
①内分泌性骨粗鬆症:上皮小体機能亢進症・甲状腺機能亢進症・性腺機能低下症・クッシング症候群等
②退行期骨粗鬆症:骨質量は30歳代を頂点として以後男女ともに減少する、
老年性骨粗鬆症=男子では70~80歳になると骨粗鬆症と言える。
閉経後骨粗鬆症=女性では閉経後急速に骨質量が低下してくる。
③栄養性骨粗鬆症:吸収不良症候群、胃切除、糖尿病等
④遺伝性疾患:骨形成不全症、ホモシスチン尿症等
⑤不動性骨粗鬆症:長期の臥床、神経麻痺等

(4)病態生理による分類
①低回天性骨粗鬆症:骨吸収も骨形成も共に減少しながら骨量が減少してくるもの。
老年性骨粗鬆症・閉経後骨粗鬆症
②高回転性骨粗鬆症:骨吸収も骨形成も共に増加しながら骨量が減少してくるもの。
甲状腺機能亢進症
(5)症状
脊椎の圧迫骨折・大腿骨頚部骨折等が多い。
楔状椎・偏平椎等を生じる。
腰背痛・脊柱後彎症・低身長・易疲労性・橈骨下端骨折(コレス骨折)が多い。
(6)治療
予防としてCa製剤・ビタミンD製剤・エストロゲン・蛋白同化ホルモン等が使用されている。

■2)くる病・骨軟化症
(1)概念
成長過程にある骨の石灰化障害にもとづいて発生する骨病変である。
骨端軟骨の閉鎖以後に生じた場合は、骨軟化症という。
(2)原因
ビタミンDの供給不足、日光曝露不足、ビタミンD吸収低下、リン欠乏、低ホスファターゼ、骨基質形成障害
(3)症状
不機嫌、不安、不眠、発汗、蒼白な皮膚、筋弛緩、易疲労。肝脾腫大、泉門閉鎖遅延、頭蓋癆をみる.
長期間持続すればX脚・O脚等の骨変形をきたす.
(4)検査
血中無機リンは減少し、アルカリホスファターゼ値が上昇する。
(5)治療
ビタミンD投与、日光浴を実施する。

■3)骨肉腫
(1)概念
腫瘍細胞が直接類骨あるいは幼若な骨を形成する能力を有する悪性腫瘍である。
原発性骨悪性腫瘍中もっとも発生頻度の高い腫瘍である。
(2)疫学
男女比=3:2
好発年齢は10歳代で、とくに15~19歳に好発する。
好発部位:大腿骨遠位骨幹端(約半数例)、脛骨近位側、上腕骨近位側、腓骨頭部等、その他骨盤・脊椎等。
(4)症状
最初、運動時痛であるが、次第に自発痛となり、局所の腫脹を伴うようになる。
隣接関節の可動性制限。下肢発生例では疼痛性跛行等を生ずる。
(5)検査
アルカリホスファターゼが高値を示す例が多い。
(6)治療
四肢発生例では切・離断術が適応とされていたが、腫瘍の大きさ、年齢、化学療法の効果など、条件によっては広範切除術が適応となる例が増加している。
全身的には肺転移や骨転移など遠隔転移の防止を目的として強力な補助化学療法を行う。
手術不可能な部位に対しては放射線療法を行う。
(7)予後
不良であるが、強力な補助化学療法の導入により、次第に生存率の向上がみられるようになった。

3.筋・腱の疾患
■1)腱鞘炎
(1)概念
腱鞘滑膜に反復して過剰な摩擦が加わることにより漿液性の炎症を起こしたもの。
(2)分類(重要)
ア、轢音性腱鞘炎:手をよく使う人で、長短母指伸筋・棟側手根伸筋の腱鞘に炎症がみられることが多い。
イ、狭搾性腱鞘炎
①ドゥケルバン病:長母指外転筋腱と短母指伸筋腱が手関節背側を通る部分に生ずる狭搾性腱鞘炎である。
タイピスト・銀行員・ピアニスト・大工・中年の女性に多い。
橈骨茎状突起部痛・母指手関節の運動困難、強く物を握れない等。
 フィンケルシュタインテスト陽性=母指を中にして手を握らせ、他動的に手関節を尺側に屈曲させると激痛を訴えるもの。雑巾絞り・ドアのノブをまわす等で痛みが出現する。
☆フィンケルシュタインテストは重要
②ばね指(弾撥指):指のIP関節の屈伸がスムーズでない状態。
(3)原因
指屈筋腱の近位端のMP関節レベルにおける狭搾性腱鞘炎である。母指・中指・薬指に多い。小児は母指が多い。
過労やリウマチ性疾患が原因となる。
(4)症状
IP関節で伸ばそうとすると弾発的に急に伸びたり曲げるときに急にぐっと曲がったり、曲がったまま伸びなくなったりする。

■2)筋膜炎(参考)
1)好酸球性筋膜炎
(1)概要
・1974年に報告され、1975年に命名された強皮症類似疾患である。
・急激な運動などを誘因として、四肢に対称性有痛性腫脹を生じた後、同部に表面凹凸不整のびまん性皮下硬化をきたし、近傍関節の屈曲拘縮を伴うようになるのが典型的経過である
(2)検査
末梢血好酸球増加および高γグロブリン血症がみられ、
筋膜・筋まで含めた皮膚生検により、特徴的な筋膜肥厚、好酸球浸潤を認めることで確定診断できる。
注)通常強皮症と異なり、食道、肺病変などの内臓病変はみられず、また副腎皮質ホルモン全身投与に対する反応は良好である。

2)壊死性筋膜炎(参考)
☆急に発生した恐ろしい病気として扱われた時期があった
(1)概要
急激かつ重篤な経過をたどる、皮下組織から浅筋膜における壊疽性の急性細菌感染症である。
(2)原因菌
溶血性レンサ球菌が多い、他に黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌等。混合感染の場合も多い。
糖尿病・悪性腫瘍などの基礎疾患を有している患者に起こりやすく、宿主側の免疫能低下なども関係する。
感染経路は外傷などによるが不明なものも多い。
(3)症状
下肢に好発し、突然高度の発赤、腫脹を生じ、
次いで大水疱、壊死性変化をきたす.発熱などの全身症状を伴う。
15~30%の死亡率が報告されている。
(4)治療
できるだけ早期に強力な抗生物質(ペニシリンなど)全身投与と壊死組織除去手術を行うことが予後改善のために重要である。

4.形態異常
■1)先天性股関節脱臼(LCC)(重要)
(1)概念
出生時に大腿骨頭が関節包をつけたまま寛骨臼外へ脱臼しているものをいう。
女児が男児の5~9倍の発生率である。
注)発育性股関節脱臼と称する傾向にある。
(2)原因
遺伝的素因、母胎エストロゲン(関節靱帯弛緩ホルモン)分泌上昇、力学的因子(骨盤位分娩児=逆子 に多い、昆布巻きオムツ等、出産時の股関節・膝関節の急激な進展)
(3) 病理
寛骨臼は浅く、臼蓋の発達が悪く、急峻な傾斜をなす。大腿骨頭は後外側に脱臼し、体重負荷が加わる頃になると原臼より上部に偽寛骨臼が形成。
(4)症状(重要)
①乳児期
 ア、大腿内側皮膚溝の非対称
 イ、下肢の短縮
 ウ、開排制限:90゜股関節屈曲位で下肢の外転制限
 エ、クリックサイン(オルトラニー徴候):他動運動により、脱臼音や整復時のクリック音を触れるもの。
 オ、バローテスト:他動的に脱臼の整復や脱臼をさせれるもの。
カ、テレスコーピングサイン(デュピュイトラント徴候):下肢を引き下げたり引き上げたりすると、大腿上端の異常な上昇や下降が触知される。
キ、恥骨結合間異常開大の証明
ク.スカルパ三角の空虚
注)スカルパ三角 = 鼠径靱帯、縫工筋、長内転筋内縁により囲まれた三角、
ケ.大転子高位
②幼児期
ア、処女歩行の遅延及び跛行
 イ、トレンデレンブルグ徴候:患側肢で片脚起立をしたとき、対側の骨盤が沈下するのが、患者後面から観察される。両側性ではアヒル歩行となる。
ウ、腰椎前彎増強:両側股関節脱臼でみられる。
エ.開排制限 
オ.下肢短縮 
カ.大転子高位
(5)治療
ア、1歳未満: パブリック法といわれるリーメンビューゲル装具(あぶみ式つりバンド)の装着によりほとんどが治癒する。
牽引や徒手による整復の後短期間ギブス固定しリーメンビューゲル装具を用いる。
イ、1歳以上:リーメンビューゲル装具単独では整復が困難となることが多い。
牽引、麻酔下における徒手矯正、ギブス固定、観血的整復術、骨切り術、臼蓋形成術、関節形成術等が行われる。

■2)先天性筋性斜頚
・一側の胸鎖乳突筋の拘縮によって生ずる斜頚で、生後1~2週で胸鎖乳突筋の腫瘤と斜頚位に気づかれる。
・首は患側に側屈し健側に回旋する、
注)3大先天性奇形 = LCC・先天性内反足/先天性筋性斜頚
(2)原因
胎内の異常環境と出生後の頚部にかかる負荷のため一側の胸鎖乳突筋に過伸展損傷が起こり、ここに修復性肉芽組織が形成され拘縮が起こると考えられている。
骨盤位分娩児(俗に逆子)に多い。
わが国における頻度は0.3%程度である。
(3)治療
かつては矯正マッサージを継続することが必要と考えられていたが、現在ではそれは有害とされており、約86%の症例では放置しても自然治癒すると考えられている。
生後数ヶ月は斜頚枕・砂嚢等により頭部を矯正に保つ。
1年後に治癒しない症例に対しては腱切り術を行う。

■3)先天性内反足
・LCCに次いで多い先天性疾患。
・男子は女子の約2倍、両側性のことが多い。
・尖足、踵内反、凹足、前足内転の複合したもの。
(2)治療
生後出来るだけ早く開始する。徒手矯正御ギブス固定を行う。
再燃可能性が高いので学童期まで経過観察を行う。

■4)扁平足
・足の内側縦方向の足円蓋(主に踵骨・距骨・舟状骨楔状骨・第1中足骨から成るアーチ)が扁平したものをいう。多少とも踵外反変形を伴っている。
・足円蓋の低下でも主として横足弓が低下したものを横軸扁平足という。

■5)側弯症
(1)概念
脊柱が前頭面において異常に彎曲した状態をいう。
脊柱の側方への湾曲と捻れを示す変形。
(2) 分類
 ア、先天性側彎:椎体奇形による(半椎・楔状椎等)
イ、後天性側彎症
①原因の明かな後天性側彎症
原因:ポリオ罹患後・脊髄空洞症・クル病・脊椎カリエス・胸郭成形術後等
②特発性側彎症
構築性側弯・非可逆的な側弯。全側彎症の70%~80%を占める。思春期の女性に多い。
 注)神経性(麻痺性・痙攣性)、習慣性、疼痛性という分類もある。
症状
多くは、胸椎部で右凸の側彎と右への捻転を生じ、右背部が膨隆する、腰椎は代償性に左へ凸の側彎を呈する。
胸郭の変形により肺活量が低下し、心肺機能の低下をきたす例もある。
肋骨隆起・腰部隆起・肩胛骨の後方突出・肩の高さと腰部三角の非対称。背痛・易疲労性等。
(3)治療:軽症では固定と矯正、高度では手術療法

■6)外反母趾
(1)概念
母趾(第1足指)が中足趾節関節で外側(腓骨側)に屈曲するものである。
変形が高度になると、第1中足骨骨頭部の突出部に強い痛みを生ずる。
注)この変形は欧米人に多く日本人には少ないとされてきたが、近年日本人にも増加の傾向がみられる。
その理由は、日本人の生活が洋式化されて靴をはくようになったためと考えられている。
(2)発症要因
先端のせまい靴によって足の先端部が左右から圧迫されること、足の内在筋の弱化があげられている。
(3)症状
骨格変化:第1中足骨の内反、母趾趾節骨の外反が認められるとともに、足の横のアーチが減少する。
内側骨突出部の皮下にバニオン(腫脹した滑液包)が生じ、疼痛や発赤を生じてくる。
変形の進行により、母趾が第2趾の底側に入り込み第2趾の内・底側に胼胝を形成する。
(4)治療
軽症のものには、足袋(たび)や矯正装具が使用される。
進行したものに対しては、骨切り術や腱形成術などの手術が必要となる。

5.脊椎疾患
*■1)椎間板ヘルニア
(1)概念
 椎間板の退行変性のため、線維輪を破って髄核が外へ押し出されたもので、外側方へ隆起状に飛び出すために、神経根や脊髄を圧迫し、炎症浮腫を起こすために臨床症状を示すもの。
下部腰椎に最も多くついで頚椎に多く発生する、
 胸椎では殆ど見られない。

1)頚椎椎間板ヘルニア
 好発部位:C4以下の下部頚椎に多くみられる。C5・6、C6・7、C4・5間の順に多い。
(1)症状
ア.頚痛(咳等で増強)と運動制限がみられる。
 イ.根症状
肩から手に放散する上肢の痛み・しびれ・感覚鈍痲・脱力・筋萎縮がみられる。
ウ.脊髄圧迫症状(ミエロパチー)
痙性不全対麻痺・病変部以下の感覚障害膀胱直腸障害がみられる。
 エ.神経根伸展テスト(ジャクソンテスト、イートンテスト)が陽性となる。
(2)治療
カラー等の装着(局所の安静と固定の為)
薬物療法:鎮痛剤・筋弛緩剤の使用。
外科手術:疼痛の持続、麻痺の進行に対して椎弓切除術や前方固定術。

2)腰椎椎間板ヘルニア 
 好発部位:L4~5、L5~S1、L3~4間で発症。
 好発年齢:20~40歳代の男性に多い
(1))発生機序
椎間板変性による線維輪の亀裂・断裂・傍流の存在。
椎間板内の高い内圧の存在。
(2)症状
腰痛と坐骨神経痛が最も頻発する症状である。
 ア.腰痛
 咳くしゃみで増強、背筋の緊張増加、脊椎の前彎消失、疼痛性側彎の出現、
ヘルニア周辺部に圧痛がみられる。
腰痛と下肢痛は数周の間隔で増悪と寛解を繰り返し、漸次固定性となっていく。
棘突起の叩打痛の出現。
イ.坐骨神経痛
 坐骨神経の経路に沿って痛みが放散する。
感覚鈍痲・異常感覚・脱力を伴うことあり。
・L3~4間(L4神経根圧迫)ヘルニア
 膝蓋腱反射低下又は消失・大腿四頭筋筋力低下、下腿内側の知覚障害の出現。
・L5~S1間ヘルニア
 アキレス腱反射の低下又は消失、ラセーグテスト陽性、腓骨筋・下腿三頭筋筋力低下、足部外縁・足底の知覚障害。
・L2~3間やL4~5間のヘルニア
 大腿神経伸展テストが陽性となることがあり。また前脛骨筋・長母指伸筋の筋力低下、下腿外側・足背の知覚障害
 注)中心性ヘルニア(完全脱臼が起こり、馬尾を強く圧迫するようなもの)では、膀胱直腸障害・下肢筋群特にL5・S1神経根支配筋の完全弛緩性麻痺を招来することがある。
注)10代の椎間板ヘルニアでは、痛みは成人に比べて軽いが、SLRや下肢筋群の拘縮は強い。
(3)治療
急性期:安静(固めの布団に寝かせる)、鎮痛剤や筋弛緩剤の投与。
急性期後:コルセットの装着、温熱療法、牽引療法等、外科手術(ヘルニアの摘出術・椎弓切除術・脊椎固定術等)。

■2)後縦靭帯骨化症
(1)概念
後縦靭帯の異所性骨化が生じるため、脊柱管狭搾が生じ、脊髄の圧迫症状をみる疾患。
頚椎・胸椎・腰椎の順に好発する。日本を初めとしてアジア地方に多い。
頸椎部の発生では上肢の筋力低下が目立つ。
頚椎部の発生は男子に、胸椎部の発生は女子に多い。
発生年齢は50歳以上の高齢者の男性に多い。
(2)原因 
脊椎の骨増殖性疾患の一つ
糖代謝異常・成長ホルモンその他の内分泌系障害
HLA抗原・局所的因子等
(3)症状
頚椎の単純X線像で椎体後縁から1~2mm離れた後方に棒状または帯状の石灰化像が認められる。
 後縦靱帯は脊柱管腔内に存在するので、骨化・肥厚は脊椎管腔を狭小化し、脊髄圧迫となる。
 骨化が脊柱管腔の40%に至ると脊髄症を呈する、 あるいは神経根症を呈するようになる。
頚髄症 = 上肢のしびれ、頚肩部のこわばり・鈍痛、横断性脊髄障害症状(痙性不全四肢麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害)、ブラウン・セカール型の脊髄症状を呈することもある。
胸髄症 = 感覚障害を伴った痙性対麻痺
(4)治療
 脊髄の圧迫に対して除圧手術が有効である。

■3)脊椎分離症
(1)概念
 椎弓の上関節突起と下関節突起の中間部の骨性連絡が断裂する疾患である。
 L4・L5などの下部腰椎に多く発症。
 前半部(椎体・上関節突起・椎弓根・横突起)と後半部(下関節突起・棘突起)に分離する。
本邦では健常成人の約8%内外に存在する。
(2)原因
 先天的素因を基盤に、過度のスポーツなどの外因が関与して発症する。
分離部は組織学的には線維組織が介在し骨折に於ける偽関節に似た所見を呈する。
(3)症状
 無症状のものも多い、腰痛・殿部痛・大腿部痛等を訴える。
 また腰部筋緊張・運動制限がみられる。
(4)治療
 安静、軟性コルセットの装着。薬物療法、手術療法等。

■4)脊椎分離すべり症
(1)概念
 脊椎分離症の存在する例で、分離脊椎の前部がその下部椎体に対して、前方へすべり出した状態である。
10歳頃より進行し、20歳以降はすべりの進行はみられないといわれている。
ほとんどがL5に発症する。
(2)分類
①無分離すべり症
 下位椎骨の椎体に対して上位椎骨の椎体が前方に滑るもの。
L4・L5間に多く、中年女性に多い。
②分離すべり症
その基盤に分離症が存在するもの、
腰部の不安定感。L4・L5間に多い。
(3)症状
腰痛・殿部痛・大腿前面への放散痛などを訴える、これらは起立・歩行などで増悪する
 坐骨神経痛の出るものもある。
 脊柱管狭搾症の症状呈するものもある。
 起立・歩行により下肢のしびれ、脱力を生じ、
 身体を前屈したり、腰をおろして休むと軽快する。
すべりの著明な例では、棘突起列が階段状変形をなしその上部は陥凹を呈してくる。
(4)治療
脊椎分離症に同じ。

■5)脊柱管狭搾症
(1)概念
脊柱管が先天性ないし発育性に狭小であったり、後天性に狭小化したもので、種々の疾患にみられる病態である。
 腰椎部,ついで頚椎部に多い。

1)頸部脊柱管狭窄症
(1)原因
発育的狭窄:先天的な狭窄に椎間板の後方隆起が加味。
動的狭窄:椎間板の変性(頸椎胃伸展時に、上位椎が後方へすべることにより狭窄が生じる)
40歳以降に多い。
(2)症状
圧迫性脊髄症 : 手指のしびれ、手指の巧緻運動障害、痙性歩行、下肢・体幹のしびれ、筋萎縮、膀胱・直腸障害等。

2)腰部脊柱管狭窄症
(1)原因
先天性発育不全狭搾症:椎弓根間距離短縮、椎弓・椎間突起の肥厚
後天性狭搾症:脊椎分離・すべり症、椎間板ヘルニア等による。
(2)症状
馬尾神経性の間欠性跛行:下肢痛・感覚異常・脱力を伴う。単に休止しただけでは回復せず、座位ないし臥位で腰椎前彎を減少させると回復するのが特徴的である、逆に腰椎前彎を増強させると症状は増悪する。
 会陰部の灼熱感、歩行時等の陰茎勃起が見られる。
神経根刺激症状としての腰痛・下肢放散痛の出現。
 膀胱直腸障害を見ることもある。
注)胸椎部に於ける脊柱管狭窄症では、圧迫を受けるのは脊髄であるために、歩行に よるしびれの出現よりも、下肢の脱力の方が顕著となる。
(3)治療
腰椎屈曲位をとらせるコルセットの着用、硬膜外ブロック、椎弓切除術。

■6)脊髄空洞症
(1)概念
 脊髄中心管近辺に空洞を生ずる疾患である。空洞周辺にはグリア細胞の増殖が著しい。
好発部位は下位頚髄から上部胸髄、時に延髄に広がることもある(延髄空洞症)。
(2)症状
①初期症状
頚部・肩の根性疼痛、一側上肢尺側の温・痛覚低下、同側小指筋の筋力低下と筋萎縮。
②特徴症状
・障害髄節に一致した解離性感覚障害である、これは、温痛覚は低下するが触覚は保たれているもの。
・空洞の拡大により前角が侵されると、上肢・肩帯筋などの萎縮・脱力などが出現してくる。
・中間側角の障害により自律神経症状も出現してくる。
発汗低下・皮膚萎縮・皮膚潰瘍・起立性低血圧・インポテンツ・排尿障害等
・空洞拡大により、錐体路・脊髄視床路・後索が傷害されるとそれ以下の痙性麻痺・全感覚低下などが現れる。  
 延髄腔銅症
顔面に玉ねぎようの温痛覚障害、難口蓋麻痺、咽頭や声帯の麻痺・眼振等。
(3)治療
後頭化減圧開頭術、椎弓切除術、空洞ーくも膜下腔短絡術等

6.脊髄損傷
1)概念
強力な外力が加わり、脊椎の脱臼骨折がみられると脊髄に圧迫や挫創が起こり。脊髄が損傷される.
*・好発部位
第5~6頸椎 : 交通事故、転倒、スポーツ外傷が原因となることが多い。
*・胸腰推移行部 : 高所からの転落事故が原因となることが多い。
2)病態(参考)
 脊髄実質に出血、浮腫を基盤とした脊髄の挫滅と圧迫病変である。
*3)症状
 障害レベル以下に,不全あるいは完全横断麻痺が出現する。
 頚髄損傷では、特有な合併症として呼吸麻痺と過高熱(または過低熱)がみられる。
(1)麻痺の出現様式
ア.完全麻痺
 損傷レベル以下の髄節支配領域の運動機能・感覚機能・深部反射が持続性に且つ完全に消失したもの。
イ.不全麻痺
損傷レベル以下の髄節支配領域の運動機能・感覚機能・深部反射が部分的に傷害されたもの。
ウ.四肢麻痺
頚髄損傷によって、運動機能・感覚機能が傷害され、四肢ならびに骨盤臓器に機能障害を認めるもの。
エ.対麻痺
胸髄以下の損傷により、下肢及び骨盤臓器に運動・感覚機能障害を認めるもの。
(2)随伴症状(参考)
ア.循環器障害
徐脈・血圧低下・循環血液量減少・静脈還流障害・全身浮腫・肺水腫等
イ.消化器障害
麻痺性イレウス・急性胃拡張・消化性潰瘍・膵炎・宿便・排便障害・ストレス潰瘍等
ウ.呼吸障害
C4以上の完全損傷では横隔(膜)神経麻痺により呼吸機能は停止する。
C5以下の頚髄損傷では完全呼吸停止はないが、種々の程度の呼吸停止が見られる。
エ.排尿障害
脊髄ショック期 : 膀胱は弛緩性麻痺により尿閉を呈する。
脊髄ショック回復期 : 核上性障害により排尿筋反射の亢進を見る。
以後、脊髄損傷のレベルに応じて固定化する。
*(3)損傷高位別症状
ア.上位頸椎部
 呼吸筋麻痺と四肢麻痺を呈する。救命処置を第1とする。
イ.中・下位頸椎部
四肢麻痺・胸郭運動障害を呈する。不全麻痺を呈することが多い。
障害状況により以下の症状を呈する。
①ブラウン・セカール症候群
②中心性頚髄損傷
上肢麻痺 > 下肢麻痺(回復も下肢が早い)。自排尿は可能である。
③前部頚髄損傷
解離性感覚障害(温度覚優位)を呈する。
ウ.上・中位胸椎部
肋間筋麻痺による呼吸障害を見る。損傷部以下の運動・感覚障害の出現。胸郭の存在のため発生頻度は低い。
エ.胸腰椎移行部
発生頻度が高く、完全麻痺の頻度も高い。不全麻痺の状態であることもある。
脊髄円錐部の損傷では、サドル型感覚障害(S3以下の障害により、会陰部、肛門周囲から殿下部の全感覚障害がみられる。この領域が鞍に乗ったときにあたる部位であるので鞍状,騎袴状,サドル状などと呼ばれる。) 膀胱直腸障害を見る。
オ.腰椎部
両下肢の不全麻痺を見る。
4)治療(参考)
・救命処置
頚髄損傷の場合要呼吸管理。麻痺性イレウスや急性胃拡張に対し胃管による持続的吸飲
尿閉に対する導尿。起立性低血圧に対する対応。
・損傷脊髄への対処
骨傷の整復固定により,脊髄保護をはかることが最重要である。
受傷急性期の脊髄浮腫に対してステロイドの大量療法が行われる.
・慢性期治療
食事,書字,衣服着脱などのADLの確立、車椅子移動や歩行動作の基本訓練を行い、社会復帰への本格的なリハビリテーションに移行する。

7.整形外科外傷等
■1)骨折
(1)概念
外力により骨の構造上の連続性がたたれた状態。
*(2)原因
ア、外傷性骨折
 骨自体は正常であるが、その抵抗性以上の外力が作用するために起こる骨折。
イ、病的骨折
 骨に腫瘍や炎症などの病的状態が存在するために、軽微な外力でも起こる骨折をいう。
例:骨腫瘍、骨梅毒、骨結核、骨髄炎、くる病、骨軟化症等 
ウ、疲労骨折
 骨の同一部位に小さな外力が連続的に作用する場合に骨の連続性がしだいに途絶して発生する骨折をいう。
*好発部位 脛骨、腓骨、第2・3中足骨
(3)分類
ア、部位による分類(参考)
 骨幹部骨折、骨幹端骨折、骨端部骨折、脱臼骨折等
イ、程度による分類(参考)
完全骨折 : 骨連続性が完全に断たれたもの。
不完全骨折 : 骨の連絡が部分的に保たれているもの。亀裂骨折はこの中に含まれる。
ウ、骨折線の走行による分類(参考)
横骨折、斜骨折、螺旋骨折、粉砕骨折等
エ、骨折片相互の位置関係による分類(参考)
側方転移、長軸転移(短縮と離解がある)、屈曲転移、周転移(長軸を軸として互いに反対方向へ回旋するもの)、嵌入骨折等
*オ、骨折部と外界の交通による分類
皮下(単純)骨折:骨折部と外界との間に交通がないもの。
開放(複雑)骨折:骨折部と外界との間に交通があるもの。
カ、骨折数による分類(参考)
単発骨折、重複骨折、多発骨折等
*(4)症状
*①全身症状
 重篤な骨折では、疼痛と出血によりショック状態に陥ることがある
(四肢の単独皮下骨折ではショックに陥ることはない)
この様な場合は、内臓や大血管の損傷を考慮しなければならない。
②局所症状
*・疼痛
直達性局所圧痛(マルゲン疼痛):骨折部に現れる著明な痛み。
遠達性疼痛:衝撃痛・牽引痛・動揺性疼痛等で、不完全骨折に重要な症状である。
・機能障害
 骨折部の近接関節の機能障害が出現する、転移の程度の大きいほど機能障害は大きい。
・変形:腫張・転移等により変形がみられる。
・異常可動性と軋轢音
 管状骨の骨幹部に骨折が有れば異常な可動性がみられる。骨折端が互いに触れ合う音を軋轢音(轢音)という。
*(5)合併症
創傷感染、脂肪塞栓、重要臓器の副損傷、血管損傷、神経損傷等。
*(6)骨折の頻度
前腕骨、肋骨、下腿骨
鎖骨、手骨、上腕骨
大腿骨、頭蓋骨、足骨
膝蓋骨、胸骨、肩甲骨、脊椎骨盤の順である。
(上位のものを覚えておくぐらい)
*(7)各部位の骨折
ア.鎖骨骨折
 約8割が中央1/3、肘・手の動きは可能。
イ、肋骨骨折
好発部位は第5~8肋骨、心肺機能障害を起こすことがある
ゴルフによる疲労骨折も見られる。
ウ、上腕骨上端部骨折
 大部分が外科頚骨折である。高齢者や骨粗鬆症を有する女性に多い。
エ.上腕骨骨幹部骨折
投球や腕相撲等自分の筋力で起こすこともある。橈骨神経麻痺を起こしやすい。
オ、上腕骨顆上骨折
 血管の圧迫・損傷により、阻血性拘縮(フォルクマン拘縮)に陥り、前腕筋が壊死を起こし線維化することがある。橈骨神経・正中神経の麻痺を起こしやすい。
カ.上腕骨下端部骨折:小児に多い。(参考)
キ、モンテギア骨折
 尺骨骨幹部上1/3の骨折と橈骨小頭の脱臼を伴うもの。
☆名前を覚えておく
*ク、橈骨下端骨折(コレス骨折)
 高齢者に多く手をついて倒れた時に起こる。外見上フォーク様変形を呈する。
*ケ、大腿骨頚部骨折
 老人に多く発生する、多くは内側骨折である。最も骨性癒合の起こりにくい骨折の一つである。
・理由
老齢者に多い、関節内骨折なので骨折部に外骨膜がない、骨頭部の血液は頚部から供給されるので骨折により中枢部が虚血状態になりやすい、骨折片間に圧迫力が得られない等
コ.下腿骨骨幹部骨折
皮下の浅層にあるため開放骨折を起こしやすい。
サ.骨盤骨折
3種の骨が垂直に骨折するものをマルゲーヌ骨折という。
シ.脊椎骨折
頸椎の好発部位は5~7頸椎、頚髄圧迫により四肢麻痺を起こす。
第4頚髄以上の障害では横隔膜麻痺により死亡する。
胸腰椎部での好発部位:胸腰推移行部
(6) グルトによる骨折癒合日数
中手骨=2週、肋骨=3週 鎖骨=4週 前腕骨=5週 上腕骨骨幹部=6週 脛骨及び上腕骨頚部=7週 両下腿骨=8週 大腿骨=8週 大腿骨頚部=12週
(7)治療
①応急治療
骨折部に長い副え木を行い、包帯等での固定。医療機関では、全身状態のチェック、ショック等に対する治療。開放骨折では感染症に対する対策が重要。
②整復
ア.徒手整復
通常、上肢では伝達麻酔(神経ブロック)下で下肢では腰椎麻酔下で行う。
イ.牽引
介達牽引法:絆創膏等を使用して皮膚を介して行うもの。
直達牽引法:骨に鋼線を刺入して行うもの。
双鋼線牽引法:骨折部の中枢側骨と末梢側骨に鋼線を刺入し互いに離開するようにし牽引するもの。
ウ.観血的整復
③固定
ア.外固定:絆創膏固定、副子固定、ギブス固定
イ.内固定:軟鋼線締結、鋼線による串刺し、骨髄内固定
④リハビリテーション

■2)脱臼
(1)概念
関節包の損傷、または弛緩により関節面の相対関係が乱れ、関節面相互間に逸脱を生じた状態
・ 亜脱臼=関節面の一部がまだ接触を保っている。
1)分類
①外傷性脱臼
関節固有の可動域を越えた運動を強いられたとき関節を支持する関節包や靭帯に断裂が生じ、これらの組織の裂け目から骨頭が関節外へ逸脱した状態。肩関節・肘関節に好発する。関節包外脱臼である。
・症状
関節の疼痛・機能障害・関節端の異常位置・異常肢位・弾撥性固定(バネ様固定:強制肢位をとっている関節を他動的に動かすと、わずかに動くが、力を抜くとすぐにもとの肢位に戻ってしまうもの、外傷性脱臼に特有)。
・治療
できるだけ速い整復と固定および機能訓練。
②先天性脱臼
関節包が先天的に弛緩した状態となり、関節相互関係を保持できない状態。
③病的脱臼
関節の疾患による関節面の骨破壊、関節包の弛緩などにより相対面の乱れを来した状態
多くは関節包内脱臼である。
 注1)習慣性脱臼 :特定のある種の運動をするたびに脱臼する。病的脱臼はこれを起こしやすい。
 反復性脱臼:同一関節に僅かの外力で脱臼が頻発するもの。
注2)完全脱臼・不完全脱臼という分類もある。

■3)捻挫
(1)概念
関節固有の可動域を越えた運動を強いられたとき、関節包や靭帯などの関節支持組織に断裂などの損傷を生じ、瞬間的な亜脱臼が起こるが、自然整復された状態。
基本的には関節面の適合性は正常である。
足関節・膝関節・指関節(突き指)に好発。
(2) 症状
 疼痛・腫張・機能障害を示すが、脱臼より軽い。受傷外力と同一方向の外力を加えると疼痛の再現が可能である。
(3) 治療
整復以外は脱臼と同じ。

■4)変形性関節症
(1)概念
 関節の加齢現象、すなわち関節が退行変性によって関節構造の摩耗と増殖が混在して同時に起こり、関節の形態が変化する非炎症性、進行性疾患である。
(2)疫学
 X線学的、病理形態学的にみると成人人口の半分以上にいずれかの関節に変形性関節症の所見があるとの報告がある。また、65歳以上になるとX線検査で大部分の人に何らかの変形性関節症所見があるといわれている。
(3)分類
一次性変形性関節症:加齢に伴う関節軟骨の変性。脊椎・膝関節に多い。
二次性変形性関節症:他の疾患(外傷後・先天性股関節脱臼等)に続発するもの。 股関節に多い。
(4) 症状
・中年以後に多く、長期にわたって力学的負荷のかかった関節(膝関節・股関節)に好発
・RAと事なり、通常単発性である。手指では多発性の事もある。
・関節の疼痛:主に運動痛であり、運動始めに痛く動かしているうちに軽減する、疲れてくることによりまた痛みだす。
・しばしば関節腫張や水腫を見る、また関節の変形も出現してくる。

1)変形性股関節症
(1)概念
 股関節の軟骨の変性、摩耗によって関節の破壊が起こり、これに対応して骨硬化や骨棘形成などの骨増殖が起こり、股関節の変形と疼痛、運動制限を起こす進行性疾患である
(2)疫学
 一次性変形性股関節症:原疾患が明らかでないもの、本邦では約15%程度     
 二次性変形性股関節症:先天性股関節脱臼、同亜脱臼、臼蓋形成不全などの疾患に続発する。本邦では約80%程度。二次性の基礎疾患は女性に圧倒的に多いため、変形性股関節症もまた女性に多い。
(3)症状
 歩行や立ち座り、寝返りなどの股関節運動時の股関節部痛。跛行および可動域制限をきたす。歩容(歩く様)はトレンデレンブルグ徴候陽性である。
 注)トレンデレンブルグ徴候陽性:股関節外転筋力の低下のため、患側立脚時に骨盤は健側へ、肩は患側へ下がる。体が揺れて歩いているように見える。
(4)診断
 関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化像、骨嚢腫の出現、骨頭の変形、骨棘の形成、臼蓋形成不全、シェントン線の乱れなどが出現する。
 注)シェントン線:正常な股関節では恥骨内下縁(閉鎖孔の上縁)のカーブを延長すると大腿骨頸部内縁をスムーズになぞる。この線をシェラトン線といい、股関節脱臼ではこの2つの線が連続せず乱れる。
(5)治療
①保存的治療
ア,生活指導
 股関節への負担を減らすために体重減量、杖の使用、長時間立位・歩行の制限などを 指導する。
イ,補装具
 補装具を下肢短縮や内転拘縮例に用いることがある。
ウ,薬物
 基本的には外用薬を補助的に用い、原則として鎮痛薬の使用は控える。
②観血的治療
ア,原則
 関節裂隙が完全に消失している末期の変形性股関節症には関節を切除する人工関節全 置換術、または固定術(片側例に限る)を行う。関節裂隙が少なくとも一部に残存する場合(進行期まで)は関節を温存する骨切り術を考慮する。
イ,手術適応の判断
 50代まではなるべく関節温存を心がけ、保存的治療を行っても少しずつ症状およびX線所見が進行する場合、骨切り術の適応があれば早めに手術を考慮する。しかし人工関節全置換術の適応の場合には、なるべく保存的治療により手術時期を遅らせる努力をする。60代以降では日常生活に支障を及ぼす場合には、人工関節全置換術を行う。
(6)予後
 進行は緩徐であるので、保存的な療法でしばらく経過を観察して進行するようであれば、また、疼痛が強いようであれば観血的治療を考える。

2)変形性膝関節症
(1)概念
 関節の軟骨の変性、摩耗によって関節の破壊が起こり、これに対応して骨硬化や骨棘形成などの骨増殖が起こり、膝関節の変形と疼痛、運動制限を起こす進行性疾患である。
(2)疫学
 変形性股関節症とは異なり、膝関節では一次性が多い。40歳以上の太った女性に多い
(3)成因と病態生理
ア.一次性変形性膝関節症
 加齢による関節軟骨の退行変性と荷重と関節運動の機械的刺激が作用して摩耗による関節の変形と増殖性変化を起こすが、肥満、動脈硬化、関節軟骨破壊酵素の活性化、性ホルモンの影響もある。
イ.二次性膝関節症
 半月板損傷、靭帯損傷、骨折、化膿性関節炎、関節リウマチなどに続発する。
(4)症状
ア.疼痛
 椅子から立ち上がるなどの運動開始時に多い。温泉などの温熱効果で改善する傾向があるが、関節裂隙、ことに内側に圧痛を認めることが多い。
イ.関節腫脹
 病勢の進行により出現。膝蓋骨の輪郭が不明になる。また、関節液が貯留し膝蓋骨の浮動感を認める。
ウ.運動制限
 多くは疼痛のためであるが、やや進行すると屈曲拘縮をきたす。
エ.関節の変形
 内反変形でO脚を呈することが多いが、外反変形も散見する。
 オ.大腿四頭筋の萎縮、筋力低下
 本症に限らず膝関節疾患全般に当てはまるが必発である。そのため階段の下りに難渋する。
(5)診断
ア.X線撮影
 関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化像と骨萎縮像の混在、骨嚢腫の出現、骨棘の形成、関節内遊離体(関節ねずみ)、半月板の石灰化などが出現する。
イ.関節液検査:
 淡黄色透明で、粘稠性がある。ヒアルロン酸の濃度と分子量が低下している。
(6)治療
① 保存的治療
ア、生活指導
 膝関節への負担を減らすために体重減量、杖の使用、長時間立位・歩行の制限、正座 を避けることなどを指導する。
イ、理学療法
 仰臥位での下肢挙上訓練など、四頭筋強化トレーニングを指導する。また、水中歩行 は膝にかかる体重の負荷が少なくてすむので合理的である。
ウ、装具
 内反膝には外側を高くした、また、外販膝には内側を高くした楔状足底板を使用させる
エ、薬物
 基本的には外用薬を補助的に用い、原則として鎮痛薬の連用は控える。薬剤療法の1つとして除痛と関節水腫の改善を目標に漢方の防已黄耆湯を使ってみる価値はある。
オ、関節内注入療法
 関節内注入療法としては、ヒアルロン酸ナトリウム、キシロカイン、ステロイド薬を用いるがステロイド薬についてはその頻用は不適当である。
② 観血的治療
 観血的治療法には、関節鏡視下デブリドマン郭清術)、脛骨高位骨切り術、人工膝関節置換術がある。末期変形性膝関節症には人工膝関節置換術が行われる。

3)変形性足関節症
(1)概念
 足関節は距骨と脛骨・腓骨の遠位端にある関節面よりなる。この部における進行性の退行性変性疾患が変形性足関節症である。
 足関節は可動域も比較的少なく、構築学的に強固な関節であり、ほかの荷重関節に比べ一次性関節症の頻度は少ない。大部分は、足関節部の脱臼・骨折や靭帯損傷などの外傷、感染や麻痺などに続発する二次性のものである。
(2)症状
 足関節部の変形、腫脹、可動域制限があり、局所熱感や圧痛、軋轢音を認める。
(3)治療
① 保存的治療 
他の変形性関節症とほぼ同じ。足底板を装具として重宝する。
② 観血的治療
 ア、関節内デブリドマン
 骨棘や関節内遊離体、(関節ねずみ)を切除摘出し、関節面の衝突をなくし可動域の改善をはかる。
イ、靱帯再建術
 足関節外側靱帯損傷後の不安定性に起因する二次性関節症に適用する。
ウ、足関節固定術
 確実な除痛と安定性が得られる有用な治療法であり、今日においても広く適用されている。 関節鏡下に行うこともある。
エ、その他 : 骨切り術、人工関節置換術など。

4)変形性肘関節症
(1)概念
 肘関節軟骨の退行変性に反応性の増殖性変化が加わる疾患である。
(2)成因
 肘関節の骨折などの外傷、関節炎、離断性骨軟骨炎(関節ねずみ)、削岩機やチェーンソーのような振動工具の長時間の使用、野球選手における投球動作、相撲取りにおける「鉄砲」のやり過ぎなど、肘関節の過度の使用によって、関節軟骨が変性、摩耗し、骨棘が増殖する。
 ときに原因不明のものも散見する。
(3)症状
ア.疼痛
 ことに肘使用後に疼痛と可動域制限をきたしやすくなる。
イ.可動域の制限
 屈曲、伸展制限が多く前腕回旋運動は障害されない。ときに関節内遊離体(関節ねずみ)が嵌頓を起こして屈曲・伸展が急に制限される。また、軋轢音を認めることがある。
ウ.その他
 尺骨神経溝(上腕骨内側上顆の後面)に骨棘が形成され、尺骨神経の絞扼性障害である肘部管症候群を伴うこともある。
(4)診断
 関節裂隙の狭小化、骨の萎縮と硬化像、骨棘の形成、関節内遊離体(関節ねずみ)を認める。尺骨神経の運動神経・知覚神経伝導速度の測定によって尺骨神経の障害があれば遅延を認める。
(5)治療
① 保存的治療
 自覚症状が軽ければ保存療法だけで様子をみる。内容はほかの変形性関節症とほぼ同様である。
ア、局所の安静
イ、理学療法
ウ、薬物療法:鎮痛薬の内服頓用と外用
エ、注射療法:ステロイドあるいはヒアルロン酸ナトリウムの関節内注射、ステロイドの頻用は好ましくない。
頓用=痛みなどの症状がある時だけ臨時に使うこと。
②観血的治療
ア、関節形成術
 疼痛と可動域制限に対する手術、骨棘切除、癒着剥離、瘢痕切除、関節遊離体(関節ねずみ)の除去を行う。肘部管症候群があればその処置を行う。
イ、肘部管症候群に対する手術
 神経剥離術、神経を圧迫している上腕骨内側上顆の切除術、尺骨神経前方移行術。
(6)予後
 比較的良好。関節形成術の手術後は早期にCMP(持続他動関節運動)を行う。

5)手指の変形性関節症
(1)概念
ア.ヘバーデン結節:遠位指節間関節(DIP)に生ずる変形性関節症、
イ.ブシャール結節:近位指節間関節(PIP)に生ずる変形性関節症
 基本的には加齢に伴う退行変性であるが、遺伝性の証明される例もある。
(2)疫学
 40歳以上の女性に多い。男:女 = 1:10程度。ヘバーデン結節のほうがありふれていて、ブシャール結節はヘバーデン結節のある20%に合併するといわれている。
(3)症状
 両手の複数のDIP関節やPIP関節部に軽度の疼痛、こわばり感ともに徐々に出現する。最初は軽度の熱感と発赤を伴うことが多い。関節裂隙の狭小化と両側方への骨棘の形成によって関節部は節くれ立ってくる。ときに側方に脱臼して指が曲がることがあるほか、軽度屈曲位で拘縮を起こすことも稀ではない。運動は軽度障害される。
(4)診断
 関節裂隙の狭小化、骨の萎縮と硬化像、骨棘の形成を認める。
(5)治療
 保存的治療が中心で観血的治療は通常しない。自覚症状が軽ければ保存療法だけで様子をみる。治療内容はほかの変形性関節症とほぼ同じ。
①局所の安静
②薬物療法:鎮痛薬の内服頓用と外用。
③注射療法:ほかの変形性関節症と異なり、小関節なのでまず注射はしない。
(5)予後
 まず、変形が治ることはないが、一定のところで進行は止まり、疼痛も軽減ないし消失してくる。 

■5)大腿骨頭無腐性壊死
(1)概念
 成人の大腿骨頭に発生する無腐敗性・無血管性壊死である。
(2) 分類
ア、症候性大腿骨頭壊死
原疾患として、大腿骨頭頚部骨折・外傷性股関節脱臼・潜函病・鎌状赤血球症・放射線照射後骨移殖後・SLE等があげられる。
イ、特発性大腿骨頭壊死
原因不明、アルコール多飲・副腎皮質ステロイド剤等の関連性が指摘。
(3)発生機序
 脂肪塞栓・血管病変・血液凝固異常・骨梁の微小骨折による二次的血行障害等が挙げられている。
(4)症状
男性は女性の3~4倍の発症率。5割は両側性に発症する。股関節痛をみる。起立歩行により増悪し安静により軽減する。次第に運動制限を来す特に外転と内旋の制限著明。
(5) 治療
血管柄付骨移殖術、骨きり術、人工関節置換術等

■6)ペルテス病(若年性変形性骨軟骨炎
(1)概念
 大腿骨骨端核の虚血性壊死を見る疾患。骨端炎の代表的疾患。大腿骨頸部に及ぶこともある。
(2)原因:大腿骨頭支配動脈の血行障害。
(3)疫学
幼少年期(3~12)の男子に多い。女性の約4倍)
(4) 症状
疼痛、運動時痛(股関節から大腿内側部痛が主)。跛行、骨頭変形を残し変形性股関節症を呈することもある。

■7)オスグッドシュラッター(シュラッテル)病
(1)概念
 思春期(12~15)の男子に多く発症。脛骨結節が著しく隆起し痛みを訴える疾患。
(2)誘因
慢性機械的刺激
(3)症状
正座及び膝関節運動時の痛み、圧痛。疼痛は自然に消失するが、骨隆起は残る。

■8)五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・疼痛性肩関節硬着症)
(1)概念
 いわゆる五十肩といわれるものは、50代を中心として40代後半から60代前半にかけて発来する肩関節の痛みと関節拘縮を主な兆候とする症候群に与えられたやや通俗的な病名である。より医学的な名称としては肩関節周囲炎という。
(2)疫学
非常にありふれた疾患である。男女差はない。50代に多い。ついで60代、40代と続く。
(3)原因
①肩関節周囲の軟部組織の老人性退行性変化。
②老人性変化のある組織に外傷(打撲・過労など)が加わる。
③解剖学的構造の特殊性
棘上筋腱を中心とするローテータカフの烏口肩峰靱帯下での通過障害など。
注)ローテーターカフ(回旋腱板):上腕骨大・小結節、および外斜頚の一部につく肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋の筋腱部の臨床的呼称。
(4)病理解剖
ア、肩関節周囲筋腱の慢性炎症と石灰沈着。(肩甲下筋・棘上筋・小円筋・棘下筋など)
イ、滑液包の慢性炎症と癒着・石灰沈着
ウ、結合組織炎その他
(5)主病変の頻度
腱板炎(石灰沈着性含)・腱板断裂(34%)、肩結合織炎(26%)。上腕二頭筋長頭筋腱炎(9%)、疼痛性関節制動症(いわゆる五十肩、18%)、滑液包炎(2%)
その他 : 烏口突起炎、肩関節拘縮(二次性のもの)、臼蓋上腕靱帯障害
(6)症状
主症状は肩甲部の疼痛と肩関節の運動制限である。発生様式 : 急性のものから慢性のものまで種々。
①疼痛
 肩関節部の不快な違和感・倦怠感のもののから、自発痛が頚部・上腕・前腕・手に放散するものまで種々。
に夜間の痛みが強く睡眠障害を招くことも
寒冷も痛みを増悪させる。
肩の局所の熱感や発赤・腫脹は顕著ではない
もしそうした症状があって、疼痛が激しい場合には五十肩よりも石灰沈着性腱板炎を疑う。
C4・5間のヘルニアでは五十肩と同じ様な部位に疼痛があるので鑑別が必要となる。
②運動制限による分類(疼痛の強弱に並行しない)
・制動型
五十肩の9割を占める。上腕の前方・側方挙上の可動制限、水平位までの挙上が精いっぱいである。
上腕の回旋運動の制限、上腕が前額面より前にあるときは外旋運動の障害がでる、それにより結髪が困難となる。
上腕が前額面より後ろにあるときは内旋運動の障害、それにより帯結びが困難となる。
・強直型
制動型がさらに進行して行くもので、関節の強直をおこし、可動制限が著しいもの。
・弾撥型
関節運動のある特定の場所で可動性が制限され、その部を越えればさらに運動が続けられるもの。
★棘上筋・棘下筋に廃用性萎縮出現のことあり。
③拘縮
発症の比較的早期の段階においても拘縮を認める。一方、拘縮がない場合には五十肩よりも腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱障害を示唆する。
(7)検査法
①一般的検査
・発赤・腫脹・熱感の確認
・指椎間距離の測定
CMD=結髪動作における第7頸椎と中指の距離
CTD=結滞動作時における第7頚椎と拇指との距離
・三角筋・棘上筋・棘下筋の萎縮の有無及び弾力性の確認。
患者の上肢を下垂し検者は後ろに立ち、鎖骨の外端部で上腕骨頭の上に指をおいた方の反対の手で肘頭部を引き下ろす。このとき、肩峰と上腕骨頭との間に隙間ができると弾力性があるものとする。 
②理学的検査法
腱板損傷で陽性を示すもの:ペインフイル・アークサイン、ダウバーン徴候、アームドロップサイン、
上腕二頭筋長頭筋腱鞘炎に陽性を示すもの:ヤーガソンテスト、スピードテスト、
(8)治療
鎮痛薬投与・温熱療法・ステロイド剤や局痲剤の注入も行われる。
運動療法
 疼痛を恐れ、自主的に可動域を制限していると拘縮が出現するため、種々の器具(棒・荷重・輪転機・滑車など)を使い可動域の拡大を測る。
 他動運動・自動運動(アイロン体操・コッドマン体操・棒体操・壁対向運動・壁上向運動等)
(9)経過と予後
 狭義の五十肩(肩関節周囲炎)の場合:痙縮期 → 拘縮期 → 回復期と各期数ヶ月をかけて経過し、予後はおおむね良好で1年ないし1年半で日常生活に支障がなくなることが多い。

■9)いわゆる腰痛症
(1)概念
 原因のはっきりしている腰痛を除いたものをさし、他覚的所見に乏しいものである。
・筋・筋膜性など軟部組織由来のもの、姿勢不良による疲労性のもの、椎間関節性の関連痛などが考えられる。
・腰痛とは症状名で、最後までその原因が明らかにならないとき腰痛症と診断される。しかし両者はしばしば混乱して用いられている。
(2)原因
①腰椎の先天的異常などによる腰痛:脊椎分離症。脊椎辷り症、腰仙部の奇形等
②外傷に起因する腰痛:脊椎骨折、仙腸関節捻挫等
③椎間板の退行性変性による腰痛
椎間板ヘルニア。変形性脊椎症、加齢(40歳以上)による椎間板の変性が基盤となり骨棘の形成や椎骨の変形をきたし、靱帯の肥厚や過緊張と共に疼痛出現。
・症状
腰痛・下肢のしびれ・冷感・円背運動制限等、骨軟骨症、髄核の変性から始まり骨堤の形成を見る。
④骨の代謝異常による腰痛:骨粗鬆症、骨軟化症等
⑤軟部組織に起因する腰痛
ア.筋・筋膜性腰痛
 急激な伸展や捻転により筋・筋膜の炎症が起こり疼痛を起こすもの(脊髄神経後肢が、筋膜を貫く部位に刺激が加わるために発生する)。慢性になると循環障害と共に筋硬結を伴う。
好発部位は脊柱起立筋部である。
軽度の圧迫で疼痛を誘発することができるのが特徴である、前屈運動制限をみる。
神経伸展テストは陰性である。
イ.後方靱帯断裂症
 棘間靭帯・棘上靱帯が体を強く前屈したときに断裂するもので、痛みは腰仙部に限局されスプラングバックとも呼ばれる。椎間関節性腰痛との鑑別が必要である。
ウ.黄靱帯肥厚
⑥炎症に起因する腰痛:脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、リウマチ性脊椎炎、脊髄癆性脊椎症等
⑦解剖学的構築に起因する腰痛
ア.姿勢性腰痛
 不良姿勢などにより胸部の後弯及び骨盤傾斜・股関節と膝関節の屈曲が起こり、頚部と腰部の前弯が増強すると、脛筋や腰筋の緊張を高めて、頚・肩のこりや腰痛の原因になる。腹筋・大殿筋が弱化している。
イ.側彎症
 神経性(麻痺性・痙性)・習慣性・疼痛性特発性(思春期の女子に多い)がある。
ウ.脊柱管狭窄症
 黄色靭帯・後縦靭帯の肥厚や椎間板の脊柱管内への突出などにより、脊柱管が狭窄され様々な症状を呈するもので、間歇性跛行を見る。
⑧腫瘍に起因する腰痛
⑨脊椎骨の異常可動性に起因する腰痛
ア.脊椎不安定症
無分離辷り症ともいわれる。
イ.椎間関節症
 椎間関節性腰痛と広くいわれ、その部の関節包の障害や関節軟骨の障害が原因である。急性のものは椎間関節捻挫によるものが多く、ギックリ腰の原因の 一つでもある。  慢性のものは加齢による変性を基盤として現れる。
⑩内臓疾患に起因する腰痛
⑪腰痛症
(3)姿勢による疼痛発現と疾患
・前屈痛--腰椎椎間板ヘルニア・軟部組織の損傷
・後屈痛--脊柱管狭窄症・軟部組織の損傷
・側屈痛--椎間関節性腰痛、軟部組織の損傷(関節軟骨の障害の場合は側屈側が痛み、関節包の障害では反対側が痛む)
・自発痛--急性期の軟部組織・骨の障害。感染症や腫瘍、内臓疾患の場合。

(4)運動療法
 代表的なものにウイリアムズの腰痛体操がある。この体操は腰背筋・腹筋・殿筋などの筋力強化と、腰背筋・ハムストリングス・腸腰筋などの引き伸ばしあるいは柔軟性の獲得を目的としている。炎症性・腫瘍性・外傷性の腰痛は適用外である。
1)ウイリアムズの腰痛体操
①膝屈曲臥位からの起き上がり(腹筋強化)
②腰を上げないで殿部だけをベットから持ち上げる。(大殿筋強化)
③仰臥位で両膝を抱え込む(腰背筋伸張)
④長坐位で上体を前屈する。(腰背筋とハムストリングスの伸張)
⑤両脚を前後に大きく開いてしゃがみ、両手を床について殿部を床に向かって押しつける(腸腰筋と下腿三頭筋の伸張)
⑥立ったり、しゃがんだりする。(腰背筋伸長)

■10)頚腕症候群
(1)概念
・頚部・肩・上肢にかけて、疼痛を主として、しびれや冷感、こわば り等を伴う症候群につけられた総括的な名称。
・頚から肩・腕・手指にかけての諸々の症状を伴う症候群をいい、頚椎及び周囲の軟部組織の退行変性・解剖生理学的弱点を基盤として現れるものである。
(2)病理
 頚髄神経根、腕神経叢、上肢末梢神経領域の連鎖的疼痛状態で、これに血管運動神経の関与、鎖骨下動・静脈の関与する末梢循環障害が加わり、さらに心因的要素も関与している
(3)原因による分類
1)先天的な形態異常によるもの
 ①頚肋症候群:余分な肋骨が第6または第7頚椎(これが主)に付着するもの。
 ②頚椎骨欠損
 ③頚椎骨融合

2)頚椎および椎間板の退行性変性(頚椎椎間板症)
①変形性脊椎症:椎間板の変性萎縮のため骨棘が形成され、それにより痛覚受容器が刺激されたり、椎間孔が狭くなり神経根の圧迫が起こる。
脊柱のいずれの部位にも生じ得るが、腰椎、頚椎、胸椎の順に多い。40歳以上の男性に多い。
②椎間板ヘルニア:椎間板の変性により内容物である髄核が、主に後外方に脱出し神経根を圧迫する。
好発部位は、C5・6、C6・7、C4・5間の順である。20~40歳代の男性に多い
3))胸郭出口症候群
(1)概念
鎖骨下動脈及びその後方を並行して通る腕神経叢は、斜角筋隙 → 肋鎖間隙(鎖骨と第1肋骨との間) → 小胸筋直下 → 腋窩という経路を通る。これらの解剖学的部位を胸郭出口と総称する。
 胸郭出口における神経血管束の圧迫症候を胸郭出口症候群という。
(2)分類
①斜角筋症候群
 斜角筋三角を通る鎖骨下動脈・腕神経叢の枝がこの部位で圧迫され種々の症状を呈する。(鎖骨下静脈は通らないことに注意)なで肩の若い女性に多い。
②肋鎖症候群
 鎖骨と第1肋骨の間に腕神経叢の枝・鎖骨下動脈・鎖骨下静脈が圧迫され種々の症状を出すもの。
胸を張り肩を下げるような動作で肋鎖間隙は一層狭小化する。リュックサックを長時間使用することにより起こるいわゆるリュックサック麻痺はこの部位で起こる。
③小胸筋症候群(過外転症候群)
 小胸筋の下を腕神経叢の枝・鎖骨下動脈・鎖骨下静脈が通り、上腕を過外転した場合、小胸筋と肋骨の間で圧迫され種々の症状を出す。上肢を挙上して仕事する人に多い。
④頚肋症候群
 第7頚椎にはしばしば不完全な肋骨が存在する、これを頚肋といい、これに起因する症候群を頚肋症候群という。
頚肋は根跡的なものから正常な肋骨に近い形のものまで種々のものがあり両側に認めることが多い。
X線像上の頚肋の存在は比較的高頻度に認められるが、多くはこれによる特別の症状を伴わず、治療の対象とはならない。
一部のものでは頚肋が直接胸郭出口において腕神経叢や、鎖骨下動脈を圧迫して種々の症状を呈するものがある。時には小さな頚肋から異常な線維性索状物が胸郭出口にのびて同様の症状を起こすこともある。
(3)症状
何れの場合でも症状は極めて類似しているので、厳密に区別することは困難である。
10歳~20歳代の女性に多く、いわゆるなで肩の人に多い。
上肢のしびれ、だるさ、尺側領域の知覚障害、手指の冷感、チアノーゼ、発汗異常等をみる。

4)職業的強制姿勢の持続による筋の過労
 キーパンチャー病・VDT症候群などがあり、肩甲挙筋・菱形筋・僧帽筋などが過緊張を起こし疼痛の原因となる。
①キーパンチャー病
・キーパンチャーやタイピストなど、手指を反復使用するような職種に多い疾患である。 ・手指の腱鞘炎や肩こり、腕のしびれなどを呈する。 ・痩せ型の神経質な女性に多く、心因も関与している。
② VDT病 (video displayterminals disease)
・キーパンチャー様の症状に加えて視覚機能障害、不快感、全身倦怠感等を伴ってくる

5)むち打ち損傷
(1)病態の違いによる症状の分類
①軟部組織の障害によるもの
 筋緊張性頭痛・肩こり・頚のこり・肩甲間部への関連痛など。
②根障害型
 前根の障害のときは筋力の低下・循環不全による皮膚温の低下や脱力感を呈する。後根の障害によるときは異常知覚・知覚異常などがデルマトームに従って現れる。
③椎骨動脈の循環障害によるもの:耳鳴(感音性)・幻暈の出現。
④頚部交感神経の刺激症状 (バレーリュウ症候群)
 頚椎のズレなどが原因とされ交感神経の過緊張による症状のうち、頭部・頚部に現れるものをバレー・リュウ症候群と呼んでいる。
⑤頚髄圧迫型
頚部の脊柱管の狭窄や正中部への椎間板ヘルニアにより脊髄を圧迫するもので腱反射の亢進や病的反射の出現、巧緻運動障害、膀胱直腸障害などが現れる。
(2)頚腕症候群の理学的検査法
ア.一般的検査
 ①触診・アライメント:筋の触診、前・後・側彎・棘突起の階段変形等
 ②疼痛:前屈・後屈・側屈・回旋痛、圧痛、叩打痛、
 ③反射:腱反射(上腕二頭筋反射・上腕三頭筋反射・腕橈骨筋反射)、病的反射(バビンスキー・ホフマン反射)
 ④筋力検査・知覚検査・握力検査等
イ.徒手検査法
 ①頚椎・頚髄疾患の検査
ジャクソン(椎間孔圧迫)テスト、スパーリング(過伸展圧迫)テスト)、肩押し下げ(ジャクソン肩圧迫)テスト、イートン(神経伸展)テスト
 ②胸郭出口症候群の検査
斜角筋緊張位検査・ハルステッドテスト ー 斜角筋症候群で陽性
モーリーテスト ー 斜角筋・肋鎖症候群で陽性
アドソンテスト ー 頚肋・斜角筋症候群で陽性
アレンテスト ー 斜角筋・過外転・頚肋症候群椎間孔狭小で陽性
エデンテスト ー 肋鎖・頚肋症候群で陽性
ライト(過伸展)テスト ー 過外転・肋鎖症候群で陽性
(3)治療
ア.保存的療法
 正しい姿勢の指導、肩・頚の筋力増強、温熱療法、マッサージ等
・運動療法
 頚肩腕部の軟部組織の柔軟性を回復させるためラジオ体操などの様々な運動をさせたり、または他動的に頚肩腕部の伸張運動を行う。ただし頚部の伸展よりも屈曲、肩甲骨の挙上よりも下制、内転よりも外転を重視するのが原則である。
イ.観血的治療
斜角筋切断術、第1肋骨の部分切断術、小胸筋切除術等

8.スポーツ外傷・スポーツ障害
■1)スポーツ障害とスポーツ外傷の種類と病態
(1)スポーツ外傷
 スポーツ中に外傷が加わって発生する外傷。
RICEの処置を行うのが基本である。
(R=レスト・安静、I=アイス・冷却、C=コンプレッション・圧迫、E=エレーベーション・挙上)
 例:骨折・脱臼・捻挫・挫傷・肉離れ・腱断裂等
(2)スポーツ障害
 スポーツ外傷に対する言葉で、主にオーバーユースシンドローム(使いすぎ症候群)に属し、オーバーユース・小外傷症が原因となり、慢性的なものをさす。

■2)スポーツ障害の発生機序
ア.オーバーユース
イ.小外傷
ウ.解剖学的特性
 例 : 膝蓋靭帯炎=脛骨の外旋、
膝蓋骨圧迫症候群、膝蓋大腿関節の軽度の不適合・膝蓋滑活動性の欠如
エ.衝突症候群(インピンジメントシンドローム))
解剖学的構造上、スポーツ使用上衝撃を受けることにより疼痛を訴えてくるもの。
例 : 水泳肩・サッカーによる足関節障害等
オ.絞扼性症候群(エントラップメントシンドローム)、注)エントラップ = 罠にかける
圧迫性神経障害ともいい、神経が靱帯などのエントラップにかかって障害されたものをいう。
物理的原因による圧迫性の単神経障害であるが解剖学的に特定の部位に発生するものであり、円回内筋症候群・手根管症候群・肘管症候群・足根管症候群等が挙げられる。
カ.その他
場所、靴、フォーム等による問題。

  3.種目別スポーツ外傷・障害を記す。 
  ア、陸上競技
 下腿の疲労骨折・脛骨疲労性骨膜炎・アキレス腱の疼痛・踵骨痛・足底筋膜炎・肉ばなれ・膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)等
 イ、体操
 膝靭帯損傷・半月板損傷・足関節捻挫・アキレス腱断裂・ジャンパー膝等
 ウ、野球
 野球肩 = 肩前面の障害・肩後面の障害・脱臼神経血管の障害・筋の障害等)
野球肘 = 野球により生ずる肘の疼痛性疾患の総称である。
 外側:上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎
 内側:上腕骨尺側上顆の骨端線離開
 エ、バスケットボール
膝前十字靭帯損傷・膝内側側副靭帯損傷・膝半月板損傷等
 オ、バレーボール
 肩関節障害・ジャンパー膝・アキレス腱障害等
 カ、水泳
 水泳肩 = 棘上筋腱や上腕二頭筋長頭筋腱の反復使用により腱炎をこし肥厚するる。これが烏口肩峰靭帯の外側や肩峰前方に衝撃を加えて疼痛を生ずるもの。
 キ、テニス :
バックハンドテニス肘 = 上腕骨外上顆炎、テニス肘の大半を占める
フォアハンドテニス肘 = 上腕骨内上顆炎

  4.各部位における疾患

  (1)テニス肘(上腕骨外側上顆炎または内側上顆炎)
  ア.外側上顆炎の特徴
 前腕の浅層にある伸筋の大部分は、共通の起始腱を持って外側上顆から起こる。オーバーユースにより外側上顆の骨膜に、骨膜炎を生じ、痛みが出る。
 短橈側手根伸筋が特異的に犯されやすい。
  イ.内側上顆炎の特徴
 テニスでは特にバックハンドの際に外側上顆炎を起こしやすく、ゴルフではインパクトの瞬間に内側上顆炎を起こしやすい。

(2)絞扼神経症
 圧迫性神経障害ともいい、神経が靱帯などのエントラップにかかって障害されたものをいう。
 物理的原因による圧迫性の単神経障害であるが、解剖学的に特定の部位に発生するものであり、
 円回内筋症候群、手根管症候群、肘管症候群、足根管症候群等がある。
 ア.円回内筋症候群
 前腕前面上部で円回内筋の上腕頭と尺骨頭の間を通る正中神経が両頭の間で圧迫を受け支配領域に症状が出るもの。
  イ.手根管症候群
 手関節部の骨と横手根靱帯によって構成されている空間、すなわち手根管内で正中神経がなんらかの原因によって圧迫障害され、末梢部の神経障害を起こすものをいう。
 中年女性に比較的よくみられ、手関節を反復して動かす職業、例えばマッサージ、研磨、床磨きなどに従事している人に起こりやすい。
 一側または両側性に手掌部がピリピリする疼痛が特徴的で、夜間に著しい。
 ウ.肘部管症候群
 肘管症候群、遅発性尺骨神経麻痺ともいう。
 尺骨神経が肘トンネルを通過する過程において、    絞扼あるいは圧迫によって引き起こされる神経障    害。
 エ.尺骨神経管症候群
尺骨神経管(Guyon管)は、掌側手根靱帯(掌側)豆状骨・尺側手根屈筋腱様線維(尺側)、屈筋腱膜・豆鉤靱帯(背側)、有鉤骨鉤(橈側)で構成され、この管内を尺骨神経・尺骨動脈が通る。尺骨神経はここで浅枝と深枝に分岐する。この部分で尺骨神経の慢性圧迫または絞扼により麻痺を生ずるものを尺骨管症候群という。
(3)神経麻痺
 ア.橈骨神経麻痺
 イ.正中神経麻痺
 ウ.尺骨神経麻痺
(4)狭窄性腱鞘炎
 腱鞘滑膜に反復して過剰摩擦が加わり、漿液性の炎症を起こしたものを腱鞘炎といい、靱帯性腱鞘が肥厚して狭窄をきたしたものを狭窄性腱鞘炎という.
deQuervain腱鞘炎、ばね指などが代表的である。
  ア.ばね指(弾撥指)
 指のIP関節の屈伸運動が円滑にできないで、伸展時あるいは屈曲時に途中でひっかかる。時に曲がったまま伸びなくなる。
 指屈筋腱の靱帯性腱鞘近位端のMP関節レベルにおける狭窄性腱鞘炎が原因。
  イ.ドゥケルバン病
長母指外転筋腱と短母指伸筋腱が通る手関節第1背側区画での狭窄性腱鞘炎。
(5)動脈閉塞
(6)肘内障
 脱臼の一つで肘を伸展し前腕を回内したときに牽引力がかかると輪状靱帯から骨頭がはずれる。
(7)上腕骨顆上骨折
 介達骨折の一つ。骨折ではヒューター三角(肘屈曲位で内側上顆と外側上顆及び肘頭によって出来る三角)が存在するが脱臼では消失する。
(8)半月板損傷
 壮年の男子に多く、労働者、スポーツマンなどでしばしば見られる。
 ほとんどが内側半月板の損傷である。その理由は外側半月板に比べ内側半月板は脛骨面状の固定が強固なことが挙げられる。
 初期の症例では外傷と共に膝に疼痛を覚え、歩行は困難である。(押しアップレイ・マックマレー)
(9)靱帯損傷
  ア.側副靭帯損傷
 内側側副靭帯損傷が多い。圧痛点は内側靱帯の大腿付着部。他動的に外反すればこの部に痛みが起こる。(ストレステスト)
  イ.十字靭帯損傷
 急激な疼痛と腫脹がある、
前十字靭帯では引き出し現象が見られる。
後十字靭帯の損傷では下腿は後ろへ滑り出す。(引き出しテスト・押し込みテスト)
(10)ランナー膝(膝蓋軟骨軟化症)
 ランニングなどによる膝の屈伸に伴い、下腿が大腿骨に対して内旋外旋を繰り返すことにより、膝蓋大腿関節部で摩擦が起こり関節面がなめらかでなくなる為に発症する。(膝蓋骨引き下げテスト)
(11)腸脛靱帯炎
 中距離ランナーに多く見られ、腸脛靱帯と大腿骨外側上顆との間で起こるインピンジメントである。(グラスピングサイン)
(12)鵞足炎
 内側裂隙より下方5センチあたりで生じる機械的炎症によるものである。
(13)ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)
 ジャンプを繰り返すことにより膝蓋骨の下端と膝蓋靭帯との間で摩擦が起きるもの。痛みは膝蓋骨の下端に生じるのが特徴。
(14)オスグッドシュラッテル病
 小学校高学年から中学校にかけて比較的激しいスポーツを行うものに見られる。
 膝蓋靭帯の付着部である脛骨粗面から骨片が剥離するものである。これは骨の成長に筋の成長が追いつかないため腱に牽引力が働くためと考えられる。
(15)脛骨の疲労骨折
 オーバーユースによるもの。ジャンプ型では脛骨の中央部に多く、疾走型では近位部または遠位部1/3部分に起こる。
(16)ンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
 下肢の疲労骨折や阻血性障害を除いた筋腱の炎症。
(17)環椎破裂骨折(ジェファーソン骨折)
後頭部痛・環椎回旋障害が出現してくる。

■5)圧痛と疾患の関係について
 ①後十字靭帯損傷 : 膝窩部
 ②内側側副靭帯 : 内側側副靭帯に沿って陥凹と共に圧痛がある
 ③半月板損傷 : 関節裂隙部
 ④ジャンパー膝 : 膝蓋骨下部、膝蓋靭帯、脛骨結節部、
 ⑤オスグッド病 : 脛骨結節骨隆起に伴う圧痛あり
 ⑥大腿四頭筋炎 : 膝蓋骨付着部に圧痛を見る
 ⑦腸脛靱帯炎 : 大腿骨外側顆の上方3㎝あたりの部。
 ⑧膝蓋軟骨軟化症 : 膝蓋骨周辺部

(付記)留意する症状
 ①膝関節部に強い自発痛や夜間痛を訴え、経過が進行性の場合は悪性腫瘍を考える。
 ②関節部に著明な腫脹・発赤・熱感がある場合は化膿性膝関節炎を考える。
 ③嵌頓症状を繰り返す場合は半月板損傷・離断性骨軟骨炎を考える。
 ④受傷後15分から1時間で著明な腫脹が現れた場合は関節内骨折・靱帯損傷を考える
 ⑤関節の動揺が強い場合を膝周囲の靱帯の断裂を考える。

■6)スポーツ障害の治療
(1)スポーツ外傷に対しては安静を目的にRICEを行う。膝部に損傷があるときは関節内への連絡の有無をチェックする。
(2)スポーツ障害に対しては運動量を減らすと共に疼痛の緩和、筋疲労の回復を目的にアイシング・マッサージ・鍼を行う。

9.呼吸器系疾患
◎第1説 乾癬性呼吸器疾患
■1)慢性気管支炎
(1)概念
気管支系の過量の粘液分泌を特徴とする異常状態で
慢性あるいは反復性に痰を伴う咳をみる
これらの症状が少なくとも一年間に3ヶ月以上あり、少なくとも2年以上みられるものをいう
(2)疫学
ヘビースモーカーあるいは大気汚染地域の居住者、鉱山、重化学工業労務者に発生しやすい
・男女比は2:1
(3)病理
気管支腺の肥大と増生、杯細胞の増生
閉塞性呼吸器疾患
(4)症状
・痰と咳
冬季、急性気管支炎の続発時に増悪
☆慢性気管支炎の人が風邪あどで急性気管支炎になった時という意味
痰は粘性。増悪事には膿性、さらには血性となる
・増悪時には呼吸困難、喘鳴がみられる
低酸素血症(チアノーゼ)、太鼓ばち指、浮腫、頚動脈の怒張になることも
(5)検査所見
・気管支造影
気管支壁の不整の拡張、気管支腺の拡張
☆気管支壁が肥厚する
・肺機能検査
肺活量の1秒率の低下
・喀痰検査
痰は粘液性
膿性の痰(好中球、扁平上皮などを多く含む)
(6)経過と予後
・痰、咳のわりには肺機能の障害は少ない
・慢性に経過
・死の転帰をとることはない
(7)治療
・痰の産生をうながす刺激因子の除去
・十分な量の水分摂取
・体位ドレナージ
・薬剤
去痰薬、気管支拡張薬、消炎酵素薬、ネプライザー

■2)肺炎
(1)概念
微生物の感染による肺実質の急性炎症製疾患
物理化学的要因によっても発症する
☆物理化学的要因による肺炎の例:放射線性肺炎、ルポイド肺炎(膠原病敵)
(2)分類
1)病原微生物による分類
①細菌性肺炎
肺炎球菌、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、大腸菌、緑膿菌
②ウィルス性肺炎
インフルエンザウィルス、アデノウィルス
③マイコプラズマ肺炎
④真菌性肺炎
クラミジアが多い
(カリニ肺炎なども)
2)病理象による分類
①大葉性肺炎
葉全体がおかされるもの
肺炎球菌性肺炎が多い
☆さび色痰、稽留熱
②気管支肺炎
細気管支から肺胞を含んだ領域がおかされるもの
小葉間に限局
嚥下性肺炎に多い

(3)疫学
・すべての年齢層に発症する
・抗生物質などの発達により細菌性肺炎は減少した
・抗生物質、ステロイド剤等の長期使用や免疫抑制薬等の使用により、真菌や原虫などによる肺炎は増加傾向にある

(4)病理
・感染局所の肺血管が拡張
・白血球や赤血球、フィブリン、マクロファージ等を含む滲出液が肺胞壁や抹消細気管支を満たす
→肺胞は無気的となる

(5)症状
・急性に発症
・全身の違和感、発熱、意識障害
①注意
・肺炎球菌性肺炎
1~2日で解熱する
肺実質に後遺症を残さない
・黄色ブドウ球菌、連鎖状球菌、緑膿菌性肺炎
気管支肺炎、肺化膿症、膿胸
・マイコプラズマ性肺炎
15~20歳に多く発症
4年ごとに散発する傾向がある
原発性異型肺炎の大半をしめる
頑固な咳が続くのが特徴
②胸部局所所見
患側胸壁の運動性の低下が見られる
☆肺胞などが十分に空気を入れられなくなるので狭角を広げようとしても広げにくい
病変側の打診音が濁音となる
呼吸音は減弱
声音振盪が亢進
捻髪音が聴取されることもある
☆繰り返し同じ部位で肺炎や気管支炎を起こすとき、悪性腫瘍の化膿性もある
☆免疫機能の低下によって肺炎を繰り返し発症する

(6)検査所見
・赤沈の亢進、CRP陽性、白血球増加
→細菌性肺炎の可能性が高い
(7)合併症
胸膜炎の頻度が高い
高齢者や糖尿病患者は肺膿瘻や膿胸を起こしやすい
(8)系かと予後
心肺疾患を持つものや、高齢者以外では、抗生物質等の使用で治癒する
(9)治療
・薬物
抗生物質の投与
その他、喀痰融解薬、消炎酵素薬、気管支拡張薬
・呼吸管理
☆酸素吸入など

■3)肺結核
(1)概念
結核菌による感染症
飛沫感染する
1970年から寒邪数が増加傾向にある
(2)病理
・初期変化群
滲出性反応
→結核性の肉芽腫形成(乾酪巣)
→乾酪巣の周囲にリンパ球と正常組織を境する線維化部分が生じる
☆ツベルクリン反応陽性の状態。症状は出現せず、抗体が作られ、この状態から進行しない人が多い
(3)結核の進行
・初期変化群のまま病変は石灰化し、病態が停止する
・結核性胸膜炎
炎症が胸膜に波及したもの
膿胸をていすることもある
・粟粒結核
結核菌がリンパ行性にリンパ節を経て上大静脈を経由して、肺に散布され発症するもの
・結核性肺炎
肺門リンパ節が壊死に陥り、気管支に穿孔が起こる
経気管支性に結核菌の散布が起こる
★初期変化群より先に進むのは、5歳以下の子供に多い
・既感染結核(慢性肺結核)
初感染から10年から40年経過して発病するもの
再燃を促進する因子には、他の疾病、栄養状態、高齢、ステロイド剤、抗がん剤、免疫抑制剤などがある
☆老人に多い
(4)症状
・初期
自覚症状を示さないのがほとんど
集団検診で発見されることが多い
・症状が伸展すると
肺炎、気管支炎、肺の空洞形成、葉胃組織の線維化、胸膜の肥厚
・高度進展期
低酸素性・低肺胞喚起性の呼吸不全、肺性心などが起こる
易疲労感、血痰、喀血、胸痛、盗汗、食欲不振、発熱
☆夕方ごろから熱が上がりやすい
肝脾腫、、蛋白尿、血尿、髄膜炎
(5)検査所見
①ツベルクリン反応
☆体内に結核菌が侵入すると数週間で免疫が獲得される
陰性であればBCGを摂取する
②胸部X線検査
陰影像をていする
陰影は肺の後上方に多くみられる
直接撮影が主流
③結核菌検査
痰、喉頭粘液、胃液のいずれかを用いる
例としてPCR法
☆確定診断に用いられる
④その他
血沈の促進
(6)経過と予後
限局性のものであれば自然治癒することが多い
発症しても抗生物質の大量投与で治癒することが多い
高齢者では耐性化例、慢性化例がしばしば診られる
(7)治療
・化学療法が主
初回の治療で確実に治癒させるのが基本
リファンプシン、イソニアジッド、ストレプトマイシン(SM)の併用療法が主流
・上記の化学療法には副作用が現れることが多い
ストレプトマイシンやカナマイシン
→聴力障害
エタンプトール
→視力障害
イソニアジッド
→末梢神経障害、肝障害
りふぁんぷしん
→肝障害、血小板減少

◎第2説 閉塞性呼吸器疾患
■1)肺気腫
(1)概念
呼吸細気管支または肺胞壁の破壊により、呼吸細気管支より抹消の気腔が異常に拡張した状態
★肺気腫患者は一般に慢性気管支炎や気管支喘息を高率に合併する
それによって閉塞状態がさらに高度化することが多い
(2)易学
高齢弾性に圧倒的に多い
近年、増加傾向にある
発症寒邪の大部分が重喫煙者
既往歴に慢性気管支炎や喘息を持つ人に発症しやすい
大気汚染地域の居住者に多く発症する
α1アンチトリプシンの遺伝的欠損者に発症しやすい
☆この家系は日本人には少ない
(3)症状
労作時の息切れが特徴的
慢性気管支炎を合併している場合には咳や痰を伴う
冬や夏に呼吸困難が増悪する傾向にある
進行例では、樽状胸、口すぼめ呼吸
橋核前後径の拡大、肋間の開大→樽状胸
打診音は鼓音
呼気の延長や呼吸音の減弱
横隔膜の低位
心濁音界の減少または消失
補助呼吸筋を使った努力呼吸
消化性潰瘍が起こることもある
(4)検査所見
・胸部X線所見
拡大した胸郭
平坦化または低位化した横隔膜
肺紋理の不鮮明化
垂直化した心臓
・肺機能検査
残気量、機能的残気量、肺胞気量の増大
☆残気量:最大呼気時に肺に残っている空気
機能的残気量:安静呼気時に肺に残っている空気
肺胞気量:肺胞に入っている空気
1秒率の低下
動脈家悦O2分圧低下、CO2分圧上昇
・その他
肺血流シンチグラフィー
心電図では肺性P、時計回りの軸回転が診られる
☆肺性P:異常P波
(5)経過と予後
経過はきわめて干満
気導や肺の感染症の合併は状態を悪化させる
(6)治療
・基本方針
残存肺の機能を活用すること
常に気道の浄化に留意すること
腹式呼吸の指導、胎位ドレナージ
気道を刺激する因子の除去
十分な水分摂取
感染の機械を減らす
・薬物療法
喀痰融解薬
気管支拡張薬
感染時には抗生物質の使用
酸素療法

■2)気管支喘息
(1)概念
各種の刺激に対して気管支の反応性が亢進し、気道が競作しやすい状態で、気道の狭窄は治療によってはもちろん、自発的にも寛解しうることで特色づけられる疾患
慢性炎症性疾患である
(2)病因
①アレルギー説
・抗原因子
ハウスダスト、花粉、ダニ、そば、鶏卵、牛乳
②感染説
③自律神経失調説
④精神身体要因説
⑤内分泌異常説
⑥β受容体遮断説
(3)分類
①アトピー型(外因型)
外来性の各種の刺激に対し、過敏性を示す
小児期より湿疹、食事アレルギー、アレルギー性鼻炎薬剤科敏捷、などのアレルギー性の既往がある
家族内に同様の発症者が多い
10歳以下で多く発症し、自然治癒することが多い
②非アトピー型(内因型、感染型)
外来性の各種刺激に対して特に反応は示さない
精神神経的因子の他に気道の感染が誘引となっている
皮膚反応に特異性がなく、アトピー性の既往もない
40歳以上の発症が多く、難治性
(3)疫学(重要でない)
人種的、地域的差はない
男女差もない
全人口の1%程度離間していると言われる
(4)症状
夜中から明け方の喘鳴、痰、息切れがみられる
呼吸困難、呼気の延長、笛声、クラックルなど
乾性ラ音の聴取
打診では鼓音、肺野の拡大
☆クラックル:捻髪音などの異常呼吸音
・重症の症状
補助呼吸筋を使ったあえぎ呼吸
起坐呼吸、チアノーゼ
喘息重積状態
☆喘息重積状態:薬物などで発作をコントロールできなくなった状態
・発作の好発時期
秋、春、冬、夏の順に多い
(5)検査所見
①喀痰検査
痰量は少ない
発作の寛解とともにゼリーさまとなり喀出される
痰の中には好酸球が多く含まれ、シャルコー・ライデン結晶、クルシュマン螺旋体、ラエンネック真珠が含まれている
☆クルシュマン螺旋体:粘液状の物質がねじれたもの
☆ラエンネック真珠:ゼリー状の物質
②胸部X線写真
肺の過膨張が見られる
③肺機能検査
肺活量の1秒率の低下
発作時には動脈血酸素分圧低下
④気道過敏性テスト
ヒスタミンやアセチルコリンを吸入させて気道収縮誘発試験を行う
⑤アレルギー検査
皮膚反応、血清IgE抗体測定、吸入試験
(6)経過と予後
・小児期に発症した患者は思春期までに治癒することが多い
・思春期以後に発症した喘息は比較的治癒しにくい
(6)治療
①対症療法
気管支拡張薬、β22刺激薬、デオフェリン、アドレナリン、ステロイド剤など
補液、酸素吸入
②減感作療法

◎第1節 拘束性呼吸器疾患
■1)特発性間質性肺炎(肺線維症)
(1)概念
原因不明の炎症が肺胞隔壁を中心にび漫性、進行性に起こり、しだいに肺胞隔壁に膠原線維を主とする線維化が進み、肺胞壁画肥厚する。
肺が硬くなり伸縮性が落ちる
(2)病院
肺胞マクロファージが線維化の主因である
(2)疫学
・性差はない
・中年以後に発症することが多い
・症例数は増加傾向にある
(3)症状
・乾性の咳嗽
☆痰を伴わない咳
・息切れ
・課呼吸、太鼓撥指、頻脈、関節痛、発熱
・ベルクロラ音
…病変部に一致した捻髪音や摩擦音
・肺野の縮小
(4)検査所見
%肺活量、残気量の低下
動脈血O2分圧の低下
赤沈、CRP、白血球数、GOT、LDHの上昇
高ガンマグロブリン血症、リウマトイド因子陽性のことが多い
(5)経過と予後
3~4年で高度の低酸素血症を起こし、呼吸不全に陥り死の転帰をとる
10年以上経過するものもあるが、肺がんを好発する
蜂窩肺の状態になると6ヶ月程度で死の転帰をとることがある

■2)肺がん
(1)概念
気管支粘膜上皮および肺胞上皮の細胞から発声する悪性腫瘍である
(2)原因
・誘引物質
喫煙、クロム、アスベスト、排気ガス、ラドン
・基礎疾患
基礎疾患に併発することが多い
肺線維症、珪肺、石綿肺、サルコイドーシス、膠原病
(3)疫学
肺がんは増加傾向にある
40歳から増加し始め、60歳代がピーク
男女比は4:1(若年者では2:1程度)
転移性肺がんの原発巣で多いのは、乳がん、胃がん子宮癌の順
(4)分類
①組織型分類
・扁平上皮癌
40%程度を閉める
・腺癌
40%程度を占める
・大細胞癌、小細胞癌
②発生部位
・中心癌
区域気管支から中枢側の気管支に発生するもの
肺門型とも言われる
扁平上皮癌や小細胞癌が多い
・抹消癌
区域気管支より抹消で発生するもの
肺野癌ともいわれる
腺癌が多い
③病期分類
・TNM分類によって肺がんを4期に分類
・3期を超えると外科手術による根治は困難
☆TNM分類
T:腫瘍の大きさと周囲への浸潤の程度を7段階に区分
N:リンパ節への広がりによって5段階に区分
M:遠隔転移の有無によって3段階に区分

(5)症状
①原発巣による症状
咳、痰(時に血痰)、胸部痛、喘鳴、呼吸困難、発熱
☆抹消癌よりも中心癌の法が血痰が出やすい
②隣接臓器への浸潤による症状
反回神経麻痺による嗄声
食道圧迫による嚥下障害
胸膜への浸潤による血清胸水の貯溜、胸背痛
心外膜への浸潤による心膜液の貯溜、動機
上大静脈症候群(上大静脈の圧迫)による顔面の浮腫、頸静脈の怒張、上腕神経叢、頚部交感神経の刺激
上腕神経叢、頚部交感神経の刺激によって上肢の感覚障害や運動障害、ホルネル症候群などが現れる(パンコスト症候群という)
③遠隔転移による症状
リンパ節の腫脹、脳転移による各種脳神経症状
骨転移による頑固な痛み
④随伴症状
・小細胞癌の場合、異所性ホルモン産生腫瘍になることがある
ACTH産生腫瘍:クッシング症候群
ADH産生腫瘍:ADH分泌過剰症候群(SLADH)(浮腫や血圧上衝)
・末梢神経障害
・小脳障害
・筋障害
・皮膚障害
黒色表皮症、強皮症(皮膚が硬くなる)
手掌・足底角化症
・骨、間接症状
上下肢の腫脹や疼痛、ばち指
(骨による転移というより、栄養や酸素の不足による)

(6)検査と診断
・腫瘍組織およびその産生物の確認によって確定診断が行われる
・胸部X線、喀痰検査、気管支鏡検査、経気管支肺生検、開胸肺生検
・腫瘍マーカー(参考)
CEA、SCC、NSEなど
(6)経過と予後
外科的処置で根治できるものは少ない
・肺がんの5年生存率
1期:35%
2期:13%
3期:6%
4期:1%
(7)治療
肺がんの根治は想起発見による切除以外にない
・小細胞癌
化学療法を主に用い、放射線療法とも併用する
・非訟細胞癌
外科手術、化学療法、放射線療法

■3)気胸
(1)概念
胸腔内に空気または気体が存在する状態
(2)原因
臓側胸膜の穿孔、胸壁、横隔膜、縦隔、食道などの胸腔への穿孔
(3)分類
①自然気胸
主として肺尖胸膜下の気腫性嚢胞(プレブ)の破裂や、索状癒着の起始部の破綻、肺胸膜の断裂
・一次性自然気胸
・二次性自然気胸:肺結核や肺がん、気管支喘息などが基礎疾患にあるもの
②外傷性気胸
交通事故による外傷が最も多い
③医原性気胸
鍼穿刺、針生検によって起こる
④月経随伴性気胸
月経時に反復して気胸を起こす

(4)疫学
・好発年代
20~30歳代、ついで50~60歳代
・細身の男子に多い
・50、60代の気胸は二次性気胸が多い
・好発部位
右側の一側性のものが多い

(5)症状
・胸痛、刺激性咳、労作性呼吸困難
・緊張性気胸など重症気胸の症状
縦隔の健側への圧迫、鼓音、声音振盪の減弱、呼吸音の減弱
血圧低下、チアノーゼの出現

(6)治療
・肺の脱気度が25%以下で、進行性でなければ安静にするだけでい
・肺の脱気度が50%以上の時、または基礎疾患がある時は、持続的脱気を行う

悪性中皮腫
・胸膜、心膜、腹膜の表面を覆っている中皮から発声した
 発生した腫瘍である。
・良性中皮腫、悪性中皮腫がある。
原因
・アスベストが原因となる。
・肺癌全体の約1%以下の発生率である。
症状
・主なものとしては大量の胸水貯溜、呼吸困難、胸痛がある。
診断
・胸部X線写真、CT、生検などで診断される。
治療
・外科手術、放射線療法、化学療法などが行われる。
経過と予後
・基本的には予後不良である。

気管支拡張症
・気管支は分枝回数を重ねるとともに、本来は内腔が狭くなるが、
 中枢部より末梢の内腔が拡大していくもの。
病理
・気管支壁の支持組織や軟骨の破壊があり、
 気管支動脈が拡張している。
原因
・先天性の異常としてはカルタゲナー症候群がある。
・特発性のものは、百日咳や麻疹の既往があるものに多い。
・その他、気管支結核、肺門型気管支癌、誤嚥などからの続発。
症状
・湿性の咳嗽、多量の膿性痰(数百ml)、血清の痰がある。
・その他、喀血、バチ指、チアノーゼなどがある。
・慢性副鼻腔炎を合併しやすい。
治療
・去痰剤、ネプライザー、体位ドレナージなどの対症療法。

第5章 腎尿路疾患
急性糸球体腎炎
・溶連菌感染症の罹患後、1~3週間後に急性腎炎症候群を呈して
 発症する疾患であるである。
原因
・A群β溶血性連鎖状球菌が中心となる。
・肺炎双球菌、ブドウ球菌、マイコプラズマ、インフルエンザ菌、
 麻疹ウイルス、水痘ウイルス、HBVなどがある。
急性糸球体腎炎に先行する疾患
・扁桃炎、咽頭喉頭炎、中耳炎、肺炎、皮膚の膿痂疹などが起こる。
・晩秋から冬季にかけて多発する。
・急性糸球体腎炎は小児に好発する。
病理
・溶連菌抗原とその抗体による免疫複合体腎炎である。
症状
・先行疾患の罹患後、1~3週間して急速に乏尿、浮腫、高血圧、
 血尿(稀に肉眼で確認可能)、蛋白尿、全身倦怠、食欲不振、
 頭痛、咽頭痛、悪心嘔吐、下痢、便秘、GFR低下、
 Naの貯溜により高血圧脳症、急性左心不全、肺水腫など。
検査所見
①尿検さ
・蛋白の出現(0.5~3g/日)、GFR低下、尿沈渣で赤血球円柱、
 血沈促進、白血球数増加、CRP陽性、ASO値上昇、
※正常でのGFRは100~150ml/分。
※血沈促進、白血球増加、CRP陽性は炎症の持続を意味する。
治療
・基本的には安静を心がけ、食事療法、薬物療法などを行う。
・治癒しても1年ぐらいは妊娠や過激な運動は避ける。
※食事療法
・低カロリー1800kCal、減塩3g、蛋白質25g、水分尿量+500ml
※薬物療法
・利尿剤、降圧剤、抗生物質()ペニシリン系)。
経過と予後
・90%以上は発症後1~2ヶ月で治癒する。
・一部は数十年の経過の後、慢性腎不全まで進行することもある。

急性進行性糸球体腎炎
・急性糸球体腎炎に引き続いて起こるか、または特発性に発症し、
 数ヶ月以内に末期腎不全となる疾患である。
症状と所見
・血尿、蛋白尿、乏尿、浮腫、高血圧、腎機能低下、高窒素血症、
 半月体の出現(ボウマン嚢上皮細胞が増殖した状態)など。

慢性糸球体腎炎
・発症時期が明らかでない、続発性糸球体障害を否定できる、
 慢性に経過する、持続性蛋白尿と尿沈渣の異常を呈する、
 この4つの条件を満たすものを慢性糸球体腎炎とする。
病理
・子宮体基底膜の二重化、滲出性病変、半月体の形成、
 メサンギウム(葉間結合組織)の増加が起こる。
症状
①潜在型
・蛋白尿、無症候性血尿は出現するが、他の腎機能は正常。
②進行型
・蛋白尿、血尿、GFR低下、浮腫、高血圧、
 血中クレアチニンや尿素窒素の上昇など。
・全身倦怠、易疲労感食欲不振、進行すると腎不全など。
診断
・確定診断は生検しかない。
治療
・潜在型は基本的には安静を図るだけで、
・進行型は食事療法、対症療法などを行う。
食塩、蛋白質の制限
降圧剤、利尿剤、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド剤。抗血小板薬
経過と予後
・潜在型の15年生存率は70%であり、進行型は予後不良といわれる。
・GFRが50%以下になると15年生存率は0%となる。

ネフローゼ症候群
・種々の病的機序によって子宮体基底膜の蛋白透過性が異常に亢進し、大量の血清蛋白が尿中に失われるため、低蛋白血症を生じ、高度の浮腫を呈する症候群。
分類
①一次性ネフローゼ
・原発性糸球体腎炎から発声するもので全体の80%を占める。
②二次性ネフローゼ
・SLE、糖尿病、アミロイドーシスから起こるものが多い。
疫学
・小児から若年者では男性が多く、中年以後は性差なし。
病理と症状
①大量蛋白尿
・3.5g/日以上に増加する。
②低蛋白血症
・血清総蛋白量が6.0g/dl以下に低下する。
 アルブミン3.0g/dl以下、γグロブリン低下、αグロブリン増加。
③浮腫
・血漿膠質滲透圧の低下の為に起こる。
・レニンアンギオテンシン―アルドステロン系や
 心房Nナトリウム利尿ホルモンの反応が関与する。
④高脂血症
・血清コレステロール、リン脂質が増加する。
⑤その他
・血液凝固能促進、急性腎不全、易感染性など。
治療
・浮腫や低蛋白血症に対してはループ利尿剤の投与。
・食事療法として、高カロリー食、食塩制限、蛋白の調整を行う。
経過と予後
・90%は寛解と増悪の経過をとるが、ステロイド剤の適応となる。
・ステロイド剤が不適応ナ場合には慢性腎不全に移行する。

腎不全
・腎機能が進行性に低下し、生体のホメオスタシスを
 維持できなくなった状態をいう。

急性腎不全
・それまで正常な機能を営んでいた腎臓に突然障害が起こり、
 腎機能が急激に低下し、高窒素血症を呈する症候群である。
分類
①尿量による分類
・乏尿性急性腎不全、非乏尿性急性腎不全に分けられる。
②成因による分類
・腎前性急性腎不全(腎血流量の不足によるもの)には、
 心筋梗塞、心不全、脱水、出血、嘔吐、下痢、火傷、敗血漿、
 アナフィラキシーなどがあり、腎臓の虚血状態が24時間続くと
 腎実質に異常が起きてくる。
・腎後性急性腎不全(腎盂以下の尿路閉塞による尿細管内圧上昇で、
 GFR減少によるもの)には、尿路結石、前立腺疾患、
 骨盤内腫瘍などがある。
症状(特に腎前性)
①発症期
・原因が加わってから、乏尿や高窒素血症が出現するまでの時期。
・この時期は数日間続く。
②乏尿期
・尿量が400ml/日以下の状態の時期。
・この時期は1~3週間続く。
・意識障害、痙攣、悪心嘔吐、肺水腫、うっ血性心不全、
 高血圧、肺炎などがみられる。
③利尿期
・2l/日以上の多尿を呈する時期で腎機能は正常ではない。。
・この時期は1週間続く。
④回復期
・腎機能が完全に回復する時期。
・3ヶ月~1年以上かけて
治療
・急性腎不全の原因の除去。
・乏尿期移行は利尿剤の投与、水分制限(尿量+500ml)、
 高カロリー食(2000kcal)、低蛋白食(20~40g)、
 減塩(0~3g)、尿毒症状の出現では透析療法を行う。
経過と予後
・死亡率は50%である。
・死因は高カリウム血症による心不全や感染症が多い。

慢性腎不全
・不可逆性の腎機能低下が数ヶ月以上持続し、
 体液のホメオスタシスが不可能となった状態。
・末期腎不全とは、透析療法を導入しない限り、致死的な
 慢性腎不全となるものをいう(GFRが5~10ml/分)。
原因
・慢性に経過する糸球体疾患が最も多い。
・慢性腎盂腎炎、嚢胞腎、糖尿病、SLE、痛風、
 腎硬化症からの続発もある。
症状
・自覚症状のないものもある。
・GFRの低下(30%以下で診断)、高窒素血症、高血圧、
 浮腫、心不全、高カリウム血症、低カルシウム血症、
 ビタミンDの活性化の低下、骨の脱灰、貧血、尿毒症など。
・尿毒症による、食欲不振、悪心嘔吐、消化器出血、意識障害、
 はばたき振戦、尿毒性ニューロパチー、心不全、肺水腫など。
治療
①食事療法
 蛋白質、食塩、カリウムなどの制限。
②薬物療法
・降圧剤、利尿剤、ジギタリスなどの投与。
③その他
・透析療法、腎移植など。
経過と予後
・透析療法では5年生存率は50%。
・腎移植では5年生存率は70%。

腎盂腎炎
・一般細菌の感染により、腎実質、腎盂腎杯系に起こる
 非特異的な炎症である。
疫学
・20~40歳代に多く、男女比は1:3

急性腎盂腎炎
・原因菌としては大腸菌が最も多い。
症状
・悪寒、戦慄、発熱、腰痛、腰部の叩打痛、
 頻尿、排尿痛、悪心嘔吐など。
検査所見
・尿検査では、好中球、細菌の検出がみられる。
・血液検査では、好中球増加、赤沈やCRPの上昇など。
治療
・安静臥床、水分補給、薬物療法など。

慢性腎盂腎炎
・原因菌は大腸菌、緑膿菌、クレブシエラなどがある。
病態
・慢性の細菌感染による炎症の持続や反覆がみられる。
・腎実質の破壊や瘢痕化が起こってくる。
検査
①尿検査
・間欠的に膿尿や細菌尿がみられる。
・尿細管に障害があれば尿濃縮力が低下してくる。
症状
・特異的な症状はない。
・微熱、倦怠感、腰痛などがみられる。
治療
・日頃の水分補給を十分にし、尿量を増やす。
・急性増悪期には急性腎盂腎炎と同じ治療を行う。

腎の腫瘍
1.腎細胞癌(グラヴィッツ腫瘍)
・尿細管上皮から発生する癌である。
・腎の悪性腫瘍全体の80%%を占める。
・40歳以降に好発し、男女比は2:1である。
3大症状
・3大症状には、血尿、腫瘤、疼痛がある。
・血尿は顕微鏡的なものから肉眼的なものまである。
・腫瘤は腰部ではなく腹部腫瘤として触知される。
・疼痛は腎被膜の緊張やによって生じてくる。
その他の症状
・内分泌活性、副甲状腺ホルモン(パラソルモン)、
 エリスロポイエチン、ACTHの分泌が亢進してくる。
転移
・肺や骨に転移しやすい。

2.腎芽細胞癌(ウイルムス腫瘍)
・胎生期の腎組織に由来する癌である。
・腎の悪性腫瘍全体の6%程度を占める。
症状
・巨大な腹部腫瘤を形成してくる。
・全体の60%に高血圧、虹彩欠損、泌尿器奇経、色素母斑の併発。
・血尿、疼痛の頻度が低い。

腎尿路結石症
・結石成分の中心となるのは硝酸カルシウム、燐酸カルシウム、
 尿酸、燐酸アンモニウム、燐酸マグネシウムなどであるが、
 80%は硝酸カルシウムである。
原因
①特発性
・特発性のものが最も多い。
②続発性
・高カルシウム血症をきたす疾患によるものが多く、それには、
 上皮小体機能亢進(パラソルモン)、ビタミンD・Aの過剰摂取、
 腫瘍の骨転移などがある。
・その他、尿細管アシドーシス、高尿酸血症、尿路感染症、
 シスチン尿症などもある。
症状
①上部尿路結石症(腎、尿管)
・側腹部から尿管の走行に走る疝痛発作、悪心嘔吐、顔面蒼白、
 冷や汗、血尿、無尿、腎盂腎炎、水腎症など
・80%以上に結石の自然排出がある。
②下部尿路結石(膀胱、尿道
・疝痛発作は余り診られない、頻尿、排尿痛、残尿感、血尿、
 膀胱粘膜の刺激症状、排尿異常、尿閉などがある。
検査
・短順X線では尿酸結石は移らない
治療
①疝痛発作
・鎮痙剤、鎮痛剤の投与などを行う。
②食事や予防
・水分摂取をよくし尿量を増やす、尿pHを7.0以上にするために
 肉を減らして野菜を多くする。
③手術
・疝痛発作を繰り返すときや結石が大きくなりすぎたときに行う。

膀胱癌
・泌尿器科領域では最も多い腫瘍である。
・男女比は3:1である。
・組織学的には移行上皮癌(90%)、扁平上皮癌、腺癌と続く。
原因
・ベンシジン、ラフチルアミン、ジクロルベンシジンなどを
 扱う人(染物職人)に多く発症する。
・喫煙によるものもあるといわれている。
・その他、ウイルス感染、慢性機械的刺激などがある。
症状
・血尿(鮮血尿)、全血尿、排尿困難、尿閉、頻尿、排尿痛など。
検査
・生検により確定診断される。
治療
・基本的には外科手術を行う。
経過と予後
・膀胱内再発が多いが、再発防止にBCG注入が有鉤である。

膀胱炎
・感染経路は通常では尿道からの逆行性感染が多い。
・起因菌としては、急性は大腸菌、慢性はグラム陰影桿菌が多い。
・性的活動期の女性に好発する。
・症状としては、頻尿、排尿痛、尿混濁が3大徴候となる。
・その他の症状には、残尿感などがある。
・治療としては、十分な水分摂取と化学療法を行う。

第6章 男性生殖器疾患

前立腺肥大症
・50歳以上の人は肥大傾向にある。
・60歳以上になると直腸視診にて肥大が確認できる。
原因
・アンドロジェンの減少により起こる。
・前立腺の内腺が肥大し、外腺を圧迫していく。
症状
・尿意頻数(夜間に多い)、会陰部不快感、遷延性排尿、
 尿線が細くなる、残尿、性交や飲酒によって尿閉、
 暴行拡張、奇異性尿失禁(溢流性尿失禁)、腎機能低下など。
治療
・化学療法としてアンドロジェン、アミノ酸製剤、漢方薬など。
・進行例では外科手術を実施する。

前立腺癌
・ほとんどが外腺から発生する腺癌である。
・欧米では弾性の癌として頻度が高い。
症状
・排尿障害、血尿、会陰部の不快感など。
・椎骨や骨盤に転移しやすい、骨転移によって骨髄も傷害される、
 上記により造血機能が衰える。
検査
・直腸内指診、血清酸性フォスファターゼの上昇
・確定診断は生検によってなされる。
治療
・外科手術、放射線療法、内分泌療法を行う。
※内分泌療法
・アンドロジェンを減らす目的で、エストロジェンを投与する。

第8章 循環器疾患

心不全(うっ血性心不全)
・心疾患のために心臓の機能が低下し、身体の需要に対して
 十分な血液が循環しなくなり、臓器血流障害に基づく
 種々の症状が出現してくる状態をいい、急性ではない。
①左心不全
・左心系に障害があり、主として肺循環系に鬱血が著名になる。
②右心不全
・右心系に障害があり、主として体循環系に鬱血が著名になる。
原因と機序
・心筋の虚血性変化による偏性や脱落により起こるもの。
・甲状腺機能亢進症や高血圧、心弁膜閉鎖不全症、貧血など、
 心臓の機械的な負荷の増大によって心筋の収縮力が
 低下して起こるもの。
・僧帽弁狭窄症など。心臓の拡張機能障害により起こるもの。
・リウマチ熱の再燃、他の感染症、肺塞栓症、妊娠、
 食塩過剰摂取、過労などは誘因となる。
病態
・心拍出量の減少、心肥大、心筋収縮力低下、静脈圧上昇、
 ナトリウムや水の体内蓄積、安静時循環カテコールアミン上昇、
分類
①心筋不全とうっ血不全
・心筋への過剰負荷により心肥大が起こり、心筋収縮力が低下する。
・それにより心拍出量の低下が起こってくるものをいう。
②左心不全と右心不全
・左心不全では肺循環に、右心不全では体循環に異常が現れる。
③前方不全と後方不全
・前方不全とは、心拍出量の減少により左房圧が上昇して
 肺うっ血を起こすもの。
・後方不全とは、心拍出量の低下により身体に水と塩分の貯溜が
 起こり、浮腫が現れるもの。
④収縮不全と拡張不全
⑤低拍出性心不全と高拍出性心不全
⑥急性心不全と慢性心不全
症状
①左心不全
・主として肺うっ血の症状を呈する。
・呼吸困難、起坐呼吸、夜間の発作性呼吸困難、急性肺水腫、
 血中酸素分圧低下、チェーンストークス呼吸、呼吸頻回、
 湿性ラ音、心拡張、心肥大など。
②右心不全
・運動耐容能の低下、労作性呼吸困難、静脈の怒張、静脈圧上昇、
 肝腫大、肝硬変、黄疸、浮腫、昼間尿量減少、夜間尿量増加など。
③その他
・疲労、チアノーゼ、四肢の冷感、食欲不振、悪心、栄養不良、
 脳循環障害、意識障害、静脈血栓症、
④脈状
・微弱、頻脈、交互脈,不整脈、奔馬調律。
⑤心臓所見
・心尖拍動の左方移動、第2心音の亢進、分裂2心音の聴取。
治療
・急性心不全、特に左心不全の場合は救命措置が必要。
・慢性心不全は、基礎疾患の治療、安静、減塩、水分調節、
 ジギタリス(強心剤)、利尿薬、アルドステロン拮抗薬、
 血管拡張薬。

心臓弁膜症
・弁膜の変形によって便機能が傷害され、血流に異常を生じた状態。
発生頻度
・僧帽弁のみの発症が1番多く、50%以上を占める。
・大動脈弁と僧帽弁の合併で発症してくるものが20%を占める。
・大動脈弁のみの発症は10%を占める。
原因
・リウマチ熱(80%)、先天性、細菌性、動脈硬化性、梅毒性、
 高血圧、特発性心筋症、大動脈炎症候群、心筋梗塞など。
分類
・弁狭窄症、弁閉鎖不全症に大きく分けられる。

1.僧帽弁狭窄症(最多)
・僧帽弁口が狭くなったため、拡張期に左房から左室への血流が
 阻害され、左房、肺静脈、肺循環系における血液のうっ滞を
 起こすもの。
・45歳以上の女性に多い。
症状
・初期は無症状のことが多いが、突然、肺出血を起こすことがある。
・労作時の息切れ、動悸、易疲労感、チアノーゼ、安静時呼吸困難、
 肺うっ血、血痰、嗄声、右心不全、静脈怒張、肝腫大、食欲不振、
 体重減少、僧帽弁顔貌(両頬紅潮)、心房細動、脳内臓塞栓症、
 片麻痺、心筋梗塞、腹痛など。
治療
・初期は安静、運動制限などを行う。
・内科的治療として、ジギタリス、利尿剤の投与が多い。
・外科的治療として、弁置換術が多い。
経過と予後
・特にリウマチによるものは、30~40歳で心不全となることが多い。

2.僧帽弁閉鎖不全症
・僧帽弁が心収縮期に十分に閉鎖せず、左室内血液が一部左房内に
 逆流する疾患である。
・原因は僧帽弁狭窄症と同じ。
病理
・左房の拡大、左房圧の上昇、左室の拡大、肺高血圧など。
症状
・心拍出量減少、易疲労感、動悸、息切れ、衰弱感、
 発作性呼吸困難、起坐呼吸、急性肺うっ血、肺水腫、
 心房細動、速脈、心雑音(全周期)など。
・血栓症や塞栓症を宗気に起こしてくる
※速脈
・指に触れた脈が即座に触れなくなる。
※治療は僧帽弁狭窄症と同じ。
3.大動脈弁狭窄症
・左室から大動脈への血液駆出が妨げられ、左室と大動脈の
 収縮期圧差を生じるもの。
病態
・心拍出量の低下、左心室肥大(拡張はしない)、収縮期血圧低下、
 左心不全、肺うっ血など。
症状
・心拍出量の減少、易疲労感、動悸、息切れ、衰弱感、
 発作性呼吸困難、起坐呼吸、急性肺うっ血、急性肺水腫など。
・速脈、血栓症、塞栓症を早期に起こすことがある
・心房細動を起こすこともある

3.大動脈弁狭窄症
・左心室から大動脈への血液駆出が妨げられ、
 左心室と大動脈間の収縮期圧較差が生じるもの。
病態
・心拍出量の低下、左心室肥大(内腔の拡張はない)、
 収縮期血圧の低下、左心不全、肺うっ血など。
症状
・長い間症状が出ない
・息切れ、発作性呼吸困難、起坐呼吸、胸痛(狭心症様)、
 脳循環の不足による湿疹など。

4.大動脈弁閉鎖不全症
・大動脈から左心室への拡張期逆流を生じるもの。
・10リットル/分におよぶこともある。
病態
・左心室の肥大、内腔拡張、心拍出量の増加
成因
・その他の弁膜症とほぼ同じであるが
 マルファン症候群に伴うものも多い
症状
・動悸、拡張期雑音、速脈、左心不全、呼吸困難、易疲労感、
 倦怠感、衰弱感、胸痛、湿疹、心房細動など。

狭心症
・一過性に心筋虚血発作が起こり、そのために胸痛などの
 特有な症状をていする疾患である。
・心筋の壊死はない
成員
・冠状動脈硬化症(特に粥状硬化)、梅毒性の冠状動脈狭窄、
 川崎病、タイプAの人はなりやすい。
分類
①誘引による分類
・労作性狭心症は、心電図における変化は見られないず、
 起こってもST波の低下程度である。
・安静狭心症は、一般にST波の低下が見られる。
・異型狭心症は、ST波の上昇をみるものである。
②症状による分類
・安定狭心症と不安定狭心症に分けられる。
③発生機序による分類
・器質性冠動脈狭心症、冠攣縮性狭心症、冠血栓性狭心症がある。
病理
・血流量が75%以下になると胸痛が発生する。
狭心痛の発生機序
・心筋の虚血により代謝産物の蓄積が起こり、内臓の
 求心性神経(交感神経)を刺激して起こる。
主な代謝産物
・アデノシン、乳酸、ピルビン酸、ヌクレオチド、ブラジキニン。
症状
①狭心症発作
・胸骨下部や心窩部に現れる絞扼感、窒息感、灼熱感、重圧感、
 圧迫桿を起こす。
・労作、精神感動、過食、寒冷
・器質性狭心症は、一定以上の労作で1~3分の発作が起こり、
 安静により必ず消失していく。
・冠攣縮性狭心症は、夜間から早朝にかけて15分ほど起こる。
・冠血栓性狭心症は、労作による発作は強く、持続時間も長い。
②放散痛
・頚部、下顎部、歯、左上腕などに出現する。
③その他
・息切れ、腹部膨満、眩暈、不安感、血圧上昇、脈拍の異常など。
検査
①心電図
・ST波の下降からST波の上昇に移行してくる。
②心筋シンチグラフィー(放射性同位元素)
・心筋の虚血状態を診ることができる。
③冠状動脈造影法
・PTCAの適否の判断に用いる。
治療
①一般療法
・不安解消、寒気防止、過食や急速な歩行を避け、禁煙など。
②薬物療法
・狭心症発作はニトログリセリンの投与後1~2分で治まる。
・イソソルビッド、ジミトリッド、β遮断薬、カルシウム拮抗薬。
③外科手術
・バイパス手術など。
経過と予後
・予後は比較的良好であるが、高血圧などを合併していると
 予後は良くない。

急性心筋梗塞
・突然の血行の途絶により、灌流域の心筋が壊死に陥るものをいう。
原因
・通常、冠状動脈の粥状硬化症が原因で、
・左冠状動脈前下行枝の途絶によるものが多い。
・心内膜炎、心房細動、解離性大動脈瘤、梅毒、川崎病などが
 原因となることもある。
症状
①前駆症状
・狭心症発作が半数に出現する。
②心筋梗塞発作
・胸骨下部付近に絞扼感、圧迫桿、重圧感、灼熱感の出現し、
 30分~1日持続する。
・心筋梗塞発作はニトログリセリンは効かない。
・狭心症と同じ部に放散痛が出現する。
③その他
・息切れ、失神、急性肺水腫、脳塞栓、ショック、発熱など。
・基本的には血圧は低下する。
所見
①心電図
・T波の増大、ST波上昇、T波の逆転が出現する。
②血中逸脱酵素
・S‐CK、S‐GOT(AST)、S‐LDH、
 筋酵素(ミオグロビン、トロポニンT、心筋ミオシン)など。
合併症
・心筋梗塞の三大合併症には、心不全、不整脈、ショックがある。
①心不全
・直後は左心不全となり、1~2日で治まる。
・右心不全になることもあるが3日ほどで治まる。
②不整脈
・死亡例の半数は、発症後1~2時間後の心室細動による。
③心原性ショック
・梗塞範囲が左心室の40%以上になると出現してくる。
・血圧低下、チアノーゼ、冷や汗、意識障害が起こる。
④その他
・肺塞栓症、脳血管障害、心筋裂、心室中隔穿孔、
 乳頭筋断裂、心室瘤などがある。
治療
・発症直後は安静臥床、救命措置を行う。
・内科的治療や外科的治療を行う。
・回復期には側副血行路構築のため、積極的な運動導差を行わせる。
経過と予後
・左冠動脈主幹部、三枝病変、前壁梗塞、再梗塞は予後不良。

動脈硬化症
・動脈壁の肥厚や硬化、改築に基く動脈の機能低下を示す、
 限局性の動脈病変の総称である。
種類
・粥状硬化(アテローム硬化)、中膜硬化、細動脈硬化がある。

1.粥状硬化
・虚血性心疾患、脳梗塞の原因となる。
発生機序
・動脈内皮細胞の機能障害のある部に、単球やリンパ球が
 内皮層へ侵入してくる。マクロファージやリンパ球、
 内皮細胞からサイトカインなどの活性物質が放出が起こる。
 それにより、中膜の平滑筋細胞が増殖して内皮層へ侵入する。
 すると平滑筋より、コラーゲンなどの細胞間基質が放出される。
 そして内皮層は繊維化してくる。
好発部位
・大動脈、腸骨動脈、大腿動脈、上腕動脈、橈骨尺骨動脈、
 冠状動脈、脳底動脈などに起こりやすい。
2.中膜硬化症
・筋細胞を多く有する中等大の動脈に発症するもので、
 動脈の中層が繊維化してくるものである。
3.細動脈硬化症
・直径50~500μmの細い動脈に発症するもので、
 硝子化性の内膜肥厚であるが、中膜にもみられる。
・腎臓、脳、脾臓、肺などの細動脈に発症してくる。
・高血圧、糖尿病と密接な関係がある。

危険因子
・高脂血症(総コレステロール200㎎/dl、LDL130㎎/dl)、
 高血圧、糖尿病、高尿酸血症、ストレス、喫煙、肥満、
 積極的性格、加齢、男性に多い。
症状
・動脈内腔狭窄による臓器血流障害、動脈壁脆弱化による動脈瘤。
各部の症状
・冠状動脈硬化症では虚血性心疾患、脳動脈硬化症では脳軟化症、
 腎動脈硬化症では悪性高血圧、
 末梢動脈硬化症では閉塞性動脈硬化症(間欠性跛行)。
治療
・危険因子の除去、運動療法、薬物療法
・食事療法としては飽和脂肪酸を減らす。

解離性大動脈瘤
・粥状硬化や動脈の中膜壊死により大動脈中膜に亀裂を生じ、
 内膜の亀裂から血液が中膜層内に侵入してきたものをいう。
原因
・高血圧、マルファン症候群、動脈硬化など。
・好発部位は胸大動脈である。
破綻症状
・体幹痛、体腔内出血など。
経過と予後
・破綻すれば極めて予後不良。

その他の血管疾患
閉塞性動脈硬化症(ASO)
・動脈硬化症のある部が血栓により閉塞するもの。
・45歳以上の男性に多い。
・間欠性跛行を呈しやすい。
閉塞性血栓血管炎(バージャー秒)
・自己免疫疾患によるもので、中年以後の男性に多い。
・間欠性跛行を呈し、喫煙により増悪する。
大動脈炎症候群(高安動脈炎、脈無し病)
・自己免疫疾患によるもので、女性に多い。
・脈拍の減弱や消失が起こるが、高血圧の合併もみられる。

高血圧症
・WHOにおける高血圧の分類(1999年)
・正常血圧は130以下で85以下。
・指摘血圧は120以下で80以下のものをいう。
分類
①悪性高血圧
・拡張期血圧が120㎜Hgを越えるものをいう。
・フィブリノイド変性、乳頭浮腫になりやすい。
②収縮期高血圧
・収縮期血圧のみが上昇してくるもの。
・バセドウ病、動脈硬化症によって起こる。
③拡張期高血圧
・拡張期血圧のみが上昇してくるもの。
・本態性高血圧によくみられる。
原因による分類
①原因不明
・本態性高血圧という。
②原因が明らかなもの
・症候性高血圧、二次性高血圧ともいう。
・腎疾患、糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、腎血管疾患などがある。
・原発性アルドステロン症(コン症候群)、褐色細胞腫、
 クッシング症候群、バセドウ病などがある。
・心血管系疾患、代謝性疾患、急性ボルフィリン尿症、脳疾患など。
血圧を上昇させる因子
・交感神経の緊張、カテコールアミン分泌亢進、
 レニンアンギオテンシン系の活性、バゾプレッシン分泌亢進など。
症状
・頭痛、頭重、不眠、動悸、息切れ、呼吸困難などが起こる。
・脳では、脳梗塞や脳出血の原因となってくる。
・腎臓では、頻尿、尿濃縮力低下、腎萎縮,腎不全などが起こる。
・その他、網膜動脈硬化、網膜萎縮、
検査所見
・心電図に異常をみるものもある。
治療
①一般療法
・食塩の摂取制限(7g)、飽和脂肪酸の摂取をひかえる、
 嗜好品をさける。
②薬物療法
・利尿剤、β遮断薬、 α遮断薬、カルシウム拮抗薬、
 アンギオテンシン変換酵素曽我井坐位など。
予後
・悪性高血圧は治療しなければ1年以内に死の転帰をとる。
・本態性高血圧は心臓、腎臓、脳血管障害との合併に左右される。
予後に関わる因子
・年齢(45歳以下は予後不良)、男性の方が予後不良、
 標的臓器障害の有無、心血管疾患の若年発症の家族暦、
 高コレステロール血症、喫煙、糖尿病、痞満など。

低血圧。
・アジソン病、シモンズ病、粘液水腫などによって起こる
・シャイドレーガー症候群によって起立性低血圧が起こる

貧血
①鉄欠乏性貧血
・スプーン爪などが出現する。
②悪性貧血(ビタミンB12、養蚕の欠乏)
・ハンター舌炎が出現する。
③再性不良性貧血
・易出血傾向がみられる。
④溶血性貧血
・黄疸が出現する。

第9章 代謝性疾患

糖尿病
・インスリン作用の相対的、絶対的不足により生じる糖質、脂質、
 アミノ酸の代謝異常である。
分類
①Ⅰ型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)
・HLA抗体の関与(自己免疫機序、特発的)、ウィルスの
 感染などの説がある。
②2型糖尿病(非インスリン型:NIDDM)
・インスリンの相対的な不足によって起こってくる。
・家族歴の頻度がIDDMより高い。
1型と2型の比較(1型・2型)
①発症年齢:若年者・45歳以上
②発症時体型:痩せから正常・肥満傾向
③未治療症状:重度・軽度
④インスリン分泌:低下・遅延
⑤インスリン感受性:正常・低下
⑥インスリン低血糖:しばしば・あまりない
症状
①一次的症状
・全身倦怠感、多飲多尿、口渇、体重減少、皮膚掻痒感、乾皮、
 アセトン臭、意識障害、昏睡など。
②二次的症状
・神経痛、知覚障害、皮膚化膿症、壊疽、視力障害、性欲減退、
 月経異常、高血圧、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、ネフローゼ、
 虚血性神経障害、虚血性心疾患、肝硬変など。
検査
随時血糖、糖負荷試験、インスリン反応、Cペプチド、
 糖化ヘモグロビン(HbAⅰc)、グルコアルブミンなど。
※HbAⅰcは6以下が正常である。
治療
・インスリン作用不足による代謝異常の正常化を目指す。
①食事療法
・総摂取カロリーの制限(標準体重×20-30kcal)
②運動療法
・持続的な有酸素運動を行う。
③薬物療法
・インスリン、経口糖尿病薬など。

白血球系疾患
1.白血病
 概念
 血球生成組織の系統的且つ無制限の増殖を本態とする疾患で、造血組織の悪性腫瘍と見なされる。
 臨床的には、末梢血中に通常は認められない異常血球が出現し、また、骨髄をはじめとする全身諸臓器に白血病細胞の増殖浸潤を来すため正常造血の抑制による各種の感染・貧血・出血あるいは浸潤による各種の臓器障害を主徴とする。
原因
 遺伝的要素、放射線や化学物質などの外的因子、ウィルス感染等。実際には上記のものが複雑に絡み合って発生進展していくと考えられている。
分類
 白血病細胞の発生母地から:骨髄性とリンパ性
経過により:急性と慢性
 頻度:急性骨髄性白血病→慢性骨髄性白血病→急性リンパ性白血病→慢性リンパ性白血病

(ア)急性白血病
・白血球裂孔が見られる(病的幼弱白血球と成熟白血球の2群からなる状態、中間型が見られない)
・骨髄性が80%、小児にはリンパ性が比較的多く見られる。単球性も存在する。
・症状
 発熱=白血病自体によるものと、感染症の併発(38度以上)によるものとがある。
 出血傾向=血小板の生成障害に基づく皮下・歯肉・消化管・性器等に見られる。
 貧血=赤血球生成の障害のため
以上が主要徴候
無痛性リンパ節腫大(白血病細胞の浸潤の為)、肝・脾腫(慢性の方が重度)・骨痛・中枢神経症状(脳出血等)
・治療
 白血病細胞の全滅を目的として化学療法,放射線療法,免疫療法を行い,摘脾療法などを組み合わせて行う。また、正常造血細胞破壊により生ずる出血傾向・感染症に対する補助療法も重要である。
 骨髄移植も治療法として確立し,白血病のかなりの症例で治癒が期待されている。

(イ)慢性白血病
 ①慢性骨髄性白血病     
・急性骨髄性白血病に次いで頻度が高い。
・巨大脾腫と著明な白血球増多を特徴とする。
・症状:腹部膨満感・全身倦怠感・軽度発熱・食欲不振顔面蒼白
・予後:3~4年で急性白血病の臨床像と血液像をきたし(急性転化)、死の転帰を呈する。
・治療:前記に準じる。
 ②慢性リンパ性白血球
・著明な成熟リンパ球増加と全身性リンパ節の高度の腫張を特徴とする。
・老人に多く、Bリンパ球の腫瘍せい増殖である。
・症状:易疲労性・顔面蒼白・無痛性リンパ節腫。
・予後:50%生存期間は4~6年。
・治療:経過観察のみの場合もある、補助療法を重要視する。

 (ウ)成人T細胞白血病
・T細胞白血病ウィルスⅠ型(HTLVーⅠ、レトロウィルスの1種)の感染によって発症。
・感染経路:母子感染・性交感染・輸血等が挙げられる。
殆どが母子感染である(母乳に含まれる感染リンパ球が原因である)。潜伏期=20~30年。発症=30~40歳以降
・症状:微熱・全身倦怠感・腹部膨満感・リンパ節腫大が高頻度にみられる,肝・脾腫、日和見感染にかかりやすく、死亡の原因になることがある。
・検査所見:血清中抗HTLVーⅠ抗体の証明がなされる。
・予後:発症すればⅠ年以内に90%が死亡
・治療:主に急性型に対して悪性リンパ腫に準じた化学療法を行っているが予後は悪く,50%生存率は半年以内である.

リンパ細網内皮系疾患

1.悪性リンパ腫
 概念
 臨床的にはリンパ組織が腫瘤状に腫大し,病変は進行性で、致死的経過をたどる,
 病理学的には正常リンパ組織の構成細胞に由来する悪性腫瘍を総括した病名である.
 分類:ホジキン病(ホジキンリンパ腫)、非ホジキン病(非ホジキンリンパ腫)

 (ア)ホジキン病
概念
 リンパ細網組織の増殖性疾患の内、ホジキン細胞とリード・ステルンベルグ細胞の存在によって特徴づけられる病理組織像を有するものをいう。
原因:不明である。
症状
・リンパ節腫:無痛性で,初発部位は頚部,鎖骨上窩がもっとも多く,鼡径部,腋窩の順である。
・炎症症状と免疫不全症状:発熱,盗汗,体重減少は予後の悪さと関係している。
・皮膚病変を伴わない皮膚そう痒感,アルコール飲酒後のリンパ節の痛み,食欲不振などもある。
・肝脾腫・末期における閉塞性黄疸の出現もある。
治療:初期には、放射線療法と外科的切除.後期には、化学療法と多剤併用療法.
予後:5年生存率は70~80%である。
 (イ)非ホジキン病
 概念
 ホジキン病以外の悪性リンパ腫の総称であり、リンパ組織を構成する細胞が腫瘍性に増殖する疾患である。わが国の悪性リンパ腫の約90%を占めている。
原因:レトロウイルスHTLV‐1の感染、EB(Epstein‐Barr)ウイルスの感染
 症状
・表在リンパ節種(無痛性で可動性に冨み、硬い)
・腹部リンパ節の腫張:腹痛・下痢・下血・閉塞性黄疸・脾腫・腹部腫瘤
・縦隔リンパ節腫脹:呼吸困難・咳・嗄声、扁桃腫瘍(ホジキン病では殆ど見られない)
予後:T細胞型の方がB細胞型より予後不良。5年生存率は30~40%。
治療:ホジキン病に準じる。

出血性素因

 出血性素因=何の誘因なしに出血したり、わずかな外力で出血する場合や、一旦出血したら止血しにくい状態を言う。

1.紫斑病
概念:紫斑を主徴候とする疾患が紫斑病である。.
紫斑=真皮の微小血管からの赤血球の遊出による皮膚および粘膜の出血斑をいう。直径5mmまでを点状出血、それ以上を斑状出血と区別している、
原因:血液の異常,血管障害,原因不明に大別。

 (ア)血小板異常による紫斑病
 ①特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
・急性型は小児に多く(比較的少ない)、慢性型は成人女性に多い。
・血小板数10万/っm3 以下を血小板減少症と考え8万/mm3 以下では出血傾向を呈してくる。
・自己免疫疾患と考えられている。
・症状:紫斑・鼻出血・歯肉出血・性器出血・血尿
・治療:副腎皮質ホルモンが主体である。
②血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
・3主徴=溶血性貧血・血小板減少性紫斑病・種々の脳神経症状。
・全身の細動脈・毛細血管に多発性血栓が認められる。予後不良であることが多い。
 ③血小板無力症
・常染色体劣性遺伝。
・血小板数は正常であるが、機能に異常が見られる状態である。
・小児より皮下出血・鼻出血をみる、予後はよい。
 
 (イ)血管性紫斑病
 ①シェーンライン・へノッホ紫斑病
・毛細血管動脈則の抗原抗体反応に基づく無菌性血管炎により、血管透過性が亢進し出血傾向を来す疾患。β溶連菌・食事性アレルギーが関与していると考えられている。
・小児に多く、発熱・紫斑・関節痛・腹痛・血尿を呈する。
・予後は一般に良好である。
②単純性紫斑病
・若い女性に多く発症。
・血管のアレルギー性反応と考えられている。予後良好。
③老人性紫斑病
・老人血管支持組織の脆弱性変化に基づく紫斑、予後良好。

2.血液凝固障害による出血性疾患
 (ア)血友病
 概念;血友病A(第VIII因子欠乏症)ならびに血友病B(第IX因子欠乏症を血友病という。
原因:遺伝は伴性劣性遺伝の形式をとる(男子のみに発症)。偶発例は30%を占める。
疫学:男10万人に対して約7人の割である(1万人に対して1~2例という説も)。AとBとの比率は約5:1である。
 症状
・深部出血
 関節出血が最も特徴的であり,なかでも膝肘,足の3関節に多く出血がみられる(関節の拘縮変形を来すこともある).筋肉出血では腸腰筋血腫を生じ神経麻痺をみることがある。頭蓋内出血は放置すれば生命が脅かされる。
・各部からの出血
 皮下出血,鼻出血,口腔粘膜出血,歯肉出血,吐血,下血,内臓出血等がみられる。 生後6ヵ月を過ぎて,はいはい,歩きはじめの頃から,皮下出血,関節出血が現れ,異常に初めて気づくことが多い.生下時には出血傾向は比較的まれであるが,生下時に帽状腱膜下出血,頭蓋内出血,臍出血などを認めることがある.
 治療
 抗血友病製剤である第VIII因子製剤または第IX因子製剤(プロトロンビン複合体)を用いる.出血の種類によって目標血中因子レベルが異なり、投与量,投与期間が異なってくる。

一 般 外 科

Ⅰ 損傷

1、熱傷
 概要:生体に熱が加わったために生じた損傷。
重症度:熱傷を受けた皮膚の表面積と皮膚障害の深さで決まる。
局所障害の程度:熱の種類(火災、熱湯等)・強さ・作用時間、局所の熱伝導度によって決まる。
45℃以下ー細胞障害はない。
45℃~65℃ー熱の作用時間によって細胞障害の程度が決まる。
65℃以上ー蛋白凝固が起こる。
低温熱傷ー触れることが出来る程度の熱さであるけれども、長く触れていると生ずる熱傷。あんか等によって起こる。深度が深く難治性である。
症状
 (ア)局所症状
①皮膚障害の深さによる分類
第1度熱傷(紅斑性熱傷):表皮層に限局するもの、紅斑・疼痛を生じる。
第2度熱傷(水疱性熱傷):真皮層に達するもの。
表在性=発赤・紅斑・疼痛が強度、まもなく水泡ができる、水疱下の真皮が赤味を帯びるもの。
深達性=水疱下の真皮が白味を帯びてる。
第3度熱傷(焼痂性熱傷)):皮下脂肪組織に達するもの、皮膚は壊死して乾燥して硬く弾力がない。
注)疼痛は皮膚の残存する第1度・第2度の方が第3度より強い。 低温熱傷は第3度熱傷の事が多い。2・3度では易感染性。
 ②皮膚障害の面積
一般に熱傷の重症度は深達度よりも熱傷面積に左右されことが多い。熱傷面積が体表面積の1/3以上であれば生命は危険である、小児では1/6でも危険である。体表の1/10以上の熱傷は重症である。
注)体表面積の「9」(小児では6)の法則
 頭部=9%、腹部=9%×2×2、上肢=9%×2、下肢=9%×2×2、胸部=9%×2、陰部=1%
熱傷により凝固壊死した組織は焼痂を作る。第2度までは1週間以内に回復する。第3度では2週間ぐらいから肉芽組織ができはじめ3週間で完成する。
 ③感染
膚の感染防御機構が失われるため必発する、敗血症となることもある。最初はブドウ球菌等のグラム陽性菌の感染が多く、後に緑膿菌・大腸菌等のグラム陰性菌桿菌の感染が多くなる。
 (イ)全身症状
 ①循環血漿量の減少
 細胞外液量、その代表的な循環血漿量が熱傷により滲出液として水分が失われるためである。これにより時に熱傷ショックを来すことがある。
②低蛋白血症
 滲出液に多量の蛋白が含まれるため血漿蛋白が喪失、また、摂取蛋白量も減少することが多いので一層低蛋白血症を増強する。低蛋白血症は感染防御上からも危険な状態となる。
③溶血
熱の直接作用による。溶血の結果、ヘモグロビン血症・ヘモグロビン尿症を呈する。一時的に貧血を呈することもある。
④心筋収縮力の低下
組織の壊死分解によって産生された毒素によるとされている。
⑤呼吸器障害
 咽喉頭・声帯などに発赤・腫脹・嗄声等の出現。広範囲の熱傷後3~5日で呼吸障害を起こすこと がある、これは主に体液変動によるもので、侵襲後肺不全症とも呼ばれ1種のショック肺と考えられている。
⑥消化器症状
一過性にイレウス症状や急性出血性胃十二指腸潰瘍(熱傷後の潰瘍をカーリング潰瘍という)の出現を見ることがある。消化管粘膜の循環不全や熱傷によるストレスが原因と考えられている。早期に一過性のイレウスの出現することがある。
⑦腎障害
 治療
①全身療法と救急処置
気道の確保・酸素吸入・静脈確保と輸液・導尿胃管挿入・感染予防・鎮痛等
 注)静脈の確保
 体液の変化が著しいので、輸液を行う。当初は水分と共に蛋白・ナトリウムを含む高張のリンゲル液を補給する、受傷後48時間後は電解質を含まない5%ブドウ糖液を補給。盗血により貧血が起こって来た時は要輸血。
②局所療法
・表在性の限局性熱傷では、直ちに流水等で局所を30分から数時間冷却すること。冷却は障害が深部へ波及することを阻止し、水疱形成を抑止し鎮痛効果がある。
・第2度熱傷では創面を滅菌した後、開放的に乾燥痂皮を作らせて痂皮の下に表皮の形成を促すようにする。
・第3度熱傷では、微温生理的食塩水で熱傷面を洗浄し後、抗生物資軟膏をガーゼにのばして創面を覆い包帯する、水疱は切除しない方がよい。
皮膚欠損部は植皮による修復が必要となる。植皮は手背・足背・四肢関節部など機能的に重要な部位に拘縮の予防のために優先的に行う。眼瞼及びその周囲も感染や眼瞼外反による角膜潰瘍などで失明の恐れがあるので優先的に植皮する。

Ⅱ 外科的感染症

1.猩紅熱
 原因:A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)が飛沫感染して口蓋扁桃を侵し毒素を出すため,咽頭痛・高熱・発疹を主症状とする小児に多い伝染病。 
 疫学:好発年齢は5歳をピークとする小児で,保育園や小学校で集団発生することがあり,学校伝染病の一つ.流行季節は晩秋~春であるが都会地では一年中発生する.
 症状:潜伏期間は2~5日.咽頭痛で始まり悪寒がして39℃前後に発熱する。初期は食欲不振が強く嘔吐も見る.口蓋扁桃が赤く腫れ陰窩に膿栓や膿苔出現。第1~2日め直径1~1.5mmの紅い発疹が密出現,
治療
 ペニシリン系の抗生物質が効き,症状は2~3日で消えるが,溶連菌の根絶は容易でなく,アンギナを再発したり保菌者となりやすいので,2週間の内服治療が標準。治療終了後に咽頭粘液の検査を2~3回する。
 合併症:回復期に口角炎やアンギナの再発をみることが多く,まれに猩紅熱腎炎やリウマチ熱をみる。

2.破傷風
 ・破傷風菌が外傷部から侵入して増殖し、産生された外毒素が中枢神経を障害する痙攣性疾患である。潜伏期は4~5日。
 ・破傷風菌
 嫌気性桿菌で、特に芽胞型では抵抗性の弱い菌であり、広く表層性土壌中に存在している。破傷風毒素は、神経系統特に中枢運動神経に対して特殊な親和性を有する。毒素は感染創から血行性又は直接末梢神経を伝い、主に延髄・脊髄に達し運動神経細胞と結合する。破傷風菌そのものは創傷部付近に留まる。
 症状
 緊張性痙攣が顔面(痙笑=破傷風顔貌=痙攣笑い、泣いているか笑っているか判らない顔貌)から躯幹・体肢へと広がる。
音・光・振動等のわずかな刺激で発作を生じる。
開口障害(牙関緊急)・嚥下障害・発語障害・全身筋肉の強直を生じる。意識は明瞭である。
全身痙攣のないものは殆ど死亡しない。
 治療
 創傷部の洗浄、異物・壊死組織の除去、破傷風免疫ヒトグロブリンの筋注、馬血清の抗毒素の点滴静注。

3.百日咳
 原因:百日咳菌によって起こる急性の気道感染症で長期間持続する咳嗽発作を特徴とする疾患である.
 症状
 潜伏期は6~20日である。
カタル期=鼻汁・咳嗽(夜間に強い)を見る。(1~2週) 
痙咳期=激しい痙攣性のせきが連続して起こる。(2~4週)
回復期=1~2週を経て軽快する。せきは夜間に多い。
 合併症:無気肺、肺炎、中耳炎、脳出血、意識障害、痙攣
 治療:鎮咳薬に加え水分の補給を行う.抗生物質はエリスロマイシン,アンピシリン,ラタモキセフ等

4.狂犬病
 ・狂犬による咬傷で、ウィルスが侵入し中枢神経を障害する、潜伏期は3~8週間。日本での発症は殆どない。
 症状
 咬傷部から中枢に向かう疼痛・精神変調・呼吸障害嚥下障害・発声障害・液体嚥下時の痙攣とそれに伴う恐水発作、唾液分泌亢進・全身筋肉の痙攣、せん妄・幻覚・興奮、全身の弛緩性麻痺から呼吸障害により死亡する。
治療
 咬傷部の切除・焼灼、ワクチン接種、狂犬病免疫ヒト血清の注射。
 発症したものには無効で対症療法しかない。予防法として犬に対する予防接種。

5.エイズ(後天性免疫不全症候群)
 原因
 ヒトレトロウイルスの一種であるレンチウイルス科のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の終末像である。
細胞性免疫が荒廃し,種々の日和見感染症や悪性腫瘍,HIV脳症が生じてきた病態をさす。
 感染経路:性交渉,輸血,血液製剤使用,妊娠中の母子感染(→垂直感染)などが知られている。
 病理像
 HIVはヘルパー/インデューサーT細胞(CD4細胞)に対する親和性が高く,これらの細胞に感染して破壊するため細胞性免疫の荒廃が生じる。
 症状
 日和見感染症:カリニ肺炎,肺外クリプトコッカス症,サイトメガロウイルス感染症,カンジダ症,非定型抗酸菌症,クリプトスポリジウム症,肺外結核症等
 悪性腫瘍:非ホジキンリンパ腫、特にB細胞性悪性リンパ腫が高頻度である。カポジ肉腫(血管内皮過形成病変に伴うと考えられる赤紫色から黒褐色の斑や丘疹)
 神経症状:HIV脳症、痴呆・運動麻痺・錐体外路症状・痙攣等出現。
 日和見感染症に伴う神経症状:トキソプラズマ・クリプトコッカス・サイトメガロウィルス・ヘルペスウィルス・パポバウィルス等が起因微生物
 末梢神経障害:急性・慢性の炎症性脱髄性多発性根末梢神経障害として発症することがある。
 検査
 HIV抗体検査が陽性であり細胞性免疫の低下による日和見感染症や悪性腫瘍(指標疾患)が認められること,
 HIV抗体検査が陰性もしくは判定保留でも免疫不全を起こす他疾患に罹患しておらず,かつ指標疾患がありCD4+T細胞(T4細胞)が400/mm3以下であれば確定される。
 治療法
 延命効果が証明されているAZT(アジドチミジン)、ddi(ジデオキシノイシン)が用いられているが予後は不良である。その他、αインターフェロン、ST合剤(サルファメトキサゾール・トリメトプリウム合剤=カリニ肺炎に対するもの)等がある。

Ⅲ、外科的特異炎症

 概念
 病原体感染によって生じる病変が特異的であるものをいう。
これらは肉芽組織を形成する共通点があり、結核・癩・梅毒・放線菌症・サルコイドーシスが挙げられる。

1.結核

2.癩病(1996年以降ハンセン病となっている)
 病原菌はらい菌(抗酸性桿菌)
 症状による分類
 らい腫型=大きさが種々の丘疹・小結節が多発して顔面・四肢などに対称性に分布する。
 類結核型=皮膚に辺縁の隆起した円形で赤みを帯びた浸潤が散発し、その部分の知覚鈍麻がある。
 上記2型は尺骨・正中・橈骨神経等が肥厚しその領域の知覚や運動の障害が見られる。
 未分化群=色素脱出斑や紅斑を生じ、発疹部の知覚が鈍麻する。
 境界群=らい腫型と類結核型との中間のもの。皮疹よりらい菌を検出し確定診断ができる。

3.梅毒
 梅毒トレポネーマ感染によって起こる慢性全身性疾患。
感染経路=性交感染・母子感染
 症状
 第1期:感染の機械があってから3週間後に局所に初期硬結を生じ、潰瘍を作り硬性下疳となる。
 多くは数週の内に自然治癒すると共に所属リンパ節の無痛性腫大(無痛性横痃)を生じる。
 血清梅毒反応(カルジオルピン抗原による、生物学的擬陽性反応が出やすい)が陽性となる。
 第2期:感染後3ヶ月に全身倦怠感・食欲不振・発熱・発疹を見る。発疹は、バラ疹・丘疹・膿疱(扁平コンジローマ)等である。
 第3期:感染後3年後に皮膚や粘膜に大型の結節やゴム腫(皮膚以外は、肝臓・精巣・大動脈・骨膜にできる)を生じ,壊死して瘢痕を残して治癒する。
第4期:感染後10~15年して変性梅毒の形を取り進行性麻痺・脊髄癆となる。
 治療:ペニシリンが用いられる、第3期の壊死巣に対しては外科処置が行われる。

4.放線菌症
・放線菌(糸状菌に属する)の感染によって発症。放線菌は口腔内・消化管内に常在し、ヒトの抵抗力が弱まったときに侵入して発症する。
・慢性化膿性肉芽腫疾患で膿瘍を形成し、瘻孔・瘻管を形成する。好発部位は、顔面・頸部・胸部・腹部

救 急 処 置

 バイタルサイン:一般的に、体温・血圧・呼吸・脈拍・意識等を言う。

Ⅰ 救急蘇生法
 ・救急蘇生術のABC
 Air way = 気道の確保
 Breathing = 人工呼吸
 Circulation = 心マッサージ
 ・1次応急処置の手順
 意識の有無の確認、意識無し → 気道の確保(同時に異物除去) → 呼吸の確認、呼吸無し → 人工呼吸 → 脈拍の確認、脈拍無し → 心マッサージ

Ⅱ ショック
 ・概念:重要臓器への血流、特に微小循環障害のために組織が十分な酸素や栄養をとれない状態。
 ・分類
 (ア)循環血流減少性ショック :循環血液量の約20%(1/3)の消失にて出現してくる。
 (イ)心原性ショック:多くは心筋梗塞で見られる。
 (ウ)血管運動性ショック
 抵抗血管の緊張低下のために生じるもの。
 ①アナフィラキシーショック:ヒスタミン・ロイコトリエン等のメディエーターが血管を拡張と透過生亢進を起こすことにより発症。
 ②神経原性ショック:脊髄損傷・脊椎麻酔などで見られる。疼痛刺激・精神性刺激・脳死によるのもが含まれる
  (エ)混合性ショック
  インスリンショック・細菌性ショック・敗血症性ショック・産科性ショック等
  症状
 3主張=無欲・無関心、蒼白で冷たい湿った皮膚、微弱な頻脈
 5P症状=蒼白、冷汗、虚脱、脈拍微弱、呼吸促進
 その他=血圧低下(収縮期血圧80mmHg以下)、体温低下、乏尿または無尿、意識障害、
  処置:心肺蘇生法、輸血・輸液、酸素吸入、対症療法、

    麻酔科学

  麻酔法

  1、麻酔科学の概念
  麻酔=手術の際に薬物により痛覚を一次的に遮断すること。
  麻酔科学=外科的治療に必要な麻酔を、生命の安全を保障しながら行う方法を研究する学問。

  2、麻酔の種類

 (1)全身麻酔
 ・脳内痛覚伝導路ないし脳皮質感覚中枢を遮断して、痛覚をなくす方法、可逆的に意識は消失する。
 a、吸入麻酔
 麻酔薬 ー ハロセン・エンフルレン・イソフルレン・笑気=N2O・サイクロプロペ イン等を使用。
麻酔深度判定のための臨床徴候
・眼球の徴候=瞳孔拡大、対光反射・睫毛反射・角膜反射の消失
・呼吸の徴候=呼吸中枢のPaCO2に対する閾値上昇、肋間筋麻痺。横隔膜麻痺により呼吸停止
・循環系の徴候=麻酔の深度や麻酔薬の種類により血圧状態は変化
・筋肉弛緩。侵害反射消失、脳波はθ波からδ波さらには平坦波となる
吸入麻酔の深度分類
第1期(無痛期)=麻酔開始から意識消失までの時期
第2期(興奮期)=中枢神経系の抑制解除による興奮状態(呼吸不規則・眼球運動・血圧上昇等)
第3期(外科的麻酔期)=生理機能が抑制(呼吸減弱・血圧低下・筋弛緩等)され、手術可能な時期
第4期(延髄麻酔期)=呼吸停止、徐脈、血圧低下、瞳孔散大、放置すると死に至る。
 b、静脈麻酔
麻酔薬 ー バルビタール酸誘導体・ケタミン・ジアゼパム・モルヒネ
 c、NLA(Neuro leptanal gesia、神経遮断無痛法)(バランス麻酔)
 ・幾つかの薬剤を組み合わせて、全身麻酔の鎮静
 ・催眠・鎮痛・自律反射抑制・筋弛緩を得る一方、副作用の軽減をはかる目的で開発された麻酔法。
精神・自律神経抑制作用を持つneuroleptics(ドロレプタンを使用)と鎮静作用を持つanalugesics(フェンタネストを使用)から構成されている。

 (2)広義の局所麻酔
 ・痛覚伝導路の経路のどこかを一時的に遮断する麻酔法を局所麻酔法という。患者の意識は保たれているのが特徴である。
(ア)狭義の局所麻酔
 感覚神経終末部を麻酔薬によって遮断するもの。
 a.表面麻酔
 粘膜に局所麻酔剤の塗布や噴霧を行うことによって、痛覚神経の末端で麻酔を行うもの。(リドカインのスプレー、コカインの塗布)
 b.局所浸潤麻酔
 皮下組織への浸潤法のように、末梢に近い所で神経を遮断する(プロカイン・リドカインの注射)。
(イ)伝導(伝達)麻酔 = 感覚神経を麻酔薬で遮断する。
a.神経ブロック
 外部から注射針によって知覚神経走行路を遮断する方法(リドカイン・プロカイン・メピバカイン等の注入により神経ブロック。坐骨・外側大腿皮・肋間神経を対象としたものが多い)。 
 b.神経叢ブロック
 神経の集合した部分で遮断する方法(リドカイン・メピバカインの注入。腹腔・浅頚神経叢・腕神経叢を対象としたものが多い)。
 c.硬膜外麻酔
 リドカイン・メピバカイン・ブピバカイン等の局麻剤を脊柱管内の硬膜外に注入。
顔面・頭部以外の手術全般、意識を残しておきたい場合、手術による肺合併症の恐れのある場合、ペインクリニックに適応。
交感・知覚神経のみを麻痺させて。運動神経機能だけを残すことが出来る。
d.脊柱(脊椎)麻酔
  テトラカイン・ジブカイン・リドカイン等の局麻剤をくも膜下腔へ注入し脊髄前根・後根を遮断する方法。
T6以下の感覚神経支配領域以下の手術全般、意識を残しておきたい場合。手術による肺合併症の恐れのある場合。代表的なものは腰椎麻酔である。

 (3)特殊な麻酔
(ア)低血圧麻酔=麻酔中、降圧剤により血圧を低下させるもの。脳動脈瘤の手術に利用。
(イ)人工冬眠あるいは強化麻酔=自律神経遮断薬の投与、冷却により体温を下げるの。侵襲に対する耐容性を増す方法。
(ウ)低体温麻酔=麻酔中に人為的に体温を低下させるもの。細胞代謝を低下させ低酸素血症への耐容力を増す方法。
(エ)鍼麻酔

  3、麻酔前投与

 (1)目的
(ア)患者の不安感の解消
(イ)麻酔導入の円滑化と麻酔の補助
(ウ)記憶喪失の招来
(エ)基礎代謝の低下
(オ)鎮痛
(カ)気道分泌の抑制
(キ)迷走神経反射の抑制

 (2)前投薬の種類
(ア)催眠薬 = バルビタール剤・ベンゾジアゼピン誘導体・ブチロフェノン誘導体・ジフェニールメタン誘導体
(イ)鎮痛剤 = 麻薬、非麻薬(ペンタジソン等)
(ウ)唾液・気道分泌の抑制と迷走神経反射抑制(ベラドンナ薬・アトロピン・スコボラミン)

    ペインクリニックニ

  1、概念
 ・疾患の根本治療によっても、あるいはそれが不可能な例で難治性の疼痛を訴える患者に、枯息的ではあるが除痛を施し、恒常心を持って有意義な生活を送らせるためのクリニックである。
 ・難治性疼痛や痛みを主訴とする疾患の治療を行う痛みの他麻痺・痙攣なども扱う。
 方法 = 主には神経ブロック、その他麻薬の使用や鍼治療も行われる。

  2、神経ブロック 
 概念 : 神経に直接またはその周辺に薬剤を注入して神経刺激の伝達を遮断する方法。

 (1)対象疾患
(ア)真性三叉神経痛のように原因不明で、痛みを取ることが唯一の治療法であるもの。
(イ)末期癌のように、原因が明らかでも痛みを取ることが治療法として重要なもの。
(ウ)反射性交感神経性萎縮症・バージャー病・レイノー病・閉塞性後動脈硬化症のように、交感神経節ブロックにより末梢血行が改善して治療効 果のあるもの。
(エ)顔面痙攣のように、運動神経ブロックにより筋肉の不随運動を止めることが出来るもの。

(2)方法 
  局所麻酔薬や神経破壊薬(アルコール・フェノール)を神経線維や神経節の近辺に注射する。

 (3)主な神経ブロック 
(ア)体性神経系ブロック
 ・三叉神経ブロック
三叉神経痛に行う。頭蓋を出るところに局麻剤を注入する.
第1枝 = 眼窩上神経ブロック・滑車上神経ブロック
第2枝 = 上顎神経ブロック・眼窩下神経ブロック
第3枝 = 下顎神経ブロック
 ・後頭神経ブロック
大小後頭神経痛・筋緊張性頭痛・頭部外傷後頭痛等にも行われる。
後頭隆起の側方から薬剤を注入。
 ・肩甲上神経ブロック
五十肩に適応、
肩甲上切痕に向かって鍼を刺し薬剤を注入。
 ・肋間神経ブロック
肋間神経痛に適応、
肋骨下縁において局麻剤を注入。
 ・腰部傍脊椎神経ブロック
坐骨神経痛・変形性股関節痛に適応。
腰椎棘突起の上端を通る水平線と棘突起の3.2~3.8㎝外側を通る垂線の交点で刺入。
 ・仙骨神経ブロック
坐骨神経痛に適応、
中間仙骨陵下端と2個の仙骨角から形成される三角形の凹所が仙骨裂孔に相当するが、ここより薬剤注入。
 ・顔面神経ブロック
顔面麻痺に適応。
茎乳突孔で顔面神経に鍼を当てるか、アルコール注入が行われる。
(イ)交感神経系ブロック 
 ・星状神経節ブロック
顔面の帯状庖疹・片頭痛・頚腕症候群・末梢性顔面神経麻痺・上肢の反射性交感神経萎縮等に適応。
輪状軟骨を目安に第7頸椎横突起に向かって針を進め、至適部位で麻酔薬を注入。
 ・腹腔神経叢ブロック 
上腹部内臓癌(胃・胆嚢・膵)膵炎等の疼痛、腹腔神経叢を完全にブロックするためには両側を行う必要がある。
第1腰椎の高さで正中から約7cm離れたところで刺入し目的の位置に達したら局所麻酔薬を注入する。
 ・腰部交感神経節ブロック
骨盤内癌・バージャー病・レイノー病等、筋・筋膜性腰痛・椎間板ヘルニア・ 変形性脊椎症・脊椎分離症・脊椎すべり症等に適応。
L1~L4の棘突起外側6~7㎝に麻酔薬を刺入。通常第2・3腰部交感神経節で実施。
(ウ)その他のペインクリニック
 ・くも膜下腔フェノールブロック
肺・肝・胆嚢・胃・膵・腎の癌による限極した疼痛に適応。
 ・脳下垂体アルコールブロック 
ホルモン依存性癌(乳癌・前立腺癌・甲状腺癌)・肺癌の骨転移等に適応。

    精神科疾患

  1、神経症
  概念 ー 一定の性格傾向の人に心因が作用して発症する機能的な疾患であり、心因性精神障害の代表的な疾患である。
  心因 = 心理的原因のことで、急に発生した心理的衝撃・持続するストレス・対人的葛藤などが挙げられる。
  神経症の診断
 ①精神身体症状を説明する身体所見が認められない。
 ②精神病、人格障害、心身症を除外できる。
 ③ヒステリーの身体化は機能的なものであり、器質的なものではない。
 ④準備状態(素質、生活史)に心因が加わって生じるのが神経症であり、その発症のプロセスを解明する。
 ⑤単に不安があるのではなく、一定の精神身体症状がある。
 注)神経症を起こしやすい性格 ー 神経質・小心・気にし易い・未成熟・完全欲・依存的等が挙げられる。
好発年齢 : 思春期・青年期・初老期
神経症の種類
(ア)不安神経症
 ・過度の不安を主徴とする神経症である。不安というのは対象が漠然としている情動である、これは内的な葛藤や欲求不満があって自我が破局すると不安を生じてくる、この不安が認識されるものが不安神経症である。
・不安発作 = 急激な激しい不安・苦悶・焦燥が起こり、自律神経症状を伴う、過呼吸から呼吸停止意識混濁の起こることもある。
 ・急性の不安状態はパニック障害に相当し、不安発作はパニック発作に相当する。
(イ)恐怖症(恐怖症性不安障害)
 特定の対象や事物に不釣合いな恐怖心を抱き、自分では不合理であると自覚しながらも恐怖にとらわれてしまう精神状態。
 例 : 広場恐怖症(一人になること等を怖がる)、対人(=社会)恐怖症(赤面・吃音視線恐怖症等)、個別的恐怖症(尖端・高所・不潔恐怖症等)
(ウ)強迫神経症(強迫性障害)
 ・自分でもばかばかしいと気付いているが、ある特定の観念や行為を止めることが出来ない状態である。止めると不安になるため止められない。
・強迫観念(詮索壁・質問壁)と強迫行為(洗浄強迫・確認強迫・睡眠儀式等)がある。
 ・強迫性格 = 堅苦しい、杓子定規、小心。
・セロトニンの調節障害関与。
(エ)心気症
・自分の健康に過剰に配慮する結果、かえって身体各部の異常感に捕らわれ、執拗にそれを訴える神経症である。 正常に診断されると不満を持つ。
 ・心気症の4要素
①自分の健康を病的に気遣う。
 ②自分が病気に罹っている(病名が解らないを含む)という確信。
 ③内的・外的疾病利得獲得傾向。
 ④執拗な患者と治療者の関係
(オ)解離性・転換性障害(ヒステリー)
 ・心因によって、意識野の狭搾、或は運動系や感覚系の障害がもたされた状態。これらの障害は、患者にとって疾病への逃避としての側面があり、それにより利得が得られる場合や、象徴的意味を有する場合があるものである。
また、防衛的反応でもある。
 ・ヒステリー性性格 = 顕示欲・自己中心・未熟性・感情異変性などの特徴を持つ。
①転換性障害(転換ヒステリー)
 ・運動や感覚の障害を主症状とするもの。失立・失歩の出現。
 特徴1 = てんかん様痙攣を見るが、てんかんと異なり、発作は他人のいるところで起こりやすく、発作の型が不規則多彩であり、舌咬傷や外傷がなく尿失禁もない、発作後の終末睡眠もない。
 特徴2 = 表在感覚の消失は、その領域が神経支配に一致せず境界が鮮明なことが多い。
 注)ヒステリー性クラーブス = 釘を頭に打ち込んだような激しい限局性頭痛。
ヒステリー球 = 球が腹部から喉頭へあがってくるような感じ。
②解離性障害(解離性ヒステリー)
・解離とは強い情動体験により意識の狭搾が起こったり、人格の統合が一次的に失われた状態。
情景的幻視、全生活史健忘、ガンサー症候群(質問に対して即座にでたらめな答えをする)、幼稚症等の出現。
 ・小児から若年成人に好発、女性に多い。
(カ)離人神経症(離人症候群)
・外界の対象物や自己の身体の一部が、非現実的なもの、遠いもののように感じられる精神状態。本人はそれが主観的なものであるという自覚あり。
・本症は、分裂病・うつ病・不安神経症・強迫神経症でも出現する。
(キ)抑うつ神経症(神経症抑鬱)
 心因によって誘発された抑うつ状態(悲哀感・気分変動・意欲低下等)を主な症状とする神経症。
(ク)神経衰弱症
慢性の身体的衰弱感と精神的無力感を主徴とする。心的疲労を示す神経症である。

    心療内科疾患

  1、心身症(PSD)
  概念 : 心理的・情動的因子が発症に関与して生ずる身体的病態である。自律神経系及び内臓諸器官の生理的異常を生じ、器質的ないし機能的障害が認められるもの。
  注)精神障害に伴う症状は除外する。
  臓器別の主な疾患
(ア)心臓循環器系 : 本態性高血圧症・頻脈・狭心症・低血圧・レイノー病等
(イ)神経系 : 筋収縮性頭痛・書痙・片頭痛等
(ウ)呼吸器系 : 過呼吸症候群・気管支喘息・神経性咳嗽等
(エ)消化器系 : 胃十二指腸潰瘍・過敏性腸症候群等
(オ)内分泌・代謝系 : 糖尿病・神経性食欲不振症・甲状腺機能亢進症・肥満等
(カ)泌尿生殖器系 : 陰萎・冷感症・神経性頻尿・夜尿症・月経障害不感症等
(キ)皮膚系 : アトピー性皮膚炎・じんましん・円形脱毛症等
(ク)耳鼻科・眼科 : 乗り物酔い、アレルギー性鼻炎・吃音・失声・難聴・メニエル病・眼精疲労・中心性網膜炎・眼瞼痙攣・緑内障等
(ケ)骨・筋肉系 : 脊椎過敏症・関節リウマチ等・頚腕症候群・腰痛・関節痛
注)以上のものが全て心身症では説明できない。
  心理側面
(ア)アレキシサイミア(失感情症・失感情言語症)
本患者は自分の感情がいまどうであるのか認識できず、それをひとごとのように話す傾向があるこれをいう。
また、自分の身体への気遣いも鈍い傾向にある(失体感症)
(イ)社会適応
他人によく気遣い、頼まれるといやといえず、過剰適応する傾向がある。
 検査 : CMI、YーGテスト。MMPI。内田-クレペリン作業検査等
治療
無意識の疾病利得が絡んでいる場合は、その認識と 是認、保証が大切になってくる。
自律訓練法・催眠術・ヨガ・行動療法(現れた行動の障害のみを減弱消去しようとする療法)・バイオフィードバック法等行われる。
薬物療法は抗不安薬を中心として行われる。

  2、自律神経失調症
概念 ー 多彩な自律神経症状を呈し、かつ器質的病変のない状態。
心理的要素の強いものを心身症
 身体的要素の強いものを自律神経失調症としている。
発症要因
 内部環境要因 : 遺伝・体質・性周期・妊娠・分娩・手術・心理的葛藤。
外部環境要因 : 家庭・学校・職場・気候風土。
  症状 : 多種多様な不定愁訴を訴える。

     眼科疾患

  Ⅰ 結膜疾患

  1.非感染性結膜炎
(1)フリクテン性結膜炎
 ・遅延型の微生物アレルギーと考えられている。
ブドウ球菌・結核菌・コッホ・ウィークス菌の関与がある。
 ・乳児・学童期の女子に多い。1~2週間で治癒。
フリクテン = 結膜・角膜にできる白色円形の粟粒大の隆起。
(2)アレルギー性結膜炎
 ・即時(Ⅰ)型アレルギー結膜炎
粉・塵埃・ダニ・カビ等が抗原、痒み感、結膜充血・浮腫・流涙等出現。   ・ ・遅延型アレルギー結膜炎
アトロピンや抗生物質点眼により生じる。結膜濾胞・眼瞼に接触皮膚炎を見る。
 注)春季カタル
アレルギー性結膜炎の1種であるが、春に増悪し冬に緩解する。
花粉・塵埃ダニが抗原となっているアレルギーと考えられている。
目の掻痒感・眼脂・上眼瞼結膜に乳白色の乳頭増殖(石垣状を呈する)・眼球の輪郭に乳頭増殖や角膜潰瘍を形成することもある。
 注)巨大乳頭結膜炎:コンタクトレンズ・義眼装用者に見られる。

  2.ウィルス性結膜炎
(1)流行性角結膜炎
 ・アデノウィルス8型(19・3・4・11型でも発症)の接触感染により発症する
 ・俗にいう「はやりめ」である。他人に伝染しやすい(家族内感染・院内感染が多い、他人に接触しないようにする)。
 ・症状等
潜伏期 = 5~14日、濾胞性結膜炎として始まり、 漿液性の眼脂・流涙・強い羞明(結膜炎の主要症状は眼脂と羞明である)・眼瞼腫脹・結膜充・血耳前リンパ節の腫張と圧痛、これらの症状は2~4週間で消失する。
発症10日ぐらいに点状表層角膜炎を併発することがある。2~3ヶ月持続することがある。
(2)咽頭結膜熱
 ・アデノイウィルス3型の感染により発症する。
・プールで夏から秋にかけて感染することが多くプール熱とも言われる。学童に発生する。
・症状
潜伏期5~6日後に、急性結膜炎・咽頭炎・発熱(39~40℃)を見る。
(3)急性出血性結膜炎
 ・エンテロウィルス70型の感染による。
 ・成人に多く、小児の発症は少ない。
・症状
潜伏期は約1日、流涙・羞明・眼痛・結膜充血・結膜下出血を見る。結膜炎は1週間ほどで治癒する。

  3.細菌性結膜炎
(1)カタル性結膜炎
 ・肺炎球菌、黄色ブドウ球菌等の感染による。
 ・症状 : 粘液または粘液嚢性の眼脂、結膜充血等
(2)淋菌性結膜炎(膿漏眼)
・淋菌の感染による結膜炎である。出産時に感染する事多し。
 ・急性に発症し、眼瞼と結膜の腫張・充血が強く・多量の膿汁分泌が見られる。角膜穿孔を起こし失明に至ることがある。

  4.トラコーマ(封入体結膜炎)
 ・トラコーマクラミジアの感染により発症。結膜・角膜をおかし失明の原因となる。
 ・症状:濾胞性結膜炎・眼脂・角膜混濁・眼瞼腫脹、成人では性病を伴うことが多い。
 ・バゼック(プロワゼク)小体 = 結膜上皮細胞内にみられる封入体。病原体の集団と考えられている。
 ・パンヌス = 結膜の血管が角膜に浸入した状態。角膜混濁・視力障害を生じる。 

  Ⅱ 水晶体の疾患(俗に‘白そこひ’とも言われる)

  1.先天性白内障
 ・水晶体が先天性混濁を示すもの。
 ・遺伝性及び妊娠中の風疹罹患によるものがある。
 ・高度の場合は生後4カ月以内に水晶体を取り除かないと視力障害を残す。

  2.老人性白内障
・中年以後に起こる原因不明の後天性白内障、水晶体の老人現象による白濁。
 ・白内障の原因として最も多い。
 ・分類
 成熟白内障 = 混濁が水晶体全体に及んだもの。
未熟(初発)白内障 = 上記以前のもの。
 過熟白内障 = 成熟白内障以後の、皮質が硬化して水晶体が小さくなるもの。
 ・白濁が進行して中心部に及べば強度の視力障害(0.1以下)となる。
・治療 : 矯正視力0.3以下を対象とする。
 ①嚢内摘出術(全摘出術) = 水晶体全体を嚢ごと摘出するもの。
②嚢外摘出術 = 水晶体の皮質と核を摘出し、後に後嚢を残し、人工水晶体を挿入する。現在ではこの術式が用いられている。

  3.その他の白内障
 糖尿病性白内障、外傷性白内障、併発白内障(原疾患としてぶどう膜炎・緑内障・網膜剥離等が挙げられる)、ステロイド白内障、放射線白内障、赤外線白内障(硝子工に多い)、症候性白内障(筋緊張性ジストロフィー症・テタニー等)、後発白内障(水晶体嚢外摘出後に見られる)等。

  Ⅲ 緑内障(俗に‘青そこひ’とも言われる)
  概念 ー 眼圧が上昇し、その結果視機能障害を起こす状態である。

  1.閉塞隅角緑内障
 ・虹彩根部が前方に押し出されて、前房隅角が狭くなって房水の流出が悪くなっておこる緑内障である。
浅い前房・狭い隅角を有する者が、加齢により水晶体が増大することにより起こる。
・症状
 急性緑内障発作 : 急激に眼圧が著名に高くなり頭痛・悪心・嘔吐・眼痛・視力低下・結膜充血・角膜混濁・散瞳・対光反射消失・放置すれば失明。
発作緩解期 : 眼圧正常、瞳孔変化、虹彩萎縮、水晶体前嚢混濁。
・治療
 縮瞳薬 : 縮瞳により虹彩が中心部に引き寄せられて、前房隅角が広くなり、房水の流出が促進される。ピロカルピン等の点眼
 炭酸脱水酵素阻害剤 : 房水の産生を抑制、ダイアモックスやジクロフェナミド等の服用
手術療法 : 虹彩切除術・光凝固術

  2.開放隅角緑内障
 ・前房隅角は狭くないが、その機能が悪いために(シュレム管内壁の内皮細胞が変性)、房水の流出が障害されて起こるもの。きわめて緩慢に眼圧は上昇する。
・症状
初期は眼圧が不安定となる、自覚症状はない。
高眼圧持続状態により、視神経萎縮・視野狭搾・視力障害・失明となる。
・検査
 眼底検査 : 視神経乳頭陥凹が見られる。
視野検査 : 進行により上下のいずれかでドーナツを水平に2分した形で弓状にのびた弓状暗点(傍中心暗点・弓状暗点)が見られる。
・治療
 薬物治療 : 隅角房水流出改善の為ピロカルピンの点眼房水産生抑制のため交感神経β遮断薬やエピネフリン点眼・炭酸脱水酵素阻害剤服用
手術療法 : 眼球壁に孔を開ける濾過手術

  3.乳児緑内障
 牛眼 = 常染色体劣性遺伝による隅角の形成不全が原因。新生児・乳幼児に発生する。
角膜が引き伸ばされて大きくなり混濁する。
治療は手術による。

  4.続発緑内障
・開放隅角眼によるもの = ステロイド性・外傷性・水晶体嚢性等。
・閉塞偶角性 = ぶどう膜炎に続発するもの、眼内腫瘍に続発するもの、血管新生緑内障、悪性緑内障(緑内障や白内障の手術後に見られる)等。

    耳鼻咽喉科疾患

  1.アレルギー性鼻炎・血管運動神経性鼻炎
 ・概念
 Ⅰ型アレルギーと自律神経機能失調による粘膜の過敏性が病院となっている。
 アレルギー性鼻炎 = 抗原が特定できたもの。鼻汁に多数の好酸球を認める。
 血管運動神経性鼻炎 = 抗原を特定できなもの。
 注)精神的不安、内分泌異常、物理化学適刺激も関与。
・症状
 3徴候 = 水溶性鼻漏・くしゃみ・鼻閉。
 その他、流涙・目鼻咽頭のかゆみ。
花粉症 ー 症状に季節性を認める。
カビや室内塵埃が抗原 ー 症状が通年性。
 ・抗原の検査
 抗原抽出液を用いての皮内反応。鼻粘膜誘発試験、
RAST法を用いての原因抗原の特定。
・治療 : 減感作療法、非特異的減感作療法、体質改善療法、薬物療法、手術療法等。

  2.メニエール病
・概念
 著明な回転性めまいが発作性に出現し、しばしば悪心・嘔吐、また耳鳴り・聴力障害などを伴う状態を繰り返す疾患。
発作の間欠期にも耳鳴り聴力障害があり、後者は進行性である。
・原因
 内リンパ水腫によりライスネル膜(=前庭階と蝸牛管を境する膜)・卵形嚢・球形嚢膜の伸展が発生する、このことが原因とされている。
その他関連疾患として、頭部外傷・鼻咽腔疾患・動脈硬化・血管運動障害等が挙げられている。
老人や子供に少なく、文明国に多い。
・症状
 前駆症状 ー 軽度の聴力障害が出現することも。
めまい発作 ー 発作的に出現し、悪心嘔吐を伴い時には2~3秒の意識消失を示すことがある。
 聴力低下 ー 両側性・進行性である(過半数では1側の方が著明なことがある)。感音性・低音性難聴である。
発作の持続時間 ー 2~3分、時には数時間のこともある。
発作の頻度 ー 月に1回程度のもから年1回程度のものまで種々。
その他の症状 ー 起立障害(前庭性失調症)、時に下痢・眼球振盪症
随伴症状 ー 発汗・悪寒・脈拍異常(頻脈・不整脈・徐脈等)、最終的には、発作の起こらない内耳機能廃絶の状態となる。
 ・治療
発作時は暗い静かなところで安静を保たせ、頭部を動かさないようにする。
その他、高原療法・浴療法・物理療法・薬物療法・外科手術等あり。
・予後
 生命に関する予後はよい、慢性疾患で数年にわたり発作を繰り返す。自然に緩解することもある。

  3.突発性難聴
 ・概念
 健康者で、特別な原因なしに1側の高度の感音難聴が突然生ずるものである。50歳代前半に多い。(原因説として、ウィルス感染・内耳の血管障害が考えられている)
・診断基準(厚生省研究班 1975年)
(1)主症状の特徴
(ア)突然に難聴の発生すること。
(イ)難聴の性質は高度の感音難聴。
(ウ)難聴の原因が不明である。
(2) 随伴症状の特徴
(ア)耳鳴りが難聴の発生と同時、または前後して生ずることが多い。
(イ)めまい・嘔気・嘔吐を伴うことがあるが、難聴の発生と同時、または前後して生ずることがあるが、めまい発作を繰り返すことはない。
(ウ)第Ⅷ脳神経以外に著明な神経症状を伴うことはない。
以上の内、全条件を満たすものを確実例、(2)の(ア)と(イ)を満たすものを疑い例とする。

    婦人科疾患

  1.更年期障害
 ・概念
 卵巣機能の低下のために。内部環境に変化が起こり、それに適応するために。種々の精神・身体的な症状が起こるもの。この間に閉経する。
注)更年期とは、生殖器(成熟期)から生殖不能期(老年期)への移行期。
・成因
間脳ー下垂体ー卵巣系機能低下は30歳代に始まる。閉経後1~2年間はエストロゲンは成熟期の基礎値に等しいが、その後減少し、FSH・LHは増加するこのアンバランスが種々の症状を現す。
心因性因子の関与が大きい。
・症状
(ア)内分泌系障害 : 帯下・性交障害・膣掻痒感、不正性器出血等
(イ)血管運動神経系障害 : 動悸・冷感・熱感・逆上感・顔面紅潮・発汗等
(ウ)精神神経系障害 : 頭痛・頭重・めまい、耳鳴り・不眠・気分不安定・物忘れ・優うつ・脱力感等
(エ)運動器系障害 :肩こり・腰痛・下腹痛・筋肉痛・関節痛等
(オ)消化器系障害 : 食欲不振・悪心・腹部膨満感・便秘等
(カ)泌尿器系障害 : 頻尿・残尿感等
(キ)皮膚分泌系障害 : 口渇・そう痒感等
(ク)感覚器系障害 : しびれ感・蟻走感等
(ケ)新陳代謝障害 : 痩せ・肥満等
(コ)、その他 : 浮腫等
これらの症状が単独で出現することは少なく、また、その症状程度も種々である。
血管運動神経障害症状は更年期障害の特異症状。
注)鑑別疾患 = 更年期に於ける仮面うつ病、心身症・神経症
・治療
 ホルモン補充療法(エストロゲンが主となる、但し、エストロゲン単独療法では、乳ガン・子宮癌の危険性が高まるので、プロゲステロンとの併用療法が一般的)、薬物療法(精神安定剤・漢方薬等)・心理療法等

  2 子宮癌
・概念 : 子宮に発生する上皮性悪性腫瘍である。
・発生部位
 子宮頚癌 : 子宮頚管・子宮頚部の外側を覆う粘膜より発生するもの。子宮癌の90~95%を占める。
子宮体癌 : 子宮体部の内腔を覆う粘膜より発生するもの。子宮癌の5~10%を占める。
(1)子宮頚癌
 ・女性性器癌の中で最多、40~50歳代に多い。経産婦に多い、
 ・好発部位は頚部の円柱上皮と偏平上皮の移行部。偏平上皮癌が殆どである。少数に腺癌あり。近年減少傾向にある。
・症状
 極初期には無症状、
初発症状として多いのは不正出血(性交による接触出血が多い)と帯下である。
癌進行により激しい腰痛・下腹部痛・下肢痛、圧迫症状として頻尿・排尿困難・排便困難・尿管圧迫による水腎症それによる尿毒症。
 また、癌の肺や骨への転移が多い。
・治療 : 主に手術療法
(2)子宮体癌
・頚部癌に比し高年に発生し、未産婦・不妊娠であった者に多い。殆どは腺癌である(一部扁平上皮癌のことも)。50~60歳代に多い、近年増加傾向にある。
・症状
 不正性器出血と血性粘液性帯下が主症状。
 シンプソン徴候 = 癌が頸管を狭窄し、子宮内容物が子宮の収縮により排泄される。この時、下腹部に疝痛を生じる徴候。
・治療 : 手術療法が主である。体癌は発育が遅く、長く子宮内に留まっているので頚部癌より予後はよい。
(3)絨毛癌
 ・胎児性外胚葉である絨毛上皮細胞から発生。生殖年齢の婦人に発生する。
・原因 : 胞状奇胎(絨毛性腫瘍の一つ)・流産・分娩後子宮外妊娠。
発育が早く、血行性に転移をきたし極めて悪性。
・症状 : 主な症状は不正子宮出血。転移臓器の症状を呈してくる。
・治療 : 全身疾患と考えられているので、手術療法と共に化学療法も行われている。

  3 子宮筋腫
 ・概念 : 子宮の平滑筋成分より発生する良性腫瘍であり。30~40歳代に多い。
子宮に発生する腫瘍中、最も頻度が高い。子宮筋の内・外・中層に結節状ないし球状の腫瘤を作る。
・発生部位 : 大部分が子宮体部筋腫、子宮頚部筋腫は希である。
注)大きさは顕微鏡的なものから人頭大を越えるものまで..
・症状
 月経困難(月経過多・遷延性月経・下腹痛等)、不正出血・帯下・腫瘤感・膨満感・腰痛,周囲臓器の圧迫症状(尿意頻数・排尿困難・便秘・鼓腸・テネスムス),不妊や流産の頻度が比較的高い(卵の着床障害・筋腫による卵巣機能障害等による)。 
漿膜下筋腫では殆ど無症状である。
・治療 : 手術療法が主体、黄体ホルモン療法,出血・疼痛に対する治療が行われる。
閉経後は萎縮する。

  4 乳ガン
・概念
 乳腺に発生する癌である。
本邦では閉経前の40歳代に最も多い、既婚者より未婚者の発生が多い。
・好発部位 : 乳房の外上角1/4
・症状
 腫瘤 : 硬く境界不明の凹凸のある結節状の無痛性の腫瘤を振れる。
牽縮症状 : 癌の浸潤が乳頭周囲に及ぶと、乳頭が引っ張られて乳頭の平坦化・陥凹(えくぼ様陥凹)・偏位などが起こってくる。
皮膚浸潤 : 癌の浸潤が真皮層に及ぶと血行やリンパ行の障害を生じ、皮膚が発赤。
 浮腫により光沢をおびる = 橙皮様皮膚、豚皮様皮膚
乳頭出血 : 血性分泌が見られることがある。
リンパ節転移 : 同側腋窩リンパ節が硬く触知。
遠隔転移 : 肺・骨・肝・脳・皮膚等へ血行性の転移を見る。
・治療
 手術療法・放射線療法・内分泌療法(抗エストロゲン剤)・化学療法等が行われる。

  5 子宮内膜症
・概念 : 子宮内膜組織が子宮内腔以外の部位で増殖する疾患。
 ・症状 : 月経時の下腹部痛・腰痛・性交時痛・不妊症.
 ・合併症 : 卵巣嚢腫や腹腔内癒着
 注)卵巣内で増殖すると卵巣チョコレート嚢腫を形成。

  6 妊娠中毒症
・概念 : 妊娠中に浮腫・蛋白尿・高血圧の3徴候のいずれかが見られる場合を言う。
・分類
 ①単純妊娠中毒症 : 妊娠24週以降に症状が出現するもの、原因不明である。
②混合妊娠中毒症:妊娠前から基礎疾患(腎疾患.高血圧・動脈硬化・内分泌疾患等)がありこれが妊娠中に増悪するもの。
 注)子癇 = 妊娠中毒症により起こる痙攣を言う。

    皮膚科疾患

  1.湿疹
 種類 : 接触性皮膚炎・尋常性湿疹・アトピー性湿疹・脂漏性湿疹・ビダール苔癬等がある。
(1)接触性皮膚炎
 ・一次的刺激性のものとアレルギー性機序により生ずる湿疹である。
・接触原として、化粧品・草木・洗髪料・帽子・眼鏡・石鹸・ゴム等が挙げられる。
・反復すると、苔癬化し慢性湿疹・ビダール苔癬の像を呈してくる。
・検査
 貼布試験(パッチテスト) : 接触原を水溶性・軟膏にして背部や上腕屈側に貼布し48時間後の反応を見る。
一次的刺激性のものは濃度により発生が 左右されるが、アトピー性のものは濃度に左右されず発生する。
 光貼布試験 : 光線の関与が考えられるときには、原因物資の24時間貼布後に光照射を行い、24時間後に判定する。
(2)尋常性湿疹
 ・他の型の湿疹に属さないものを総称して言う。湿疹の大半がこれに含まれる。
(3)アトピー性皮膚炎(内因性皮膚炎
 ・アトピー = アレルギーⅠ型のことであり、先天性過敏症である。抗原は、花粉・動物の毛・食物等であり素因保持者がこれに対してレアギン(IgE)を生産して、湿疹の他気管支喘息・花粉症を呈する。
アトピー性皮膚炎はIgEを介したアトピー性アレルギー反応のみでは説明できない。
・症状
(ア)乳児期アトピー性皮膚炎 : 生後2~3ヶ月頃の冬に生じやすく,2歳頃まで続く。頭顔部に紅斑、鱗屑に丘疹を生じる。
(イ)幼児期アトピー性皮膚炎 : 4~10歳頃に生じる。顔は蒼白皮膚は乾燥毛孔性角化を生じる(アトピー皮膚)、
魚鱗癬様皮膚となる。掻痒がきつく掻いて出血することがある。7~10歳頃に治癒することが多い。
〔治療〕 対症的に角質溶解薬外用,ビタミンA, B2内服など.加齢とともに軽快する.
(ウ)思春期・成人期アトピー性皮膚炎 : 12歳以降に発症することが多い。
肘窩・腋窩・項部・顔・前胸部にかけて発症。苔癬化が強く激しい掻痒のため掻いて出血。 ・治療
対症療法を行う、温度・発汗に注意し、ストレス・ほこり・羊毛等の外的刺激をさける。
温泉(特に硫黄泉)副腎皮質ステロイド剤(全身投与は避ける)また、止痒剤の使用等を行う。





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