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東洋医学臨床論ノート00「東洋医学臨床論ノート」

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東洋医学臨床論ノート全文

●気の作用
・気虚症の症状
・固摂作用が衰えると昼間何もしなくても汗をたくさんかく。これを自汗という
・防禦作用が衰えると疾患にかかりやすくなる
・推導作用が衰えると、やる気がなくなり、倦怠感を感じる、疲れやすい
・温く作用の低下による冷えは、陽虚の症状とみなす
陽虚とは気虚、プラス虚寒症状のこと
・気滞症状
脹痛(脹った痛み)が起こる
全体としては実証が表れる
おならやげっぷによって膨満感が和らぐとき、気滞症状が出ているといえる
●血の働き
・血は体を潤し、栄養する
・血虚の主な症状
目のかすみ、視力低下、痙攣、こむら返り、肌の乾燥
不眠、多夢、健忘
顔色は蒼白、萎黄
舌の色が薄い
健忘、不眠、多夢などは心血虚
こむら返り、爪の色が悪いなどは肝血虚
・血(血の滞り)
刺痛(さすような痛み)
拒安症状が現れる(抑えられるのを嫌がる)
脈はざらついた漢字になる(脈)
・気血が滞ると痛みが生じる
現れる色としては紫

●津液の作用
・滋潤作用を持つ
・津液の不足
乾燥する(皮膚の乾燥、便秘、のどの乾き)
・津液の流れが悪くなる
異常代謝物が蓄積することを水湿、痰飲などとよぶ
(痰飲の方が粘り気があるイメージ)
むくみ、体が重たい、悪心、腹水

●陰虚
・陰液(血、精。津液など)が不足し、これに熱症状が加わった状態
・五心煩熱
手足、胸が熱くて冷やすと気持ちが良い
布団から手足を出さないと眠れないなど
・午後の潮熱
午後になると熱がでる
・盗汗(寝汗)

●弁証
・弁証
証を立てること
・論治
証に基づいて治療方針を決定すること

●八綱弁証
・八綱とは
陰陽、表裏、寒熱、虚実
・陰陽
右の六つを統括する
・表裏
病位の深浅をあらわす
*表を侵すのは外邪。表証という
外邪が入れば衛気が集まり発熱する
悪寒と発熱が同時に起こる
項背強(うなじのこわばり)が起こる
浮脈になる
*裏を侵すのは内因や不内外因、裏証という
沈脈になる
*半表半裏の症状
体側に症状が現れやすい
往来寒熱(寒熱往来)の症状が現れる
…悪寒と発熱が交互に現れる
胸脇苦満
…胸からわき腹にかけてつまった感じがして圧痛が現れる
口苦
弦脈
・寒熱
疾病の性質、病気の状帯
病状
熱証では数脈(脈が速い)
寒証では遅脈
・虚実
生気と邪気の盛衰
病勢
虚の部は喜按
実の部は拒按

========================
舌診、脈診、痛みの性質
========================
1.舌質
(1)舌色(舌質の色)
①淡紅舌:正常な血色。
②淡舌:正常より淡白。血虚証、寒証など
③紅舌(鮮紅舌):正常より赤い。熱証。
④絳舌(深紅舌):省略
⑤紫舌:舌色が青紫。血お証。

(2)舌の形と動き
①胖舌:舌体が腫れて大きい。舌質淡なら気虚、陽虚。
②痩舌:舌体が痩せて小さく薄い。舌質淡なら気血両虚。舌質紅で乾いていたら陰虚。
③裂紋舌:舌体の表面に亀裂がある。陰虚。
④歯痕舌:舌体の縁に歯のあとがある。気虚、脾虚。
⑤歪斜舌:舌を伸ばしたときに舌体が歪む。中風、中風の前兆。

2.舌苔
(1)舌苔の色
①白苔:正常、寒証など。
②黄苔:熱証など。
(2)苔質
①薄苔:苔が薄い。 正常
②厚苔:苔が厚い。裏証などでみられる。
③潤苔:苔に潤いがある。正常
④燥苔:苔が乾いている。津液の損傷でみられる。
⑤滑苔:苔の水分過多。水湿の停滞でみられる。
⑥膩苔:苔がねっとり、剥離しにくい。湿証、痰飲、食積でみられる。
⑦腐苔:苔がおから状、剥離しやすい。食積、痰飲でみられる。

2.脈状診
■1)六祖脈
①浮脈
 脈象:軽く按じれば拍動が指に感じられ、重く按じれば感じ方が弱くなるが、空虚ではない。
 主病:表証
②沈脈
 脈象:軽く按じても感じられず重く按じれば得られる脈
 主病:裏証
③遅脈
 脈象:一呼吸に三拍以下、緩慢な脈
 主病:寒証
④数脈
 脈象:一呼吸に六拍以上、速い脈
 主病:熱証
⑤虚脈
 脈象:浮・中・沈の3部とも無力で、弱い脈
 主病:虚証
⑥実脈
 脈象:浮・中・沈の3部とも力があり、強い脈
 主病:実証

■2)六祖脈以外の脈
①滑脈
 脈象:脈の流れがなめらかで、数珠をなでるような脈で、円滑に指に触れる。
 主病:痰飲、食滞など
②しょく脈(渋脈)
 脈象:ざらざらとして、渋滞したような脈
主病:血おなど
③弦脈
 脈象:弾力に富み、琴の弦を按じるような脈
主病:肝胆病、半表半裏証など
④緊脈
脈象:緊張していて、張りつめた藁を按じるような脈
主病:実寒、痛証など
⑤濡脈
 脈象:浮にして細軟の脈
主病:湿証
⑥細脈
 脈象:糸のように細いが、指にしっかりと触れる脈
 主病:血虚、陰虚。
⑦結脈
 脈象:緩慢な脈で、脈が不規則に止まるもの
⑧代脈
 脈象:脈が規則的に止まるもの

3.痛みの性質
①脹痛:張った感じ、膨満感を伴う痛み。気滞でみられる。
②刺痛:針で刺したような痛み。血おでみられる。
  血おでは固定痛、夜間痛がみられることもある。
③酸痛:だるい痛み。虚証、湿証でみられる。
④重痛:重く感じられて痛む。湿証でみられる。
⑤冷痛:痛みに冷感を伴い、温めると軽減するもの。寒証でみられる。
⑥灼痛:痛みに灼熱感があり、冷やすと楽になるもの。熱証でみられる。
⑦絞痛:絞扼痛、疝痛。寒証、血おなどでみられる。
⑧隠痛:我慢できる持続性の鈍痛。虚証でみられる。

*************
題1編 総論
*************
=================
題1章 治療原則
=================
1.現代医学的考え方
■1)骨・筋・関節障害に関するもの
 病因と病変の面から病態を捉える。
  病因:外因性か内因性か
  病変:進行性病変、退行性病変、炎症、腫瘍など
(1)循環障害によるもの
 肩こり、筋筋膜性腰痛、骨折・捻挫の後遺症などに対し、局所取穴、近隣取穴を原則とする。その際、木下晴都等によると末梢血管の拡張機序は軸索反射にあるので、多くの筋線維を貫く斜刺が有効であるとしている。
(2)退行性病変によるもの
 特に、変形性関節症など関節疾患に対し、関節周囲の刺鍼が重要である。その際、関節裂隙が広がるように関節を固定して刺鍼する。
(3)炎症によるもの
肩関節周囲炎、腱鞘炎、捻挫などに対し、局所取穴を原則とするが炎症が激しい場合、罹患部位への施術は避けて、近隣取穴や遠隔取穴をする。巨刺も有効である。
 外傷性の場合、急性期はRICEで対処する。
★R:Rest(安静)
I:Ice(冷却)
C:Compression(圧迫)…関節を固定したり
E:Elevation(高挙、挙上)…離間部位を相対的に多開位置に持ち上げる

■2)神経系障害に関するもの
1)中枢神経系障害
 脳血管障害の後遺症などの場合、発病当初は安静に保ち、一定期間を経過後、医師と連携を取りながら、早期より治療を開始する。その際、病態を正確に捉え局所取穴を中心に機能の回復を図る。併用療法として運動療法が効果的である。

2)末梢神経系障害
(1)体性神経系障害
① 筋痙攣(運動神経の機能亢進)に対しては、代謝性疾患など全身性のものか、直接運動神経が刺激されているかを鑑別後、罹患筋に鎮静目的で強刺激を与える。
② 麻痺(運動神経の機能減退)に対しては、中枢性か、末梢性かを見極め、罹患筋群に対し興奮性を高める目的で比較的弱刺激を与える。
③ 神経痛や知覚過敏(知覚神経の機能亢神)に対しては、罹患神経の分布に沿って現れるワレー圧痛点やトリガーポイントに対し、鎮痛の目的で比較的強刺激を与える。
④ 知覚鈍麻、知覚麻痺(知覚神経の機能減退)に対しては、ワレー圧痛点やトリガーポイントに対し、興奮性を高める目的で比較的弱刺激を与える。

★病態と刺激量の関係は「アルントシュルツの法則」を参考にする。
・弱い刺激--神経機能を喚起する
・中程度の刺激--これを興奮させる
・強い刺激--これを抑制させる
・最強刺激--これを制止する

(2)自律神経系障害
 代表的な自律神経失調症の施術に当たっては器質的・機能的疾患がないことを確かめた後、弱刺激を与え、全身調整療法を行う。

2.東洋医学的考え方
(東洋医学概論の教科書も参照)
■1)本治法と標治法
 本治法は、陰陽五行説や臓腑経絡説を根拠に、病態を十二経絡の虚実変動として捉え、五行穴や五要穴を補瀉することによって調整する方法である。
標治法は、罹患部位に直接施術することにより、苦痛を軽減することを目的とした対症療法としての処置。

■2)経絡治療
(1) 難経69難に基づく治療原則
「虚するものは之を補い、実するものは之を泄す。虚せず実せずんば経を以て之をとる。」
① 虚すれば補い、実すれば瀉す。
② 虚すればその母を補う。
③ 実すればその子を瀉す。
④ まず、虚を補い、後に実を瀉す。
⑤ 他経他蔵の虚実に影響されず、その本経が自ら病を生じている場合は、自経だけの補瀉をする。

(2) 難経75難に基づく治療原則
「東方実し西方虚せば、南方を瀉し北方を補う」
 ① 虚する経を補う場合、その経と相生関係にある子の経を補う。
 ② 実する経を瀉す場合、その経と相生関係にある子の経を瀉す。

■3)八綱弁証に基づく治療原則
 (弁証のポイントの資料も参照)
①表証の場合、鍼は浅刺
 裏証の場合、鍼は深刺
②寒証の場合、置鍼
 熱証の場合、鍼は速刺速抜
③虚証の場合、鍼灸ともに補法。
 実証の場合、鍼灸ともに瀉法。

★「霊枢」経脈編--「盛んなるときは即ちこれを瀉し、虚するときは即ちこれを補し、熱するときは即ちこれを疾(ハヤ)くし、寒するときは即ちこれを留め、陥下するときは即ちこれを灸し、盛んならず虚ならざれば経を以ってこれを取る。」

■4)太極療法に基づく治療原則
 ①万病に適する療法である。
 ②灸施術を主とする。
 ③必須治療穴は脾兪、腎兪である。
 ④基本治療穴は、身柱、肝兪、脾兪、腎兪、次、
  中、気海、曲池、左陽池、足三里、太谿(沢田流の太谿は照海)、百会
 ⑤ただし、病態に応じて基本治療穴を加減し、局所取穴を加える。

■5)その他の治療原則
 ①急なれば即ちその標を治す
 ②緩なれば即ちその本を治す
☆治病求本(病を治すのには本治法を求めるべし)
 ③標本同治
 a.標と本が相互に影響しあい先に一方を解決しにくい場合
 b.標本がともに急あるいは緩である場合
 c.標病の治療が本病の治療に有利に作用する場合
 d.標病の治療が本病の治療に影響しない場合
 ④陰陽の調整
 ⑤補虚瀉実
 ⑥証に基づく治療
 ⑦人・時・地に応じた治療

実際の治療にあたっては、これらの治療原則を踏まえた上で、各病証に対応した治療穴を選定する。その選穴法(または配穴法)として次のものがある。
 ① 身体部位に基づく配穴法
  同経配穴、表裏配穴、同名経(同類経)配穴、前後配穴、上下配穴、左右配穴、遠近配穴など
 ② 要穴を応用した配穴法
  五行配穴、原絡配穴、兪募配穴、原募配穴、募合配穴など

=================
題2章 治療計画
=================
(1)症候の分析
 ①問診により病歴の把握と症状の分析をする。
 ②症状に応じた視診・聴診、打診、触診、神経学的検査など身体の診察をする。
 ③診察所見を総合的に判断して、障害の種類・部位・病態・程度を推定し治療方針をたてる
 ④東洋医学的に弁証し治療方針をたてる。
(2)適応の判定および医療施設との連携
 理療の適応症は治療すべきであるが、禁忌症の場合、医療施設との連携は必要不可欠な条件である。
(3)予後の推定
予後の推定によって治療方法、治療間隔、効果判定を行うための治療期間の設定、生活指導などの治療計画が立てられる。
(4)治療
 治療効果の向上に、患者との信頼関係・コミュニケーションの善し悪しが重要なポイントとなる。
(5)治療効果の評価
 治療直後あるいは一定期間後における自覚症状・他覚 的所見の変化によって、治療方針を再評価する。

******************
第2編 治療各論
******************
=========================================
第1章 主要症候に対する按摩・鍼・灸療法
=========================================
◎第1節 頭痛
1.現代医学的な考え方
・ 国際頭痛分類第2版(ICHD-2)2003年9月
 第1部:一次性頭痛
1. 片頭痛:後述
  2. 緊張型頭痛:後述
 3. 群発頭痛と他の三叉神経・自律神経性頭痛
 4. その他の一次性頭痛
 第2部:二次性頭痛
  5. 頭頸部外傷による頭痛
  6. 頭頸部血管障害による頭痛
  7. 非血管性頭蓋内疾患による頭痛
  8. 物質またはその離脱による頭痛
  9. 感染による頭痛
  10. ホメオスターシスの障害による頭痛
  11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいは他の顔面・頭蓋の構成組織に起因する頭痛あるいは顔面痛
12. 精神科的頭痛
第3部:神経痛・顔面痛・その他)
13. 頭部神経痛と中枢性顔面痛
14. 他の頭痛、頭部神経痛、中枢性あるいは原発性顔面痛

■1)注意を要するもの
〔症状〕
①意識障害・片麻痺・言語障害などの神経症状、眼の症状がある場合 ……… 脳出血、緑内障
②頭痛が瞬時に突発、極限で持続、進行性に増悪する場合 ……… 脳出血、脳腫瘍
③早朝に頭痛がひどく、その極限で嘔吐した後、頭痛が軽快する ……… 脳圧亢進症状
〔所見〕 原因や経過により、深部反射の異常や項部強直や病的反射の出現

■2)適応となるもの
①筋収縮性頭痛(緊張型頭痛)、片頭痛などの機能性頭痛
②頭蓋部の神経痛: 大後頭神経痛、小後頭神経痛、三叉神経痛
③原因や程度により、眼・耳・鼻・歯などの異常、頚椎の異常に基づく頭痛

1)筋収縮性頭痛
※ 緊張型の頭痛は後頭部から始まることが多い
〔病態〕頭蓋部・頸部の筋の持続性収縮により発生
〔症状〕
①非拍動性・持続性・絞扼性の慢性頭痛、頭重感
②随伴症状:頸・肩のこり、悪心、めまい感
〔所見〕
①頭頚部・肩部の筋緊張・圧痛・硬結
②筋緊張部の圧迫で軽減
〔治療方針〕
筋の過緊張を緩め、局所の循環を改善し、頭痛の除去を図る。
〔治療法〕
①マッサージ
・筋の過緊張の軽快を図るために、後頚部・肩部・肩背部に軽擦・揉捏・圧迫法を施す。
・頭部の血行調整・神経の鎮静を図るため、頭部の硬結・過敏点に圧迫・強擦法を施す。
・反射・誘導の目的として、上肢へ持続的圧迫・揉捏法、全身への施術を行う。

②鍼 灸
 天柱(僧帽筋)、風池(頭板状筋)、肩井(僧帽筋)、懸顱(側頭筋)など

2)片頭痛(片頭痛型血管性頭痛)
昔の分類ではこれに典型的片頭痛、普通型片頭痛、群発頭痛があった。いずれも血管性頭痛である。
〔病態〕 セロトニンの関与により一旦収縮した血管がリバウンドで拡張する。頭蓋外血管の拡張だが患者は脳内で生じているように感じる。
〔症状〕 
(1)典型的片頭痛
・拍動性・反復性・片側性の頭痛(数時間持続)
  吐き気、嘔吐を伴う。
・前駆症状として閃輝暗点(1分程度)
・若年女性~中年女性に多い。
・騒音や光刺激が増悪因子となり、臭いにも過敏となる。

(2)普通型偏頭痛
一番多く見受けられる片頭痛で、中年女性に多く、前兆はない。持続時間が長いのが特徴。しばしば緊張性頭痛を合併する。

(3)群発頭痛
・20~40歳代の男性に多く、女性の約5倍
・夜間・特に明け方に発生する傾向がある。
・片目がえぐられるように、焼き付くように痛み1時間ほどで軽減する。
・片方の目の充血、流涙、鼻汁をともなう。
・この発作は1日に何回もあり、一旦始まると、数カ月持続する。
・吐き気や嘔吐は伴わない。
★ 片頭痛の増悪因子
 過労、ストレス、チョコレート、ナッツ、チーズ、赤ワイン
★ 薬物療法
 片頭痛 -- エルゴタミン(血管収縮剤)、カルシウム拮抗薬
 群発頭痛 -- 酸素吸入、炭酸リチウム(伝達物質安定化作用)

〔所見〕 顔面の紅潮、結膜の充血、後頭動脈・浅側頭動脈の血管上に圧痛
〔治療方針〕自律神経の調整、血管運動の安定
〔治療法〕
①マッサージ
・肩上部、肩背部、後頚部に筋緊張の緩和を目的に一般的施術を行う。
・分界項線部の圧痛点などの痛む部位に持続的指頭圧迫・強擦法を行う。
 脳戸、玉枕、風府、百会、通天、天柱、風池
・ネーゲリー伸頭法を加える。
☆寛骨付近に指を置いて頚の懸飲
・反射・誘導の目的で上肢をはじめ、全身へ一般的施術。
 手三里、曲池、孔最、合谷
②鍼灸
天柱(後頭動脈)、完骨(後耳介動脈)、和リョウ(浅側頭動脈)、
陽白(眼窩上動脈)

★後頭神経痛と圧痛点について
ア.大後頭神経痛
☆大後頭神経は第2頸神経後枝
 ・外後頭隆起と上項線より上方の後頭部。
・圧痛点:環椎点(環椎外側 天柱穴)→大後頭三叉神経症候群
      項窩点(環軸椎棘突起間 ア門穴)
☆大後頭三叉神経症候群
三叉神経の一部と大後頭神経が軸索でつながっている。そのせいで療法の心敬に神経痛がでる

イ.小後頭神経痛
 ・上記の外側で耳後部との間の後頭部。
 ・圧痛点:環椎傍点(環椎外方部 風池穴)
      乳突点(突起後縁部 完骨穴)
2.東洋医学的な考え方
頭痛には真頭痛(脳腫瘍・脳膜炎・脳出血・くも膜下出血などによる頭痛)と厥頭痛(冷え・のぼせなどによる頭痛)がある。
このうち、理療施術の適応となる厥頭痛を外感性頭痛と内傷性頭痛に分ける。

■1)外感性頭痛
 風・寒・湿・熱などの外邪が身体にを侵入することにより起こる。その特徴は、「急に発病し、疼痛も激しく持続性がある。」
 多くは実証である。
 治療に当っては、外邪の除去によって気血循環を円滑すれば頭痛の緩解が図れる。その際、風池・太陽を主体に取穴し、頭痛の部位と性質を考慮して局所取穴・循経取穴し、瀉法を施す。

(1)風寒による頭痛
〔病態〕 寒邪による血行障害に起因する。
〔主要症状〕 頭痛、項背部に放散、風にあたると増強
〔随伴症状〕 悪寒、発熱、口渇はない
〔舌脈所見〕 舌苔薄白、浮・緊脈
〔治療方針〕 風寒の邪を除去して頭痛を緩解する。
〔治療法〕 風池、太陽、風府、列缺、外関、曲池
☆風池、風府などの働き
外感の風じゃを取り除く(去風)
表の外邪を取り除く(解表)
寒邪を散らす(散寒など)
☆外関の働き
解表の作用
☆曲池の働き
去風、散寒
※ 取穴理由:風池・太陽を主体に外邪の除去を図る。そして「通じれば即ち痛まず」の原則に従い、局所取穴・循経取穴によって経絡の気の疎通を図る。
〔備考〕 部位の面からみた治療法
 太陽経頭痛… 後頭部から項背部にかけて痛む
 陽明経頭痛… 前額部あるいは眉間にかけて痛む
 少陽経頭痛… 両側または一側の側頭部が痛む
 厥陰経頭痛… 頭頂部が痛む

■2)内傷性頭痛
「脳は髄の海」といわれるように、脳は脾・肝・腎の三臓と密接な関係がある。その特徴は緩慢に発病し、疼痛はさほど激しくなく、時々頭痛が起こり疲れると増強する。多くは虚証である。

(1)気血両虚による頭痛(虚証)
〔病態〕
 労倦、飲食不節により脾胃虚弱により気血生成の悪化、病後・産後による気血両虚、出血による気血の損傷 → 清陽の不上昇、栄養不良により頭痛を発現
〔主要症状〕
 頭痛(隠痛)、眩暈、疲れると増強
☆隠痛:緩やかな痛み、我慢できないほどではない
〔随伴症状〕
身体がだるい、無力感、心悸、食欲不振、顔色不華
〔舌脈所見〕
 舌質淡、舌苔白、細脈で無力
〔治療方針〕
 気血を補い、絡脈の通りを改善する。
〔治療法〕
足三里、陰陵泉、三陰交、中、脾兪、太白、上星
※取穴理由 足三里・中(胃の募合配穴)、陰陵泉・三陰交・脾兪・太白などを配穴し、健脾をはかり後天の元気を回復し気血を補う。上星は局所の絡脈の通りを改善して鎮痛を図る。

(2)痰濁による頭痛(実証)
〔病態〕
 飲食不節などにより脾の運化機能の障害 → 清陽の不上昇により頭痛を発現
〔主要症状〕
 前額部痛、頭がぼんやりする
〔随伴症状〕
胸苦しい、胃のつかえ、悪心、嘔吐、泥状便
〔舌脈所見〕
舌苔白膩、脈滑
〔治療方針〕
 痰濁を除去し、絡脈の通りを改善する。
〔治療法〕
足三里、陰陵泉、豊隆、中、百会
※ 取穴理由: 痰濁の生成は脾胃の運化機能の失調と関係がある。足三里、陰陵泉により脾胃の機能を改善し、豊隆は胃経の絡穴で脾経にも通じており、痰濁の除去の要穴とされる。中・足三里の募合配穴で、より痰濁を除去し、絡脈の通りを改善し、鎮痛を図る。百会は頭部の気の巡りを調節する。

(3)肝陽の亢進による頭痛
〔病態〕
 情志の失調 → 肝鬱 → 肝火 → 肝陽の亢進 → 清陽の不上昇  → 頭痛
☆肝鬱:肝気うっ滞
☆情志:精神状態
 一方、肝陰を損傷する結果、腎水不足を招き、肝腎陰虚 → 肝陽の亢進 → 清陽の不上昇 → 頭痛。
〔主要症状〕
 頭痛、眩暈、緊張すると増強
〔随伴症状〕
心煩、怒りっぽい、不眠、脇の痛み、顔面紅潮、 口苦
〔舌脈所見〕
 舌質紅、舌苔薄黄、弦脈
〔治療方針〕
 肝陽の亢進を抑える。
〔治療法〕
 懸顱、頷厭、太衝、太谿、百会
①顔面紅潮・ほてり………内庭を加える。
②心煩が強い場合…………内関を加える。
③目の充血がある場合……関衝より点状瀉血する。

※取穴理由:肝陽亢進の場合、少陽風熱が上部で停滞しやすいため、懸顱・頷厭は局所の経気の疎通を図ると共に、少陽の風熱を除き、鎮痛する作用がある。太衝は肝陽亢進・眩暈の抑制作用があり、湧泉に透刺する。太谿は腎陰を補い肝陽を鎮める作用がある。百会は気機を調節する。

(4)血による頭痛(実証)
〔病態〕
外傷・久病(疾病の長期化)の結果、気血が脈絡において阻滞して頭痛を生ずる。
〔主要症状〕
慢性で固定性の刺すような頭痛
〔随伴症状〕
頭部外傷の既往歴を持つ、または久病歴を持つ
〔舌脈所見〕
舌質紫暗、細・しょく脈(ざらざらとして渋滞したような脈
〔治療方針〕
血を活性化して・血を除去すると、気は巡り鎮痛が図れる。
〔治療法〕
合谷、三陰交、阿是穴
 ※取穴理由:この種の頭痛は、外傷や疾病の長期化によって絡脈に血が停滞する場合が多い。従って、頭痛部位の阿是穴により絡脈の疎通を図ると鎮痛が図れる。更に合谷によって、気の巡りを改善すれば鎮痛が図れる。三陰交によって血を活性化すれば・血の除去が図れる。

(5)腎虚による頭痛(虚証)
〔病態〕
 腎精不足のために髄海が空虚となり頭痛を起こす。
 一方、腎陰虚 → 肝陰不足による肝陽の亢進の結果、頭痛を起こす。
〔主要症状〕
 頭が空虚な感じで痛む。眩暈。
〔随伴症状〕
 腰痛、膝がだるい、精神的疲労、力が入らない、 遺精、帯下、耳鳴り、健忘
☆遺精:精液がもれる
帯下:おりもの
(両方腎のこせつ作用の低下)
〔舌脈所見〕
 舌質紅、舌苔少、細脈で力がない
〔治療方針〕
 腎陰を補って鎮痛を図る
〔治療法〕
 太谿、復溜、関元、腎兪、太陽、百会
※取穴理由:太谿・復溜・腎兪によって腎精を補い、太陽・百会により頭部局所の経気の疎通を図る。

◎第2節 顔面痛
1.現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの
三叉神経以外の脳神経障害を伴うもの ……… 頭蓋内の腫瘍
三叉神経領域の知覚低下を伴うもの ……… 症候性三叉神経痛(ヘルペス、動脈奇形 副鼻腔炎など)

■2)適応となるもの
①特発性三叉神経痛
②非定型顔面痛
③原因や程度により、症候性三叉神経痛、顎関節症、眼・耳・鼻・歯などの異常を伴う顔面痛

1) 非定型顔面痛
(概念)
 特定の神経領域に一致しない原因不明の顔面部の疼痛である。疼痛は一側性、時に両側性、持続性の深部痛である。肩や腕に広がることもある。数時間で最高に達し、数日から数週間続く。
〔症状〕
 ①三叉神経領域と無関係に顔面片側に広範囲に漠然と出現
 ②深在性・持続性・うずくような痛み
 ③随伴症状として、自律神経症状(顔面紅潮、結膜充血、流涙、鼻汁過多)
 ④知覚異常なし
 ⑤特定の圧痛点やトリガーポイントが存在しない。
〔治療方針〕
血液循環・自律神経の異常を改善
〔治療法〕
 ア.マッサージ: 特発性三叉神経痛の治療に準ずる。
イ.鍼灸
  四白、攅竹、人迎(総頸動脈)、水突(総頸動脈)、星状神経節刺鍼

2)特発性三叉神経痛
〔病態〕
原因不明の三叉神経領域の痛み
〔症状〕
突然、針で刺される様な激痛が発症し、数秒~数分間続き、消失する。
〔所見]
①疼痛誘発部位(トリガーゾーン)がある。
②特有のワレー圧痛点がある。
③痛み以外の神経学的所見(顔面部知覚異常など)がない。
〔治療方針〕
鎮痛
〔治療法〕
(1)マッサージ
 ①頸部、肩背部に一般的施術を誘導的に行う。
 ②患側顔面を罹患神経の経路に沿って、軽い力度で持続的指頭圧迫・圧迫振戦法、揉捏法を施す。
 ③その際、特に次の部位を中心に施術する。
 ・第1枝 …… 攅竹(前頭切痕部)、魚腰(眼窩上孔部)、陽白、曲差、晴明(内眼角点)、瞳子・(外眼角点)
 ・第2枝…… 四白(眼窩下孔部)、顴(頬骨点)
 ・第3枝…… 下関、頬車、大迎、オトガイ点、客主人(側頭点)
④健側・患側顔面部に一般的施術を行うと共に、頭・頸の運動法を施すのもよい。

(2)鍼灸
①圧痛点への刺鍼法: 上記経穴を参考。
②通電鍼法: 2~3ヘルツ、15分
 患部の沈痛点(下関、太陽など)
 手足の要穴(合谷、足三里など)

2. 東洋医学的な考え方
『内経』では「両頷痛」、「頬痛」と記されている。
1)分類
①風寒による顔面痛
風寒の邪が顔面部の経絡に入り、寒邪の収引性により経脈が拘急して気血の流れが悪くなると顔面痛が起こる。
②肝火による顔面痛
悩み、心配事、怒りなどにより肝の疏泄機能が失調して肝鬱となり、肝鬱が改善されないために化火し、火の炎上性により顔面部に火が炎上すると顔面痛が起こる。
③胃火による顔面痛
  飲食不節により食滞が生じ、それが化熱または化火し陽明経脈にそって顔面部に炎上すると顔面痛が起こる。また平素から辛いものを偏食していると胃熱(胃火)が生じやすく、それが陽明経脈にそって炎上すると顔面痛が起こる。
④陰虚による顔面痛
陰虚のために虚火が生じ、それが顔面部に炎上すると顔面痛が起こる.

2)鑑別
①風寒によるもの
悪寒、発熱、鼻汁など外寒の症状を伴い、疼痛は冷やすと増強し温めると軽減する。舌質は淡、脈は浮緊。
②肝火によるもの
煩躁、怒りっぽいなどの症状を伴いやすい。
③胃火によるもの
口渇、便秘を伴いやすい。
肝火、胃火ともに灼熱性の疼痛。舌質は紅、舌苔は黄苔、脈は数。
④陰虚によるもの
実火ではなく虚火であるために、疼痛はそれほど激しくない。陰虚(虚熱)のため脈は細数。

3)(参考症例) 風寒による顔面痛(実証)
〔病態〕
 風寒の邪 → 顔面の経脈が拘急
〔主要症状〕
 顔面痛、特に温めると痛みは軽減する、冷やすと増悪する
〔随伴症状〕
 悪寒、発熱、鼻汁
〔舌脈所見〕
 舌質淡、浮・緊脈
〔治療方針〕
 風寒の邪を除く。
〔治療法〕
 陽白、攅竹、頭維、太陽、魚腰、四白、下関、迎香、顴・、大迎、聴会、頬車、地倉等の中から、適宜選穴する他、合谷、太衝、列缺、曲池を加える。
 その他の顔面部の経穴は局所取穴。
・選穴理由
 合谷: 清熱作用、四総穴、循経取穴
 四関穴: 合谷と太衝を配穴すると、調理気血、疎通経絡、止痛の効果がある。
 列缺: 絡穴であり大腸経の循経取穴でもある。
 曲池: 去風作用

◎第3節 顔面麻痺
1.現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの
(1)症状
①下顔面部の麻痺は明瞭だが前額部へのしわ寄せはできる。
  ……… 中枢性麻痺
②中耳炎の症状(耳閉感・耳痛・耳漏など )…… 耳性麻痺
③難聴・耳鳴・めまいを伴う …… 腫瘍性麻痺
④頸部・顔面部の外傷後に発症 …… 損傷性麻痺
⑤発症初期に強度の麻痺を伴う …… 神経変性

(2)所見
 中枢神経麻痺では、脳神経(外転神経など)症状、錐体路症状が出現する。

2.適応となるもの
① ベル麻痺
② 程度により、ラムゼーハント症候群(水痘・帯状疱疹ウィルスが顔面神経に感染して起こる。外耳道・耳介に疼痛を伴う疱疹がみられ、同側の末梢性顔面神経麻痺を生じる。)
1)ベル麻痺(末梢性顔面神経麻痺)
(1)症状
 緩慢に症状は完成していく。
①前額(患側)のしわがなくなり、しわ寄せ不能
 ②兎眼
 ③ベル現象
 ④口角が下がり、患側口角は(#1   )側へ引かれる
 ⑤鼻唇溝消失、口笛が吹けない、患側舌前 2/3 の味覚障害
 ⑥(#2     )過敏、唾液・涙液分泌の低下
 ⑦表情筋の麻痺以外の症状の程度は、障害部位により異なる。

 「一口メモ:顔面神経の走行」
 顔面神経は橋から出て内耳神経と共に内耳道を走り、内耳神経と分かれてから顔面神経管内に入り、直角に曲がって鼓室の後壁に沿って弓状に茎乳突孔から頭蓋底の外面に出る。舌の味覚や副交感性の神経は運動性の神経と内耳神経との中間から橋を離れるので中間神経と呼ばれる。顔面神経管の中で神経が後方に屈曲する所に膝神経節がある。この神経節は中間神経に由来する知覚の神経節である。
 なお、顔面神経は終止枝となるまでに次の枝を出す。
 ①大錐体神経 - 膝神経節から起こり、涙腺に分布する副交感性神経を含む。
 ②アブミ骨筋神経 - アブミ骨に分布。
 ③鼓索神経 - 茎乳突孔を出る直前に分かれる。舌の味覚の知覚神経と顎下腺、舌下腺に分布する副交感神経を含む。
 ④終枝 - 顔面の筋に分布する。

・障害高位、顔面筋麻痺、味覚障害と唾液分泌障害、アブミ骨筋反射障害、涙分泌障害の順
 A。核性  + - + -
 核性ではあるが中間神経は別の所から起始するので知覚と副交感神経に由来する機能は障害されない。
 膝上性 +  +  +  +
 膝性  +  +  +  +
 膝下性 +  +  +  -
 アブミ骨筋神経分岐下  +  +  -  -
 鼓索神経分岐下  +  -  -  -

(2)治療方針
血行の改善、顔面筋の萎縮予防、神経機能の回復
(3)治療時期
発症直後は顔面筋の安静に努め、数日たって麻痺の進行が停止してから、局所の施術をはじめる。
(4)治療法
①マッサージ
・顔面全体に軽く一般的施術をする。
・患側顔面部には弱刺激で軽擦・揉捏(指頭)を入念に行う。
・その際、翳風(茎乳突孔部)・四白・迎香・下関などに軽い指頭圧迫・圧迫振せんを間歇的に繰り返す。
頸部・肩背部の筋緊張の緩解の目的に、同部に軽擦・揉捏・圧迫法を施す。
・筋力の回復に伴い前額部へのしわ寄せ、眼の開閉、頬・鼻を膨らませる、口笛を吹かせるなどの表情筋運動をさせる。初めは他動的に、回復に伴い自動運動を鏡の前で行うよう指導する。

①鍼灸
・軽い刺激を目標とする。
  陽白(#3   )筋
  四白(眼輪筋)
  地倉(#4   )筋
  翳風(#5   )神経
  天柱(#6   )筋
・低周波鍼通電療法
・星状神経節刺法 :SGへの刺鍼は、罹患顔面神経の血流改善を図り、その回復を促すと考えられる。
☆SG:サテライトガングリオン=星状神経節
・刺鍼点: 胸鎖関節の上方約25㎜、前正中線の外方約15㎜の点(輪状軟骨と胸骨との間の中点付近)

■2)東洋医学的な考え方
『霊枢』に「口眼歪斜」と称され主として陽明経と関連深い。
「平素からの顔面の脈絡の虚に乗じて風寒の邪が侵襲し、経気のめぐりに障害が生じ経筋の栄養状態が悪くなると、弛緩して顔面麻痺が起こる。」

(1)分類
随伴症状により次のようなタイプがある。
①少陽タイプ …… 少陽部位(側頭部や胆経経路上)に波及
 耳後・耳下の疼痛、聴覚障害
②陽明タイプ …… 陽明部位(顔面部)が中心
 患側の舌前 2/3 の味覚障害 
← 舌も経筋がめぐるから。
③肝血虚タイプ …… 長期化し肝血虚を来す
 患側筋の拘縮・攣縮 ← 肝は筋を主るので肝血虚で筋を滋養できなくなる。

(2)治療方針
風寒の邪を除去し気血循環の改善を図る。そのため手足陽明経、手足少陽経を主体に補瀉する。
(3)治療法
・局所穴
地倉・頬車に透鍼、陽白、四白、攅竹 巨刺も効果あり。
・誘導穴
風池、外関、足三里、三陰交、合谷、太衝、陽陵泉

◎第4節 歯痛
■1)現代医学的な考え方
(1)概念
歯痛とは歯およびその周囲組織の疾患からおこる三叉神経分布領域の疼痛をいう。上歯痛は第2枝の上歯槽神経、下歯痛は第3枝の下歯槽神経の知覚領域である。
①注意を要するもの
・歯肉の発赤・腫張・出血・排膿・歯の動揺があるもの
辺縁性歯周炎
・自発痛、温冷刺激で疼痛の激増するもの
う歯
②適応となるもの
三叉神経からの歯痛、程度により歯肉炎、歯が浮いて痛む場合
抜歯後の疼痛

1)歯肉炎
(1)病態
歯肉溝に歯周病菌が侵入して歯肉に炎症を生ずる。
(2)症状
歯肉の発赤・腫脹・歯の浮く感じ、歯磨き時の出血。
(3)治療方針
疼痛の緩解、循環の改善
(4)治療法
①マッサージ
・後頚部、肩背部に一般的な施術を行ない、僧帽筋、胸鎖乳突筋、板状筋などの緊張過度を除くようにする。特に胸鎖乳突筋には二指揉捏法を入念に行ない、停止部に指頭圧迫法を行なって鎮痛をはかる。
・分界項線部(風府、天柱、風池)へ強擦法を行う。
・門、天柱、天容、天窓、扶突、兪府、気舎などにやや強めに母指圧迫法や揉捏法を施す
・痛みのある歯根部に弱い持続的な指頭圧迫法を加える。ただし、炎症症状のあるときには歯根部の圧迫は不可である。
・反射機転を介しての鎮痛、及び健部誘導法を目的に上肢(曲池、手三里、合谷)へ強めの持続圧迫法や揉捏法などの施術を行う。
・歯痛止めの術(頭維の術)
 古法あん摩には、頭維穴(額角髪際点)と角孫穴(耳上髪際点)の左右四穴の両母示指による同時圧迫が歯痛止めの法となっている。

②鍼 灸
疼痛部周辺穴への施鍼 …… 反応点(阿是穴)や、上歯痛に下関、下歯痛に頬車穴など

■2)東洋医学的な考え方
1)分類
①実火による歯痛
辛いもの、甘いものなどを偏食していると胃腸の熱が盛んになる
この熱が手足陽明経脈にそって影響し歯痛となる。
☆実火=胃火
②風火による歯痛
体質的に陽盛で内熱がある者が風邪の侵襲にあい、風火となり陽明経脈に鬱し、
歯に影響すると歯痛となる。
③腎陰虚(虚火)による歯痛
腎陰虚のために虚火が生じ、それが骨余である歯に上炎すると歯痛となる。

2)鑑別
①実火、風火によるもの
歯肉の腫脹、発赤を伴い、疼痛がひどい。
・実火によるもの
口臭、口渇、便秘などを伴いやすい。
・風火によるもの
悪風、発熱を伴うことが多い。
②腎陰虚によるもの
歯肉の腫脹、発赤は著明ではない。痛みは鈍痛。歯の動揺。その他腎虚の症状。

3)参考症例
風火による歯痛
(1)病態
体質的に陽性で、もともと内熱がある者が風邪の侵襲を受ける → 風火 → 陽明経脈に欝して歯痛を起こす。
(2)主要症状
歯痛、歯肉の発赤・腫脹、患部を冷やすと痛みは軽減するが、温めると増強
(3)随伴症状
発熱、悪風、口渇
(4)舌脈所見
舌質紅、舌苔薄白・乾、脈浮数
(4)治療方針
風邪の除去により清熱を図る
(5)治療法
下関、頬車、合谷、外関、風池
※ 取穴理由: 
 合谷: 清熱作用、循経取穴
 外関: 外感病による熱を下げる。
 風池: 去風作用、解表の作用がある。
 その他に内庭穴は上歯痛、温溜穴は下歯痛にそれぞれ施灸特効穴として使用される。

◎第5節 眼精疲労
■1)現代医学的な考え方
(1)概念
眼精疲労とは視作業(VDT作業など)を続けることにより容易に眼が疲れ、視力減退・複視・眼痛・頭痛などを起こす状態をいい、健常者では疲労しない程度の視作業でも眼が疲れるものを病的とする。

(2)注意を要するもの
(1)症状
①進行の緩慢な視力障害・視野狭窄
原発性開放偶角緑内障
②異物感・掻痒感を伴い、夕方に強く感じ、起床時には眼脂・結膜の充血
慢性結膜炎
☆眼脂:めやに
③視作業とは無関係で、特に起床時~午前中がひどい
鬱病・ヒステリー等神経症

(3)適応となるもの
①健常者の調節機能低下による眼精疲労
②全身疲労性眼精疲労 … 低血圧症、更年期障害によるもので、夕方にひどい。
③筋性眼精疲労 … 斜位、輻輳不全によるもので、疲労すると物が二重に見える。
☆斜位:筋の脾労によって視軸が合わなくなることがある
④調節性眼精疲労 … 乱視、遠視などによるもので、物がぼやけて見える。

1)健常者の調節機能低下による眼精疲労
(1)病態
視作業における毛様体筋の疲労
(2)症状
ぼやけて見える。近距離視力の減退。眼痛・前頭部の圧迫感、ひどいと悪心・嘔吐。
(3)所見
①疲労すると、調節機能の異常、視力低下。
②但し、眼位・眼圧・視野の異常はみられない。
(4)治療方針
眼の毛様体筋の疲労改善、調節機能の回復
(5)治療法
①マッサージ
・頸部、肩背部に一般的施術をする。
・特に、僧帽筋起始部から胸鎖乳突筋停止部にかけて、軽擦・揉捏・圧迫を入念に施す。
・眼の周囲へ軽く軽擦・揉捏・圧迫を施す。
・ネーゲリーの伸頭法も効果的である。

②鍼灸
攅竹、太陽、風池、天柱

■2)東洋医学的な考え方
1)分類
①肝血虚による眼精疲労
肝は眼に開竅し肝血は眼を栄養する。肝血虚になると目を充分に栄養できなくなるので眼精疲労が起こりやすくなる。
②肝腎陰虚による眼精疲労
遠視・近視・老眼および虚弱者が、眼を使いすぎて気血を消耗すると、肝腎の精血も不足して目を充分に栄養できないためにおこる。

2)鑑別
①、②はともに虚証である。血と精は「同源」といわれ、血の不足は精の不足をひき起こしやすい。①が進行すると②に発展する。

3)症例
肝腎陰虚による眼精疲労
(1)病態
肝血虚の進行 → 肝腎同原 → 精血不足 → 肝腎陰虚へ
(2)主要症状
眼精疲労 
(3)随伴症状
めまい、耳鳴り、健忘、胸脇苦満、手足のしびれ、足腰に力が入らない、盗汗、五心煩熱
(4)舌脈所見
舌質紅、舌苔少、脈細数 
(5)治療方針
精血の不足を補うために腎経・肝経に補法を施す。
(6)治療法
攅竹、瞳子、合谷、太谿、太衝、三陰交、風池、肝兪、腎兪を中心に適宜取穴する。

◎第6節 鼻汁・鼻閉
■1)現代医学的な考え方
1)注意を要するもの
(1)症状
① 片側の鼻閉で血液の混じった鼻漏が持続。または鼻出血・悪臭鼻漏・頬部痛・上歯痛を伴う
悪性腫瘍など。
→顎下リンパ節の腫脹を伴いやすい。
② 小児期から思春期にかけて鼻閉を自覚、または閉塞感が増して持続する
鼻中隔彎曲症など

2)適応となるもの
① 鼻過敏症(アレルギー性鼻炎・血管運動性鼻炎)によるもの
② 程度により鼻炎・副鼻腔炎によるもの
A)鼻過敏症
(1)病態
アレルギー反応や自律神経機能異常により誘発される。
(2)症状
① 主要症状はくしゃみ発作・多量の水溶性鼻汁・鼻閉塞。
② 症状に時間的特徴がある。(鼻内掻痒感→くしゃみ発作→鼻汁・鼻閉)
③ アレルギー疾患(アレルギー性結膜炎・気管支喘息・アトピー性皮膚炎など)の合併または既往がある場合もある。
(3)治療方針
① 自律神経機能を調整し、恒常性保持機能の向上を図る。
② 鼻の各症状を改善する。
(4)〔治療法
①マッサージ
・ 後頚部・肩背部・前胸部に一般的施術を行う。
・ 前頭部正中線上に軽く指頭圧迫を施す。
・ 上位胸椎両側への圧迫も効果的である。
②鍼灸
・鼻部の経穴や後頸部の反応部に刺鍼する。
・迎香、印堂、攅竹、風池、天柱、星状神経節刺鍼など

■2)東洋医学的な考え方
東洋医学では鼻閉・鼻汁・嗅覚減退を主要症状とするものを「鼻淵」と称している。なお、『内経』には「脳滲」・「脳漏」の記載がある。
1)分類
① 肝胆の鬱熱による鼻淵
平素からの辛いものの偏食や飲酒の習慣は湿熱が体内にこもりやすい。また、情志失調により肝胆の疏泄機能が失調すると気が鬱し化熱する。これが肝胆の鬱熱となり脳を犯し、脳汁が漏れると鼻淵が起こる。
② 脾胃の湿熱による鼻淵
 平素から甘いものや油っこいものの偏食は、体内に湿熱がこもり脾胃に影響する。このために脾の運化機能が悪くなり、清気が昇らず濁陰が降りなくなって、陽明経脈にそって鼻に影響すると鼻淵が起こる。
③ 肺気虚による鼻淵
 肺気虚のために衛外機能が低下すると感冒にかかりやすい。また、肺気の不足のため治節機能も悪くなり、邪毒が停滞しやすくなり、それが鼻に影響すると鼻淵が起こる。
④ 脾気虚による鼻淵 
飲食不節や過労、思慮過度などにより脾胃を損傷し、気血の生成が不足すると、鼻が気血の栄養を充分に受けられなくなる。また清陽が頭顔面部に昇らなくなり、邪毒が停滞して鼻淵が起こる。

2)鑑別
① 肝胆の鬱熱による鼻淵
頭痛、または片頭痛、めまい、耳鳴り、難聴などの症状を伴いやすい。
② 脾胃の湿熱による鼻淵
腹部膨満感、食欲不振、身体の重だるさなどの脾と関係のある症状を伴いやすい。
★①②は、ともに実証である。
③ 肺気虚による鼻淵
衛外機能の低下と気虚による症状を伴いやすい。
④ 脾気虚による鼻淵
脾と関係のある症状と気虚の症状を伴いやすい。
★③④は虚証なので、脈象は弱を呈する。
☆①③の病証については教科書を参照。

3)参考症例
脾胃の湿熱による鼻淵 (実証)
(1)病態
甘味・油っこいものの偏食→体内に湿熱→脾胃に影響→脾の運化機能の低下→清気が昇らず、濁陰が降りなくなり、湿熱が陽明経に沿って鼻に影響する。
(2)主要症状
鼻汁は黄色で濁って粘く量が多い・臭いがする。鼻閉、嗅覚減退
(3)随伴症状
腹部の膨満感、食欲不振、身体倦怠感
(4)舌脈所見
舌質紅、舌苔黄、数脈
(5)治療方針
湿邪を除き、清熱を図る。
(6)治療法
上星、印堂、迎香、合谷、脾兪、足三里、豊隆、中
(7)取穴理由
・脾兪・足三里・豊隆・中で脾胃の機能を促進させ湿熱  の除去をはかる。
・上星は諸陽の会である督脈のツボで、ここに刺鍼し清熱を図る。
・印堂は鼻閉を改善し、邪熱を除く。
・迎香は鼻炎治療の局所特効穴であり、陽明の経気の疎通を図る。
・合谷は頭部・顔面部の諸竅の邪熱を除く。

◎第19節 肩こり
■1)現代医学的な考え方
A)注意を要するもの
 緊急の処置を要する器質的疾患の存在が疑われるもの、例えば、胸痛と左上肢に放散痛がある場合 … 狭心症

B)適応となるもの
① 日常的な身体的・心理的疲労に起因する肩こり。
② 頸椎症、いわゆる不定愁訴に伴うもの
③ 内科疾患、耳鼻科・眼科・歯科疾患に伴うものでも、原因疾患が軽症のもの。

1)日常的な身体的、心理的疲労に起因する肩こり
(1)病態
過剰使用による筋疲労、精神的緊張、自律神経の影響など機序は複雑である。
(2)症状
頸肩部や肩甲間部に強ばった不快感を感じるものから、痛みにいたる症状を訴える。強くなると頭痛・顔面痛・上肢痛などを生じる。
(3)所見
愁訴部の圧痛や筋硬結以外に特徴的な所見はない。
(4)施術対象となる筋肉
僧帽筋、胸鎖乳突筋、菱形筋、肩甲挙筋、板状筋、棘上筋、棘下筋、斜角筋など
(5)治療方針
頸肩部、肩甲間部の圧痛・硬結を目標に施術すると共に、精神的安定や自律神経機能の調整を図る。
(6)治療法
①マッサージ
・ 頸肩部・肩甲部・肩甲間部の硬結・圧痛・筋緊張部位(天柱・風池・肩井・肩中兪・肩外兪・天宗)に対して軽擦・揉捏・圧迫法を施す。
・上肢の筋疲労の回復と循環促進を図るため、上肢にも施術する。
・頸部へのストレッチもよい。
・ 併用療法として、施術前に頸肩背部に対して、温熱・水治・電気療法を加えると効果的である。
・施術後は運動療法として、肩部の上下運動、頸部の前屈・後屈・側屈・回旋運動、肩関節の自・他動運動を行う。

②鍼灸
・ 頸肩部・肩甲間部の圧痛や硬結部。
・ 天柱、風池、肩井、膏肓、身柱など

■2)東洋医学的な考え方
1)分類
① 風寒の邪による肩こり
風寒の邪が太陽、陽明経に侵襲し、そのために営衛の運行が悪くなり、頸肩部の経脈が拘急すると肩こりが起こる。
② 肝陽の亢進による肩こり
陰虚のために肝陽が亢進し、頭頸部に上衝すると肩こりが起こる。
③ 肝血の不足による肩こり
病後、産後により血虚となり、そのために頸肩部の経絡がうまく栄養されず、拘急すると肩こりが起こる。
④ 寒飲による肩こり
平素から胸膈部に寒飲が停滞していて、そのために胸部の陽気がうまく動かないと背部に重圧感や拘急が起こり、頸項部にも波及する。
⑤ 気滞血による肩こり
情志の失調などにより肝の疏泄 機能が悪くなり、そのために肩部の血行が悪くなると肩こりが起こる。また長時間の不良姿勢や外傷などにより肩 部局所に気滞血が生じて起こるものもある。

2)鑑別
① 風寒の邪によるもの…風寒の邪による悪寒などの表証を伴う。
② 肝陽の亢進によるもの…陰虚がベースとなるもので、肝陽の亢進による高血圧、めまい、口苦、目の充血、顔のほて りなどの症状を伴う。
③ 肝血虚によるもの…眼精疲労や目の乾き、めまい、心悸などの血虚による症状を伴う。
④ 寒飲によるもの…胸悶、喘息、めまい、軽度の浮腫などの症状を伴う。
⑤ 気滞血によるもの…気滞による胸脇苦満・疼痛、よく溜め息をつく、気滞血による月経不順などの症状を伴い、情緒の変化や月経前後に増強するものもある。

※③は虚証、②は虚実挟雑証で、その他は全て実証

*②、⑤は教科書に症例があるので参考にすること。

3)参考症例
・風寒の邪による肩こり
・病態
風寒の邪が太陽・陽明経を侵襲→栄衛の運行が悪くなる→頸肩部の経脈が拘急
・主要症状
肩こり
・随伴症状
悪寒、頭痛、関節痛、温めると軽減
・舌脈所見
舌苔薄白、浮脈・緊脈 
・治療方針
風寒の邪を除去し、栄衛の運行を改善する。
・治療法
大椎、至陽、天柱、列缺、後谿、合谷、風池、
 頸・胸部の夾脊穴
・取穴理由
大椎、至陽は督脈の通りをよくし陽気をめぐら せ、気血の運行を促進させる。天柱で膀胱経の経気を改善 させて頭項痛を鎮静する。列缺、後谿は頸項部の疾患の要 穴である。合谷・風池で太陽経・陽明経の風寒の邪を除く。 頸・胸部の夾脊穴は局所取穴である。

◎第20節 頸肩腕痛
A)注意を要するもの
① 発熱などの全身症状を伴うもの … 結核等炎症性疾患
② 腫瘍の既往、自発痛、夜間痛を強く訴える … 悪性腫瘍
③ 障害レベルより下位に中枢を持つ深部反射の亢進、病的反射の出現、または膀胱直腸障害を持つもの … 後縦靭帯骨化症、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアによる脊髄症
④ 原因によらず筋萎縮・麻痺症状が強いもの

(1)参考
・頸椎症について
頸椎症とは、加齢的退行性変化が頸椎支持機構に生じた慢性かつ進行性の変性疾患で、主として椎間板、椎間関節、ルシュカ関節、椎体縁などの変化と、それに伴う神経・血管障害をしばしば合併する疾患である。
髄核や骨棘が脊髄を圧迫すれば脊髄症が、神経根を圧迫すれば神経根症が発現する。

B)適応となるもの
① 頸椎症性神経根症
② 胸郭出口症候群、その他絞扼性神経障害(上肢痛の項参照)

1)頸椎症性神経根症
(1)病態
頸椎周辺の退行性変性による神経根への機械的刺激、循環障害→上肢の痛み
(2)症状
頸肩に強いこり・痛み・手指のシビレ感、筋力低下、 障害レベルに一致した上肢デルマトームへの放散痛
(3)所見
神経に沿った圧痛所見、根刺激誘発テスト陽性、上肢深部反射減弱、知覚異常など
(4)神経根障害にみられる神経学的所見の特徴
① C5神経根障害(障害レベル C4/5間)
 筋力:三角筋、上腕二頭筋の筋力低下
 反射:上腕二頭筋反射減弱
 知覚:上腕外側の鈍麻
②C6神経根障害(障害レベル C5/6間)
 筋力:上腕二頭筋などの筋力低下
 反射:上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射減弱
 知覚:前腕外側、母指、示指の鈍麻
③C7神経根障害(障害レベル C6/7間)
 筋力:上腕三頭筋などの筋力低下
 反射:上腕三頭筋反射減弱
 知覚:中指の鈍麻
④C8神経根障害(障害レベル C7/Th1間)
 筋力:指の屈筋群、手内筋の筋力低下
 知覚:前腕内側、薬指、小指の鈍麻
(5)治療方針
障害のある神経根周囲の血流改善、炎症の消退、神経根機能の回復を図る。
(6)治療法
①マッサージ
・頸肩背部の圧痛・硬結・筋緊張部位(風池・肩井・天鼎・肩貞など)に対して軽擦・揉捏・圧迫・叩打法を施す。
・上肢の反応点(曲池・手三里・合谷・四涜・少海・神門等)に一般施術を行う。
・併用療法として、施術前に温熱・水治・電気療法を加え、更に施術後は頭頸部、肩背部、上肢に自・他動運動を粗暴にならないよう注意しながら行うと効果的である。
・施術時の患者の姿勢は、側臥位か坐位が適切である。
伏臥位では施術がしにくいだけでなく頸椎の後屈(伸展)が強制されるため注意を要する

②鍼灸
風池、大椎、天鼎、肩貞、曲池など

2)参考
・頸肩腕痛の原因、関連する徒手検査法など
(1)原因
① 頸髄の病変 … 頸髄腫瘍、頸髄空洞症など
② 頸椎・軟骨・靱帯のいわゆる脊柱部の病変 … 変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、頸椎カリエス、鞭打ち損傷等
③ 胸郭出口の病変 … 頸肋症候群、斜角筋症候群、肋鎖症候群、過外転症候群(小胸筋症候群)など
④ 末梢神経の病変 … 肘部管症候群、尺骨神経管症候群、手根管症候群等

(2)徒手検査(~テストは~Tと略す)
① 変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア:スパーリングT、ジャクソンT、肩押し下げT、イートンT、頸椎叩打法
② 斜角筋・頸肋症候群:アレンT、アドソンT、モーレイT、 ハルステッドT
③ 肋鎖症候群:エデンT
④ 過外転症候群の検査法:ライトT

(3)深部反射の中枢
上腕二頭筋反射 … C5.6
上腕三頭筋反射 … C7中心
腕橈骨筋反射 … C6中心
膝蓋腱反射 … L2-4
アキレス腱反射 … S1.2

(4)病的反射
 上肢 … ホフマン、トレムナー、ワルテンベルグ
 下肢 … バビンスキー、チャドックなど

◎第21節 上肢痛
■1)注意を要するもの
①前胸部痛、胸内苦悶を伴うもの
狭心症など
②麻痺症状が強いもの
重度の末梢神経障害
③症状が頑固なもの

■2)適応となるもの
①胸郭出口症候群
②上肢絞扼性神経障害
 (注) ①と②はエントラップメント症候群にあたる。
③テニス肘(スポーツ障害の項参照)
④腱炎、腱鞘炎

1)胸郭出口症候群
(1)病態
胸郭出口部の組織肥厚・筋スパズム・異常形成による血管神経束の圧迫
①斜角筋症候群
斜角筋三角部
②肋鎖症候群
肋鎖間隙部
③過外転症候群
鎖骨下筋か小胸筋と胸郭との間隙部
(2)症状
上肢の疼痛・冷感・シビレ感・脱力感
(3)治療方針
神経血管束が絞扼されている部位の筋緊張の緩解、頸肩部の筋のスパズムの緩解
(4)治療法
①マッサージ
頸肩腕痛同様の施術をする
前頸部・側頸部は神経・血管束 があるため、変調を起こしやすいので注意を要する。
②鍼灸
天鼎、屋翳、中府、天柱、肩井など

2)上肢絞扼性神経障害
(1)病態
上肢の神経が走行中に圧迫される。
(2)病型分類
①手根管症候群
正中神経
②肘部管症候群
尺骨神経
③ギオン管症候群
尺骨神経
(注)ギオン管:豆状骨と有鈎骨とその上に張る靱帯でつくられたトンネル。
④円回内筋症候群
正中神経
(3)症状
神経支配領域の痛み・シビレ感
(4)所見
絞扼部位の圧痛、支配領域の手指の知覚鈍麻
(5)治療方針
絞扼部位の疼痛の緩解
(6)治療法
絞扼部位を中心に施術する。

3)神経痛と疼痛部位
・橈骨神経痛
上腕の後外側部、前腕の後外側部、手背の橈側半分
・尺骨神経痛
上腕の後内側部、前腕の前内側部、手掌と手背の尺側半分
・正中神経痛
上腕の前内側部、前腕の前側部、手掌の橈側半分

4) 圧痛点
・橈骨神経痛の圧痛点
大腸経の経路
橈骨神経溝上点(消)、橈骨神経溝下点(五里)、橈骨頭点(曲池)、母指球背点(合谷)
・尺骨神経痛の圧痛点
心経、一部小腸経
尺骨神経溝点(小海)、豆状骨点(神門)、豆状骨上方点(霊道・通里・陰の三穴)
・正中神経痛の圧痛点
心包経
前腕前側中央点(門)、手関節掌側中央点(大稜)、手関節掌側上方点(内関)

◎第22節 肩関節痛
■1)注意を要するもの
① 全身発熱、局所熱感・腫脹、自発痛を伴う
化膿性関節炎
② 明白な外傷が誘因で、自発痛に伴い骨の転位、関節の輪郭の異常を伴うもの
骨折、脱臼
③ドロップアームテスト陽性のもの
腱板断裂

■2)適応となるもの
①腱板炎、肩峰下滑液包炎
②上腕二頭筋長頭腱炎
③いわゆる五十肩

1)いわゆる五十肩
(1)病態
加齢による退行性病変が肩関節の一部の組織に限局することなく、周囲軟部組織に広汎に及んでくるいくつかの病態を総称する臨床的な症候名である
臨床的には炎症と痛みの強い急性期と、拘縮が現れる慢性期に分けられる。
(2)症状
肩関節の疼痛・運動制限、慢性期には外旋障害など の拘縮症状があらわれる。
(3)治療方針
 急性期:障害組織の消炎・鎮痛
 慢性期:消炎鎮痛を図ると共に拘縮の進行防止のための血行改善
(4)治療法
①マッサージ
・肩関節周囲の諸筋や肩関節を通過する腱(棘上筋腱・上腕二頭筋腱など)に現れる疼痛・圧痛・硬結・筋緊張などの反応点(肩・巨骨・肩・臂臑・肩貞など)を中心に  軽擦・揉捏法・圧迫・叩打法を施す。
・上肢から頸肩背部の広範囲に施術する。
・併用療法として、施術前に温熱・水治・電気療法を加え、施術後に運動療法を施すと効果的である。
・運動療法としてコッドマンまたはアイロン体操、棒体操、壁上行運動などがある。

②鍼灸
肩、肩、巨骨、肩貞、臂臑

2)経穴と筋
肩貞(三角筋・小円筋)
臑兪(三角筋・棘下筋)
天府(上腕二頭筋)
侠白(上腕二頭筋)
曲垣(棘上筋)
秉風(棘上筋)
雲門(大胸筋)

3)備考
(1)天津中医学院では・・・
・急性期:椅子に腰掛けさせたまま患側の条口から承山に 向けて透刺し、肩関節の運動療法を行っていた(条山)。
・慢性期:必ず外関穴を取穴する他、七星鍼(台)といって肩貞、臑兪、秉風、天宗、曲垣、肩外兪、肩中兪の7穴に、約20分間置鍼していた。また、肩内陵・肩外陵も常用。
(2)木下の3点治療
木下晴都氏は、巨骨(垂直刺)に、肩棘 (肩峰外端より約3㎝内方の肩甲棘直下)、肩鎖(鎖骨外端 より約3㎝内方の鎖骨直下)の2穴(何れも水平刺)を加え、 都合3点を五十肩の特殊治療点として、深刺(2~3㎝)・ 置鍼で成果を上げている。

4)肩関節痛に関する徒手査法
①ダウバーン兆候
三角筋下滑液包損傷(肩回旋筋腱板損傷)
②ペインフルアークサイン
棘上筋腱損傷、肩峰下滑液包炎
③スピードT、ヤーガソンT、ストレッチT
上腕二頭筋 長頭腱の腱鞘炎
④ドロップアームサイン
棘上筋腱断裂。
患者の上肢を他動的に90度外転させ手を離す。断裂があれば手がストンと落ちる。

5)肩関節の参考可動域と関連筋群
①屈曲(前方挙上)
180°… 三角筋(前)、大胸筋。補助が烏口腕筋、上腕二頭筋
②伸展(後方挙上)
50°… 三角筋(後)、広背筋、大円筋。補助は上腕三頭筋
③外転(側方挙上)
180°… 三角筋(中)、棘上筋。補助は上腕二頭筋長頭、上腕三頭筋長頭
④外旋
60°… 棘下筋、小円筋。補助は三角筋(後)
⑤内旋
80°… 肩甲下筋、大円筋。補助は三角筋(前)、大胸筋、広背筋。
⑥水平屈曲(水平内転)
135°… 外転90度までは外転筋の働きによる。ここから前方への屈曲は三角筋(前)、大胸筋、烏口腕筋、肩甲下筋。
⑦水平伸展(水平外転)
30°… 外転位からの伸展は三角筋(中後部)、棘下筋、小円筋。

◎第23節 腰下肢痛
■1)参考
腰痛の原因、関連する徒手検査法など
(1)原因
①内臓疾患によるもの:原因臓器の病変による症状を合併
ア.急性に出現するもの
 腹部大動脈瘤、尿路結石、胆石、子宮外妊娠など
イ.慢性に経過するもの
 胃・十二指腸潰瘍、肝硬変、遊走腎など
②感染性のもの
ア.急性:化膿性脊椎炎
イ.慢性:脊椎カリエス
③腫瘍によるもの:転移性悪性腫瘍、原発腫瘍
④腰椎および腰部の支持機構に起因するもの
ア.急性腰痛
 a)筋・筋膜性腰痛
 b)椎間関節捻挫
 c)腰椎椎間板ヘルニア
 d)脊椎圧迫骨折
 e)スプラング・バック
 下位腰椎の棘間靭帯が損傷
 下位腰椎の正中に疼痛・圧痛
イ.慢性腰痛
 a)いわゆる腰痛症
 特に原因を明確にできない腰痛の症候学的診断名
 b)筋・筋膜性腰痛
 c)変形性脊椎症
 d)椎間関節症
 e)椎間板変性症
 f)腰椎分離症・分離すべり症
 g)変性すべり症
 h)腰部脊柱管狭窄症
 i)骨粗鬆症
⑤仙腸関節の病変
⑥梨状筋症候群
⑦股関節疾患
 変形性股関節症、大腿骨頸部骨折、ペルテス病など
⑧神経疾患に由来するもの
⑨心因性のもの

(2)問診のポイント
①安静時痛…炎症性のもの、腫瘍によるものを疑う。
②悪性腫瘍の既往
③転倒など外傷の有無
④痛みの性状・部位・経過
⑤増悪・軽快因子
 例)脊柱管狭窄症では、後屈で増悪、前屈で軽快。
⑥間欠性跛行…さらに神経性・血管性・脊髄性を鑑別
⑦膀胱直腸障害…脊髄や馬尾が圧迫されると起こる。

(3)徒手検査
①坐骨神経の伸展…SLR、ラセーグ徴候、ブラガードT
②大腿神経の伸展…FNST
③椎間関節部の病変、神経根の圧迫、脊柱管内の狭窄…ケンプ徴候
④股関節の病変…パトリックT
⑤仙腸関節部の病変…ニュートンT
⑥梨状筋症候群…ボンネットT
⑦股関節の屈曲拘縮…トーマステスト

(4)その他他覚的所見
①腱反射
②下肢動脈拍動の有無
③筋力低下
④知覚異常
⑤病的反射
⑥階段変形の有無

■2)注意を要するもの
① 発熱、るい痩など全身症状を伴うもの … 炎症性疾患、悪性腫瘍
② 安静時痛、夜間痛が著しく強いもの … 悪性腫瘍
③ 生殖器・消化器症状を伴うもの … 内臓性腰痛の疑い
④ 膀胱直腸障害・中枢神経症状を伴う … 脊髄腫瘍など
⑤ 原因に関わらず運動麻痺が強いもの

■3)適応となるもの
①急性腰痛
 ア.筋・筋膜の急性炎症
 イ.椎間関節の捻挫
 ウ.腰椎椎間板ヘルニア(但し、軽症のもの)
②慢性腰痛
 ア.筋・筋膜性腰痛
 イ.椎間関節性腰痛
 ウ.椎間板性腰痛
 エ.変形性腰椎症
 オ.姿勢性腰痛
 カ.腰椎分離症、腰椎すべり症
 キ.腰部脊柱管狭窄症
③末梢性坐骨神経痛

1)筋・筋膜性腰痛
(1)病態
① 急性:急激な動作で筋筋膜に過伸展や部分断裂が生ずることによって起こる。
② 慢性:筋疲労や炎症の繰り返しによる組織の瘢痕化が起こる結果、循環障害や刺激が原因となって起こる。
(2)症状
① 急性:患部に限局した痛みが強く、疼痛性の側彎が診られることもある。主として前屈動作の障害が強い。
② 慢性:急性ほどの強い痛みはない。
(3)所見
いずれも、腎兪、志室、大腸兪付近に限局した圧痛や硬結が診られる。それ以外の目立った所見はない。

2)椎間関節性腰痛
(1)病態
椎間関節の障害に起因するもので、急性では急激な動作によって関節組織が損傷されて起こる。一方、慢性では他の老化変性と同様に、関節症性変化が椎間関節に現れる結果である。
(2)所見
・疼痛部位:多くが下位腰椎部(L4~L5間、L5~S1間) 
・圧痛:椎間関節部(棘突起の高さで正中より約2㎝外方)の深い押圧で検出されるのが特徴。
・脊柱の運動:いずれの方向へも困難であるが、特に捻転と後屈が強く障害される。→ケンプ徴候

3)変形性腰痛
(1)病態
老化変性に起因するもので、痛みの発生には椎間板や骨棘による刺激や、椎間関節刺激、更には筋筋膜に由来するなど複数の因子が考えられる。
(2)症状
腰部が重い、だるいなど漠然とした一定の腰部症状を示すことが多い。但し、起床時や運動開始時に腰部の痛みや強ばりがあり、それが運動と共に改善されるという特徴的な症状がある。
(3)所見
変形が進行すると、腰椎後弯の増強や階段現象などが診られる。

★上記1~3の治療方針・治療法
(1)治療方針
局所の血流改善、筋スパズムの緩解
(2)治療法
①マッサージ
・疼痛部位およびその周囲の腰背部・殿部の諸筋に現れる 筋緊張・圧痛・硬結に対して軽擦・揉捏・圧迫・叩打法を施す。
・ 筋筋膜性腰痛で、多少の腫脹がある場合、軽擦法程度に とどめておく。
・慢性腰痛では、疼痛性硬結や筋緊張が下位胸椎~腰椎の 棘突起の外方約3~5㎝の部(脾兪・胃兪・腎兪・志室・大腸 兪)、腸骨稜の下約3㎝(小野寺殿点)の部位に軽擦・揉捏・ 圧迫法を行う。更に、仙骨後面部およびその側縁(大殿筋起 始部)、大腿後側部(殷門)などに軽い揉捏・圧迫法を施す。
・併用療法として、施術前に温熱・水治・温泉療法のほか、施術後に腰痛体操(ウイリアムス体操)を加えると効果的である。

②鍼灸
脾兪、胃兪、腎兪、志室、大腸兪、小野寺殿部点

4)根性坐骨神経痛
(1)病態
一般に腰椎の変性は、L4~L5間、L5~S1間の椎間板レベルの椎間孔付近で最も多く起こる。この部の変化によって、この部を通過する坐骨神経の神経根が障害されることによって坐骨神経痛が起こる。従って、腰椎椎間板ヘルニアをはじめ、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎辷り症のいずれかが本症の原因となる。
★参
ヘルニアの好発部位:頻度の高い順にL4-L5間、L5-S1間、L3-L4間。

(2)症状
神経の走行に沿った下肢への放散性の痛みやシビレ感が特徴的。なお、腰部脊柱管狭窄によって馬尾神経に影響が及ぶと、これに間歇性跛行を呈して、馬尾神経症状が加わる。
(3)所見
神経走行に沿った圧痛点、知覚異常、アキレス腱反射減弱、SLRなどの陽性が診られる。但し、脊柱管狭窄症によるものではSLRは陽性とはならない。

(4)神経根障害にみられる神経学的所見の特徴
① L4神経根障害(障害レベル L3-4間)
 筋力:前脛骨筋の筋力低下
 反射:膝蓋腱反射減弱
 知覚:下腿内側、足部内側の鈍麻

② L5神経根障害(障害レベル L4-5間)
 筋力:中殿筋、長母指伸筋、長・短指伸筋の筋力低下
 知覚:下腿外側、足背の鈍麻

③ S1神経根障害(障害レベル L5-S1間)
 筋力:大殿筋、長短腓骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋筋力低下
 反射:アキレス腱反射減弱
 知覚:外果、足部外縁、足底の鈍麻

5)梨状筋症候群
(1)病態
坐骨神経の経路中に、坐骨結節と梨状筋の狭い間隙を通過する。その際、梨状筋の緊張や外傷があれば、この部で坐骨神経に傷害を受けて本症を発症する。
(2)症状・所見
根性坐骨神経痛と同様であるが、ボンネットテスト陽性、梨状筋部の圧痛が診られる。

★上記4、5の治療方針・治療法
(1)治療方針
障害部周辺の循環改善、殿部・下肢の疼痛部位の鎮静を図る。
(2)治療法
①マッサージ
・ 侵された神経の分布領域である殿部・下肢に現れる筋緊張・硬結・圧痛を中心に施術する
・ 圧痛点(大腸兪・承扶・殷門・委中・承筋・崑崙・太谿・足三里・陽陵泉等)に対し持続的圧迫法または圧迫振顫法を行う。
・ 坐骨神経伸展法を施す。
・ 腹直筋強化を図る。
・ 併用療法は腰痛治療に準ずる。

②鍼灸
下部腰椎の直側(大腸兪・小腸兪など)、承扶、殷門、委中、承筋、足三里、陽陵泉、崑崙、太谿

■4)付録
腰神経叢からの神経には次のようなものがある。
① 腸骨下腹神経、② 腸骨鼠径神経、③ 外側大腿皮神経
④ 大腿神経:a.前皮枝、b.伏在神経、⑤ 閉鎖神経
(1)主症状
①腰・大腿部痛
・ 外側大腿皮神経痛では、大腿外側
・ 大腿神経痛では、大腿前側から下腿内側(伏在神経)への領域に多くは持続性の鈍痛が発現する。
②ワレー圧痛点
 ・外側大腿皮神経痛-大腿外側中点(風市)・外側上顆点(陽関)など。
 ・ 大腿神経痛-大腿前内側中点(箕門)・膝内上角上方点(血海)、下腿内側中点(地機)・内果上方点(三陰交)など。
③特異的所見
 ・ 外側大腿皮神経痛-知覚障害(鈍麻ないし脱失)を伴うことが多い。
 ・ 大腿神経伸展法が陽性となる。

◎第24節 膝痛
1.注意を要するもの
① 患部に強い自発痛・夜間痛があり、経過が進行性 … 悪性腫瘍
② 膝関節部の著明な腫脹、発赤・熱感ある場合 … 化膿性膝関節炎
③ 嵌頓症状を繰返す … 半月板障害、離断性骨軟骨炎
④ 受傷直後に著明な腫脹が出現するもの … 関節内骨折、靱帯損傷、半月板損傷
⑤ 関節の動揺が強い … 膝周囲の靱帯断裂
⑥ 関節リウマチ

2.適応となるもの
① 変形性膝関節症
② 運動性膝関節痛(スポーツ障害の項を参照)
③ 滑液包炎 … 膝周囲には多くの滑液包がある。例えば半膜様筋と腓腹筋の内側頭との間、膝蓋靭帯と脛骨粗面の間などに存在する。膝まづいて作業をする人には後者の滑液包炎が起こりやすい。

■1)変形性膝関節症
(1)病態
膝関節部の退行性変化
(2)症状
運動時・体動時(歩行時、階段昇降等)、正座時に痛む。
(3)所見
膝関節腫脹、膝蓋跳動、膝蓋骨圧迫テスト(クラークスサイン)、外反内反テスト陽性。進行すると内反変形、大腿四頭筋萎縮
(4)治療方針
関節周囲の消炎・鎮痛・血液循環の促進を図る。
(5)治療法
①マッサージ
・膝関節を中心にその周囲の筋・腱・靱帯・血管神経をはじめ、膝関節の障害で疲労した腰殿部の筋を対象に施術する。
・大腿部諸筋の筋力増強・伸張を目的に、自動運動を行わせる。
イ.鍼灸:梁丘・血海・委中・犢鼻・その他関節周囲の圧痛点

1)膝関節の徒手検査法とその陽性の病態
① マクマレーT … 外側・内側半月板の損傷
② アプレーT
押し下げ(圧)アプレーT:外側・内側半月板損傷
引き上げ(引)アプレーT:外側・内側側副靭帯損傷
③ 内反・外反動揺T … 外側側副靱帯損傷→内反時動揺
内側側副靱帯損傷→外反時動揺
④ 前方・後方引き出しT … 膝十字靱帯の損傷
前十字靱帯損傷→前方引き出しT陽性
   後十字靱帯損傷→後方引き出しT陽性
⑤ ラックマンテスト … 前十字靭帯損傷
⑥ 膝蓋跳動 … 膝関節腔内の貯留液
⑦ 膝関節圧迫テスト(クラークスサイン) … 膝蓋骨関節軟骨の変性
⑧ ステインマンの圧痛移動サイン … 患者をベッドに腰掛けさせ、膝を屈伸させる。屈伸に伴い圧痛の移動があるかどうかを調べる。変形性膝関節症では、圧痛部は移動しないが、内側半月板損傷では、膝を伸ばした時は圧痛は前方に、曲げた時は内側側副靱帯方向(後方)に移動する。

2)膝関節の参考可動域と関連筋群
① 屈曲:130°…大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋。補助が膝窩筋、薄筋、縫工筋、腓腹筋など
② 伸展:0°…大腿四頭筋、大腿筋膜張筋

◎まとめ 整形外科関連疾患の東洋医学的な考え方
1.脾証
■1)概要
①頸肩腕痛、肩関節痛、上肢痛、腰下肢痛、膝痛の多くは「脾証」に属する。
②「脾」とは詰まって通じないの意で「脾証」は風寒湿の三気が混ざって肌表・経絡に侵襲し、経脈が閉塞して気血の運行が悪くなり、「通じざれば則ち痛む」状態になり、筋や関節の酸痛や重だるさ、屈伸不利が起こるものである。
③風寒湿のうち、風邪が勝っているのを行脾、寒邪が勝っているのを痛脾、湿邪が勝っているのを着脾という。
④脾証にも、急性・慢性がある。発病初期は実証が多く、病の後期になると気血を一層損傷し虚が主となる。臓腑に波及することもある。

■2)分類
(1)風脾= 行脾
① 症状:風邪の特徴で遊走性の疼痛がおこる。初期は頭痛、発熱、悪風を伴いやすい。
② 治療方針:「血めぐれば風おのずと滅す」という考えから、血行を改善することによって風邪の除去を図る。
③ 治療穴:風池・膈兪・血海・太衝など。他に疼痛局所及び循経取穴。

(2) 寒脾= 痛脾
① 症状:寒邪の凝滞性、収引性により疼痛が強い。温めると疼痛が軽減する。
② 治療方針:陽気を補って寒邪の除去を図る。
③ 治療穴:腎兪・関元を補って腎陽を強める。他に疼痛局所及び循経取穴。

(3) 湿脾= 着脾
① 症状:湿邪の粘滞性、重濁性のため固定性で重だるい疼痛。悪天候で増悪。
② 治療方針:脾胃の運化機能を改善し湿の除去をはかる。
③ 治療穴:豊隆、陰陵泉、足三里など。他に疼痛局所及び循経取穴。

2.頸肩腕痛の主な分類
(1) 脾証型
外邪や労損などにより頸部の経絡気血の流れが悪くなるとおこる。
(2) 肝腎不足型
脾証型が長期化するとおこる。
(3) 原因や症状により治療方針は異なるが、経絡気血の流れの改善を図ることを目的に、阿是穴や循経取穴を用いる。

3.肩痛の主な分類
(1) 経絡型
経絡の気血の流れが悪くなり気滞血となって起こる。気滞の段階での疼痛は運動時痛が主で、血が加わると夜間痛が著明になる。運動制限は内旋と外転が主で、患部に多くの圧痛点を伴う。
(2) 経筋型
運動制限が中心で、結帯(伸展・内旋)や結髪(外転・外旋)が制限される。長期化し筋萎縮がおこるものがある。
(3) 治療は主として手陽明、手太陽、手少陽経の経穴から取穴する。

4.膝痛の東洋医学的な考え方
膝は肝との関連が深く、膝は筋腱があつまっている。膝の内側の痛みは肝血不足により厥陰肝経をとおして膝を栄養できなくなって起こる虚証の疼痛である。

5.腰痛の東洋医学的な考え方
■1)概要
① 腰は腎の精気が注いでいるところで、腎と膀胱は表裏関係にある。
② 腰は足太陽経が走行し、任・督・衝・帯の諸脈も分布している。
③ 外寒性腰痛は風寒湿の邪によるものが多く、内傷性は腎虚によるものが多い。

■2)分類
1) 気滞血脾による腰痛(急性タイプ)
(1)病態
捻挫、打撲などの外傷→腰部の経絡、経筋の損傷→ 気血の阻滞→腰痛
(2)主要症状
腰部の刺痛、固定性の疼痛、圧迫すると増悪(拒按)
(3)随伴症状
昼間は軽く、夜間に増強(夜間になり寝ると気血の運行がさらに悪くなるから)、局所の筋緊張、著明な圧痛点、牽引痛、挫傷の場合には局所に血腫
(4)舌脈所見
舌質紫暗、沈、脾脈
(5)治療方針
経脈の気血運行を改善する。
(6)処方例
腎兪、委中、環跳、大腸兪、中封、阿是穴

2)寒湿による腰痛(慢性タイプ)
(1)病態
寒湿の邪の停滞 → 腰部の経絡の気血に阻滞
(2)主要症状
腰部の重だるさ・冷え・疼痛、雨天や寒いときに増悪。じっとしていると増悪し、動くと軽減する。
(3)随伴症状
腰部にシビレ感、運動不利、次第に増悪または時々増悪、温めると軽減
(4)舌脈所見
舌苔白膩、脈沈遅
(5)治療方針
陽気を強めて寒湿の邪を除去し気血運行を改善する
(6)処方例
太陽型:腎兪、大腸兪、環跳、委中、崑崙
少陽型:大腸兪、環跳、風市、陽陵泉、飛陽

3)腎虚による腰痛(慢性タイプ)
(1)病態
房事過多・疾病の慢性化に伴う疲労、老化→腎虚による腎精不足
(2)主要症状
腰部の無力感・だるさ・疼痛、足の無力感(腎精が不足し骨髄を充足できないため)、疲労すると増悪
(3)随伴症状
腰部の鈍痛は経過が長い、押すと気持ちがよい、横になると軽減
・陽虚:精神疲労、腰部の冷え、滑精(精液を漏らす)、小便清
・陰虚:虚煩(悶々として気が重い)、不眠、小便黄、手足心熱、口・咽喉の乾き
(4)舌脈所見
陽虚:舌質淡、舌苔薄白、脈沈無力
陰虚:舌質紅、舌苔少、細・数脈にして無力
(5)治療方針
腎を補い、気血循環の改善を図る。
(6)処方例
腎兪、委中
 腎陽虚:命門、陽関、崑崙、陽池など
 腎陰虚:関元、太谿、志室、陰谷など

◎第7節 脱毛症
1.現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの
① 全頭脱毛症、蛇行状脱毛症など
頭部全体の抜毛、後頭から側頭部に不整形の境界鮮明な大きな脱毛。
② 壮年性脱毛症
頭頂部と額の側面の頭髪が対称性に薄くなる
③ 抜毛狂(トリコチロマニア)
患者の抜毛の習癖によるもので、10歳前後の小児に多い。

■2)適応となるもの
1) 円形脱毛症
(1)原因
自律神経失調、精神的ストレス等
(2)症状
① 突然、ある部位の毛髪が脱落し、2~3cmの円形ないし楕円形の脱毛斑が生じる。
② 脱毛の境界は鮮明で単発の場合や多発する場合もある。
③ 青年期、学童期に好発。
(3)治療方針
局所の循環改善を目的にその周囲および中心部に施術し、
精神的因子に対して頭部、頸肩部を中心に筋緊張などの反応がみられる経穴、反応点に施術する。
(4)鍼灸治療
・脱毛部周囲
散鍼、梅花鍼、中心部の施灸など。
・頸肩部
天柱、肩井、風池など
☆梅花鍼:集毛鍼の一つで10mmの直径に梅花状に鍼を植えたもの

2.東洋医学的な考え方
「内経」では脱毛を「髪堕・はつだ」として述べている。髪は腎と関係が密接である。また、「血余」ともいわれる。

1)分類
① 血熱による脱毛
精神的刺激により心火が盛んになり、血熱により内風が生じると脱毛が起こる。
②血による脱毛
精神的刺激により気滞血が生じたり
他の原因により血が停滞して血行が悪くなり、毛髪がうまく栄養されなくなると脱毛が起こる
③気血両虚による脱毛
慢性疾患や産後などにより気血が虚し、毛髪がうまく栄養されなくなると脱毛が起こる
④肝腎陰虚による脱毛
肝腎陰虚で陰血が不足し、毛髪がうまく栄養されなくなると脱毛が起こる。

2)鑑別
① 血熱によるもの
 部分的に脱毛するものが多く、全身症状は著明でない。ただし口渇、便秘、尿が黄色い、舌質は紅、舌苔は黄など熱証の症状・所見を伴うものもある。
② 血によるもの
 部分的または全体に脱毛し持続的に経過するものが多い。
③ 気血両虚によるもの
 年齢に関係なく慢性病や産後に発病し、掻痒感はない。
 息切れ、心悸、顔につやがない、舌質は淡、脈は細弱などの気血両虚による症状・所見を伴う。
④ 肝腎陰虚によるもの
 成人に多く、毛髪は細く柔らかくて油状の光沢があり、頭頂部や前額角に起こりやすく、頭皮の油脂が多い。掻痒感を伴う。
※①②は実証であり、精神的刺激により起こるものが多い。 ③④は虚証である。

◎第8節 めまい
1.現代医学的な考え方
1)分類
(1)回転性と非回転性
①回転性めまい
自分や周囲がぐるぐる回る。
②非回転性めまい
・めまい感(動揺型)
周囲や自分がまわる感じはなく、ふらふらする感じ
・失神性めまい
目の前が暗くなり倒れそうになったり、実際に失神する。
★回転性か非回転性かだけでは原因が末梢性か中枢性かは区別できない。めまい以外の随伴症状の把握が重要。

(2)末梢性と中枢性
①末梢性めまい(耳性めまい)
耳や内耳に問題があるもの(回転性のものが多い)
→メニエール病、突発性難聴、良性頭位性めまい、内耳炎など
②中枢性めまい
脳幹部や小脳の疾患で起こることが多い
脳腫瘍(特に聴神経腫瘍・小脳腫瘍)、脳血管障害、脊髄小脳変性症など
③その他
大量の消化管出血、起立性低血圧、自律神経失調、過換気症候群、過労、
降圧剤など薬剤によるもの
(これらは非回転性が多い)

■1)注意を要するもの
①持続時間が長く、運動感を伴わず、障害部位に対応する神経症状(手足のシビレ、複視、嚥下障害)がみられるもの
 中枢神経障害
②回転性めまいで眼振があり、起立・歩行などに平衡障害があるもの
★眼振は末梢性では急性期だけ、中枢性では慢性期になっても残る。

■2)適応となるもの
めまい感、程度によりメニエル病などの耳性めまい
1)めまい感
(!)病態
眼・内耳・深部感覚からの情報の入力・統合に障害
(2)症状
浮動性感覚、眼前暗黒感。肩こり、頭痛、高血圧、
眼精疲労、更年期障害、自律神経機能障害などに伴う。
(3)所見
① 脳・脊髄神経の異常はない。
② 眼振・平衡機能障害(起立・歩行障害)はない
(4)治療方針
椎骨動脈、内頸・外頸動脈の循環改善を通じて、内耳や脳内の循環改善を図る。
(5)治療法
ア.マッサージ
① 全身調整を図るため、軽く全身に一般的施術を行う。
② その後、頭部(耳周囲)・頸部・肩部の反応点を中心に一般的施術。
★特に高齢者では、内頸動脈の動脈硬化のため、頸動脈洞の圧受容器反射が亢進していることがあり、そのために頸部のマッサージで失神性めまいを来すことがあるので注意する
イ.鍼灸
耳周囲(和・完骨・頭竅陰など)、後頸部(風池など)、肩背部(肩井など)

2.東洋医学的な考え方
目がかすんで目の前が暗くなるのを「眩(げん)」
ぐるぐる物が回ってみえたり、物が揺れ動いてみえるものを「暈(うん)」
といい、この2つは同時に起こるので「眩暈」と称す。
1)分類
① 肝陽の亢進による眩暈
・怒りやストレスなどにより肝の疏泄機能が失調
→肝鬱
→熱化(肝火)して肝陰を損傷→肝陽が亢進し、頭目に影響すると眩暈が起こる。
・房事過多などにより腎陰が不足
→肝陰も次第に不足
→肝陽が亢進
→眩暈
②痰濁による眩暈
・飲食不節で脾胃を損傷
→痰湿が生じ中焦に阻滞し清陽が頭部に昇らず、また濁陰が降りないと眩暈が起こる。
③気血両虚による眩暈
・脾胃虚弱、慢性疾患、種々の出血などで気血両虚
→気虚のために清陽が頭部にうまく到達できない、また血虚のために脳をうまく栄養できなくなって眩暈が起こる。
④・腎精不足による眩暈
・先天的に腎精が不足している者、老化や房事過多などにより腎精が不足している者は、「髄海不足」となり、眩暈が起こる。

2)鑑別
①肝陽の亢進による眩暈
頭部の脹痛、イライラする、怒りっぽいなどの症状を伴い、舌質は紅、脈は弦数。
②痰濁による眩暈
頭が重くぼんやりする特徴があり、舌苔は厚膩、脈は滑。
③気血両虚による眩暈
横になると軽減し疲労により誘発または増強する特徴がある。
④腎精不足による眩暈
精神疲労、健忘、耳鳴りを伴いやすい。
※①は虚実挟雑証である。
 ②は実証である。
 ③と④は虚証である。

◎第9節 耳鳴・難聴
1.現代医学的な考え方
■1)分類
(1)音源の有無による耳鳴り
① 他覚的耳鳴(有音源性)…血管雑音など(稀)
② 自覚的耳鳴(無音源性)
(2)難聴
① 伝音性難聴…外耳・中耳の障害
② 感音性難聴…蝸牛より中枢側の障害
③ 混合性難聴
(3)難聴との関係による分類(難聴と耳鳴は随伴しやすい)
① 伝音難聴性の耳鳴り
② 感音難聴性の耳鳴り…難聴の高低域と耳鳴の高低音とは一致していることが多い。
③ 混合難聴性の耳鳴り
④ 無難聴(単独)性の耳鳴り

1)注意を要するもの
(1)症状
① 音は聴こえるが何を言っているか理解できない
…中枢性難聴
② 片側の耳閉感を伴う耳鳴…耳垢栓塞・外耳異物
③ 急性に発症した難聴で早期には原因・障害部位の不明なもの…中耳炎、突発性難聴

2)適応となるもの
無難聴性耳鳴、慢性症例で難聴に伴う耳鳴(中耳炎後遺症、メニエール病、突発性難聴)
A) 無難聴性耳鳴
(1)病態
検査で聴力障害のない耳鳴
(2)症状
① キーンまたはジーンという表現の耳鳴
② 自覚的な聴力低下はなく、耳鳴のみある。
③ 頸肩のこり、後頭部の重圧感あり。
④ 疲労、睡眠不足、精神的興奮により悪化、睡眠・安静で改善
(3)治療方針
自律神経機能を調整し内耳の血流改善を図る。
(4)治療法
ア.マッサージ
① 後頸部の筋緊張・圧痛・硬結などの反応点を中心に軽擦・揉捏・圧迫を施す。
② 特に、分界項線部の風府、天柱、風池、完骨には入念に圧迫揉捏を施す。さらに翳風へ持続的圧迫を加える。
③ 肩こりの緩解を目的とした施術で、罹患部の循環改善を図る。
イ.鍼灸
① 耳周囲や後頸部の圧痛・硬結・筋緊張などの反応点に刺鍼する。
② 耳門、聴会、聴宮、完骨、風池、翳風

2.東洋医学的な考え方
■1)分類
① 肝火によるもの
情志失調により肝気鬱結となり、それが化火すると清竅に影響して耳鳴り難聴が起こる
また、激怒して肝を損傷し、逆気して起こる場合もある。
② 痰火によるもの
飲食不節や思慮過度、労倦などにより脾胃を損傷し、運化機能が低下すると水湿が停滞して痰が生じる
痰鬱となり長期にわたって改善され ないと化火し、痰火となって清竅を閉塞すると耳鳴り、難聴が起こる。
③ 脾胃虚弱によるもの
脾胃虚弱のため気血の生成が悪く、そのために経脈が空虚となり清竅がうまく栄養されないと耳鳴り・難聴が起こる。
④ 腎精不足によるもの
腎精不足のため髄海が空虚になると耳鳴り、難聴が起こる。

■2)鑑別
①肝火と②痰火による耳鳴り
難聴は実証であり
耳鳴りの音が大きくまたは聴力の低下が突然起こるという特徴がある
耳を按じると症状が増強する。
③脾胃虚弱と④腎虚による耳鳴り
難聴は虚証であり
次第に耳鳴りとなり
音は細く聴力も次第に低下するという特徴がある
耳を按じると症状が軽減または消失する。

1)音による鑑別
① 肝火
潮のような音や風や雷のように聞こえる。
② 痰火
両耳にヒューヒューといった音がし、重い濁った音がする
時に蝋のように閉塞し音がはっきり聞こえない。
③ 脾胃虚弱
耳鳴は疲労すると増悪
かがんだり立ち上がったりするときに激しくなる
耳の中が突然、空虚となったり冷えを感じる。
④ 腎精不足
耳の中にいつも蝉の声がする
鳴き声は低く細い
しだいに重くなる
夜間とくにひどい。

◎第10節 咳嗽
1.現代医学的な考え方
咳嗽とは「気道内分泌物や気道に侵入した異物の排除を目的とした生理的防御反射
痰を伴わない乾性咳嗽(咽頭・喉頭・胸膜の疾患)と
痰を伴う湿性咳嗽(気管支・肺疾患)にわけられる。

■1)注意を要するもの
① 高熱 … 肺感染症
② 血痰、喀血 … 肺癌・気管支拡張症・肺結核
③ 多量の喀痰 … 気管支拡張症
④ 胸痛 ………… 気胸・胸膜炎
⑤ 呼吸困難 …… 肺気腫・心臓喘息
⑥ 乾性咳嗽のみ … 肺癌・肺結核の初発症状
⑦ 主に吸気時に喘鳴が聴かれ嗄声を伴う…喉頭の病変

■2)適応となるもの 
① かぜ症候群に起因して生ずる咳嗽
② アレルギー性鼻炎・アレルギー性気管支喘息による咳嗽
③ 気管支炎による湿性咳嗽(程度による)

1)かぜ症候群に起因して生ずる咳嗽
(1)病態
咽頭・喉頭の炎症→ 咳嗽
(2)症状
① 悪寒・発熱・全身倦怠感・鼻炎症状(くしゃみ・鼻汁・鼻閉)
→上気道の異常感
→咽頭・喉頭痛、嗄声
② ときには食欲不振・嘔吐などの消化器症状を伴う。
(3)所見
① 咽頭・喉頭粘膜の充血・腫脹
② 呼吸音の異常はない
(4)治療方針
気道の過敏性の軽減や気道の炎症の軽減
(5)治療法
①マッサージ
・発熱時は安静を保つために臥床させる。
・後頸部、胸鎖乳突筋部、肩甲間部の諸筋の過緊張・圧痛・硬結などの反応点を中心に軽擦・揉捏・圧迫法を施す。
・併用療法として前頸部・胸部にプリースニッツ罨法・ホットパックなどを施すのも効果的である。

☆参考:プリースニッツ罨法
・考案:オーストリアのビンセンツ・プリースニッツ(1790~1851)
・方法:冷湿布を硬く絞り局所にあて、その上を毛布やフランネルで包み込む。
・適応:咽頭炎、気管支炎、気管支喘息など。皮下血管の反射による充血を介し、血流を良くし鎮痛、鎮痙、鎮咳、去痰作用を促進させる。

②鍼灸:前頸部、後頸部を中心に反応点に刺鍼施灸する。
経穴-天突、大杼、尺沢など。

2.東洋医学的な考え方 
・「咳」とは肺気上逆による音をいい、「嗽」とは痰液を喀出することをいう。
・一般的には有声有痰のものを咳嗽、有声無痰のものを咳逆という。
・咳嗽には急性と慢性があり、前者は外感により起こり、後者は内傷により起こる。
・外感新病は実証が多く、内傷久病は虚証のものが多い。

■1)分類)
1)外感性の咳嗽
① 風寒によるもの
風寒の邪が肺を犯し、そのために肺の宣散機能が失調し、肺気が上逆すると咳嗽が起こる
② 風熱によるもの
風熱の邪が肺を犯し、そのために肺の粛降機能が失調し、肺気が上逆すると咳嗽が起こる
2)内傷性の咳嗽
① 痰湿によるもの
脾の運化機能が悪くなると水湿が停滞し痰が生じる
この痰湿が肺に影響して肺の粛降機能が失調すると咳嗽が起こる。
② 肝火によるもの
肝鬱が改善せず化火し、その炎上性より肺に影響し、粛降機能が失調すると咳嗽が起こる
③ 肺腎陰虚による咳嗽
肺陰虚のために燥が生じ、肺が潤いを失って粛降機能が失調すると咳嗽が起こる。

■2)鑑別
1)外感性の咳嗽は表証を伴い、それには風寒と風熱の区別がある。
2)内傷性の咳嗽は、関係ある臓腑の機能失調による証候を伴う。
3)痰の有無および痰の性状からの鑑別を行なう。
・寒性のものでは痰は白く水様を呈する。
・熱性のものでは痰は黄色く粘くなる。
・脾虚によるものでは痰の量は多いが喀痰しやすく、陰虚によるものでは乾いた咳となり、痰の量は少なく、粘る。
・古典では脾は「生痰の源」、肺は「蓄痰の器」と呼ばれている。

◎第11節 喘息
1.現代医学的な考え方 
ヒューヒューという喘鳴を伴う発作性の呼吸困難を喘息という。
■1)注意を要するもの(気道に器質的狭窄を生じた疾患)
① 体動時の呼吸困難を訴え、高血圧や冠状動脈疾患等の心疾患があり、夜間に呼吸困難発作が多いもの…心臓喘息
 →心臓喘息では肺うっ血のため、肺野の濁音・湿性(断続性)ラ音がみられる。
② 息切れ、喀痰を訴えるもの … 肺気腫、慢性気管支炎
③ 吸気時の喘鳴・嗄声を伴うもの …… 喉頭の病変
④ 発熱、膿性痰、増悪する呼吸困難を伴うもの … 感染症
⑤ 呼吸困難が強く、横に寝ることや会話・飲食が困難なもの…重症の喘息

■2)適応となるもの
 気管支喘息(発作の程度・頻度により注意が必要)
1)気管支喘息
(1)病態
気道の過敏性が高まり、広範に狭窄がみられる。
(2)症状
① 喘鳴を伴う発作性の呼気性呼吸困難で、呼気の延長がみられる。
② 呼吸困難は労作に無関係。
③ 深夜から明け方にかけて現れやすい。
④ 起座呼吸
⑤ 家族歴、既往歴にアレルギー疾患を認めることが多い。
⑥ 痰は少量だが粘性があり切れにくく、咳を伴うこともある。
(3)所見
聴診で乾性(連続性)ラ音が聴ける。
(4)治療方針
自律神経機能を調整し気道の過敏性を抑制し、発作の軽減や予防、随伴症状の改善を図る。
(5)治療法
①マッサージ
・後頸部、胸鎖乳突筋停止部、肩背部、前胸部、肩甲間部等の筋の過緊張に対し、その緩解を目的に一般的施術をする。
・発作の間歇時に継続的に全身調整を施して全身の強壮と抵抗力を付ける。
・併用療法として胸部へプリースニッツ罨法も効果的。
②鍼灸
・胸背部(特に胸椎周辺)の圧痛や硬結などの反応を調べ、反応の顕著な経穴部に刺鍼や施灸をする。
・天突、中府、身柱、肺兪、膈兪など

2.東洋医学的な考え方
東洋医学では喘息のことを「哮喘(コウゼン)」と呼ぶ。
 喘息のある人は体内における痰飲の潜伏がベースとなっており、これを伏飲という。伏飲のある人は気候の変化、飲食、疲労、ストレスなどにより発作をおこしやすい。
■2)分類
1)実証の哮喘
① 風寒による哮喘
伏飲のある者が風寒の外邪を受け、そのために肺気の昇降が失調して気道の通りが悪くなると哮喘が起こる。
②痰熱による哮喘
伏飲のある者が風熱の外邪を受けたり、痰熱が盛んなために肺気の昇降が失調すると哮喘が起こる。

2)虚証の哮喘
①肺気虚による哮喘
肺は気を主っているが、肺気虚になるとこの機能が低下して哮喘が起こる。
②脾気虚による哮喘
脾気虚のために運化機能が低下すると痰湿が生じて中焦に停滞する。それが肺に影響して肺の昇降が失調すると哮喘が起こる。
③腎気虚による哮喘
肺は気の主、腎は気の根。哮喘が長期に渡ると肺から腎に波及し腎気虚となり、納気機能が低下すると肺の粛降機能も悪くなり哮喘が起こる。

■2)鑑別
まず、虚実を鑑別、次に痰の性状で寒熱をわける。
1)虚実の鑑別
① 実喘
急に発病、病気の経過は短い、呼吸が粗い、胸悶、呼出すると楽、脈有力
② 虚喘
緩慢に発病、病気の経過は長い、呼吸促迫、息切れ、動くと増強、脈弱
2)痰の性状により寒熱を鑑別
①風寒または陽虚による哮喘では、痰は稀薄で色は白い。
②痰熱による哮喘では、痰は黄色く粘い。

■3)参考症例
 脾気虚による哮喘
(1)病態
運化機能の低下→痰湿が中焦に停滞→肺気の昇降機能の失調→哮喘
(2)主要症状
咳嗽、息切れ、疲労すると増強
(3)随伴症状
食欲不振、身体倦怠感、腹部脹満、下痢
(4)舌脈所見
舌質淡、舌苔白滑、濡・弱脈または緩脈
(5)治療方針
脾・肺の機能向上を図る。
(6)治療法
肺兪、太淵、水分、脾兪、章門、太白、足三里

◎第12節 胸痛
1.現代医学的な考え方
■1) 注意を要するもの
・胸骨裏面の絞扼感、左胸部~左上肢にかけての放散痛を伴う場合 … 狭心症・心筋梗塞
・持続性の強い胸痛または悪心、呼吸困難、脱力感、失神を伴う場合
・鎖骨上窩リンパ節腫脹があり咳・痰などを伴う場合 … 悪性腫瘍
■2)適応となるもの
特発性肋間神経痛、帯状疱疹後肋間神経痛、胸部手術後の疼痛など
1) 特発性肋間神経痛
(1)病態
原因不明で肋間神経支配領域に痛みが出現する。
(2)症状
多くは左第5~9肋間に突然の疼痛、呼吸や会話で増強。
(3)所見
疼痛は肋間神経の経路と分布領域に一致。特有の圧痛点あり。痛み以外の神経学的所見はない。
(4)治療方針
鎮痛を目的に当該神経の知覚領域の圧痛点を参考に治療点を選択する。
(5)治療法
①マッサージ
・患側を上にした側臥位で、術者はその前または後に位置する。疼痛のある肋間に沿って指を圧入し適度の手掌軽擦を行なう。次に、指頭で肋間神経の経路に圧迫揉捏法をし、各圧痛点に持続的圧迫法・振顫法を施す。
・圧痛点への揉捏・圧迫の力度
a.脊柱点(心兪・膈兪・肝兪など):やや深部に達するような力度
b.腋窩点(または側胸点):軽い力度
c.胸骨点(歩廊・神封など):軽い力度で行う。
d.上腹部(不容・承満など)にも圧痛があれば他の圧痛点と同様に施術する。
・肋間神経の伸展法を行う。両手指を患者の肋間の前後に対向的におき、強く牽引する。この際、患者に徐々に深呼吸を行わせ、胸郭拡張と同時に伸展を行なうとよい。
・反射・誘導の目的で、頸部・肩背部・腰部の脊柱両側筋群の過緊張緩解を図る。
・併用療法としてプリースニッツ罨法、電光浴も効果的である。
②鍼灸
 脊柱点(後枝):棘突起の外方約3cmの部位
 腋窩点(外側皮枝):前腋窩線上の当該肋間部
 胸骨点(前皮枝):当該肋間部で胸骨の傍ら

2.東洋医学的な考え方
 東洋医学では胸痛を「胸痺」と称している。胸痺とは種々の原因により胸中の陽気がつまって起こる胸悶・胸痛のこと。この「ひ」には詰まって通じなくなるという意味がある。
軽症では胸悶、重症では胸痛が起こる。ここでは心肺の病による胸痛を紹介。

■1)分類
① 痰濁による胸痛
飲食不節や飲酒などにより脾胃を損傷すると痰濁を形成しやすくなる。これが胸部の陽気に影響し、胸部の気血のめぐりが悪くなると胸痛が起こる。
② 血による胸痛
情志の抑鬱などにより気滞が生じ、気滞が改善しないと血を形成し、胸部の脈絡に停滞すると胸痛が起こる。
③ 陽虚による胸痛
平素から陽気が不足していて胸部の陽気が弱いと、気血のめぐりが悪くなりやすい。さらに 寒邪の影響をうけると、寒の凝滞性により血行はいっそう悪くなり、そのために脈絡がつまると胸痛が起こる。

■2)鑑別:随伴症状、舌脈所見、胸痛の性質により鑑別。
① 痰濁によるもの
痛みは悶痛、胸悶、咳嗽、呼吸促迫、めまいなどを伴いやすく、舌苔は膩、脈滑が多い。
② 血によるもの
痛みは刺痛、胸悶、息切れ、心悸などを伴いやすく、舌質は紫、脈は?脈または結代が多い。
③ 陽虚によるもの
痛みは絞痛、手足の冷え、自汗、顔色蒼白などを伴いやすい。

◎第13節 腹痛
1. 現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの
① 突然、激烈な腹痛で始まり、ショック状態を示し、その痛みが持続性である場合
急性腹症
(注)急性腹症の例…腹膜炎、イレウス、急性膵炎、虫垂炎、卵巣茎捻転、胃穿孔、肝臓破裂、子宮外妊娠など
② 発熱、下痢、嘔吐、心窩部痛、脱水症状、ショック症状などを示す場合
食中毒
③ 頑固な腹痛、便秘、グル音、腹部膨満感、蠕動不穏などがみられる場合
腸の狭窄・閉塞(イレウス)
④ 食事に関係なく出現する腹痛
消化器系以外の原因による腹痛
・所見
筋性防御や反動痛(ブルンベルグ徴候)がある場合は腹膜炎が疑われる。

■2)適応となるもの
① 心窩部痛
慢性胃炎、胃下垂症、胃神経症
② 右悸肋部痛
胆石症
③ 臍部痛
慢性腸炎
④ 左腸骨窩部痛
過敏性腸症候群
⑤ 下腹部
神経性腸疾患
1)上記の疾患で治療の対象となる症状は、
・持続性の心窩部鈍痛、膨満感、重圧感、食欲不振など
・不安・緊張などの精神的ストレス、精神的・肉体的疲労などが誘因となり発症する腹痛および消化器症状

2) 胆石症の軽い疝痛発作
(1)所見
腹部や背部に筋緊張、硬結、圧痛などがみられる。
(2)治療方針
疼痛の緩解(鎮痛)
(3)治療法
①マッサージ
・ 発作時・・・胸椎・腰椎の両側反応点(肝兪・胆兪・脾兪等)を中心に持続的圧迫法を施す。
・鎮痛後、腹部(期門・日月など)に軽い軽擦法を行う。
・ 適宜、短時間に全身施術を施して、疲労を回復させる。

3)胃神経症
(1)所見
腹部や背部に筋緊張・硬結・圧痛などがみられる。
(2)治療方針
疼痛の緩解(鎮痛)
(3)治療法
・ 精神的ストレスが強く起因するので患者の話をよく聞き、心身のリラックスが図れるような生活指導をする。
・ 特に、後頸部から肩甲間部にかけて一般的施術をする。
・ 東洋医学的には肝気の抑鬱に対して、太衝・肝兪・足三里・脾兪・中などに施術。特効的には内関・梁門に持続的圧迫法。

①鍼灸
中、天枢、膈兪、肝兪、脾兪

2.東洋医学的な考え方
 東洋医学では腹部を大腹、小腹、少腹の3つに分けている。
 剣状突起下端から臍までの部分を胃部という。

■1)分類
1) 上腹部痛(胃痛)の分類
① 寒邪によるもの
寒邪の侵入を受けたり、生ものや冷たい物を過食して胃気が抑止され滞ると胃痛が起こる
② 食滞によるもの
暴飲暴食などにより飲食が停滞し、腑気が降りなくなり胃に気滞が生じると胃痛が起こる。
③ 肝鬱によるもの
情志の失調により肝鬱となり、疏泄機能が失調して胃の気機が悪くなると胃痛が起こる
☆肝気犯胃の状態
☆気機:気の働き
④ 脾胃虚寒によるもの
労倦や不規則な食生活などにより脾胃を損傷し、脾陽不振のために虚寒が生じ、胃がうまく温煦されないと胃痛が起こる。

2) 下腹部痛の分類
① 寒邪によるもの
寒邪の侵入を受けたり、または生ものや冷たい物を過食すると中焦の陽気が失調するため脾の運化機能が低下し、また寒の収引作用の影響を受けると腹痛が起こる。
② 食滞によるもの
暴飲暴食により飲食停滞となったり、味の濃い物や辛い物などを食べたために、胃腸の消化・伝  導機能が失調し、腹部の気機が悪くなると腹痛が起こる。
③ 肝鬱によるもの
木克土により起こるものが多い。また足厥陰肝経脈は少腹部を通過しており、そのために少腹部に腹痛が起こるものもある。
④脾陽虚による腹痛・
平素から陽気が不足していたり、脾陽不振により運化機能が失調し、そのために寒湿が停 滞すると腹痛が起こる。

■1)鑑別
(1)虚実の鑑別
・拒按は実証であり、喜按は虚証である。
・食をとると疼痛が増強するものは実証であり、食後に疼痛が軽減するものは虚証である

(2) 疼痛の性質の鑑別
・隠痛は虚寒に多くみられる。
・急に起こる脹痛は気滞に多くみられ、痛む部位が一定せず、排ガスで楽になる。
・激痛で拘急して痛むものは寒邪に多くみられる。
・固定性の刺痛は血に多くみられる。
・張って苦しく痞満するものは食滞に多くみられる。
☆痞満:つかえて苦しい感じ

(3) 寒熱の鑑別
・寒証では温めると腹痛が軽減または消失し、冷やすと腹痛が増強する。
・熱証では冷やすと腹痛が軽減または消失し、温めると腹痛は増強する。

(4)病位の鑑別
 心と胃とは部位が隣接しているので、心痛と胃痛との鑑別を行なう必要がある。
・心痛:胸悶、息切れ、心悸、胸部の絞痛があり背部に放散するなどの症状を伴う。
・胃痛:胃部の膨満感、嘔吐、食欲減少などの症状を伴う。

◎第14節 悪心と嘔吐
1.現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの
① 意識障害、頭痛、眼痛、めまい、胸痛、発熱などの随伴症状がみられる場合
脳、眼、内耳、心臓などの障害
② 女性の嘔吐で原因不明の場合
妊娠(つわり)、妊娠中毒症
③ 注意を要する腹痛の症状を伴う場合

■2)適応となるもの
・過飲・過食による急性・慢性胃炎、胃神経症などに随伴するもの
・精神的ストレスによって生ずるもの

1) 急性・慢性胃炎
(1)症状
悪心、嘔吐、胃部膨満感、食欲不振、上腹部痛など。
(2)治療方針
①一般的には安静と食事療法による体力回復を図る。
★備考
食事療法の主眼は、炎症に陥った胃粘膜を庇護することにある
多くは胃酸減少症があるため蛋白質の消化が悪くなるので、炭水化物を多く摂り、
過熱・過冷の飲食物、刺激性食品、飲酒、喫煙を禁ずる。
症状が良くなれば蛋白質を徐々に増やす。
②理療施術では消化器系の機能回復を図る。
(3)治療法
①マッサージ
・肩背腰部、特に脊柱両側筋群(膈兪、肝兪、脾兪、胃兪、三焦兪、腎兪など)へ揉捏すると共に
第7~11胸椎両側に持続的圧迫法を施す
これによって、内臓体性反射として現れる肩こりをはじめ、背腰部諸筋の緊張の緩解を図り
胃の消化力、吸収力を高める。
・腹直筋(中、巨闕、梁門など)に揉捏、圧迫法を施して緊張過度を除く
これにより、胃の内容物を腸に送り込む。
・ 便秘のある場合、腸への施術を行う。
・ 必要に応じて、全身状態の改善を図るために全身施術をする
特に、効果的なのは内関、梁丘への持続的圧迫法である。
・ 併用療法として胃部への温熱療法、坐浴、全身浴も効果的である。

②鍼灸
・上腹部、背部の反応点や筋緊張部に施術。
・巨闕、中、膈兪、肝兪、脾兪などに軽刺激。

2.東洋医学的な考え方
胃の和降作用が失調すると胃気が上逆し悪心嘔吐がおこる。
☆和降作用=降濁作用
■1)分類
① 外邪による悪心嘔吐
手太陰肺経は中焦より起こり、大腸に絡し、さらに胃口に循行している
また肺は表を主っている
外邪を受け、それが表から直接胃を犯し、胃気の「降」が悪くなり上逆すると悪心、嘔吐が起こる。
②食滞による悪心嘔吐
飲食過多や生もの、冷たいもの、油っこいものを食べ、
それが胃に停滞し、胃気の「降」が悪くなって上逆して起こる。
③ 肝鬱による悪心嘔吐
 情志失調により肝鬱となり木克土となって胃を犯し
そのために胃気の「降」が悪くなって上逆しておこる。
☆肝気犯胃
④痰飲による悪心嘔吐
飲食不節などにより脾胃を損傷し痰飲を形成し
それが中焦に停滞して痰飲が上逆して起こる。
⑤脾胃虚弱による悪心、嘔吐
平素からの脾胃虚弱や、労倦などで脾を損傷すると運化機能が低下し、
水穀が中焦に停滞し上逆して起こる。
⑥胃陰虚による悪心、嘔吐
熱病による胃陰の損傷、心や肝の火旺による胃陰の損傷で、
胃の潤いや栄養が悪くなり、胃気の「降」が悪くなり上逆すると起こる。

■2)鑑別
1) 虚実の鑑別
・実証の悪心、嘔吐は急に発病し、経過が短い。
・虚証の悪心、嘔吐はたびたび起こり、経過が長い。
2) 原因による特徴
① 外邪によるものは、表証を伴う。
② 食滞によるものは、食物の臭いを嗅いだだけで悪心したり酸腐臭物を嘔吐する。
③ 肝鬱によるものは、精神緊張や情緒の変化により誘発しやすい。
④ 痰飲によるものは、水様の痰涎(よだれ)を嘔吐する。
⑤ 脾胃虚弱によるものは、四肢倦怠、食欲不振、軟便などの脾気虚の症状を伴う。
⑥ 胃陰虚によるものは、虚熱による舌脈所見、空えづき、空腹感はあるが食べたくない、便の乾燥などを伴う。

■3)参考症例 肝鬱による悪心嘔吐(実証)
(1)病態
情志の失調→肝鬱→木克土→胃気の通降作用に障害→胃気の上逆
(2)主要症状
悪心、嘔吐、呑酸、頻繁な気
(3)随伴症状
胸脇脹痛、煩悶、情緒変動により悪心、嘔吐の発作または増強
(4)舌脈所見
舌苔薄、弦脈
(5)治療方針
肝鬱を改善、胃の気の通降作用を回復する。
(6)治療法
中、足三里、内関、公孫、太衝
(7)取穴理由
太衝で肝の疏泄機能を調整し、間接的に胃気の通降作用の改善を図る。
中、足三里の募合配穴によって胃を調整し、嘔吐を抑制する
内関、公孫は八総穴で、同じく胃を調整し、胸部の違和感を除く。

◎第15節 便秘と下痢
1.現代医学的な考え方
■1)注意を要するもの(器質的なもの)
① 頑固な腹痛・便秘、腹鳴、グル音の増強、蠕動不安、腹部膨満を伴うもの
イレウス
② 血便、体重減少、全身倦怠を伴うもの
腫瘍など
③ 急性の下痢に発熱、嘔吐、心窩部痛、脱水・ショック症状を呈するもの
細菌性下痢、中毒
④ 血性下痢、発熱、体重減少、粘液便を伴うもの
潰瘍性大腸炎、クローン病

■2)参考:便秘の分類
1)機能的な便秘
 これが便秘の原因で最も多く、次のようなものがある。
①弛緩性便秘:大腸の運動低下や緊張低下によるもの。
②痙攣性便秘:過敏性大腸症候群の症状としてみられる。
 腸管の副交感神経の緊張状態が原因である。
③習慣性便秘(常習性便秘・直腸性便秘)
☆トイレを我慢することなどによる
2)食事性便秘
 食物摂取量の不足、糖質や繊維性食品の摂取不足によって起こる。
3)器質的疾患による便秘
 腸管の機械的通過障害による便秘(腹腔内腫瘤や、炎症性変化によるもの、大腸癌やイレウス)である。
4)消化管の麻痺や攣縮
 脳性麻痺、ダウン症候群、クレチン病、低カリウム血症な
どでみられる。

■3)適応となるもの(機能的なもの)
① 神経性腸疾患や内臓弛緩下垂症による便秘
② 習慣性(常習性・直腸性)便秘
③ 単純性下痢
④ 心因性下痢
⑤ 過敏性腸症候群の便秘・下痢

1)習慣性便秘
(1)病態
大腸の運動機能の低下や排便反射の低下
(2)症状
腹痛はないか、または軽症で、便意が起こりにくい。便は太く持続性である。下痢を伴わず、ストレスとの関連は少ない。
(3)所見
腹壁の緊張低下
(4)治療方針
腸の機能の調整
(5)治療法
①マッサージ
・大腸の経路に沿って軽擦・揉捏法を施す。その際、糞塊を徐々に挫砕し直腸に移送する。手技は柔軟にかつ丁寧に施す。
・肩背部、腰部、殿部(三焦兪・腎兪・志室・大腸兪・小腸兪など)、下肢(足三里・上巨虚・三陰交など)に誘導施術を行う。
・ 併用療法として、冷水摩擦、腹部の冷水圧注や冷温交替圧注などを試みる。

②鍼灸
 天枢、大横、腹結、三焦兪、大腸兪

★備考:患者への指導として、次のような点に注意してもらえれば効果的である。
① 毎朝、一回は必ず排便の習慣をつける。
② 便意を催せば、直ちに排便する。我慢の習慣がつくと直腸性便秘の原因となる。
③ 腹筋の強化運動をする。例えば、仰臥位で伸展した下肢の上下運動、膝を腹部に接近させる運動などの自動他動運動法を行う。
④ 腸の蠕動運動を盛んにするために、あまり消化の良い食物は避けて、線維に富む植物性食品(こんにゃく・おから・さつま芋など)や果実などを摂取させ便通を付けるようにする。
⑤ 早朝の空腹時に、一杯の冷水または炭酸水を飲ませる。その寒冷刺激が催下作用となる
⑥ 緩下剤を濫用しない。これが直腸性便秘を招く。
⑦ タンニンには止瀉作用がある。紅茶やお茶は便秘になりやすい。

2)過敏性腸症候群の便秘・下痢
(1)病態
腸管の運動機能の亢進
(2)症状
便秘(兎糞状)、下痢、便秘下痢交替が持続する。腹痛や腹部膨満感などを伴う。精神的ストレスと関連して起こりやすい。随伴症状として頭痛や全身倦怠感などがある。
(3)所見
大腸に沿って圧痛(殊に左下腹部)。または腹部や背部に筋緊張・圧痛・硬結をみる。
(4)治療方針
大腸の機能調整
(5)治療法
①マッサージ
・ 軽擦法を主とした腹部施術を軽く行う。
・腹部(天枢・腹結・大巨など)、背部(肝兪・脾兪・胃兪等)、腰仙部(腎兪・三焦兪・次?など)の脊柱両側に現れる反応点に対して弱刺激で緩解する。
・下腿部の胃経(足三里・上巨虚・下巨虚など)や脾経(陰陵泉・三陰交・公孫など)に沿って揉捏・圧迫法を行う。精神的安静療法が必要である。
・併用療法として、水治療法・温泉療法を試みる。

②鍼灸
三焦兪、大腸兪、次?、天枢、大巨、腹結、上巨虚、下巨虚
そのほか臍の塩灸などがよく用いられる。

2.東洋医学的な考え方
東洋医学では便秘のことを「秘結」、下痢のことを「泄瀉」と称している。
■1)便秘(秘結)
1)分類
① 胃腸の熱による便秘(熱秘)
 辛い物の偏食、もともと陽性体質、熱病での津液損傷などで、胃腸に熱が貯まり乾燥して便秘となる。
② 肝鬱による便秘(気秘)
 情志の失調、長時間の坐位などのために気機の運行が悪くなり腸の伝導機能が悪くなるとこのタイプの便秘が起こる。
③ 気虚、血虚による便秘(虚秘)
病後または産後で気血が回復しなかったり、老化により気血が不足してくると、気虚のために伝導無力となり、また血 虚のために腸が潤いを失い、このタイプの便秘が起こる。
④ 腎陽虚による便秘(冷秘)
 虚弱者や老人で下焦の陽気が虚すと温煦機能が低下し、陰寒が凝結すると排便困難となる。

2)鑑別
(1)虚実の鑑別:①②は実証、③④は虚証。随伴症状や舌脈所見で鑑別。
・実証のものは経過が短い。
・虚証のものは経過が長く反復しやすい。
(2)寒熱の鑑別
・熱秘は煩熱、口渇、顔面紅潮、口臭、小便黄などの熱象を伴う。
・冷秘は寒がり、四肢の冷え、顔色蒼白、小便清などの寒象を伴う。
・①と③は教科書に参考症例があります。

3)参考症例:肝鬱による便秘(気秘)
(1)病態
情志の失調→肝鬱→腸の伝導機能に損傷。また、長 期に渡る坐業なども気の鬱滞を招き、この原因となる。
(2)主要症状
大便秘結、便意はあるが、排便できない。
(3)随伴症状
腹部・両脇部膨満、頻繁な?気、口苦
(4)舌脈所見
舌質紅、舌苔薄、弦脈
(5)治療方針
肝鬱を改善し、気の巡りをよくする。
(6)治療法
天枢、上巨虚、足三里、行間、陽陵泉、気海
(7)取穴理由
天枢は大腸の気の巡りを円滑にし、便通を改善させる。上巨虚(大腸の下合穴)は気の巡りを良くし、腸 管内容物の停滞を除く。足三里は胃疾患の常用穴である。
 行間・陽陵泉の配穴は、肝の疏泄機能を改善させ、肝胆の機能を調整する。更に、気海を加えると、気の巡りを円滑にさせて腸管内容物の停滞を除く。

■2)下痢(泄瀉)
1)分類 
①外邪による下痢
 下痢を起こす外邪としては寒、湿、暑、熱があるが、湿邪によるものが多い。湿邪が影響すると脾に最も影響が及びや すく、脾気が抑止されて運化機能が失調すると下痢が起こる。湿に寒がからむと寒湿による下痢となり、湿に、熱がからむと湿熱による下痢となる。
②傷食による下痢
 暴飲暴食や油っこいもの、生もの、冷たいものを食べすぎたり、不衛生なものを食べると脾胃を損傷し、腸の伝導機能 や脾胃の昇降機能が失調して下痢が起こる。
③肝鬱による下痢
 平素から脾胃の虚している者が、精神的緊張や情緒の変化により肝鬱となりそれが脾に影響すると、運化機能が失調して下痢が起こる。
④脾胃虚弱による下痢
 傷食、労倦または久病により脾胃の機能が衰えると、水穀の受納と精微の運化が悪くなり、清濁の分別がうまくいか なくなり下痢が起こる。
☆傷食:腐ったものを食べるなど
⑤腎陽虚による下痢
 久病または老化により腎気、腎陽が虚し、脾陽をうまく温煦できなくなると、運化機能が低下して下痢が起こる。夜 明け前に下痢をするものを五更泄瀉(鶏鳴下痢・腎泄)といい、腎虚、腎陽虚、脾腎陽虚により起こる。
(注)五更:夜を初更、一更、二更、三更、四更、五更と分けたときの明け方の3時から5時を指す。最も陰気が盛んで陽気が衰えている頃とされる。

2)鑑別
(1) 虚実の鑑別 … ①②③は実証である。
・実証のものは急に発病し、経過が短い。また下痢の前に腹痛を伴いやすく、下痢すると腹痛は軽減するという特徴がある。
・虚証のものは、経過が長く、発病は緩慢であり、それぞれ関連する臓腑の随伴症状を伴う。
(2) 寒熱の鑑別
・大便が水様のものは寒証である。また、臭いも少ない。
・また便が黄色くて臭いが強く、便意が急迫し肛門に熱感があるものは熱証。食滞によるものは、腐臭を伴う.
・①と⑤は教科書に参考症例があります。

◎第16節 月経異常
1.現代医学的な考え方
1)参考:月経異常の分類
① 無月経
② 月経周期の異常 … 頻発月経(25日以内)、稀発月経(38日以上)
③ 月経の持続日数の異常 … 過長月経(8日以上)、過短月経(2日以内)
④ 量の異常 … 過多月経、過少月経
⑤ 初経に関する異常 … 早発月経(9歳未満)、遅発月経(16歳以降)
⑥ 閉経に関する異常 … 早発閉経(39歳以前)、晩発閉経(56歳以後)
⑦ 月経随伴症状の異常
・月経前症状
月経前緊張症(月経前症候群)
・月経時症状
月経困難症
それぞれ器質性と機能性とに分けられる。

■1)注意を要するもの
・不正性器出血・過多月経・過長月経を伴う場合
子宮の腫瘍など
・帯下を伴う場合
感染症など
・月経痛が漸次増強する場合
子宮内膜症など

■2)適応となるもの
・機能性の月経前緊張症および月経困難症
・ 稀発月経、続発性無月経が適応となることもある。
1) 機能性の月経前緊張症および月経困難症
(1)病態・症状
①機能性月経前緊張症
・月経開始の数日前から始まる精神的、身体的症状で
月経開始とともに減退、消失するもののうち、器質的疾患を認めないもの。
・神経症的性格、内分泌系機能の異常
・乳房緊満、悪心、嘔吐、下腹部膨満、頭痛、めまい、耳鳴、全身倦怠(睡魔)、不安、いらいらなど
②機能性月経困難症 
・月経に伴う下腹部不快感、下腹部痛、腰痛が治療を要するほど強いもののうち
器質的疾患を認めないもの。
・疼痛は子宮の収縮に起因する。
・痙攣性の下腹部痛が背部・大腿部に放散し、消化器症状・精神神経症状を伴う。
(3)治療方針
自律神経機能・内分泌機能を調節し、諸症状を改善・予防する。
(4)治療法
①マッサージ 
・下腹部(大巨・中極・大嚇など)
腰仙部(腎兪・小腸兪・次など)の圧痛・硬結などを中心に
軽擦・揉捏・持続的圧迫法を施す。
・更に、反射・誘導の目的で、下肢部(血海・三陰交・梁丘など)に施術する。
・情緒不安や抑鬱などの精神症状がみられる場合
後頸部から肩甲間部にかけて緊張を除く
・一般的強壮法として全身施術をする。
・併用療法として、坐浴も効果的である。
②鍼灸
・下腹部、腰仙部で圧痛・硬結などのある経穴や反応点に施術。
・関元、腎兪、次、三陰交など。

2.東洋医学的な考え方
・女子胞は腎精の影響を受けて機能し、妊娠と月経を主る。
・女子胞からは任脈と衝脈が起こる。他に、肝・脾も女子胞に影響を与える。
1)参考:月経周期の異常
・経早(月経先期)
月経の周期が7日以上早まる。
・経遅(月経後期)
月経の周期が7日以上遅れる。
・経乱
月経周期が不定期なもの

■1)経早
1)分類
①実熱によるもの
平素から陽盛体質の人は、体内に熱が生じやすい
また辛いものなどの偏食により内熱が生じ、この熱が血分に影響すると経早が起こる。
②鬱熱によるもの
情志の抑鬱により肝鬱となり、
それが改善されないと熱化または火化する。この火熱が血分に影響すると経早が起こる
③虚熱によるもの
慢性疾患などにより陰虚となり、そのために虚熱が生じ血分に影響すると経早が起こる。
④気虚によるもの
飲食不節や労倦などにより脾を損傷し、脾の統血機能が低下すると経早が起こる。

★用語解説
・血分
衛気営血弁証に用いられる言葉で、熱邪の伝播を段階的に衛分→気分→営分→血分としている。熱が血分まで到達すると出血傾向となる。八綱弁証では衛分は表熱実証、その他は裏熱実証に分類される。

2)鑑別
(1)虚実
①②は実証、③④は虚証。
(2)熱
①②③は熱証(ただし③は虚熱による)。④には熱による所見は現れない。
(3) 随伴症状
①実熱によるもの
心煩、口乾、便秘などを伴いやすい。
②鬱熱によるもの
乳房・胸脇部・小腹部の脹痛、眼症状、いらいらする、怒りっぽいなどを伴いやすい。
③虚熱によるもの
陰虚内熱による五心煩熱、盜汗などを伴いやすい。
④気虚によるもの
倦怠感、息切れ、心悸、腹部の下垂感などを伴いやすい。
(4)経早における経量の比較
①実熱によるもの
多い。
②鬱熱によるもの
多かったり少なかったり(気機が不安定なため)
④虚熱によるもの
少ない(陰血不足による)
⑤気虚によるもの
多い(統血機能の失調による)
(5)経早における経色と経質の比較
①実熱によるもの
鮮紅もしくは紫紅、粘稠
②鬱熱によるもの
紅あるいは紫、粘っこく血塊が混入することもある
③虚熱によるもの
紅、粘稠
④気虚によるもの
淡、稀薄

3)参考症例 鬱熱(肝鬱化熱)による経早
(気虚によるものは教科書参照)
(1)病態
情志の抑鬱→肝鬱→ 熱火・火生→ 血分に影響(気滞血)
(2)主要症状
経早、経血量は多かったり少なかったり
経色は紫紅、経質は粘く血塊あり気機が不安定になるので量も不安定となる。
(3)随伴症状
乳房・胸脇部・小腹部の脹痛、心煩、怒りっぽい
(4)舌脈所見
舌質紅、舌苔薄黄、弦・数脈
(5)治療方針
肝の疏泄機能を改善し、肝熱の清熱を図る。
(6)治療法
関元、血海、行間、地機
(7)取穴理由
関元は足の三陰経の交会穴であり、衝・任脈を調整する要穴。
これに血海を加え血を調整する結果、
衝・任脈を調整して月経周期を改善する。
行間・地機の配穴で肝の疏泄機能を改善して肝気の鬱滞を除く結果血熱が除去される
地機は血病に膈兪とともに・会配穴として用いられる。
つまり、血に関与する経穴。また、肝経と脾経が交わる経穴でもある。

■2)経遅
1)分類
①寒邪によるもの
月経期や産後で胞宮の固摂がしっかりしていない時に
風寒の外邪を受けたり、あるいは生ものや冷たいものを好んで飲食すると、
寒邪が衝任脈を犯すことがある。
これにより衝任脈の血が凝滞し、経行が阻止されると経遅が起こる。
②肝鬱によるもの
情志の抑鬱により肝気の疏泄が悪くなり
それが長期にわたって改善しないと気滞ケツオを形成する
これにより胞宮や衝任脈の血行が悪くなると経遅が起こる。
③虚寒によるもの
平素から陽虚体質の人
または久病や房事過多により腎陽を損傷し、陽虚のために気血の生成が不足すると、
衝任脈が血で充足せず血行も弱くなり経遅が起こる
また陽虚により胞宮を温煦できないために起こるものもある。
④血虚によるもの
病後、慢性出血、または脾胃虚弱のために
血の生成が不足すると、衝任脈が血で充足せず経遅が起こる。

2)鑑別
(1) 虚実:①②は実証
③④は虚証。
(2)随伴症状
①寒邪によるもの
実寒による小腹部の絞痛(拒按喜温)、四肢の冷えなどを伴いやすい。
②肝鬱によるもの
精神抑鬱、小腹部の脹痛、胸脇痛などを伴いやすい。なお、疼痛は拒按を呈する。
③虚寒によるもの
腎陽虚による小腹部や腰部の隠痛(喜按喜温)、
四肢の冷え、寒がりなどの症状を伴いやすい。
④血虚によるもの
小腹部の隠痛(空虚感を伴う)、めまい、不眠、心悸、顔色が悪い、皮膚は乾燥、目がかすむ
などの栄血が頭顔面部や心を養うことが出来なくなり生ずる症状を伴う。
(2)経遅における経量の比較
①寒邪によるもの
少ない(寒邪が流れを凝滞させる)
②肝鬱によるもの
少ない
③虚寒によるもの
少ない
④血虚によるもの
少ない
(4)経遅における経色と経質の比較
①寒邪によるもの
暗紅、正常あるいは血塊が混入することがある。
②肝鬱によるもの
正常。但し肝鬱化火となっていれば経色は紅となり、経質は粘稠となる。
③虚寒によるもの
淡、稀薄
④血虚によるもの
淡、稀薄

3)参考症例 虚寒(陽虚)による経遅
(血虚、寒邪によるものは教科書参照)
(1)病態
陽虚体質、久病、房事過多 → 腎陽損傷 → 気血生成不足
(2)主要症状
経遅、経血量は少ない、経色は淡、経質は稀薄
(3)随伴症状
小腹部痛、温めたり押すと気持ちがよい(喜温・喜按)、
めまい、息切れ、腰がだるい、顔面蒼白、身体・手足の冷え、小便は透明で長い、下痢
(4)舌脈所見
舌質淡、舌苔薄白、遅脈にして無力
(5)治療方針
腎陽を温め強壮を図る。
(6)治療法
気海、関元、気穴、三陰交、命門、太谿
(7)取穴理由
腎経と衝脈の交会穴である気穴を配穴して衝任脈の調和を図り、
三陰交で腎を補い血を調整し、衝任脈の補養を図る
命門・太谿の配穴で腎陽を補って、温煦機能を活性化させる。

■3)経乱
1)分類
①肝鬱によるもの
肝はその蔵血、疏泄機能により血の輸送量や連行を調節している。
抑鬱や激怒することにより肝のこれらの機能が失調すると経乱が起こる。
一般的には肝気の疏泄が過度になると経早となり、疏泄が弱くなると経遅となる。
②腎虚による経乱
先天的な腎気不足、または房事や出産過多などにより腎虚になると、
封蔵機能が低下して衝任脈が空虚となる。
このため陰血に対する調節機能が失調すると経乱が起こる。

2)鑑別
(1)虚実:
は実証、②は虚証。
(2)随伴症状
①肝鬱によるもの
乳房や小腹部の脹痛、ため息などを伴い、月経が来潮すれば痛みは軽減するという特徴がある
気機の運行が乱れるので経乱とともに量も一定しない。
②腎虚によるもの
耳鳴り、めまい、腰のだるさなどを伴う。
(3) 経乱における経量の比較
①肝鬱によるもの
多かったり少なかったり
②腎虚によるもの
少ない(精血不足だから)
(4)経乱における経色と経質の比較
①肝鬱によるもの
紫紅、粘稠
②腎虚によるもの
淡、稀薄

3)参考症例 腎虚による経乱
(肝鬱によるものは教科書を参照)
(1)病態
先天的な腎気不足、房事・出産過多
→腎虚→衝脈・任脈の空虚(血が充実しない)
→陰血に対する調節機能失調
(2)主要症状
経乱、経血量は少なく、経色は淡、経質は稀薄
(3)随伴症状
耳鳴、めまい、腰のだるさ、夜間多尿、下痢
(3)舌脈所見
舌質淡、舌苔薄、沈脈
(4)治療方針
腎を補い、精血の回復を図る。
(5)治療法
関元、三陰交、腎兪、太谿、水泉
(6)取穴理由
関元・三陰交で肝を整え腎を補い、腎兪・太谿・水泉で腎気を補い、衝任脈を充実させる。

第14節 悪心と嘔吐

【1】現代医学的な考え方
A.注意を要するもの
① 意識障害、頭痛、眼痛、めまい、胸痛、発熱などの随伴症状がみられる場合 … 脳、眼、内耳、心臓などの障害
② 女性の嘔吐で原因不明の場合 … 妊娠(つわり)、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)
③ 注意を要する腹痛の症状を伴う場合

B.適応となるもの
① 過飲・過食による急性・慢性胃炎、胃神経症などに随伴するもの
② 精神的ストレスによって生ずるもの

A) 急性・慢性胃炎
[症状〕悪心、嘔吐、胃部膨満感、食欲不振、上腹部痛など。
〔治療方針〕
① 一般的には安静と食事療法による体力回復を図る。
《備考》食事療法の主眼は、炎症に陥った胃粘膜を庇護することにある。多くは胃酸減少症があるため蛋白質の消化が悪くなるので、炭水化物を多く摂り、過熱・過冷の飲食物、刺激性食品、飲酒、喫煙を禁ずる。症状が良くなれば蛋白質を徐々に増やす。
② 理療施術では消化器系の機能回復を図る。

糖質コルチコイドは胃酸を分泌させ、胃粘液を抑制する

〔治療法〕
ア.マッサージ
① 肩背腰部、特に脊柱両側筋群(膈兪、肝兪、脾兪、胃兪、三焦兪、腎兪など)へ揉捏すると共に、第7~11胸椎両側に持続的圧迫法を施す。これによって、内臓体性反射として現れる肩こりをはじめ、背腰部諸筋の緊張の緩解を図り、胃の消化力、吸収力を高める。
② 腹直筋(中、巨闕、梁門など)に揉捏、圧迫法を施して緊張過度を除く。これにより、胃の内容物を腸に送り込む。
③ 便秘のある場合、腸への施術を行う。
④ 必要に応じて、全身状態の改善を図るために全身施術をする。特に、効果的なのは内関、梁丘への持続的圧迫法である。
⑤ 併用療法として胃部への温熱療法、坐浴、全身浴も効果的である。

イ.鍼灸
① 上腹部、背部の反応点や筋緊張部に施術。
② 巨闕、中、膈兪、肝兪、脾兪などに軽刺激。

【2】東洋医学的な考え方
胃の和降作用が失調すると胃気が上逆し悪心嘔吐がおこる。
A.分類
① 外邪による悪心嘔吐
 手太陰肺経は中焦より起こり、大腸に絡し、さらに胃口に循行している。また肺は表を主っている。外邪を受け、それが表から直接胃を犯し、胃気の「降」が悪くなり上逆すると悪心、嘔吐が起こる。
② 食滞による悪心嘔吐
 飲食過多や生もの、冷たいもの、油っこいものを食べ、それが胃に停滞し、胃気の「降」が悪くなって上逆して起こる。
③ 肝鬱による悪心嘔吐
 情志失調により肝鬱となり木克土となって胃を犯し、そのために胃気の「降」が悪くなって上逆しておこる。肝気犯胃
④ 痰飲による悪心嘔吐
 飲食不節などにより脾胃を損傷し痰飲を形成し、それが中焦に停滞して痰飲が上逆して起こる。
⑤ 脾胃虚弱による悪心、嘔吐
 平素からの脾胃虚弱や、労倦などで脾を損傷すると運化機能が低下し、水穀が中焦に停滞し上逆して起こる。
⑥ 胃陰虚による悪心、嘔吐
 熱病による胃陰の損傷、心や肝の火旺による胃陰の損傷で、胃の潤いや栄養が悪くなり、胃気の「降」が悪くなり上逆すると起こる。

B.鑑別
(1) 虚実の鑑別
a.実証の悪心、嘔吐は急に発病し、経過が短い。
b.虚証の悪心、嘔吐はたびたび起こり、経過が長い。
(2) 原因による特徴
① 外邪によるものは、表証を伴う。
② 食滞によるものは、食物の臭いを嗅いだだけで悪心したり酸腐臭物を嘔吐する。
③ 肝鬱によるものは、精神緊張や情緒の変化により誘発しやすい。
④ 痰飲によるものは、水様の痰涎(よだれ)を嘔吐する。
⑤ 脾胃虚弱によるものは、四肢倦怠、食欲不振、軟便などの脾気虚の症状を伴う。
⑥ 胃陰虚によるものは、虚熱による舌脈所見、空えづき、空腹感はあるが食べたくない、便の乾燥などを伴う。

C.参考症例 肝鬱による悪心嘔吐(実証)
〔病態〕情志の失調→肝鬱→木克土→胃気の通降作用に障害→胃気の上逆
〔主要症状〕悪心、嘔吐、呑酸、頻繁な気
〔随伴症状〕胸脇脹痛、煩悶、情緒変動により悪心、嘔吐の発作または増強
〔舌脈所見〕舌苔薄、弦脈
〔治療方針〕肝鬱を改善、胃の気の通降作用を回復する。
〔治療法〕中、足三里、内関、公孫、太衝
〔取穴理由〕太衝で肝の疏泄機能を調整し、間接的に胃気の通降作用の改善を図る。中、足三里の募合配穴によって胃を調整し、嘔吐を抑制する。内関、公孫は八総穴で、同じく胃を調整し、胸部の違和感を除く。

○今回は「病態把握トレーニング」はお休みです。次をお楽しみに。

第15節 便秘と下痢

【1】現代医学的な考え方
A.注意を要するもの(器質的なもの)
① 頑固な腹痛・便秘、腹鳴、グル音の増強、蠕動不安、腹部膨満を伴うもの … イレウス
② 血便、体重減少、全身倦怠を伴うもの … 腫瘍など
③ 急性の下痢に発熱、嘔吐、心窩部痛、脱水・ショック症状を呈するもの … 細菌性下痢、中毒
④ 血性下痢、発熱、体重減少、粘液便を伴うもの … 潰瘍性大腸炎、クローン病

【参考】便秘の分類
1)機能的な便秘
 これが便秘の原因で最も多く、次のようなものがある。
① 弛緩性便秘:大腸の運動低下や緊張低下によるもの。
② 痙攣性便秘:過敏性大腸症候群の症状としてみられる。
  腸管の副交感神経の緊張状態が原因である。
③ 習慣性便秘(常習性便秘・直腸性便秘)
2)食事性便秘
 食物摂取量の不足、糖質や繊維性食品の摂取不足によって起こる。
3)器質的疾患による便秘
 腸管の機械的通過障害による便秘(腹腔内腫瘤や、炎症性変化によるもの、大腸癌やイレウス)である。
4)消化管の麻痺や攣縮
 脳性麻痺、ダウン症候群、クレチン病、低カリウム血症な
どでみられる。

B.適応となるもの(機能的なもの)
① 神経性腸疾患や内臓弛緩下垂症による便秘
② 習慣性(常習性・直腸性)便秘
③ 単純性下痢
④ 心因性下痢
⑤ 過敏性腸症候群の便秘・下痢

A) 習慣性便秘
〔病態〕大腸の運動機能の低下や排便反射の低下
〔症状〕腹痛はないか、または軽症で、便意が起こりにくい。便は太く持続性である。下痢を伴わず、ストレスとの関連は少ない。
〔所見〕腹壁の緊張低下
〔治療方針〕腸の機能の調整
〔治療法〕
ア.マッサージ
① 大腸の経路に沿って軽擦・揉捏法を施す。その際、糞塊を徐々に挫砕し直腸に移送する。手技は柔軟にかつ丁寧に施す。
② 肩背部、腰部、殿部(三焦兪・腎兪・志室・大腸兪・小腸兪など)、下肢(足三里・上巨虚・三陰交など)に誘導施術を行う。
③ 併用療法として、冷水摩擦、腹部の冷水圧注や冷温交替圧注などを試みる。

イ.鍼灸
  天枢、大横、腹結、三焦兪、大腸兪

《備考》患者への指導として、次のような点に注意してもらえれば効果的である。
① 毎朝、一回は必ず排便の習慣をつける。
② 便意を催せば、直ちに排便する。我慢の習慣がつくと直腸性便秘の原因となる。
③ 腹筋の強化運動をする。例えば、仰臥位で伸展した下肢の上下運動、膝を腹部に接近させる運動などの自動他動運動法を行う。
④ 腸の蠕動運動を盛んにするために、あまり消化の良い食物は避けて、線維に富む植物性食品(こんにゃく・おから・さつま芋など)や果実などを摂取させ便通を付けるようにする。
⑤ 早朝の空腹時に、一杯の冷水または炭酸水を飲ませる。その寒冷刺激が催下作用となる。
⑥ 緩下剤を濫用しない。これが直腸性便秘を招く。
⑦ タンニンには止瀉作用がある。紅茶やお茶は便秘になりやすい。

B)過敏性腸症候群の便秘・下痢
〔病態〕腸管の運動機能の亢進
〔症状〕便秘(兎糞状)、下痢、便秘下痢交替が持続する。腹痛や腹部膨満感などを伴う。精神的ストレスと関連して起こりやすい。随伴症状として頭痛や全身倦怠感などがある。
〔所見〕大腸に沿って圧痛(殊に左下腹部)。または腹部や背部に筋緊張・圧痛・硬結をみる。
〔治療方針〕大腸の機能調整
〔治療法〕
ア.マッサージ
① 軽擦法を主とした腹部施術を軽く行う。
② 腹部(天枢・腹結・大巨など)、背部(肝兪・脾兪・胃兪等)、腰仙部(腎兪・三焦兪・次?など)の脊柱両側に現れる反応点に対して弱刺激で緩解する。
③ 下腿部の胃経(足三里・上巨虚・下巨虚など)や脾経(陰陵泉・三陰交・公孫など)に沿って揉捏・圧迫法を行う。精神的安静療法が必要である。
④ 併用療法として、水治療法・温泉療法を試みる。

イ.鍼灸
三焦兪、大腸兪、次、天枢、大巨、腹結、上巨虚、下巨虚
そのほか臍の塩灸などがよく用いられる。

【2】東洋医学的な考え方
東洋医学では便秘のことを「秘結」、下痢のことを「泄瀉」と称している。

1.便秘(秘結)
A.分類
① 胃腸の熱による便秘(熱秘)
 辛い物の偏食、もともと陽性体質、熱病での津液損傷などで、胃腸に熱が貯まり乾燥して便秘となる。
② 肝鬱による便秘(気秘)
 情志の失調、長時間の坐位などのために気機の運行が悪くなり腸の伝導機能が悪くなるとこのタイプの便秘が起こる。
③ 気虚、血虚による便秘(虚秘)
病後または産後で気血が回復しなかったり、老化により気血が不足してくると、気虚のために伝導無力となり、また血 虚のために腸が潤いを失い、このタイプの便秘が起こる。
④ 腎陽虚による便秘(冷秘)
 虚弱者や老人で下焦の陽気が虚すと温煦機能が低下し、陰寒が凝結すると排便困難となる。

B.鑑別
(1)虚実の鑑別:①②は実証、③④は虚証。随伴症状や舌脈所見で鑑別。
a.実証のものは経過が短い。
b.虚証のものは経過が長く反復しやすい。
(2)寒熱の鑑別
a.熱秘は煩熱、口渇、顔面紅潮、口臭、小便黄などの熱象を伴う。
b.冷秘は寒がり、四肢の冷え、顔色蒼白、小便清などの寒象を伴う。
c.①と③は教科書に参考症例があります。

C.参考症例:肝鬱による便秘(気秘)
〔病態〕情志の失調→肝鬱→腸の伝導機能に損傷。また、長 期に渡る坐業なども気の鬱滞を招き、この原因となる。
〔主要症状〕大便秘結、便意はあるが、排便できない。
〔随伴症状〕腹部・両脇部膨満、頻繁な気、口苦
〔舌脈所見〕舌質紅、舌苔薄、弦脈
〔治療方針〕肝鬱を改善し、気の巡りをよくする。
〔治療法〕 天枢、上巨虚、足三里、行間、陽陵泉、気海
〔取穴理由〕 天枢は大腸の気の巡りを円滑にし、便通を改善させる。上巨虚(大腸の下合穴)は気の巡りを良くし、腸 管内容物の停滞を除く。足三里は胃疾患の常用穴である。
 行間・陽陵泉の配穴は、肝の疏泄機能を改善させ、肝胆の機能を調整する。更に、気海を加えると、気の巡りを円滑にさせて腸管内容物の停滞を除く。

2.下痢(泄瀉)
A.分類 
① 外邪による下痢
 下痢を起こす外邪としては寒、湿、暑、熱があるが、湿邪によるものが多い。湿邪が影響すると脾に最も影響が及びや すく、脾気が抑止されて運化機能が失調すると下痢が起こる。湿に寒がからむと寒湿による下痢となり、湿に、熱がからむと湿熱による下痢となる。
② 傷食による下痢
 暴飲暴食や油っこいもの、生もの、冷たいものを食べすぎたり、不衛生なものを食べると脾胃を損傷し、腸の伝導機能 や脾胃の昇降機能が失調して下痢が起こる。
③ 肝鬱による下痢
 平素から脾胃の虚している者が、精神的緊張や情緒の変化により肝鬱となりそれが脾に影響すると、運化機能が失調して下痢が起こる。
④ 脾胃虚弱による下痢
 傷食、労倦または久病により脾胃の機能が衰えると、水穀の受納と精微の運化が悪くなり、清濁の分別がうまくいか なくなり下痢が起こる。

⑤ 腎陽虚による下痢
 久病または老化により腎気、腎陽が虚し、脾陽をうまく温煦できなくなると、運化機能が低下して下痢が起こる。夜 明け前に下痢をするものを五更泄瀉(鶏鳴下痢・腎泄)といい、腎虚、腎陽虚、脾腎陽虚により起こる。
(注)五更:夜を初更、一更、二更、三更、四更、五更と分けたときの明け方の3時から5時を指す。最も陰気が盛んで陽気が衰えている頃とされる。

B.鑑別
(1) 虚実の鑑別 … ①②③は実証である。
a.実証のものは急に発病し、経過が短い。また下痢の前に腹痛を伴いやすく、下痢すると腹痛は軽減するという特徴がある。
b.虚証のものは、経過が長く、発病は緩慢であり、それぞれ関連する臓腑の随伴症状を伴う。

(2) 寒熱の鑑別
a.大便が水様のものは寒証である。また、臭いも少ない。
b.また便が黄色くて臭いが強く、便意が急迫し肛門に熱感があるものは熱証。食滞によるものは、腐臭を伴う.
c.①と⑤は教科書に参考症例があります。

第16節 月経異常
1.現代医学的な考え方
1)参考:月経異常の分類
①無月経
②月経周期の異常
・頻発月経(25日以内)、稀発月経(38日以上)
③月経の持続日数の異常
・過長月経(8日以上)、過短月経(2日以内)
④量の異常
・過多月経、過少月経
⑤初経に関する異常
・早発月経(9歳未満)、遅発月経(16歳以降)
⑥閉経に関する異常
・早発閉経(39歳以前)、晩発閉経(56歳以後)
⑦月経随伴症状の異常
・月経前症状は月経前緊張症(月経前症候群)など。
・月経時症状は月経困難症など。
・それぞれ器質性と機能性とに分けられる。

1)注意を要するもの
①子宮の腫瘍
・不正性器出血・過多月経・過長月経を伴う場合
②感染症
・帯下を伴う場合
③子宮内膜症
・月経痛が漸次増強する場合
2)適応となるもの
・機能性の月経前緊張症および月経困難症
・稀発月経、続発性無月経が適応となることもある。

1) 機能性の月経前緊張症および月経困難症
病態と症状
①機能性月経前緊張症
・月経開始の数日前から始まる精神的、身体的症状で
 月経開始とともに減退、消失するもののうち、
 器質的疾患を認めないもの。
・神経症的性格、内分泌系機能の異常、乳房緊満、悪心、嘔吐、
 下腹部膨満、頭痛、めまい、耳鳴、全身倦怠(睡魔)、不安、
 いらいらなど
②機能性月経困難症 
・月経に伴う下腹部不快感、下腹部痛、腰痛が治療を要するほど
 強いもののうち器質的疾患を認めないもの。
・疼痛は子宮の収縮に起因する。
・痙攣性の下腹部痛が背部や大腿部に放散し、
 消化器症状・精神神経症状を伴う。
治療方針
・自律神経機能・内分泌機能を調節し、諸症状を改善・予防する。
治療法
①マッサージ 
・下腹部(大巨・中極・大嚇)、腰仙部(腎兪・小腸兪・次)の
 圧痛や硬結などを中心に軽擦・揉捏・持続的圧迫法を施す。
・更に、反射・誘導の目的で、下肢部(血海・三陰交・梁丘)に
 施術する。
・情緒不安や抑鬱などの精神症状がみられる場合は、
 後頸部から肩甲間部にかけて緊張を除く。
・一般的強壮法として全身施術をする。
・併用療法として、坐浴も効果的である。
②鍼灸
・下腹部、腰仙部で圧痛や硬結などのある経穴や反応点に施術する。
・関元、腎兪、次、三陰交など。

2.東洋医学的な考え方
・女子胞は腎精の影響を受けて機能し、妊娠と月経を主る。
・女子胞からは任脈と衝脈が起こり、他に、肝・脾も
 女子胞に影響を与える。
※月経周期の異常
①経早(月経先期)は、月経の周期が7日以上早まるもの。
②経遅(月経後期)は、月経の周期が7日以上遅れるもの。
③経乱は、月経周期が不定期なもの。

1.経早
1)分類
①実熱によるもの
・平素から陽盛体質の人は、体内に熱が生じやすい。また
 辛いものなどの偏食により内熱が生じ、この熱が
 血分に影響すると経早が起こる。
②鬱熱によるもの
・情志の抑鬱により肝鬱となり、それが改善されないと熱化または
 火化する。この火熱が血分に影響すると経早が起こる
③虚熱によるもの
・慢性疾患などにより陰虚となり、そのために虚熱が生じ
 血分に影響すると経早が起こる。
④気虚によるもの
・飲食不節や労倦などにより脾を損傷し、脾の統血機能が
 低下すると経早が起こる。
※血分とは
・衛気営血弁証に用いられる言葉で、熱邪の伝播を段階的に
 衛分→気分→営分→血分としている。熱が血分まで到達すると
 出血傾向となる。八綱弁証では衛分は表熱実証、その他は
 裏熱実証に分類される。
2)鑑別
(1)虚実
・①②は実証、③④は虚証。
(2)熱
・①②③は熱証(③は虚熱)。④には熱による所見は現れない。
(3)随伴症状
①実熱によるもの
・心煩、口乾、便秘などを伴いやすい。
②鬱熱によるもの
・乳房・胸脇部・小腹部の脹痛、眼症状、いらいらする、
 怒りっぽいなどを伴いやすい。
③虚熱によるもの
・陰虚内熱による五心煩熱、盜汗などを伴いやすい。
④気虚によるもの
・倦怠感、息切れ、心悸、腹部の下垂感などを伴いやすい。
(4)経早における経量の比較
・実熱によるものは多い。
・鬱熱によるものは多かったり少なかったり(気機の不安定)。
・虚熱によるものは少ない(陰血不足による)。
・気虚によるものは多い(統血機能の失調)。
(5)経早における経色と経質の比較
①実熱によるもの
・鮮紅もしくは紫紅、粘稠。
②鬱熱によるもの
・紅あるいは紫、粘っこく血塊が混入することもある。
③虚熱によるもの
・紅、粘稠。
④気虚によるもの
・淡、稀薄

3)参考症例 鬱熱(肝鬱化熱)による経早
※気虚によるものは教科書参照
病態
・情志抑鬱により肝鬱となり熱火して血分に影響する(気滞血)。
主要症状
・経早、経血量は多かったり少なかったり
・経色は紫紅、経質は粘く血塊があり、気機が不安定になるので
 量も不安定となる。
随伴症状
・乳房・胸脇部・小腹部の脹痛、心煩、怒りっぽい
舌脈所見
・舌質紅、舌苔薄黄、弦数脈
治療方針
・肝の疏泄機能を改善し、肝熱の清熱を図る。
治療法
・関元、血海、行間、地機
取穴理由
・関元は足の三陰経の交会穴であり、衝・任脈を調整する要穴。
・これに血海を加えて血を調整する結果、衝任脈を調整して
 月経周期を改善する。
・行間、地機の配穴で肝の疏泄機能を改善して肝気の鬱滞を
 除く結果、血熱が除去される。
・地機は血病に膈兪とともに会配穴として用いられる。つまり、
 血に関与する経穴。また、肝経と脾経が交わる経穴でもある。

2)経遅
1)分類
①寒邪によるもの
・月経期や産後で胞宮の固摂がしっかりしていない時に風寒の外邪を
 受けたり、あるいは生ものや冷たいものを好んで飲食すると、
 寒邪が衝任脈を犯すことがある。
・衝任脈の血が凝滞し、経行が阻止されると経遅が起こる。
②肝鬱によるもの
・情志の抑鬱により肝気の疏泄が悪くなりそれが長期にわたって
 改善しないと気滞ケツオを形成する。
・これにより胞宮や衝任脈の血行が悪くなると経遅が起こる。
③虚寒によるもの
・平素から陽虚体質の人、または久病や房事過多により
 腎陽を損傷し、陽虚のために気血の生成が不足すると、
 衝任脈が血で充足せず血行も弱くなり経遅が起こる。
・また陽虚により胞宮を温煦できないために起こるものもある。
④血虚によるもの
・病後、慢性出血、または脾胃虚弱のために血の生成が不足すると、
 衝任脈が血で充足せず経遅が起こる。
2)鑑別
(1)虚実
・①②は実証、③④は虚証。
(2)随伴症状
①寒邪によるもの
・実寒による小腹部の絞痛(拒按喜温)、四肢の冷えなどを
 伴いやすい。
②肝鬱によるもの
・精神抑鬱、小腹部の脹痛、胸脇痛などを伴いやすい。
・なお、疼痛は拒按を呈する。
③虚寒によるもの
・腎陽虚による小腹部や腰部の隠痛(喜按喜温)、四肢の冷え、
 寒がりなどの症状を伴いやすい。
④血虚によるもの
・小腹部の隠痛(空虚感を伴う)、めまい、不眠、心悸、
 顔色が悪い、皮膚は乾燥、目がかすむなどの栄血が
 頭顔面部や心を養うことが出来なくなり生ずる症状を伴う。
(3)経遅における経量の比較
・寒邪によるものは少ない(寒邪が流れを凝滞させる)。
・肝鬱によるものは少ない。
・虚寒によるものは少ない。
・血虚によるものは少ない。
(4)経遅における経色と経質の比較
①寒邪によるもの
・暗紅、正常あるいは血塊が混入することがある。
②肝鬱によるもの
・正常。但し肝鬱化火となっていれば経色は紅となり、
 経質は粘稠となる。
③虚寒によるもの
・淡、稀薄
④血虚によるもの
・淡、稀薄

3)参考症例 虚寒(陽虚)による経遅
※血虚、寒邪によるものは教科書参照
病態
・陽虚体質、久病、房事過多 → 腎陽損傷 → 気血生成不足
主要症状
・経遅、経血量は少ない、経色は淡、経質は稀薄
随伴症状
・小腹部痛、喜温喜按、めまい、息切れ、腰がだるい、
 顔面蒼白、身体手足の冷え、小便は透明で長い、下痢
舌脈所見
・舌質淡、舌苔薄白、遅脈にして無力
治療方針
・腎陽を温め強壮を図る。
治療法
・気海、関元、気穴、三陰交、命門、太谿
取穴理由
・腎経と衝脈の交会穴である気穴を配穴して衝任脈の調和を図り、
 三陰交で腎を補い血を調整し、衝任脈の補養を図る。
・命門・太谿の配穴で腎陽を補って、温煦機能を活性化させる。

3)経乱
1)分類
①肝鬱によるもの
・肝はその蔵血、疏泄機能により血の輸送量や連行を調節している。
・抑鬱や激怒により肝のこれらの機能が失調すると経乱が起こる。
・一般的には肝気の疏泄が過度になると経早となり、
 疏泄が弱くなると経遅となる。
②腎虚による経乱
・先天的な腎気不足や房事、出産過多などにより腎虚になると、
 封蔵機能が低下して衝任脈が空虚となる。
・このため陰血に対する調節機能が失調すると経乱が起こる。
2)鑑別
(1)虚実
・①は実証、②は虚証。
(2)随伴症状
①肝鬱によるもの
・乳房や小腹部の脹痛、ため息などを伴い、月経が来潮すれば
 痛みは軽減するという特徴がある。
・気機の運行が乱れるので経乱とともに量も一定しない。
②腎虚によるもの
・耳鳴り、めまい、腰のだるさなどを伴う。
(3)経乱における経量の比較
・肝鬱によるものは多かったり少なかったり。
・腎虚によるものは少ない(精血不足だから)。
(4)経乱における経色と経質の比較
①肝鬱によるもの
・紫紅、粘稠
②腎虚によるもの
・淡、稀薄

3)参考症例 腎虚による経乱
※肝鬱によるものは教科書を参照
病態
・先天的な腎気不足、房事、出産過多により腎虚となり、
 衝任脈の空虚(血が充実しない)が起こり、
 陰血に対する調節機能が失調して起こる。
主要症状
・経乱、経血量は少なく、経色は淡、経質は稀薄
随伴症状
・耳鳴、めまい、腰のだるさ、夜間多尿、下痢
舌脈所見
・舌質淡、舌苔薄、沈脈
治療方針
・腎を補い、精血の回復を図る。
治療法
・関元、三陰交、腎兪、太谿、水泉
取穴理由
・関元、三陰交で肝を整えて腎を補い、腎兪、太谿、水泉で腎気を
 補い、衝任脈を充実させる。

第17節 排尿障害
【1】現代医学的な考え方
・排尿障害には回数の異常、排尿困難、尿失禁などがある。
①排尿困難
・下部尿路疾患で膀胱の収縮力低下や尿道の抵抗増加などにより
 起こる場合と神経因性膀胱が原因の場合がある。
②尿失禁
・膀胱内圧が尿道内圧を超えると生じる。

A.注意を要するもの
①前立腺肥大症、前立腺癌
・50才以上の男性で夜間頻尿と排尿障害がある。
②急性前立腺炎、尿道炎
・排尿痛、会陰部痛と共に発熱がある。
③腎盂腎炎
・頻尿、排尿痛、膿尿、血尿など膀胱炎の症状に発熱を伴う。
・膀胱炎だけでは顕著な発熱はみられない。

B.適応となるもの
1.慢性前立腺炎
・細菌性(大腸菌、淋菌、ブドウ球菌、連鎖球菌)、非細菌性が
 あり後者は難治性が多い。
・約半数に細菌が認められる。
・非細菌性のものにはクラミジアが関与している。
症状
・排尿困難、頻尿、排尿痛、排尿後不快感、会陰部痛、重圧感や、
 頭痛、倦怠感、神経症様症状を訴える。
・多くは始めから慢性の経過をとる。
2.神経因性膀胱
・排尿をつかさどる神経(骨盤神経、下腹神経、陰部神経)もしくは
 中枢(腰仙髄、大脳皮質)が障害され、膀胱の機能障害を
 生じた状態をいう。
症状
・脳血管障害では頻尿、夜間尿、尿失禁等がみられる。
・骨盤内手術後では排尿困難、尿意の欠如、残尿、尿閉等を生じる。
治療方針
・自律神経機能に影響を与え、排尿機能および全身の調整を図る。
治療法
①マッサージ
・全身調整を図るために腎経、膀胱経、脾経、小腸経を中心に
 全身施術する。
・腰仙部(三焦兪、腎兪、志室、次、膀胱兪など)や、
 下肢部(中封、太谿など)などの反応点に施術する。
・下半身を冷やさないように注意し、腰仙部のホットパックや
 足部に遠赤外線などの温熱療法を施す。
②鍼灸
・下腹部、腰仙部で反応がある経穴や反応点に施術する。
・中極、横骨、腎兪、志室、三焦兪、次、三陰交、中封、太谿等

【2】東洋医学的な考え方
・東洋医学では尿が出ないことをりゅう閉という。
・「りゅう閉の病位は膀胱にあり」とは膀胱の気化機能が悪くなり、
 そのために小便が通じなくなり起こる病である。
A.分類
・膀胱の気化に影響する原因に基づき次の様に分類される。
①肺熱によるもの
・肺は水の上源といわれる。
・肺で熱が盛んになり、そのために粛降機能が悪くなると水道が
 通調しなくなり、水湿が膀胱に下輸しなくなってりゅう閉が
 起こる。
②膀胱湿熱によるもの
・中焦の湿熱が膀胱に影響し、そのために膀胱の気化機能が
 悪くなるとりゅう閉が起こる。
③脾気虚によるもの
・脾虚のために昇降が失調し、そのために清気が昇らず濁気が
 降りなくなり、また膀胱の輸送力が低下するとりゅう閉が起こる。
④腎陽虚によるもの
・腎陽(命門の火)が虚して温煦作用が低下すると、
 膀胱の気化機能も低下し、りゅう閉が起こる。
B.鑑別
(1)実証(①②)
・ともに口の乾きが起こり、舌苔黄、脈数のような熱所見を伴う。
・膀胱湿熱によるものでは口渇はあるが飲みたがらないという
 特徴がある。
・肺熱によるものには咳嗽、呼吸促迫などの肺の症状を伴う。
(2)虚証(③④)
・舌質はともに淡で、脈は弱。
・脾気虚によるものでは下痢や疲れやすいといった
 脾虚、気虚による症状を伴う。
・腎陽虚によるものでは腰膝のだるさや足腰の冷えといった
 腎虚、陽虚の症状を伴う。

【参考症例】肺熱によるりゅう閉(排尿障害)
※②④は教科書に参考症例があります。
病態
・肺に熱邪が侵襲し、肺の粛降機能が低下して水道通調作用の
 阻害によって膀胱に下輸しなくなる。
主要症状
・尿量は少なく黄色、尿点滴、尿閉、尿道痛
随伴症状
・口渇、咳嗽、呼吸促迫
舌脈所見
・舌苔黄、数脈
治療方針
・清熱を図り、肺の水道通調機能を改善する。
治療法
・少商、太淵、合谷
取穴理由
・肺経の井穴である少商に刺絡を施して肺熱を除く。
・また、太淵で肺の宣散粛降作用を促進する。
・更に、肺経と表裏関係にある大腸経の合谷で熱を除去する。
・合谷は内庭とともに全身の熱に有効である。

第18節 インポテンツ
【1】現代医学的な考え方
A.注意を要するもの
①神経系の器質的変化によるインポテンツ
・脳卒中、脳・脊髄・会陰部などの外傷後、骨盤内臓器の
 手術後などに本症状を呈する場合
・口渇・多尿・体重減少などの糖尿病の症状を伴う場合
②内分泌性インポテンツ
・二次性徴(睾丸や陰茎の増大、陰毛や腋毛の発生、変声など)の
 発現のない場合
・性欲低下、体毛の減少などを伴う場合
③泌尿器科的疾患に伴うインポテンツ
・排尿に関する症状、陰茎・会陰部などの症状を伴う場合

B.適応となるもの
心因性インポテンツ
病態
・性機能に関する器質的病変がなく、精神病からのものを
 除外されるもので、内因として本人の性格・心理状態・体質・
 素質に精神的・肉体的な外因(疲労・ストレスなど)が作用して
 発症する。
症状
・マスターベーションや視聴覚性的刺激などにより、陰茎の増大、
 硬度の増加、夜間睡眠時(レム睡眠相)の勃起がある。
治療方針
・自律神経機能の調整をすると共に、精神・心理面での安定を図る。
治療法
①マッサージ
・腰・仙骨部(腎兪・次など)、下腹部(中極・関元など)を
 中心に施術する。
・併用療法として、温熱療法・電気療法・水治療法・運動療法を
 行えば効果的である。
②鍼灸
・仙骨部、腰部、下腹部などの反応点に施鍼・施灸する。
・次、中、腎兪、中極

【2】東洋医学的な考え方
・遺精、滑精、早泄を伴いやすい。
・肝、腎、陽明経との関連が深い。
・陰茎は宗筋の会、陽明は宗筋の長といわれる。
※宗筋とは
・三陰三陽の経筋の前陰部に集まるものをいう。
・宗筋にうまく気や血が巡らないと陽萎が起こることになる。

A.分類
①湿熱による陽萎
・油っこいものや甘いものを偏食したり、酒を常飲すると湿熱が生じ
 それが前陰に下注して宗筋が弛緩すると陽萎が起こる。
②七情内傷による陽萎
・七情の変動により気血が失調し、気血が前陰に充足しなくなると
 陽萎が起こる。
・虚証例では、恐怖などにより気血が失調し、脾腎陽虚となって
 前陰に気血の不足が起こる。
・実証例では、イライラ、悩み、怒り、憂鬱により肝鬱となり、
 疏泄機能が低下して気血が前陰に充足しなくなって起こる。
③命門火衰による陽萎
・房事過多や少年期の長期にわたる手淫により精気を損傷し、
 そのために命門火衰になると陽萎が起こる。
④心脾両虚による陽萎
・思慮過度、労倦、飲食不節などにより心脾を損傷すると、
 心の損傷により血が不足し、脾の損傷により気血の生成が
 悪くなると、気虚により宗筋無力となり、血虚により
 宗筋がうまく栄養されないと、宗筋は弛緩し陽萎が起こる。
※①②は熱または火による症状を伴う。
※①③は教科書に症例があるので参考にすること。

B.鑑別
①虚証
・房事過多、手淫、思慮過度、七情内傷などにより脾腎を
 損傷したり、命門火衰となり起こる陽萎は虚証である。
②実証
・悩みや不安による肝鬱、飲食不節による湿熱が原因で
 起こる陽萎は実証である。

(参考症例) 心脾両虚による陽萎
病態
・思慮過度、労倦、飲食不節により心脾両虚となって
 血の不足と気血の生成不足が起こり陽萎が起こる。
主要症状
・陽萎、疲労、倦怠感。
随伴症状
・顔色がさえない、不眠、心悸、食欲不振、四肢無力
舌脈所見
・舌質淡、舌苔白、沈細弱脈
治療方針
・心脾を補い、その機能を改善する。
治療法
・中極、命門、脾兪、足三里、神門、三陰交
取穴理由
・任脈と足三陰経の交会穴である中極と命門の配穴で元気を補強し、
 脾兪、足三里で脾胃の機能を調整して、後天の原気を補い、
 先天の精気を補強する。また、神門に三陰交を配穴して、
 心脾を調整し、気血を旺盛にする。

※ 今回は「病態把握トレーニング」はありません。

第19節 肩こり

【1】現代医学的な考え方

A.注意を要するもの
 緊急の処置を要する器質的疾患の存在が疑われるもの、例えば、胸痛と左上肢に放散痛がある場合 … 狭心症

B.適応となるもの
① 日常的な身体的・心理的疲労に起因する肩こり。
② 頸椎症、いわゆる不定愁訴に伴うもの
③ 内科疾患、耳鼻科・眼科・歯科疾患に伴うものでも、原因疾患が軽症のもの。

1 日常的な身体的、心理的疲労に起因する肩こり
[病態]過剰使用による筋疲労、精神的緊張、自律神経の影響など機序は複雑である。

[症状]頸肩部や肩甲間部に強ばった不快感を感じるものから、痛みにいたる症状を訴える。強くなると頭痛・顔面痛・上肢痛などを生じる。

[所見]愁訴部の圧痛や筋硬結以外に特徴的な所見はない。

[施術対象となる筋肉]僧帽筋、胸鎖乳突筋、菱形筋、肩甲挙筋、板状筋、棘上筋、棘下筋、斜角筋など

[治療方針]頸肩部、肩甲間部の圧痛・硬結を目標に施術すると共に、精神的安定や自律神経機能の調整を図る。

[治療法]
ア.マッサージ
① 頸肩部・肩甲部・肩甲間部の硬結・圧痛・筋緊張部位(天柱・風池・肩井・肩中兪・肩外兪・天宗)に対して軽擦・揉捏・圧迫法を施す。
② 上肢の筋疲労の回復と循環促進を図るため、上肢にも施術する。
③ 頸部へのストレッチもよい。
④ 併用療法として、施術前に頸肩背部に対して、温熱・水治・電気療法を加えると効果的である。
⑤ 施術後は運動療法として、肩部の上下運動、頸部の前屈・後屈・側屈・回旋運動、肩関節の自・他動運動を行う。

イ.鍼灸
① 頸肩部・肩甲間部の圧痛や硬結部。
② 天柱、風池、肩井、膏肓、身柱など

【2】東洋医学的な考え方
A.分類
① 風寒の邪による肩こり…風寒の邪が太陽、陽明経に侵襲し、そのために営衛の運行が悪くなり、頸肩部の経脈が拘急すると肩こりが起こる。

② 肝陽の亢進による肩こり…陰虚のために肝陽が亢進し、頭頸部に上衝すると肩こりが起こる。

③ 肝血の不足による肩こり…病後、産後により血虚となり、そのために頸肩部の経絡がうまく栄養されず、拘急すると肩こりが起こる。

④ 寒飲による肩こり…平素から胸膈部に寒飲が停滞していて、そのために胸部の陽気がうまく動かないと背部に重圧感や拘急が起こり、頸項部にも波及する。

⑤ 気滞血による肩こり…情志の失調などにより肝の疏泄 機能が悪くなり、そのために肩部の血行が悪くなると肩こりが起こる。また長時間の不良姿勢や外傷などにより肩 部局所に気滞血が生じて起こるものもある。

B.鑑別
① 風寒の邪によるもの…風寒の邪による悪寒などの表証を伴う。
② 肝陽の亢進によるもの…陰虚がベースとなるもので、肝陽の亢進による高血圧、めまい、口苦、目の充血、顔のほて りなどの症状を伴う。
③ 肝血虚によるもの…眼精疲労や目の乾き、めまい、心悸などの血虚による症状を伴う。
④ 寒飲によるもの…胸悶、喘息、めまい、軽度の浮腫などの症状を伴う。
⑤ 気滞血によるもの…気滞による胸脇苦満・疼痛、よく溜め息をつく、気滞血による月経不順などの症状を伴い、情緒の変化や月経前後に増強するものもある。

※③は虚証、②は虚実挟雑証で、その他は全て実証

*②、⑤は教科書に症例があるので参考にすること。

【参考症例】 風寒の邪による肩こり
〔病態〕風寒の邪が太陽・陽明経を侵襲→栄衛の運行が悪くなる→頸肩部の経脈が拘急
〔主要症状〕肩こり
〔随伴症状〕悪寒、頭痛、関節痛、温めると軽減
〔舌脈所見〕舌苔薄白、浮脈・緊脈 
〔治療方針〕風寒の邪を除去し、栄衛の運行を改善する。
〔治療法〕大椎、至陽、天柱、列缺、後谿、合谷、風池、
 頸・胸部の夾脊穴
〔取穴理由〕大椎、至陽は督脈の通りをよくし陽気をめぐら せ、気血の運行を促進させる。天柱で膀胱経の経気を改善 させて頭項痛を鎮静する。列缺、後谿は頸項部の疾患の要 穴である。合谷・風池で太陽経・陽明経の風寒の邪を除く。 頸・胸部の夾脊穴は局所取穴である。

*「病態把握トレーニング」はお休みです。

第20節 頸肩腕痛

A.注意を要するもの
① 発熱などの全身症状を伴うもの … 結核等炎症性疾患
② 腫瘍の既往、自発痛、夜間痛を強く訴える … 悪性腫瘍
③ 障害レベルより下位に中枢を持つ深部反射の亢進、病的反射の出現、または膀胱直腸障害を持つもの … 後縦靭帯骨化症、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアによる脊髄症
④ 原因によらず筋萎縮・麻痺症状が強いもの

【参考】頸椎症について
頸椎症とは、加齢的退行性変化が頸椎支持機構に生じた慢性かつ進行性の変性疾患で、主として椎間板、椎間関節、ルシュカ関節、椎体縁などの変化と、それに伴う神経・血管障害をしばしば合併する疾患である。
髄核や骨棘が脊髄を圧迫すれば脊髄症が、神経根を圧迫すれば神経根症が発現する。

B.適応となるもの
① 頸椎症性神経根症
② 胸郭出口症候群、その他絞扼性神経障害(上肢痛の項参照)

1 頸椎症性神経根症
[病態〕頸椎周辺の退行性変性による神経根への機械的刺激、循環障害→上肢の痛み

〔症状〕頸肩に強いこり・痛み・手指のシビレ感、筋力低下、 障害レベルに一致した上肢デルマトームへの放散痛
〔所見〕神経に沿った圧痛所見、根刺激誘発テスト陽性、上肢深部反射減弱、知覚異常など

[神経根障害にみられる神経学的所見の特徴]
 ① C5神経根障害(障害レベル C4/5間)
  筋力:三角筋、上腕二頭筋の筋力低下
  反射:上腕二頭筋反射減弱
  知覚:上腕外側の鈍麻

 ② C6神経根障害(障害レベル C5/6間)
  筋力:上腕二頭筋などの筋力低下
  反射:上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射減弱
  知覚:前腕外側、母指、示指の鈍麻

 ③ C7神経根障害(障害レベル C6/7間)
  筋力:上腕三頭筋などの筋力低下
  反射:上腕三頭筋反射減弱
  知覚:中指の鈍麻

 ④ C8神経根障害(障害レベル C7/Th1間)
  筋力:指の屈筋群、手内筋の筋力低下
  知覚:前腕内側、薬指、小指の鈍麻

〔治療方針〕障害のある神経根周囲の血流改善、炎症の消退、神経根機能の回復を図る。
〔治療法〕
ア.マッサージ
① 頸肩背部の圧痛・硬結・筋緊張部位(風池・肩井・天鼎・肩貞など)に対して軽擦・揉捏・圧迫・叩打法を施す。
② 上肢の反応点(曲池・手三里・合谷・四?・少海・神門等)に一般施術を行う。
③ 併用療法として、施術前に温熱・水治・電気療法を加え、更に施術後は頭頸部、肩背部、上肢に自・他動運動を粗暴にならないよう注意しながら行うと効果的である。
④ 施術時の患者の姿勢は、側臥位か坐位が適切である。
伏臥位では施術がしにくいだけでなく頸椎の後屈(伸展)が強制されるため注意を要する。

イ.鍼灸 … 風池、大椎、天鼎、肩貞、曲池など

【参考】頸肩腕痛の原因、関連する徒手検査法など
★原因
① 頸髄の病変 … 頸髄腫瘍、頸髄空洞症など
② 頸椎・軟骨・靱帯のいわゆる脊柱部の病変 … 変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、頸椎カリエス、鞭打ち損傷等
③ 胸郭出口の病変 … 頸肋症候群、斜角筋症候群、肋鎖症候群、過外転症候群(小胸筋症候群)など
④ 末梢神経の病変 … 肘部管症候群、尺骨神経管症候群、手根管症候群等

★徒手検査(~テストは~Tと略す)
① 変形性頸椎症、頸椎椎間板ヘルニア:スパーリングT、ジャクソンT、肩押し下げT、イートンT、頸椎叩打法
② 斜角筋・頸肋症候群:アレンT、アドソンT、モーレイT、 ハルステッドT
③ 肋鎖症候群:エデンT
④ 過外転症候群の検査法:ライトT

★ 深部反射の中枢
上腕二頭筋反射 … C5.6
上腕三頭筋反射 … C7中心
腕橈骨筋反射 … C6中心
膝蓋腱反射 … L2-4
アキレス腱反射 … S1.2

★ 病的反射
 上肢 … ホフマン、トレムナー、ワルテンベルグ
 下肢 … バビンスキー、チャドックなど

第21節 上肢痛

注意を要するもの
①前胸部痛、胸内苦悶を伴うもの
・狭心症など
②麻痺症状が強いもの
・重度の末梢神経障害
③症状が頑固なもの
適応となるもの
①胸郭出口症候群
②上肢絞扼性神経障害
 (注) ①と②はエントラップメント症候群にあたる。
③テニス肘(スポーツ障害の項参照)
④腱炎、腱鞘炎

1 胸郭出口症候群
・胸郭出口部の組織肥厚・筋スパズム・異常形成による
 血管神経束の圧迫により起こる。
①斜角筋症候群は、斜角筋三角部での絞扼。
②肋鎖症候群は、肋鎖間隙部での絞扼
③過外転症候群は、鎖骨下筋か小胸筋と胸郭との間隙部での絞扼
症状
・上肢の疼痛、冷感、シビレ感、脱力感
治療方針
・神経血管束が絞扼されている部位の筋緊張の緩解。
・頸肩部の筋のスパズムの緩解。
治療法
①マッサージ
・頸肩腕痛同様の施術をする。
・前頸部、側頸部は神経、血管束があるため、
 変調を起こしやすいので注意を要する。
②鍼灸
・天鼎、屋翳、中府、天柱、肩井など

2 上肢絞扼性神経障害
・上肢の神経が走行中に圧迫される。
病型分類
①手根管症候群は正中神経の絞扼
②肘部管症候群は尺骨神経の絞扼
③ギオン管症候群は尺骨神経の絞扼
※ギオン管とは、豆状骨と有鈎骨とその上の靱帯でつくられた管。
④円回内筋症候群は正中神経の絞扼
症状
・神経支配領域の痛み、シビレ感
所見
・絞扼部位の圧痛、支配領域の手指の知覚鈍麻
治療方針
・絞扼部位の疼痛の緩解
治療法
・絞扼部位を中心に施術する。

神経痛と疼痛部位
①橈骨神経痛
・上腕の後外側部、前腕の後外側部、手背の橈側半分
②尺骨神経痛
・上腕の後内側部、前腕の前内側部、手掌と手背の尺側半分
③正中神経痛
・上腕の前内側部、前腕の前側部、手掌の橈側半分
圧痛点
①橈骨神経痛の圧痛点(大腸経の経路)
・橈骨神経溝上点(消)、橈骨神経溝下点(手五里)、
 橈骨頭点(曲池)、母指球背点(合谷)
②尺骨神経痛の圧痛点(心経小腸経の経路)
・尺骨神経溝点(小海)、豆状骨点(神門)、
 豆状骨上方点(霊道、通里、陰の三穴)
③正中神経痛の圧痛点(心包経)
・前腕前側中央点(門)、手関節掌側中央点(大陵)、
 手関節掌側上方点(内関)

第22節 肩関節痛

注意を要するもの
①化膿性関節炎
・全身発熱、局所熱感・腫脹、自発痛を伴う。
②骨折、脱臼
・自発痛に伴い骨の転位、関節の輪郭の異常を伴うもの。
③腱板断裂
・ ドロップアームテスト陽性のもの。
適応となるもの
①腱板炎、肩峰下滑液包炎
②上腕二頭筋長頭腱炎
③いわゆる五十肩

1 いわゆる五十肩
・加齢による退行性病変が肩関節の一部の組織に限局することなく、
 周囲軟部組織に広汎に及んでくる、いくつかの病態を総称する
 臨床的な症候名である。
・臨床的には炎症と痛みの強い急性期と、
 拘縮が現れる慢性期に分けられる。
症状
・肩関節の疼痛、運動制限、慢性期には外旋障害などの
 拘縮症状があらわれる。
治療方針
①急性期
・障害組織の消炎・鎮痛
②慢性期
・消炎鎮痛を図ると共に拘縮の進行防止のための血行改善
治療法
①マッサージ
・肩関節周囲の諸筋や肩関節を通過する腱(棘上筋腱、
 上腕二頭筋腱など)に現れる疼痛、圧痛、硬結、筋緊張などの
 反応点(肩、巨骨、肩、臂臑、肩貞など)を中心に
 軽擦・揉捏法・圧迫・叩打法を施す。
・上肢から頸肩背部の広範囲に施術する。
・併用療法として、施術前に温熱、水治、電気療法を加え、
 施術後に運動療法を施すと効果的である。
・運動療法としてコッドマンまたはアイロン体操、棒体操、
 壁上行運動などがある。
②鍼灸
・肩、肩、巨骨、肩貞、臂臑
★経穴と筋
・肩貞は三角筋、小円筋、臑兪は三角筋・棘下筋、
 天府は上腕二頭筋、侠白は上腕二頭筋、曲垣は棘上筋、
 秉風は棘上筋、雲門は大胸筋。

《備考》
1.天津中医学院では・・・
・急性期:椅子に腰掛けさせたまま患側の条口から承山に 向けて透刺し、肩関節の運動療法を行っていた(条山)。
・慢性期:必ず外関穴を取穴する他、七星鍼(台)といって肩貞、臑兪、秉風、天宗、曲垣、肩外兪、肩中兪の7穴に、約20分間置鍼していた。また、肩内陵・肩外陵も常用。
2.木下の3点治療:木下晴都氏は、巨骨(垂直刺)に、肩棘 (肩峰外端より約3㎝内方の肩甲棘直下)、肩鎖(鎖骨外端 より約3㎝内方の鎖骨直下)の2穴(何れも水平刺)を加え、 都合3点を五十肩の特殊治療点として、深刺(2~3㎝)・ 置鍼で成果を上げている。

★肩関節痛に関する徒手査法
①ダウバーン兆候
・三角筋下滑液包損傷(肩回旋筋腱板損傷)
②ペインフルアークサイン
・棘上筋腱損傷、肩峰下滑液包炎
③スピードT、ヤーガソンT、ストレッチT
・上腕二頭筋長頭腱の腱鞘炎
④ドロップアームサイン
・上肢を他動的に90度外転させ手を離し、
 断裂があれば手がストンと落ちる。
・棘上筋腱断裂。

★肩関節の参考可動域と関連筋群
①屈曲(前方挙上)180°
・三角筋(前)、大胸筋、補助が烏口腕筋、上腕二頭筋
②伸展(後方挙上)50
・三角筋(後)、広背筋、大円筋、補助は上腕三頭筋
③外転(側方挙上)180
・三角筋(中)、棘上筋、補助は上腕二頭筋長頭、上腕三頭筋長頭
④外旋60°
・棘下筋、小円筋、補助は三角筋(後)
⑤内旋 80°
・肩甲下筋、大円筋、補助は三角筋(前)、大胸筋、広背筋。
⑥水平屈曲(水平内転)135°
・外転90度から前方への屈曲は三角筋(前)、
 大胸筋、烏口腕筋、肩甲下筋。
⑦水平伸展(水平外転)30°
・外転90度から後方への伸展は三角筋(中後部)、棘下筋、小円筋。

第23節 腰下肢痛

【参考】腰痛の原因、関連する徒手検査法など
★原因
①内臓疾患によるもの:原因臓器の病変による症状を合併
ア.急性に出現するもの
 腹部大動脈瘤、尿路結石、胆石、子宮外妊娠など
イ.慢性に経過するもの
 胃・十二指腸潰瘍、肝硬変、遊走腎など
②感染性のもの
ア.急性:化膿性脊椎炎
イ.慢性:脊椎カリエス
③腫瘍によるもの:転移性悪性腫瘍、原発腫瘍
④腰椎および腰部の支持機構に起因するもの
ア.急性腰痛
 a)筋・筋膜性腰痛
 b)椎間関節捻挫
 c)腰椎椎間板ヘルニア
 d)脊椎圧迫骨折
 e)スプラング・バック
 下位腰椎の棘間靭帯が損傷
 下位腰椎の正中に疼痛・圧痛
イ.慢性腰痛
 a)いわゆる腰痛症
 特に原因を明確にできない腰痛の症候学的診断名
 b)筋・筋膜性腰痛
 c)変形性脊椎症
 d)椎間関節症
 e)椎間板変性症
 f)腰椎分離症・分離すべり症
 g)変性すべり症
 h)腰部脊柱管狭窄症
 i)骨粗鬆症
⑤仙腸関節の病変
⑥梨状筋症候群
⑦股関節疾患
 変形性股関節症、大腿骨頸部骨折、ペルテス病など
⑧神経疾患に由来するもの
⑨心因性のもの

★問診のポイント
①安静時痛…炎症性のもの、腫瘍によるものを疑う。
②悪性腫瘍の既往
③転倒など外傷の有無
④痛みの性状・部位・経過
⑤増悪・軽快因子
 例)脊柱管狭窄症では、後屈で増悪、前屈で軽快。
⑥間欠性跛行…さらに神経性・血管性・脊髄性を鑑別
⑦膀胱直腸障害…脊髄や馬尾が圧迫されると起こる。

徒手検査
・坐骨神経の伸展は、SLR、ラセーグ、ブラガード。
・大腿神経の伸展、FNS。
・椎間関節部の病変、神経根の圧迫、脊柱管内の狭窄は、ケンプ。
・股関節の病変は、パトリック。
・仙腸関節部の病変は、ニュートン。
・梨状筋症候群は、ボンネット。
・股関節の屈曲拘縮は、トーマス。
その他の他覚的所見
・腱反射、下肢動脈拍動の有無、筋力低下、知覚異常
 病的反射、階段変形の有無など。

注意を要するもの
① 発熱、るい痩など全身症状を伴うもの … 炎症性疾患、悪性腫瘍
② 安静時痛、夜間痛が著しく強いもの … 悪性腫瘍
③ 生殖器・消化器症状を伴うもの … 内臓性腰痛の疑い
④ 膀胱直腸障害・中枢神経症状を伴う … 脊髄腫瘍など
⑤ 原因に関わらず運動麻痺が強いもの

適応となるもの
①急性腰痛
・筋筋膜の急性炎症、椎間関節の捻挫、腰椎椎間板ヘルニア
②慢性腰痛
・筋筋膜性腰痛、椎間関節性腰痛、椎間板性腰痛、変形性腰椎症、
 姿勢性腰痛、腰椎分離症、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症
③末梢性坐骨神経痛

1 筋・筋膜性腰痛
〔病態〕
① 急性:急激な動作で筋筋膜に過伸展や部分断裂が生ずることによって起こる。
② 慢性:筋疲労や炎症の繰り返しによる組織の瘢痕化が起こる結果、循環障害や刺激が原因となって起こる。
〔症状〕
① 急性:患部に限局した痛みが強く、疼痛性の側彎が診られることもある。主として前屈動作の障害が強い。
② 慢性:急性ほどの強い痛みはない。
〔所見〕いずれも、腎兪、志室、大腸兪付近に限局した圧痛や硬結が診られる。それ以外の目立った所見はない。

2 椎間関節性腰痛
〔病態〕椎間関節の障害に起因するもので、急性では急激な動作によって関節組織が損傷されて起こる。一方、慢性では他の老化変性と同様に、関節症性変化が椎間関節に現れる結果である。
〔所見〕
・疼痛部位:多くが下位腰椎部(L4~L5間、L5~S1間) 
・圧痛:椎間関節部(棘突起の高さで正中より約2㎝外方)の深い押圧で検出されるのが特徴。
・脊柱の運動:いずれの方向へも困難であるが、特に捻転と後屈が強く障害される。→ケンプ徴候

3 変形性腰痛
〔病態〕老化変性に起因するもので、痛みの発生には椎間板や骨棘による刺激や、椎間関節刺激、更には筋筋膜に由来するなど複数の因子が考えられる。
〔症状〕腰部が重い、だるいなど漠然とした一定の腰部症状を示すことが多い。但し、起床時や運動開始時に腰部の痛みや強ばりがあり、それが運動と共に改善されるという特徴的な症状がある。
〔所見〕変形が進行すると、腰椎後弯の増強や階段現象などが診られる。

上記1~3の治療方針・治療法
〔治療方針〕局所の血流改善、筋スパズムの緩解
〔治療法〕

ア.マッサージ
① 疼痛部位およびその周囲の腰背部・殿部の諸筋に現れる 筋緊張・圧痛・硬結に対して軽擦・揉捏・圧迫・叩打法を施す。
② 筋筋膜性腰痛で、多少の腫脹がある場合、軽擦法程度に とどめておく。
③ 慢性腰痛では、疼痛性硬結や筋緊張が下位胸椎~腰椎の 棘突起の外方約3~5㎝の部(脾兪・胃兪・腎兪・志室・大腸 兪)、腸骨稜の下約3㎝(小野寺殿点)の部位に軽擦・揉捏・ 圧迫法を行う。更に、仙骨後面部およびその側縁(大殿筋起 始部)、大腿後側部(殷門)などに軽い揉捏・圧迫法を施す。
④ 併用療法として、施術前に温熱・水治・温泉療法のほか、施術後に腰痛体操(ウイリアムス体操)を加えると効果的である。

イ.鍼灸:脾兪、胃兪、腎兪、志室、大腸兪、小野寺殿部点

4 根性坐骨神経痛
〔病態〕一般に腰椎の変性は、L4~L5間、L5~S1間の椎間板レベルの椎間孔付近で最も多く起こる。この部の変化によって、この部を通過する坐骨神経の神経根が障害されることによって坐骨神経痛が起こる。従って、腰椎椎間板ヘルニアをはじめ、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎辷り症のいずれかが本症の原因となる。
(参考) ヘルニアの好発部位:頻度の高い順にL4-L5間、L5-S1間、L3-L4間。

〔症状〕神経の走行に沿った下肢への放散性の痛みやシビレ感が特徴的。なお、腰部脊柱管狭窄によって馬尾神経に影響が及ぶと、これに間歇性跛行を呈して、馬尾神経症状が加わる。

〔所見〕神経走行に沿った圧痛点、知覚異常、アキレス腱反射減弱、SLRなどの陽性が診られる。但し、脊柱管狭窄症によるものではSLRは陽性とはならない。

★神経根障害にみられる神経学的所見の特徴
① L4神経根障害(障害レベル L3-4間)
 筋力:前脛骨筋の筋力低下
 反射:膝蓋腱反射減弱
 知覚:下腿内側、足部内側の鈍麻

② L5神経根障害(障害レベル L4-5間)
 筋力:中殿筋、長母指伸筋、長・短指伸筋の筋力低下
 知覚:下腿外側、足背の鈍麻

③ S1神経根障害(障害レベル L5-S1間)
 筋力:大殿筋、長短腓骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋筋力低下
 反射:アキレス腱反射減弱
 知覚:外果、足部外縁、足底の鈍麻

5 梨状筋症候群
〔病態〕坐骨神経の経路中に、坐骨結節と梨状筋の狭い間隙を通過する。その際、梨状筋の緊張や外傷があれば、この部で坐骨神経に傷害を受けて本症を発症する。
〔症状・所見〕根性坐骨神経痛と同様であるが、ボンネットテスト陽性、梨状筋部の圧痛が診られる。

上記4、5の治療方針・治療法
〔治療方針〕障害部周辺の循環改善、殿部・下肢の疼痛部位の鎮静を図る。
〔治療法〕
ア.マッサージ
① 侵された神経の分布領域である殿部・下肢に現れる筋緊張・硬結・圧痛を中心に施術する。
② 圧痛点(大腸兪・承扶・殷門・委中・承筋・崑崙・太谿・足三里・陽陵泉等)に対し持続的圧迫法または圧迫振顫法を行う。
③ 坐骨神経伸展法を施す。
④ 腹直筋強化を図る。
⑤ 併用療法は腰痛治療に準ずる。

イ.鍼灸:下部腰椎の直側(大腸兪・小腸兪など)、承扶、殷門、委中、承筋、足三里、陽陵泉、崑崙、太谿

【付録】腰神経叢からの神経には次のようなものがある。
 ① 腸骨下腹神経、② 腸骨鼠径神経、③ 外側大腿皮神経
 ④ 大腿神経:a.前皮枝、b.伏在神経、⑤ 閉鎖神経
〔主症状〕
1.腰・大腿部痛
① 外側大腿皮神経痛では、大腿外側
② 大腿神経痛では、大腿前側から下腿内側(伏在神経)への領域に多くは持続性の鈍痛が発現する。
2.ワレー圧痛点
  ① 外側大腿皮神経痛-大腿外側中点(風市)・外側上顆点(陽関)など。
  ② 大腿神経痛-大腿前内側中点(箕門)・膝内上角上方点(血海)、下腿内側中点(地機)・内果上方点(三陰交)など。
3.特異的所見
  ① 外側大腿皮神経痛-知覚障害(鈍麻ないし脱失)を伴うことが多い。
  ② 大腿神経伸展法が陽性となる。

第24節 膝痛

A.注意を要するもの
① 患部に強い自発痛・夜間痛があり、経過が進行性 … 悪性腫瘍
② 膝関節部の著明な腫脹、発赤・熱感ある場合 … 化膿性膝関節炎
③ 嵌頓症状を繰返す … 半月板障害、離断性骨軟骨炎
④ 受傷直後に著明な腫脹が出現するもの … 関節内骨折、靱帯損傷、半月板損傷
⑤ 関節の動揺が強い … 膝周囲の靱帯断裂
⑥ 関節リウマチ

B.適応となるもの
① 変形性膝関節症
② 運動性膝関節痛(スポーツ障害の項を参照)
③ 滑液包炎 … 膝周囲には多くの滑液包がある。例えば半膜様筋と腓腹筋の内側頭との間、膝蓋靭帯と脛骨粗面の間などに存在する。膝まづいて作業をする人には後者の滑液包炎が起こりやすい。

1 変形性膝関節症
〔病態〕膝関節部の退行性変化
〔症状〕運動時・体動時(歩行時、階段昇降等)、正座時に痛む。
〔所見〕膝関節腫脹、膝蓋跳動、膝蓋骨圧迫テスト(クラークスサイン)、外反内反テスト陽性。進行すると内反変形、大腿四頭筋萎縮
〔治療方針〕関節周囲の消炎・鎮痛・血液循環の促進を図る。
〔治療法〕
ア.マッサージ
① 膝関節を中心にその周囲の筋・腱・靱帯・血管神経をはじめ、膝関節の障害で疲労した腰殿部の筋を対象に施術する。
② 大腿部諸筋の筋力増強・伸張を目的に、自動運動を行わせる。
イ.鍼灸:梁丘・血海・委中・犢鼻・その他関節周囲の圧痛点

★ 膝関節の徒手検査法とその陽性の病態
① マクマレーT … 外側・内側半月板の損傷
② アプレーT
押し下げ(圧)アプレーT:外側・内側半月板損傷
引き上げ(引)アプレーT:外側・内側側副靭帯損傷
③ 内反・外反動揺T … 外側側副靱帯損傷→内反時動揺
内側側副靱帯損傷→外反時動揺
④ 前方・後方引き出しT … 膝十字靱帯の損傷
前十字靱帯損傷→前方引き出しT陽性
   後十字靱帯損傷→後方引き出しT陽性
⑤ ラックマンテスト … 前十字靭帯損傷
⑥ 膝蓋跳動 … 膝関節腔内の貯留液
⑦ 膝関節圧迫テスト(クラークスサイン) … 膝蓋骨関節軟骨の変性
⑧ ステインマンの圧痛移動サイン … 患者をベッドに腰掛けさせ、膝を屈伸させる。屈伸に伴い圧痛の移動があるかどうかを調べる。変形性膝関節症では、圧痛部は移動しないが、内側半月板損傷では、膝を伸ばした時は圧痛は前方に、曲げた時は内側側副靱帯方向(後方)に移動する。

★ 膝関節の参考可動域と関連筋群
① 屈曲:130°…大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋。補助が膝窩筋、薄筋、縫工筋、腓腹筋など。
② 伸展:0°…大腿四頭筋、大腿筋膜張筋
【整形外科関連疾患の東洋医学的な考え方】

【1】? 証
1.概要
① 頸肩腕痛、肩関節痛、上肢痛、腰下肢痛、膝痛の多くは「?証」に属する。
②「?」とは詰まって通じないの意で「?証」は風寒湿の三気が混ざって肌表・経絡に侵襲し、経脈が閉塞して気血の運行が悪くなり、「通じざれば則ち痛む」状態になり、筋や関節の酸痛や重だるさ、屈伸不利が起こるものである。
③ 風寒湿のうち、風邪が勝っているのを行?、寒邪が勝っているのを痛?、湿邪が勝っているのを着?という。
④?証にも、急性・慢性がある。発病初期は実証が多く、病の後期になると気血を一層損傷し虚が主となる。臓腑に波及することもある。

2.分類
(1) 風?= 行?
① 症状:風邪の特徴で遊走性の疼痛がおこる。初期は頭痛、発熱、悪風を伴いやすい。
② 治療方針:「血めぐれば風おのずと滅す」という考えから、血行を改善することによって風邪の除去を図る。
③ 治療穴:風池・膈兪・血海・太衝など。他に疼痛局所及び循経取穴。

(2) 寒?= 痛?
① 症状:寒邪の凝滞性、収引性により疼痛が強い。温めると疼痛が軽減する。
② 治療方針:陽気を補って寒邪の除去を図る。
③ 治療穴:腎兪・関元を補って腎陽を強める。他に疼痛局所及び循経取穴。

(3) 湿?= 着?
① 症状:湿邪の粘滞性、重濁性のため固定性で重だるい疼痛。悪天候で増悪。
② 治療方針:脾胃の運化機能を改善し湿の除去をはかる。
③ 治療穴:豊隆、陰陵泉、足三里など。他に疼痛局所及び循経取穴。

【2】頸肩腕痛の主な分類
(1) ?証型:外邪や労損などにより頸部の経絡気血の流れが悪くなるとおこる。
(2) 肝腎不足型:?証型が長期化するとおこる。
(3) 原因や症状により治療方針は異なるが、経絡気血の流れの改善を図ることを目的に、阿是穴や循経取穴を用いる。

【3】肩痛の主な分類
(1) 経絡型:経絡の気血の流れが悪くなり気滞血となって起こる。気滞の段階での疼痛は運動時痛が主で、血が加わると夜間痛が著明になる。運動制限は内旋と外転が主で、患部に多くの圧痛点を伴う。
(2) 経筋型:運動制限が中心で、結帯(伸展・内旋)や結髪(外転・外旋)が制限される。長期化し筋萎縮がおこるものがある。
(3) 治療は主として手陽明、手太陽、手少陽経の経穴から取穴する。

【4】膝痛の東洋医学的な考え方
膝は肝との関連が深く、膝は筋腱があつまっている。膝の内側の痛みは肝血不足により厥陰肝経をとおして膝を栄養できなくなって起こる虚証の疼痛である。

【5】腰痛の東洋医学的な考え方
1.概要
① 腰は腎の精気が注いでいるところで、腎と膀胱は表裏関係にある。
② 腰は足太陽経が走行し、任・督・衝・帯の諸脈も分布している。
③ 外寒性腰痛は風寒湿の邪によるものが多く、内傷性は腎虚によるものが多い。

2.分類
(1) 気滞血?による腰痛(急性タイプ)
〔病態〕捻挫、打撲などの外傷→腰部の経絡、経筋の損傷→ 気血の阻滞→腰痛
〔主要症状〕腰部の刺痛、固定性の疼痛、圧迫すると増悪(拒按)
〔随伴症状〕昼間は軽く、夜間に増強(夜間になり寝ると気血の運行がさらに悪くなるから)、局所の筋緊張、著明な圧痛点、牽引痛、挫傷の場合には局所に血腫
〔舌脈所見〕舌質紫暗、沈、?脈
〔治療方針〕経脈の気血運行を改善する。
〔処方例〕腎兪、委中、環跳、大腸兪、中封、阿是穴

(2) 寒湿による腰痛(慢性タイプ)
〔病態〕寒湿の邪の停滞 → 腰部の経絡の気血に阻滞
〔主要症状〕腰部の重だるさ・冷え・疼痛、雨天や寒いときに増悪。じっとしていると増悪し、動くと軽減する。
〔随伴症状〕腰部にシビレ感、運動不利、次第に増悪または時々増悪、温めると軽減
〔舌脈所見〕舌苔白膩、脈沈遅
〔治療方針〕陽気を強めて寒湿の邪を除去し気血運行を改善する
〔処方例〕太陽型:腎兪、大腸兪、環跳、委中、崑崙
  少陽型:大腸兪、環跳、風市、陽陵泉、飛陽

(3) 腎虚による腰痛(慢性タイプ)
〔病態〕房事過多・疾病の慢性化に伴う疲労、老化→腎虚による腎精不足
〔主要症状〕腰部の無力感・だるさ・疼痛、足の無力感(腎精が不足し骨髄を充足できないため)、疲労すると増悪
〔随伴症状〕腰部の鈍痛は経過が長い、押すと気持ちがよい、横になると軽減
・陽虚:精神疲労、腰部の冷え、滑精(精液を漏らす)、小便清
・陰虚:虚煩(悶々として気が重い)、不眠、小便黄、手足心熱、口・咽喉の乾き
〔舌脈所見〕陽虚:舌質淡、舌苔薄白、脈沈無力
      陰虚:舌質紅、舌苔少、細・数脈にして無力
〔治療方針〕腎を補い、気血循環の改善を図る。
〔処方例〕腎兪、委中
  腎陽虚:命門、陽関、崑崙、陽池など
  腎陰虚:関元、太谿、志室、陰谷など

第25節 運動麻痺
【1】現代医学的な考え方
A.注意を要するもの
①脳血管障害が疑われるもの
・深部反射亢進、病的反射陽性で診断が確定しない場合
②脳外傷、脳血管障害など
・外傷・非外傷にかかわらず、発症時に意識障害などの
 重篤な経過があり、発症後、期間の新しいもの
③神経腫瘍など
・麻痺の範囲・程度の拡大が進行性のもの
④重症の末梢神経障害
・強度の筋萎縮または麻痺を伴うもの
B.適応となるもの
①脳血管障害後遺症(片麻痺)
②末梢神経麻痺

1.脳血管障害後遺症
病態
・錐体路を循環する動脈の出血・梗塞・塞栓によって起こる。
・1~2週間の急性反応期の後、後遺症を残して慢性期に移行する。
症状
・片側上下肢の痙性麻痺、失語症などを呈す。
所見
・患側の深部反射亢進、病的反射陽性など。
治療方針
・リハビリテーションによる機能回復訓練と併行して、
 脳循環の改善、麻痺の回復や進行防止を目的に施術を行う。
治療法
①マッサージ
・発病初期は禁忌である。
・1~2週間後、医師の指示に従い施術する。
・施術は麻痺側を中心に全身を対象に行うが、最初は
 軽擦法を5~10分間程度、軽く施す。
・病状をよくみながら次第に刺激量を多くする。しかし、
 刺激時間・強さに十分注意し、決して疲労させてはならない。
・併用療法として、運動・温熱・水治・電気療法などを行う。
②鍼灸
・中風七穴、天柱、伏兎など

【参考】醒脳開竅法
・中国では脳血管障害後遺症に対する鍼治療法として
 「醒脳開竅法」という手法がある。脳血管障害の病理的機序を
 「竅閉神匿」(孔がふさがり神が隠れる)の結果であるとし、
 「醒脳開竅、補益肝腎を主とし、疏通経絡を補助となす」との
 治療原則で確立された。
処方
①主穴
・内関・人中(水溝)・三陰交
②副穴
・極泉・委中・尺沢
③その他
・嚥下困難に風池・翳風、手指の痙性に合谷、言語障害に金津・玉液
操作方法
①内関
・0.5~1寸直刺、捻転提挿の瀉法
②水溝
・鼻中隔に向け0.3~0.5寸斜刺、眼球に涙が充満するまで強い雀啄。
③三陰交
・アキレス腱方向へ1~1.5寸斜刺、提挿の補法をし、
 患側下肢を3回躍動させる。
④極泉
・腋毛を避けるため本来の位置よりも経絡に沿って2寸下方に取る。
・1~1.5寸直刺、提挿の瀉法をし、患側上肢を3回躍動させる。
⑤尺沢
・肘関節を約20度屈曲させ1寸直刺、提挿の瀉法をし、
 患側の前腕・手指を3回躍動させる。
⑥委中
・仰臥位で下肢を持ち上げ取穴し、1寸直刺、提挿の瀉法をし、
 患側下肢を3回躍動させる。
⑦風池・完骨・翳風
・喉に向けて2~2.5寸刺入、捻転の補法を1分間施す。
⑧合谷
・三間に向けて1~1.5寸刺入、提挿の瀉法をし、第2指を
 躍動させる。痙性が強い場合は全指が自然に開くまで行う。
⑨金津・玉液
・三稜鍼にて刺絡し1~2cc瀉血。

2.末梢神経麻痺(上肢痛の頁も参照)
病態
・神経の走行上での打撲・圧迫などによる支配筋の弛緩性麻痺
症状
①橈骨神経麻痺
・上腕骨骨幹部骨折、上腕中央部外側の注射などで生じる。
・手関節背屈、母指の伸展、その他の指のMP関節伸展が
 困難となり、下垂手(落下手)を呈す。
②正中神経麻痺
・肘関節部の骨折、フォルクマン拘縮、手根管症候群などで生じる。
・低位麻痺では母指球筋が麻痺して母指対立運動が不能となり、
 猿手を呈し、手掌の橈側半分の知覚が脱出する。
・高位麻痺では、前腕の屈筋・回内筋群の一部分まで麻痺する。
※正中神経支配の筋
・円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋、深指屈筋、
 長母指屈筋、方形回内筋、短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、
 母指対立筋。
③尺骨神経麻痺
・肘部管症候群による高位麻痺と、尺骨管症候群による
 低位麻痺があるが、前者の頻度が高い。
・低位麻痺では手内筋(小指球筋、骨間筋、虫様筋,母指内転筋)の
 麻痺より手指の内外転不能、フロマン徴候陽性となり、
 鷲手を呈す。知覚障害は小指と環指尺側。
・高位麻痺は、低位麻痺に加えて尺側手根屈筋、
 4~5深指屈筋の麻痺、手背尺側の知覚障害が加わる。
④総腓骨神経麻痺
・膝窩・腓骨頭・腓骨頸への外部からの圧迫などにより起こる。
・前脛骨筋、長母指伸筋、腓骨筋の麻痺により、
 足関節の背屈・外反や足趾の背屈が障害され下垂足となり、
 鶏歩を呈す。足背から膝下下肢外側にかけての感覚障害を来す。
⑤脛骨神経麻痺
・骨折や打撲など局所の外傷、足根管症候群などによる。
・下腿三頭筋、後脛骨筋、足趾の屈筋群の麻痺により、
 足関節の底屈・内反が障害され外反踵足位(鉤足)を呈す。
・感覚障害は、下腿後側から足底にみられる。
※足根管症候群:
・足関節内側での脛骨神経の絞扼性神経障害。
・脛骨内果、距骨、踵骨、屈筋支帯からなる骨線維性トンネルを
 足根管と呼ぶ。この中で脛骨神経本幹やその分枝が障害されるが、
 内側足底神経が障害されるタイプが最も多い。
治療方針
・神経の障害部および麻痺筋の血行改善
治療法
・上肢の神経麻痺は上肢痛参照。
①マッサージ
・麻痺神経支配下の筋と神経経路中の刺激点に対する施術。
・定型的な変形には次の部位と共に拮抗筋に対する施術も
 忘れずに行う。
・総腓骨神経麻痺には足少陽胆経、足陽明胃経、下腿屈筋群
・脛骨神経麻痺には足膀胱経、下腿伸筋群
・併用療法として運動・温熱・電気療法、装具による
 変形の予防・矯正なども効果的。
②鍼灸
・総腓骨神経麻痺には委陽、陽陵泉、懸鍾、足三里、解谿など
・脛骨神経麻痺には委中、承筋、承山、太谿、照海など
※神経麻痺と主な装具
①橈骨神経麻痺
・コックアップスプリント、トーマス副子、オッペンハイマー装具
②正中神経麻痺
・対立副子
③尺骨神経麻痺
・ナックルベンダー(MP関節屈曲補助装具)
④下垂足
・靴べら型装具

【2】 東洋医学的な考え方
・運動麻痺について古典では「四肢不用」「四肢不挙」「痿躄」等の
 記載がある。「痿」とは四肢に力がなく運動障害が生じることで、
 「躄」とは下肢が軟弱で力がないことをいう。
・中医学では『痿証』として捉えている。
・急性症として現れることもあるが慢性症として現れることが多い。
・原因としては虚や熱によるものが多い。
A.分類
①肺熱によるもの
・肺熱により肺や津液を損傷し、皮毛や筋脈を
 うまく栄養できなくなると運動麻痺が起こる。
②湿熱によるもの
・湿邪が長期にわたって除去されず熱化した湿熱が筋脈に影響し、
 気血の運行が悪くなり運動麻痺が起こる。
・また、辛いものや甘いものの偏食により脾胃に熱がこもり、津液を
 損傷して、筋脈をうまく栄養できなくなって起こるものもある。
③脾胃虚弱によるもの
・後天の本である脾胃がいろいろな原因により虚弱となり、
 そのために筋脈・肌肉がうまく栄養されないと次第に
 運動麻痺が起こる。
④肝腎陰虚によるもの
・老齢、慢性疾患、房事過多などにより肝腎を損傷し、
 精血が不足して筋骨・経脈をうまく栄養できなくなると
 次第に運動麻痺が起こる。
B.鑑別
(1) 虚実
・①②は実証であり、③④は虚証である。
・一般的には実証は急に発症し変化が早く、
 虚証は緩慢に発症し変化も緩慢である。
(2)随伴症状
①肺熱によるもの
・むせるような咳、皮膚の乾燥などの症状を伴いやすい。
②湿熱によるもの
・胸や腹のつかえ、身体の重だるさ、浮腫など湿による症状を
 伴いやすい。
③脾胃虚弱によるもの
・倦怠感、息切れ、四肢のだるさ、軟便など脾気虚による症状を
 伴いやすい。
④肝腎陰虚によるもの
・腎虚(精の不足)による腰のだるさ、めまい、耳鳴り、
 肝虚(血の不足)によるしびれ、拘縮、筋肉のひきつりなどの
 症状を伴いやすい。

C.参考症例 脾胃虚弱による運動麻痺 
※②湿熱によるものと、④肝腎陰虚によるものは教科書参照
病態
・脾胃の虚弱により筋脈・肌肉が栄養されない。
主要症状
・四肢の軟弱、次第に運動麻痺または筋萎縮
随伴症状
・食欲不振、疲労、倦怠感、下痢、顔がむくみ艶がない
舌脈所見
・舌質淡、舌苔薄白、細弱脈
治療方針
・四肢の経絡気血の疏通の改善を図ると共に、脾胃両虚を補う。
治療法
・上肢では、肩、曲池、手三里、陽谿、合谷など。
・下肢では、髀関、伏兎、梁丘、足三里、解谿などの中から
 適宜選び、脾兪、胃兪、太白を加える。
取穴理由
・『素問』痿論篇に「痿を治すには、独り陽明を取る」という
 治療原則を基に、手足の陽明経を主体に選穴する。これに
 脾兪、胃兪、太白を配穴して脾胃の運化機能を円滑にし、
 筋脈・肌肉の栄養改善を図る。

第26節 高血圧症 
【1】 現代医学的な考え方
〔基準〕単位:mmHg(収縮期、拡張期の順)
・正常血圧:130未満かつ85未満
・正常高値血圧:130~139または85~89
・高血圧:140以上または90以上
・軽症高血圧(グレード1):140~159または90~99
・中等症高血圧(グレード2):160~179または100~109
・重症高血圧(グレード3):180以上または110以上

A.注意を要するもの
(1)症候性高血圧症
①腎疾患の既往があるもの
・腎性高血圧(糸球体腎炎、腎盂腎炎、腎動脈狭窄症など)
②クッシング症候群、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症
・満月様顔貌、周期性四肢麻痺、発作性高血圧などがあるもの
※周期性四肢麻痺
・多くは血中カリウム濃度の低下によりおこる弛緩性麻痺である。
・甲状腺機能亢進症や原発性アルドステロン症の症状として出現。
③心臓・血管性高血圧
・血圧値が左右の上肢で異なる、下肢で血圧値低下をみる、
 腹部に血管雑音があるなどの症状を呈するもの
(2)本態性高血圧症の進行例
①高血圧性心疾患
・動悸、息切れ、浮腫などを伴うもの
②高血圧性脳疾患
・頭痛、めまい、耳鳴、四肢のしびれ感、不眠、悪心を伴うもの
③高血圧性腎疾患
・夜間多尿、蛋白尿、浮腫、視力障害、食欲不振症状のあるもの

B.適応となるもの:上記以外の本態性高血圧症
症状
・大多数は無症状だが、高血圧が著しいと
 頭痛、耳鳴り、肩こりなどを呈する。
治療方針
・血圧の安定・全身調整を図り、脳卒中や臓器障害の進行の予防。
治療法
①マッサージ
・不定愁訴に応じて軽く行うが、進行した高血圧症は禁忌である。
・全身(天柱・人迎・心兪・腎兪・門)へは短時間で施術。
・併用療法として、水治療法(39℃位のぬるま湯が有効)、
 パラフィン浴(手足の冷え・痛み・シビレ感に有効)がある。
・塩分制限、肥満予防、過労やストレスの回避、
 休養等の生活指導をする。
②鍼灸
・天柱、人迎、心兪、腎兪、門

【2】東洋医学的な考え方
・高血圧症は情志の失調、飲食不節、虚損などの因子と
 密接な関係がある。
・肝腎の陰陽のバランス失調が高血圧症の基本病理であり、
 病態としては「本虚標実」を呈する。
A.分類
①肝火による高血圧症
・長期にわたる精神的緊張や情志の失調により肝鬱となり、それが
 化火すると肝火が炎上することにより高血圧症が起こる。
②痰濁による高血圧症
・油っこい物や甘い物の偏食、過度の飲酒などにより痰濁が生じ、
 それが体内にこもると化火する。火の炎上性により肝風とともに
 頭顔面部に上衝すると高血圧症が起こる。
③陰虚陽亢による高血圧症
・房事過多や老化などにより腎陰が不足し、その為に肝陰も不足して
 肝陽を制御できなくなると、肝陽が亢進して高血圧症が起こる。
B.鑑別
(1)虚実
・「肝火によるもの」「痰濁によるもの」は実証であり、
 「陰虚陽亢によるもの」は虚実挟雑証である。
(2)随伴症状
①肝火によるもの
・めまい、頭痛、耳鳴りなどを伴う。
・舌質は紅、舌苔は黄色、脈は弦数
②痰濁によるもの
・肝風によるめまい、頭重感、胸悶、食欲不振などを伴う。
・舌苔は厚膩、脈は滑。
③陰虚陽亢によるもの
・腎陰不足による腰のだるさ、健忘、耳鳴りなどを伴う。
・舌質は紅、舌苔は少なく脈は弦細数

C.参考症例 陰虚陽亢による高血圧症
※②は教科書に症例があります。
病態
・房事過多・老化による腎陰不足により肝陽を制御できず、
 肝陽亢進となって起こる。
主要症状
・高血圧、頭痛、耳鳴、めまい
随伴症状
・腰のだるさ、健忘、不眠、五心煩熱
舌脈所見
・舌質紅、舌苔少、細数脈または弦脈
治療方針
・腎陰の不足を補い、肝陽の亢進を抑える。
治療法
・風池、曲池、内関、三陰交、太谿
取穴理由
・風池は陽維脈と胆経の合会穴で、頭と目の気血循環を改善させ、
 めまいを止める。
・曲池は多気多血の陽明経の要穴で、陽邪を除くのに用いられる。
 風池と共に曲池には去風作用がある。
・内関で精神機能の安定を図る。
・太谿で腎気を補い、三陰交で足の三陰経を補う。

第27節 低血圧症
【1】 現代医学的な考え方
・低血圧の定義は、収縮期血圧が100㎜Hg以下とすることが多い。
・拡張期血圧は通常考慮しない。
A.注意を要するもの
①症候性低血圧症(大動脈弁口狭窄症、僧帽弁口狭窄症、
 アジソン病、シモンズ病、甲状腺機能低下など)
・発熱、貧血をはじめ、重篤な基礎疾患を疑わせる症状があるもの

B.適応となるもの
1.本態性低血圧症
病態
・原因不明な体質的なもので病的意義は少ないと考えられるが、
 多様な愁訴を持つものが多い。
症状
・無症状のものも多いが、倦怠感、肩こり、耳鳴り、頭重感、
 立ち眩み、食欲不振など多様な症状を訴える。
治療方針
・愁訴を軽減させ、快適な日常生活を過ごさせる。
治療法
①マッサージ
・肩こり、頭痛、耳鳴、眩暈、四肢の冷え、倦怠感、食欲不振など、
 愁訴の除去を目的に、頸部、頸肩背部に施術する。
・誘導の目的で上下肢に施術する。
・食餌療法として、高タンパク食、高エネルギー食、高食塩食を
 摂取するよう勧める。
①鍼灸
・会、完骨、中、身柱、脾兪

【2】 東洋医学的な考え方
・低血圧症は血液を運行させる気の不足、あるいは脈道内の
 陰の不足によるものが多く、すべてが虚証である。
※これと対称的な高血圧は実証と思われがちであるが、
 多くは「本虚標実」であるので注意を要する。
A.分類
①気虚による低血圧症
・先天の精の不足または気虚体質、飲食不節や労倦などにより
 気虚になると、鼓動が無力となり、低血圧症が起こる。
②気陰両虚による低血圧症
・慢性疾患により気陰を損傷すると、鼓動が無力になるだけでなく、
 さらに脈道も充足しなくなり低血圧症が起こる。

B.参考症例 気陰両虚による低血圧症
※①は教科書に参考症例があります。
病態
・慢性疾患等による気陰両虚により鼓動の無力化や
 脈動の不充足が起こる。
主要症状
・低血圧、眩暈
随伴症状
・息切れ、無力感、精神疲労、五心煩熱、口渇、心悸、不眠
舌脈所見
・舌質紅、舌苔少、細数脈
治療方針
・気陰の不足を補う。
治療法
・脾兪、腎兪、足三里、太谿、三陰交

※今回は、病態把握トレーニングはありません。
※第28章 食欲不振は上腹部痛とほとんど重複しているため
 省略します。

第29節 肥満

【1】現代医学的な考え方
〔参考〕
1.標準体重
①ブローカ指数
・標準体重(kg)=(身長(cm)-100)×0.9
・この標準体重に対する患者の体重を割合であらわす。
・20%以上が肥満。
②BMI:肥満係数(日本肥満学会による)
・体重(kg)÷身長(m)の二乗…22が標準
・26.4以上が肥満、18.5未満が痩せ。
・従って、標準体重は身長(m)の二乗×22(Kg)となる。
2.肥満の分類
①単純性(一次性)肥満
・過食、摂食パターンの乱れ、運動不足などが関与するもので、
 摂食カロリーオーバーの肥満。
②症候性(二次性)肥満
・食事とは無関係に体内で脂肪が合成され、分解が障害されて
 起こる肥満症。
・内分泌性、視床下部性、遺伝性などの因子が関与する。
・クッシング症候群、ローレンス・ムーン症候群、
 クラインフェルター症候群
[参考]
①ローレンス・ムーン症候群
・肥満、色変、知能低下、性器発育不全、多指症を示す
 常染色体性劣性遺伝病。
②クラインフェルター症候群
・XXY症候群、男性性腺機能不全のうち最も多い疾患で、
 女性化乳房、小陰茎、小精巣、無精子症等の症状を呈する。
A.注意を要するもの
①クッシング症候群
・中心性肥満・満月様顔貌などの内分泌障害がある場合
②ステロイド中毒
・ステロイド投与の既往のあるもの
B.適応となるもの
1.単純性肥満
・肥満の約95%を占める。
治療方針
・減食と運動療法、全身代謝の促進
治療法
①マッサージ
・運動療法の補助的効果としては、全身の筋緊張の緩解を
 目的として行う。
・殊に下肢への揉捏法を中心に、下腿に運動法を施す。
・併用療法として、食事療法と運動療法を組み合わせることが大切。
②鍼灸
・全身の代謝を促進させる目的で行う。
・天枢、脾兪、腎兪、曲池、足三里

【参考】健康日本21より
・体重維持の最低エネルギーは、体重1Kgにつき1日30~35Kcalの
 ため、減量する場合は標準体重×25Kcal位に設定する。但し、
 1200Kcal以下では長期間続けられない。男性で1600Kcal、
 女性で1400Kcalは必要。
・食事は一日3回、規則正しく食べる。食事の回数が減ると
 飢えに対する自衛作用が働き、体脂肪が合成されやすくなる。
・糖質・脂質を減らすが、糖質は一日最低100g、脂質は最低20gは
 取る必要がある、タンパク質は標準体重×1~1.2gは確保する。
 ビタミン・ミネラルも充分に摂取する。
・激しい運動法は避けて、水泳・ウォーキング等の適度な運動を
 すすめる。

【2】東洋医学的な考え方
・古典には肥満の記載は少ないが「太ったものには気虚が多い」、
 「太ったものには痰が多い」と言われる。
・脾気虚は痰湿を作りやすく、痰湿は気虚の原因となる。
・よって臨床では脾気虚によるものと痰湿によるものが
 挟雑しているのが実際である。
A.分類
①痰湿による肥満
・長期にわたる食欲亢進、美食、甘いものや油っこいものの
 偏食などの原因により、脾の運化が失調して痰湿や脂膏が生じ、
 それが肌肉に停滞すると肥満が起こる。
・胃腸の熱を伴うことが多い。
②気虚による肥満
・飲食不節や労倦などにより脾虚となり、そのために
 痰湿が生じ肌肉に停滞すると肥満が起こる。
B.鑑別
(1)虚実
・①は実証であり、②は虚証であるが、実際は2つとも
 虚実挟雑証であることが多い。
(2)症状
①痰湿によるもの
・肌肉は張っている、胸のつかえ、腹のつかえ、身体の重だるさ、
 口渇、口臭、痰が多い、食欲あり、便秘ぎみ、顔面紅潮、暑がり、
 舌質胖、舌苔膩、脈有力などの特徴がある。
※胃腸に熱があると食欲が亢進する。
※胖舌
・湿熱による紅い胖舌と陽虚水毒による淡い胖舌がある。
・ここでは前者をさす。
②気虚によるもの
・肌肉はたるんでいる、無力感、息切れ、自汗、横になりたがる、
 話すのがおっくう、軟便、寒がり、脈弱などの特徴がある。

注)気虚によるものは教科書に症例があるので参考にする事。
※第30章 発熱 は既習の第1章 頭痛 第10章 咳嗽 を参照。

第31節 のぼせ・冷え(上熱下寒)

【1】現代医学的な考え方

A.注意を要するもの
A)のぼせ
①多血症の重症例
・動悸、息切れ、ピンク色の痰の排出、乏尿などを伴うもの。
②上大静脈症候群
・胸部、上肢に静脈怒張がみられるもの。
③カルチノイド症候群
・のぼせ以外に腹痛、腹鳴、水様性下痢、喘息様症状を伴うもの。

〔参考〕
①多血症(赤血球増加症)
・相対的なものと絶対的なものに分けられる。
・絶対的なものには骨髄の過形成によるものと、
 エリスロポエチン産生増加による二次性のものがある。
②カルチノイド腫瘍
・形態学的に癌に類似するが、悪性度の低い一群の腫瘍。
・消化管、肺、気管にでき、ヒスタミンやセロトニンなど
 種々の生理活性物質を産生し、腫瘍が増大すると臨床的に
 カルチノイド症候群(顔面紅潮、下痢、喘息様発作、
 心弁膜症などが特徴的症状)を呈する。

B)冷え
①貧血症
・動悸、息切れ、眼瞼結膜の貧血等が診られるもの。
②四肢血管障害(大動脈炎症候群、レイノー病、バージャー病など)
・四肢末端の潰瘍・傷が治りにくいなどの症状があるもの。

B.適応となるもの
①更年期障害
・閉経期の内分泌異常に伴う自律神経機能の異常により、
 局所の血管調節が乱れて、局所の血流が多くなったり、
 妨げられたりして、顔面紅潮・発汗・局所の冷感・
 皮膚の蒼白などの症状を起こすものをいう。

C.治療方針・治療法
治療方針
・内分泌系・自律神経系を調節する。
・局所の血流を調節する。
治療法
①のぼせ
・頸部に軽擦法を主とした施術を行い、後に肩背部に軽擦法・
 揉捏法を加え筋の過緊張を除く。
・肩甲上部(肩外兪・肩井・天など)にはやや強めの
 圧迫法を加える。
・側頭部・後頭部に疼痛が限局してある場合、その部位に
 手根圧迫法・振顫法行う。
・ネーゲリーの伸頭法も効果的である。
・慢性ののぼせには、頭寒足熱という考え方で、入浴(温浴)などと
 共に、心身の安静を図り、頸部・肩背部に軽擦法・圧迫法・
 揉捏法、さらに四肢に誘導マッサージを行う。
②冷え
・全身施術を適当な間隔をもって行ない体力の増進を図る。
・特に冷えを感ずる局所に軽擦法・軽度の母指圧迫法を行なって
 循環を改善し、その回復を図る。
・低血圧・貧血を伴う者には、生活指導(規則正しい生活・適度な運動・休養など)と食餌療法を併用する。
③特効穴
・身柱、次、三陰交、足三里、太衝

【2】東洋医学的な考え方
①のぼせ
・のぼせは女性に多くみられ、顔がほてる、頭がのぼせるなどを
 訴える。
・また、下半身の冷えと上半身ののぼせを同時に伴っている場合は
 「上熱下寒」といわれている。
・腎は全身の陰陽の根本であり「水火の宅」といわれている。
・心と腎について相対的にいうと、心の性は火であり陽に属し、
 腎の性は水であり陰に属している。
・心と腎の間には陰陽のバランス、水火のバランスがあり、
 このバランスが失調すると心腎不交となり「上熱下寒」が現れる。
②冷え症
・冷え症は陽虚、寒湿、血などが関係して起こるものが多い。
・冷え症は女性に多くみられるが、これは月経の来潮時や産後に
 不注意でいると寒邪をうけやすいこととも関係が ある。

以下、のぼせと冷えが同時に出るものを述べる。

症例
・心腎不交によるのぼせ・冷え
病態
・慢性疾患・房事過多・出産、陰陽(水火)のバランス失調、
 心腎不交、上熱下寒となる。
主要症状
・頭顔面部ののぼせ、腰部・下肢・腹部の冷え
随伴症状
・顔面紅潮、眩暈、目の充血、咽喉部の乾き、口渇、
 腰部鈍痛、寒がり、小便清長、下痢
舌脈所見
・舌質紅または舌尖紅、舌苔少、細弱脈
治療方針
・心腎の交通を図る。
・陰陽のバランスを回復させる。
治療法
・内関、神門、大椎、長強、三陰交、太谿、腎兪、関元、百会
取穴理由
・内関・神門で心の陽気を除去し、大椎・長強は腎を
 補強する作用があり、腎気の充足で陰陽が自然に調節される。
・また、三陰交・太谿・腎兪・関元の諸穴で腎を補い、
 腰を強めて虚火を降ろす。
・更に、百会で陰気を上昇させる。

第32節 不眠

【1】現代医学的な考え方
※不眠の型
・入眠障害、早朝覚醒、熟眠障害、全く眠れない。
A.注意を要するもの
①統合失調症
・執着傾向や強迫症状など異常な精神状態がみられるもの。
②うつ病
・早朝に目が覚めてしまう、無気力な症状があるもの。
B.適応となるもの
1.機会性不眠
病態
・騒音など外界からの刺激や生活環境の乱れ、一過性の
 精神的緊張などによって睡眠が阻害されたり、
 睡眠リズムが崩れることに起因する。
症状
・いずれの不眠症状の型もみられる。
治療方針
・精神的興奮を鎮静させ、全身調整を図り悪循環を断ち切る。
治療法
①マッサージ
・側臥位または伏臥位で、頭部や頸肩背部に心地よい力度で
 軽擦法、揉捏法、軽い圧迫法を施す。
・必要に応じて腹部への施術法の一つとして、
 臍部へ両手指を重ねて置き、軽い圧迫を加えながら、
 ゆっくり腹式呼吸をさせ、心身のリラックスを図る。
・その他、上肢、下肢、腰部へ軽い軽擦法、揉捏法、圧迫法を行い、
 肩こりや全身の疲労を除くようにする。
・特に下肢では、足底部への圧迫法、叩打法、圧迫揉捏法は
 効果がある。
・就寝前にぬるめの温度の入浴をさせ、副交感神経を
 優位にした状態で施術すると、より効果的である。
②鍼灸
・百会、会、天柱、風池、完骨、肩井

(2)神経症性不眠
病態
・機会性不眠が心理的規制により、完全に固着してしまう場合と、
 さしたる誘因も認められないにもかかわらず発症する場合がある。
・いずれも患者の性格傾向が大きく関与しているとされる。
症状
・入眠障害が多いといわれる。
・重症の場合、全く眠れないと訴えることもある。
治療方針
・機会性不眠と同様であるが、心理的配慮がより重要。
治療法
・機会性不眠と同様。

【2】東洋医学的な考え方
A.分類
①痰熱による不眠
・飲食不節や運化の失調により痰湿が生じ、それが鬱すると
 痰熱が生じる。この痰熱が心神に影響すると不眠が起こる。
②肝火による不眠
・抑鬱や激怒することにより情志を損傷し、そのために
 肝の条達が悪くなると気鬱という病態が生じる。
・この状態が改善されないと化火しやすいという特徴がある。
・火の炎上性により火が心神に影響すると不眠が起こる。
③心脾両虚による不眠
・思慮過度、心労、労倦などは心脾を損傷しやすい。
・心を損傷して陰血を損耗すると神志を主れなくなる。
・脾を損傷し気血の生成が悪くなると、心を栄養できなくなり、
 そのために心神不安となって不眠が起こる。
④心腎不交による不眠
・房事過多、久病などにより腎陰を損傷すると、腎陰が心陰を
 バックアップできなくなって心火が亢進し、心腎相交の関係が
 失調して心腎不交となる。
・また五志過極により心火が亢進すると、同様に心腎相交の関係が
 失調して心腎不交となる。この心火により心神が影響をうけると
 不眠が起こる。

B.鑑別
(1)虚実
・①②は実証、③は虚証、④は虚実挟雑証。
(2)随伴症状・舌脈所見
①痰熱によるもの
・痰による胸苦しさ、胃部のつかえ、気、めまいなどを伴い、
 熱により舌質は紅、舌苔は黄膩、脈は数滑を呈する。
②肝火によるもの
・頭痛、めまい、耳鳴り、口苦などを伴い、舌質は紅、舌苔は黄、
 脈は弦数を呈する。
③心脾両虚によるもの
・心悸、健忘、倦怠、食欲不振などを伴い、舌質は淡、
 脈は細弱を呈する。
④心腎不交によるもの
・腎陰虚による五心煩熱、盜汗、めまい、耳鳴り、健忘、
 腰の症状を伴い、心火亢進のため舌質は紅、脈は数、ただし
 陰虚のために細を呈する。

(注)①と④は教科書に参考症例があります。
※ 第33章「疲労と倦怠」は省略します。

第34節 発疹

【1】現代医学的な考え方
A.注意を要するもの
・以下の症状がある場合、病原巣の存在、全身性血管炎、
 全身性エリテマトーデス、HB抗原血症などの疾患が考えられる。
①紫斑、水泡、色素沈着などを伴うもの
②容易に消退しないもの
③発熱、関節痛を伴うもの
④他の部位に慢性炎症をもつもの
 (詳細は「発疹の分類」資料参照)

B.適応となるもの
(1)アレルギー性蕁麻疹
病態
・アレルギー反応によって皮下血管の透過性が
 高まることによって起こる。
症状
・寒冷・温熱刺激が誘因で、体のあちこちが赤く膨れ上がり、
 次第に広がって一緒になり地図のようになる(膨疹)。
・心理的ストレスや疲労などによって発症する場合がある。
・発疹がでると掻痒感が強いが、消失すると次第に改善する。

(2)人工(機械的)蕁麻疹
病態
・圧迫や摩擦などの機械的刺激が誘因となる。
症状
・刺激を受けた場所に発疹が現れる。
治療方針
・発症時は神経興奮の鎮静を図り、間欠期には
 反応を起こしやすい体質を改善する。

【2】 東洋医学的な考え方
・発疹は「肺」や「衛気」との関連が強い。
A.分類
・発疹は主として風、寒、湿、熱の邪が皮毛に侵襲することにより
 起こると考えられている。
・また異物との接触や体質とも関係がある。
①風熱による発疹
・理の状態の悪い者が風熱の邪の侵襲をうけ、
 それが皮毛に鬱して営衛不和になると発疹が起こる。
②風寒による発疹
・衛気が体表にうまく作用せず、理の虚の状態となり、
 これに乗じて風寒の邪が皮毛に侵襲し、毛孔が閉塞して鬱すると
 発疹が起こる。
③胃の湿熱による発疹
・体質や飲食不節により胃に湿熱が生じ、その湿熱が
 うまく発散しないで皮毛に鬱すると発疹が起こる。
④気血両虚による発疹
・気血両虚のために体表の防衛機能が低下すると
 風邪をうけやすくなる。それが理に鬱して
 うまく発散しないと発疹が起こる。

B.鑑別
(1)表裏
・①②は表証である。
(2)虚実
・①②③は実証であり、急性のものが多い。
・④は虚証であり、慢性のものが多い。
(3)熱の関与
・①③のように熱が関与しているものでは発疹および舌質は赤い。
・②④のように熱の関与がないものは淡紅色を呈する。
(4)随伴症状
①風熱によるものは、発熱、咽喉腫痛、口渇などを伴う。
②風寒によるものは、悪寒、鼻閉、鼻汁などを伴う。
③胃の湿熱によるものは、腹痛、悪心、嘔吐、下痢などを伴う。
④気血両虚によるものは、血虚による不眠、心悸、
 気虚による倦怠、無力感、息切れなどを伴う。
注)③、④は教科書に参考症例があります。

C.参考症例:風寒による発疹
病態
・栄衛の失調により衛陽の体表への働きが悪化し、理の状態に
 影響し、その虚に乗じて風寒の邪の侵襲を受ける。
・すると皮毛に気血の停滞が起こって発疹を生じる。
主要症状
・急に発疹が起こる。色は淡紅色
随伴症状
・悪寒、発熱、鼻閉、鼻汁 
舌脈所見
・舌質淡、舌苔薄白、浮・緊脈または浮・遅脈
治療方針
・風寒の邪を除き、栄衛の調整を図る。
治療法
・大椎、風池、風門、曲池、血海
取穴理由
・大椎で風寒の邪を取り去り、風池・風門にて風邪を除く。
・また、曲池・血海で気血循環の改善を図る。

付)「血巡れば風自ずと滅す。」と言われ、
  風を取り除くのに「血」を巡らせる治法がある。

第35節 小児の症状

【1】現代医学的な考え方
A.適応となるもの
・小児神経症、小児夜尿症、小児喘息、扁桃炎など。

1.小児神経症
・子どもが訴える身体的あるいは精神的症状に対して、
 それを説明できる器質的変化が見出せない場合に、
 心因性にそれらが生じたと解釈されるような症候群をいう。   原因
・子供を取りまく環境(過保護、保護不足、拒否)や
 子供の受けとめ方
病態
・心理的に問題があると身体症状を訴えるようになる。
症状
・睡眠障害、夜驚、チック、消化不良、下痢、便秘、嘔吐、頻尿、
 遺尿、指しゃぶり、憤怒痙攣(泣き入りひきつけ)など。
所見
・前額の皮静脈が顕著になったり、眼球結膜が蒼くなったり
 することがある。

2.小児夜尿症
・通常、排尿機構が完成する4才以上になっても、
 夜間の遺尿が続く場合を夜尿症という。
症状
・日中の頻尿、尿意切迫を伴うことが多い。
・睡眠の深度が深く、かつその時間が長い。
分類
・生来、夜尿が続いている一次性夜尿症は
 器質的疾患を伴うことが多い。
・排尿のコントロールが可能となった以降に起こる
 二次性夜尿症は精神的因子の関与が強い。

治療方針
・小児は成長過程でバランスを失いやすいこと、また
 それぞれが成人にもまして適応反応であることに留意した上で、
 定期的な管理治療と、母親への指導を重視する。
・施術は症状に応じて行う。
治療法
①マッサージ
・主治医と連携を取りつつ治療する。
・子供の相談者として些細な訴えにも耳を傾ける。
・症状に応じて頸肩背部、腹部に軽擦法、揉捏法、圧迫法を行う。
・過敏なため、刺激の強度に注意する。
・子供の家族とも密接な連絡をとり、協力を要請する。
②鍼灸
・小児神経症 ……… 天柱、風池
・小児夜尿症 ……… 腎兪、次
・小児喘息 ………… 天突、兪府、霊台
・扁桃炎 ………… 人迎、身柱

【2】 東洋医学的な考え方
A.分類
①腎気虚による夜尿症
・腎気虚のために固摂機能が弱く、そのために膀胱の
 「約束機能」(尿を制約する機能)が弱いと夜尿が起こる。
②脾肺気虚による夜尿症
・肺虚のために「水の上源」の固摂機能が弱く、また
 脾虚のために水を制御できないと、膀胱の約束機能が低下して
 夜尿症が起こる。
B.鑑別
(1)虚実
・この2つはともに虚証である。
(2)症状
・①は夜尿の量が多く、腎虚による症状を伴う。
・②は回数は多いが量が少なく、肺虚、脾虚による症状を伴う。

第2章 スポーツ医学におけるあん摩、鍼、灸療法

第1節 スポーツ医学の概要

Ⅰ.スポーツ外傷とスポーツ障害(併せてスポーツ傷害)
(1)スポーツ外傷
・転倒や衝突など一回の強い力が加わり、骨折、脱臼、打撲、
 捻挫、挫傷などを発生するものと、直接外力が加わらなくても
 アキレス腱断裂、肉離れ、筋力による骨折などのように、
 自分の筋収縮によって起こるものがある。
(2)スポーツ障害
・一回の外力は小さいが、運動により局所に反復して小外傷が
 加わって発生する使いすぎ(オーバーユース)症候群である。

Ⅱ.スポーツ傷害の予防
・一般にスポーツ傷害は、不可抗力による場合よりも、
 予防可能な場合が多い。
・そこで、基本的な予防対策として以下のような事項が考えられる。
(1)身体的、精神的なコンディショニング
(2)自己能力の認識
(3)オーバートレーニングの回避
(4)ウオーミングアップ、クーリングダウンの実施
(5)ルール順守
(6)粗暴なプレーの禁止
(7)設備、用具の点検整備
(8)環境、気象状況の把握
(9)スポーツの繰り返しによる運動器系への配慮

Ⅲ.救急処置
・救急処置は傷害部位に対して、傷害組織の二次的拡大の防止と、
 炎症反応を最小限にくい止めるための必要不可欠な方法である。
。その方法としてRICEの処置がある。
①R(rest)— 安静
②I(icing)— 冷却
③C(compression)— 圧迫
④E(elevation)— 挙上

Ⅳ.スポーツ医学における鍼灸の目的
・主にオーバーユースによるスポーツ障害に対し、障害部位の
 鎮痛、循環改善、機能回復を図り、障害が起こりにくくすることが
 主目的となる。

Ⅴ.鍼灸と併用する療法
(1)テーピング
①テーピングの目的
・障害の再発予防、捻挫などスポーツ外傷の発生予防、
 軽度傷害の応急処置(圧迫・固定)。
②テーピングの効果
・腱や靱帯の補強で過度の外力による関節の異常な動きを制限する。
・スポーツ外傷の応急処置においては腫脹の抑制、
 圧迫による痛みの軽減と選手の精神的な安心感。
(2)ストレッチング
・反動をつけず、静かに痛みのでない範囲で、
 一定時間伸張姿勢を維持する。
・特に、自分の力で、静かに痛くない範囲で一定時間伸張姿勢を
 維持する方法(スタティックストレッチング)が安全で効果も
 大きい。

第2節 スポーツ外傷、障害の実際

★ インピンジメントとエントラップメント
(1)インピンジメント(衝突)症候群
・水泳肩、野球肩、腸脛靱帯炎など
(2)エントラップメント(絞扼性)症候群
・足根管症候群、モルトン病、手根管症候群、肘部管症候群、
 尺骨神経管(ギオン管)症候群
※モルトン病
・第3・4中足骨頭の間でおこる絞扼性症候群。

Ⅰ.運動性肩関節痛(野球肩)
(1)概要
①投球動作に伴う痛みを主症状とする障害をいう。
 上腕二頭筋長頭腱炎が最も多い。
②投球動作は、コックアップ(手関節伸展、肘関節屈曲、回内位、
 肩関節外転、最大外旋、後方分回し肢位)の位置から、
 加速期、球のリリース、フォロースルー期と続き、
 加速期の動作による障害が多い。
③コックアップから加速期において、肩の前方要素は過緊張を
 強いられるとともに、棘上筋腱板と上腕二頭筋長頭腱が
 衝突(インピンジ)し障害を生ずる。
④リリースの後は、肩は内旋内転しつつ、遠心力で引っ張られる。
 加速期からフォロースルー期は、肩の後方要素が障害されやすい。
(2)診察
①前方の障害
・肩峰下滑液包、三角筋下滑液包、上腕二頭筋長頭腱、
 棘上筋腱などの障害
②後方の障害
・棘下筋腱、小円筋腱、三角筋の後部線維、
 上腕三頭筋長頭腱などの障害
③検査法
・肩関節痛のページを参照
(3)治療法
・使い過ぎ症候群による場合、患者の理解、長期間機能訓練、
 治癒後の手入れが必要である。
・痛みがある間は、投球の禁止、局所の安静を命じ、
 安静期間にストレッチを行い筋線維の短縮を防ぐ。
・また、等尺性運動を行い筋力低下の予防・増強を図る。
①マッサージ
・急性期の炎症が強い場合、施術を避けアイスパックなどで
 鎮痛・消炎に努める。
・急性期を過ぎた後、肩関節の運動に関与する三角筋、腱板を
 構成する諸筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)、
 上腕二頭筋・上腕三頭筋などに軽擦、揉捏法、強擦法を施す。
・特に強擦法は腋窩や肩関節周辺に行うとよい。
・肩関節の運動法を加える他、温浴、ホットパックを併用する。
②鍼灸
・三角筋:臑会、臑兪、肩貞、肩、肩
・上腕二頭筋:結節間溝部、天府、侠白、天泉
・棘上筋:曲垣、秉風、天
・僧帽筋:肩井、肩外兪
・広背筋:腎兪、志室
・その他:肩関節周囲の運動痛、圧痛部位、硬結部位など
(4)予防
①投球前の施術、ウォーミングアップ、各方向へのストレッチ。
②投球後はしばらく肩を自然に冷やした後、約15分間アイシング。
③筋肉の過緊張の除去、循環改善、除痛の目的でマッサージや
 鍼灸治療を施す。
④不幸にして障害に陥った場合、十分な休養と治療を施す。
・その際、回復過程にあったプログラムに基づき理療施術や
 リハビリテーションを行う。

【備考】肩関節に起こりやすいその他のスポーツ傷害
①水泳肩
・クロールや背泳などで起こる。
・棘上筋腱、上腕二頭筋腱の肥厚と、烏口肩峰靱帯
 肩峰とのインピンジメント。
②肩関節脱臼:
・柔道、ラグビー、アメフトなどの接触競技で起こることが多い。
・前方脱臼(上腕骨頭が関節包を破り前方に脱臼)が大半を占める。
・整復固定後の後療法として理療施術を行う。

Ⅱ.運動性肘関節痛(テニス肘)
(1) 概要
①バックハンドテニス肘(上腕骨外側上顆炎)
・バックインパクトでボールに加わる衝撃が、前腕伸筋腱付着部に
 ストレスを生み出す。
・この反復で前腕の伸筋腱付着部(総指伸筋、短橈側手根伸筋の
 付着する上腕骨外側上顆)に軽度の断裂や炎症を生じる。
・特に初心者などに多い。
・上腕骨外側上顆に圧痛が出現する他、バックハンドストロークの
 たびに痛みを発現する。
・しかし、橈骨頭や外側関節裂隙には圧痛がない場合が多い。
・理学的検査法としては、コーゼンテスト(トムゼンテスト、
 チェアアップテスト、ミルテスト、中指伸展テストなどが
 陽性となる。
※ミルテスト
・患者を前腕回内、手関節掌屈位にさせる。検者は肘関節を固定し、
 もう一方の手で回内掌屈方向に抵抗をかけ、患者にその抵抗に
 うちかつように回外させる。外側上顆に痛みが出れば陽性。
②フォアハンドテニス肘(上腕骨内側上顆炎)
・サーブアップによる負荷が前腕の屈筋群を経て肘に加わることが
 原因と考えられ、特に熟練者に多い。
・上腕骨内側上顆から前腕屈筋群の圧痛や運動痛、
 肘関節伸展時痛や肘関節の運動制限が診られる。
・理学的検査としては、手関節掌屈テスト、グリップてすと、
 逆トムゼンテストなどが陽性となる。
(2)治療法
①マッサージ
・いずれのテニス肘であるか鑑別する。
・急性期で炎症が有る場合は患部の施術を避け、誘導的に
 頸肩背部の施術にとどめる。
・患部へはアイスパックなどして安静(R)につとめ炎症を抑える。
・急性期を過ぎた後、前腕部の諸筋に軽擦・揉捏法を施す。
・肘関節付近には入念に強擦法を施す。
・バックハンドテニス肘では短橈側手根伸筋の変性が主となるため、
 その部への施術は重要である。
・併用療法として超音波療法、極超短波療法を加えたり、
 補助的にストレッチを施す。
②鍼灸
・上腕骨外側上顆:曲池、中
・肘頭:天井
・肘窩:尺沢、曲沢,
・前腕伸筋群:手三里、四涜、外関、陽池
・上腕骨内側上顆:少海、小海
・前腕屈筋群:孔最、門、内関、大陵
・その他:肘関節周囲の運動痛、圧痛部、硬結部など
(3)予防
①プレー前後に肘から肩にかけてストレッチングを行う。
②毎日はプレーしない。
③自分の年齢と技術を考慮してプレーする。
④テニス用具を調整する。
⑤少しでも異常を感じたらプレーをやめアイシングを行う。
⑥平素から筋肉の柔軟性を目的に理療施術や温熱療法で
 循環改善を図り、ストレッチングや筋力強化をしやすくしておく。

【備考】肘関節に起こりやすいその他のスポーツ傷害
①野球肘
・成長期の子供に多い。
・反復する投球動作で起こり、障害は主に加速期に原因がある。
・この時期には、内側部に牽引力が働き、外側部には圧迫力が
 生じるからである。
・障害は内側部に多く、進行するとX線像で骨端線の離開像が
 得られる。
・外側部の障害では、離断性骨軟骨炎を起こすことがある。
②ゴルフ肘
・特に内側上顆炎が多い。
③肘関節脱臼
・柔道や相撲などで投げられた時や、手首を急に引っ張られた時に
 起こる。

Ⅲ.運動性腰痛
(1)概要
①スポーツに伴う腰痛の原因となるもの
・腰部捻挫、腰椎分離症、辷り症、腰椎椎間板ヘルニア、
 腰部打撲、棘上棘間靱帯断裂、棘突起骨折、横突起骨折、
 腰部椎体圧迫骨折、腰部椎間関節症など。
②スポーツによる腰部の酷使で、腰部軟部組織に加わるストレスの
 繰り返しによる瘢痕形成、局所の循環障害、更に筋萎縮による
 筋拘縮を引き起こし、脊柱機能の代償不全が起こり、
 難治性傷害となる場合が多い。
(2)傷害の予防
・正しい姿勢を保持する。
・肥満を避ける(腰椎前弯の増大防止)。
・同じ動作を繰り返さない。
・スポーツの後はストレッチを行う。
・筋力強化、柔軟性の増大を図る。
・正しい姿勢保持には適当な骨盤傾斜が必要なため、腹筋と背筋の
 強化、下肢筋力強化、身体の柔軟性の維持発展が重要。
(3)治療
①マッサージ
・競技前には、腰殿部から下肢後側に軽擦や軽めの揉捏、
 各筋のストレッチを行う。
・競技後には、鎮痛や筋疲労の除去を目的に脊柱起立筋、殿部、
 下肢後側の揉捏や圧迫法を行う。
・大腿四頭筋や腸腰筋のストレッチを入念にする。
・筋膜の痛みには患部に結合織マッサージを行う。
②鍼灸
・競技後や中間日に鎮痛、筋緊張や筋疲労の除去、
 コンディショニングなどの目的で施術する。
・腰部局所や下肢後面の反応点に刺鍼する。
・筋膜に痛みや硬結のあるものは、前処置として温熱療法を行い、
 患部に散鍼を行う。

Ⅳ.運動性膝関節痛
(1)ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)
・ジャンプやランニングの着地時のショックは、大腿四頭筋、
 膝蓋骨、膝蓋靱帯、脛骨粗面へ続く縦の線によって吸収されるが、
 これを頻繁に繰り返す競技では、この線に負担が掛かり過ぎ、
 膝蓋骨下端を中心に疼痛を主症状とした膝蓋靱帯炎を発現する。
・病変は膝蓋靱帯の膝蓋骨の付着部にかかる牽引力が原因となり、
 靱帯を形成している膠原線維小断裂を招き、それが修復機転と
 合わさり自発痛、圧痛、腫脹、握雪音などを起こす。
・障害を起こしやすい競技はバスケ、バレー、長距離走など。
・広義のジャンパー膝は、膝蓋骨周囲の大腿四頭筋腱、外側広筋、
 内側広筋の付着部周辺に生じた疼痛性疾患も含んでいる。
(2)診察
・罹患しやすい素因は、膝蓋骨の過移動性、オスグッド病、
 外反膝、脛骨の外捻、O脚、X脚など。
・診察所見は、膝蓋骨下端部に限局した圧痛、自発痛、運動痛。
・腹臥位で膝関節を強く曲げると、痛みからの逃避で股関節を
 屈曲させる(尻上り現象)。
(3)治療法
・障害の程度によって治療法は異なるが、一般的には
 一時的に運動を休止させ患部の安静を図ることが第一。
①マッサージ
・大腿部、特に大腿四頭筋を中心に軽擦・揉捏法を入念に施し
 筋疲労の回復を図る。
・その後、補助的に大腿内側、外側、後側にも施術する。
・膝関節部への施術は疼痛、腫脹が消失してから始める。
・その際、膝蓋骨周囲の母指強擦法を中心に施術し、
 膝蓋骨を手掌で軽く圧迫しての上下左右への移動を行う。
・症状の回復度をみながら膝関節の運動法を行う。
②鍼灸
・膝蓋靱帯:犢鼻、内膝眼、外膝眼
・大腿四頭筋:血海、梁丘
・脛骨外側:足三里、陽陵泉
・脛骨内側:陰陵泉(鵞足部:縫工筋、薄筋、半腱様筋停止部)
・その他:膝蓋骨周囲、大腿四頭筋。
(4)予防
・膝蓋靱帯にかかる負担を軽減するために、運動前後に
 必ずストレッチングを行う。
・ジャンパー膝の場合、いきなりランニングによる
 ウォーミングアップをせずに、下肢以外の部位から
 使うようにして体温を上げて大腿四頭筋の伸展性をよくする。
・練習後直ちにアイシングにより、そのリバウンドで血流を良くし、
 組織の修復を早める。
・ジャンパー膝になりやすい素因のO脚、X脚などがある場合、
 ヒールウエッジを使用して矯正を図る。
・理療施術によって、大腿四頭筋の過緊張の緩和と膝関節周辺の
 循環を促進させて、疲労の回復を早期に解消し障害発生への
 予防を図る。

【備考】膝関節に起こりやすいその他のスポーツ傷害
①膝蓋軟骨軟化症
・ランニングによる膝の屈伸に伴い下腿が大腿骨に対して内外旋を
 繰り返すことにより、膝蓋大腿関節に摩擦が起こることによって
 生じ、X脚の人に多い。
・四頭筋強化が有効(膝蓋骨引き下げテスト「クラークスサイン」)
※ランナー膝といわれるものの定義には様々な解釈があり、
 腸脛靱帯炎、膝蓋靱帯炎、膝蓋軟骨軟化症をランナー膝と
 称しているものもある。
②腸脛靱帯炎
・平泳ぎや中距離ランナーに多く、膝関節屈曲、伸展の反復により
 腸脛靱帯と大腿骨外側上顆との間のインピンジメントである。
・O脚の人に多い。階段を降りる時など、膝を半ば曲げた姿勢で
 痛みが出るのが特徴。グラスピングサイン陽性。
・大腿内側の筋力強化が有効。理療施術は大腿筋膜張筋や
 腸脛靱帯に行う。
※平泳ぎ膝は、内側側副靭帯と脛骨とのインピンジメントであると
 する見解もある。
③半月板損傷
・バスケット、バレー、卓球、スキーなどで急に止まったり
 方向転換した時に起こることが多く、内側半月板に多い。
・マクマレーテストや押しアプレーテスト陽性、痛みと共に
 膝のロッキング(嵌頓)現象やクリック音などを呈すことが多い。
④靱帯損傷
・相撲や柔道などの格闘競技でみられる。
・側副靱帯損傷は内側側副靱帯損傷が多い。
・圧痛点は内側の大腿骨付着部。ストレステスト、引きアプレイ陽性。
・十字靱帯損傷は急激な疼痛と腫脹がある。
・前十字靭帯損傷では内側半月板損傷を合併することが多く、
 引き出し現象がみられラックマンテストなどが陽性となる。
※ラックマンテスト
・仰臥位をとらせ膝伸展位から20°程度屈曲させ、下腿を前方に
 引き出す操作をする。
・そのとき脛骨粗面が膝蓋骨より前に飛び出す。
⑤オスグッドシュラッテル病
・小学校高学年から中学校に欠けて、比較的激しいスポーツをする 男子に多い。
・骨の発育に筋の発育が追いつかないために起こるもので
 脛骨粗面から骨片が剥離するものである。
・成長とともに脛骨粗面の膨隆を残し治癒する。

Ⅴ.運動性下肢痛
・脛骨骨折、打撲、急性コンパートメント症候群、アキレス腱断裂、
 腓腹筋肉離れ、疲労骨折、シンスプリント(疲労性骨膜炎)、
 アキレス腱炎、慢性コンパートメント症候群などがある。

1.アキレス腱炎
(1)概要
・アキレス腱はあらゆる運動において主動作筋として作用し、
 かつ運動量の増加と共に負担が大きくなる。
・そのため、 次第に柔軟性が低下し、そこへ急激な伸展が
 掛かったとき、小断裂や腱膜に炎症を起こす。
(2)診察
・初期は運動開始時痛が特徴で、少し運動を行って温まってくると
 痛みが軽くなるのが特徴。
・進行すると運動開始時だけでなく、起床時や歩行時にも
 痛みを発現する。
・圧痛は、初期にはないが、進行するとアキレス腱付着部や
 距骨にもみられる。
・腫脹は初期にはないが、進行すると次第に腱全体にみられ、
 腱と皮膚との間にギシギシという握雪音がある場合がある。
・比較的初期より、足関節の背屈制限がみられる。
※アキレス腱断裂との鑑別
・アキレス腱周囲の疼痛は、アキレス腱炎では底背屈で移動しないが、
 部分断裂では底背屈で疼痛部位が移動する。
・アキレス腱断裂では、つま先立ち不能、足関節の底屈制限、
 アキレス腱部の陥凹がみられ、トンプソンテストは陽性 となる。
(3)治療法
・初期は安静にさせ、炎症が強い場合はアイシングをする。
・消炎後に施術することを原則とする。
①マッサージ
・下腿三頭筋に対して、軽擦・揉捏・圧迫法の順に施術を始める。
・特に、揉捏法を中心に筋の過緊張の緩解を図る。
・但し、圧痛・腫脹のある急性期には、アキレス腱への
 直接の施術は避ける。
・急性期を経過した後、強度に注意しながらアキレス腱への強擦を
 はじめ、足関節の運動法を行い柔軟性を高める。
②鍼灸
・腓腹筋:承筋、承山
・ヒラメ筋:飛陽、築賓
・アキレス腱:崑崙、太谿
・その他:疼痛部位
(4)予防
・スポーツ前後、特に運動後の下腿後側筋群のストレッチング。
・理療施術によって下腿筋群の柔軟性を維持し、運動しやすい状態を
 作りだし筋力強化を図る。
・衝撃吸収に優れたシューズを使用し、腱への負担を軽減する。

2.コンパートメント症候群
・急性は打撲等で発症するもので、骨・筋膜・筋間中隔により
 囲まれた区画(コンパートメント)の内圧が上昇し循環不全が
 起こり、その結果、筋・腱・神経に障害が起こり、組織の
 壊死・神経障害をきたすスポーツ外傷である。
・激痛を伴い12時間以内に処置が必要とされ、下腿筋に多い。
・慢性コンパートメントの疼痛は、数分の安静で軽減し、
 スポーツをすると再発する。
・理療施術は、下腿部や足部の反応点に一般マッサージや散鍼、
 軽い雀啄などを行う。

3.シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
・後脛骨筋などが付着する脛骨後内側におこる炎症で、
 脛骨下1/3付近の後内側に圧痛がみられるのが特徴。
・長距離走、バレーボールなどの競技で多くみられる。
・施術は競技前後に脛骨内縁の圧痛部を中心に手掌軽擦、
 四指揉捏、結合織マッサージなどを行う。
・関節の柔軟性を高めるため、足関節の運動法やストレッチを行う。
・刺鍼は、三陰交、漏谷、交信、照海などに軽い雀啄。

4.下腿骨の疲労骨折
・オーバーユースによるもので脛骨、腓骨、足根骨に多い。
・シンスプリントが高じて起こるものが多く、これは
 脛骨下部にみられる。
・自発痛はないが運動痛があり、骨折局所に著明な圧痛がある。
・骨折直後はX線でも確定が難しいが、時間の経過と共に
 X線検査で異常がみられるようになる。

5.足関節捻挫
・内反捻挫が多い。
・捻挫は程度により第1~3度に分けられる。
・1度は関節周囲の炎症症状のみの軽傷、2度は靱帯の一部損傷を
 伴う中等傷、3度は靱帯の断裂を伴う重傷のもので手術が必要な
 場合もある。
・理療施術は急性期は患部は冷却・固定を行い、施術は誘導目的で
 下腿に施術する。
・炎症が消退したら、足関節部に軽擦・強擦・腱移動法などの
 関節マッサージや圧痛点への刺鍼、施灸などを加える。

6.足底筋膜炎:長距離選手に多い。

Ⅵ.肉離れ
①受傷部位と競技
・ハムストリングス:短距離、中距離選手
・大腿四頭筋:長距離選手、サッカー、ラクビー
・下腿三頭筋:相撲、長距離選手
・腹直筋:バレーボール
・内転筋:体操、ジャズダンス
②機序
・筋の急激な過伸展、繰り返し加わる筋への小外傷、
 拮抗筋のアンバランス、不正確な神経支配。
③症状
・受傷時の患部の異常音、皮下出血、疼痛
④治療
・肉離れの後遺症に受傷部が結合組織化する化骨性筋炎があり、
 この予防には炎症が取れるまでアイシングを十分行うことが必要。
・理療施術は炎症がある程度消失してから、患部に揉捏や
 散鍼などを行う。

第3章 老年医学における鍼灸療法

【1】老年者の疾患
1.特徴
・一人で多くの疾患を持つ。
・疾患の病態が若年者と異なる。
・症状が非定型的であったり、患者の訴えが少なかったりするため、
 正確な臨床診断が困難なことが多い。
・うつ傾向や心理的混乱などの精神症状を呈しやすい。
・若年者に比べ、検査成績に個人差が大きい。
・水、電解質など生命維持に重要な物質の異常を起こしやすく、
 脱水症状などを呈しやすい。
・薬剤に対する反応が若年者と異なる。
・患者の予後が医学生物学的な面と共に、社会環境的な面によって
 支配されやすい。
・過度の安静や持続的な臥床の害が大きい。
・外科領域の進歩に伴い、積極的な外科治療がを行われ始めた。
2.特徴的な疾患
①神経系疾患
・脳血管障害、認知症、パーキンソン病、変形性頸椎症、
 老人性妄想状態、うつ病、アルコール性精神病など。
②循環器疾患
・高血圧症、狭心症、心筋梗塞、不整脈、全身性動脈硬化症など。
③泌尿器疾患
・腎硬化症、糖尿病性腎症、腎盂腎炎、尿路感染症など。
④呼吸器疾患
・慢性肺気腫、慢性気管支炎、肺癌、肺結核、肺炎など。
⑤消化器疾患
・各種消化器癌、胃潰瘍、食道裂孔ヘルニア、胆石症、肝硬変など。
⑥血液疾患
・続発性・悪性貧血、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病など。
⑦内分泌疾患
・甲状腺癌、橋本病、原発性粘液水腫、アジソン病など。
⑧代謝疾患
・糖尿病、痛風、肥満、高脂血症など。
⑨運動器疾患
・骨粗鬆症、変形性関節症、リウマチ様関節炎など。

【2】老年者に対する理療施術
1.目的
①廃用症候群の予防
・老年者の活動性を阻害する腰痛・膝痛・各種神経痛・肩関節痛を
 軽減して、日常生活における活動性を高め、寝たきりなどの
 廃用症候群をなくす。
②未病を治す。
・ホメオスタシスを高めることによって、全身機能を調整し、
 免疫力や自然治癒力を高め、疾病を未然に防ぐ。
③心身の安らぎを図る。
・スキンシップによる癒しの治療を行うことによって、
 心理的安堵感を与える。
2.老年期の疾患に対する鍼灸療法の特徴(利点)
①複数の疾患を同時に持つ
・主要症候の治療により他疾患の症状の改善がなされる。
②個人差が大きい
・画一的な治療ではないので各個人に対応する治療がなされる。
③慢性疾患が多い
・治療効果は緩除であるが早期に治療がなされれば
 慢性化を阻止できる。
④症状が非定型的である
・証をとらえて治療する。
⑤薬剤の副作用が出やすい
・刺激量を考慮すれば副作用は出がたい。
3.高齢者に対する理療施術上の注意事項
・過剰刺激にならないように注意し、刺激量・治療時間ともに
 少なめにする。
・主訴のみでなく、その他の症状についても問診を徹底し、
 医療機関で調べた検査成績なども考慮し、循環器疾患・悪性腫瘍・
 痴呆症・起立性低血圧・骨粗鬆症などとの関連を考察する。
・治療の前後にバイタルサインや意識状態・気分などを確認する。
・治療室内の移動・ベッドヘの昇降・体位変換時などの際の
 転倒事故に注意する。
・抵抗力が低下しており、化膿を起こしやすいので、
 刺鍼時の消毒を徹底する。
・円背や骨粗鬆症のある患者には、伏臥位での強圧刺激は控える。
・腰痛・膝痛などの施術では、伏臥位などの持続姿勢を
 長時間取らせないように注意する。
・施術前に排尿などをすませておいてもらう。
・高齢患者においても人格を尊重し「おじいちゃん」、
 「おばあちゃん」とはできるだけ呼ばず、氏名で呼ぶように
 心がけ、大きめの声でゆっくりと話すようにする。

【3】東洋医学的な考え方
・東洋医学では人間の発育、生長や老化に関与する要因は、
 腎気であると考えている。
・両親から先天の精をもらい生まれ、生後は自らの
 生命活動により、腎気を充実させ生長する。
・男子では32歳、女子では28歳のとき、腎気は最も充実している。





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